王城と玄武の巫女
翌日、晴れやかな空と隣で寝ている巫女を見て言葉が出ないハルク。
昨日はお互い別のベッドで寝たはずだったのだが起きたら隣に巫女が居た。それも右腕を抱き抱えられた状態で。
『あれ、待て待て、は?え?』
と頭の中が真っ白だ。俺は断じてシスコンじゃねぇ!とぐっと左手を握りナニかに耐える。
右腕の感触を感じないように必死に苦行に耐えるような顔をしていると、巫女も起きたようだ。
「ん?んん?・・・何故貴方がベッドにいるのですか?」
「待て待て待て、そりゃあ俺のベッドだからであって、その質問はおかしいですよ!」
寝起きということも相まって敬語も中途半端に言う。
「そうですか。では何故私はあなたのベッドで寝てるのですか?」
「さぁ?まさか、右腕をがっしりと抱えられてるこの状況で自分がベッドを移動させたと思ってます?」
「そうですか。では何もなかったのですね。わかりました。」
パッと起き上がり、耳が真っ赤な巫女はそそくさと洗面所の方へ向かって行く。それを見ながら、ふぅと溜息を吐き寝巻きから普段着へと着替えるのだった。
王城の前までやってきた二人はアルトから受け取った書状を門衛に渡すと門衛は驚き、上司に確認しに行った。
と、そこへ
「ハルク?ハルクよね!?」
と声が掛かる。誰だ?とハルクは振り向き、うおう!と驚き声を出す。振り返ったらいきなり抱き締められたのだから驚がない方がおかしいと言うものだ。
「シンク!早いです!いきなり走らないで下さい!」
ハルクはその後ろからはぁはぁと息を切らしながら追いかけて来た人物に自然と目が行き、抱き締めて来た人物が誰か分かった。
「シンク!離れろ!てめぇ毎度毎度抱き付いてきやがって!てめぇの腕力でこっちの首が折れるわ!」
「どなたですか?」
目の据わった巫女から声が掛かる。なんとなく声が低くなっているのは気のせいだ。
「こいつはシンク。モガルベント・Bt・シンク。コレでも女だ。俺と同じ巫女の守り手だ。」
モガルベント・Bt・シンクは身長190を超え、ボディービルダーの様な体型である。玄武領の巫女の守り手であり、セイルと同じく旅をしていた時に知り合った。
「女性なのはわかりますよ。私は朱雀領の巫女です。宜しくお願い致します。」
ある一点を見つめてそう言う巫女。それは胸だ。そう、背が高くて胸もデカイ。ハルクより20センチほど高いのだ。頭を下げた後も自分の頭より上にある胸へと目線がどうしても向いてしまうのだった。
「私の紹介はもういいですね。こちらは玄武領の巫女、アルネス・Bt・シルフィードです。」
シンクの紹介に合わせて頭を下げる玄武領の巫女シルフィード。未だに息が整えず、言葉が出てこない。先ほど大声を出したのもあるが、体があまり強くないとの事。髪は長く腰まであり、朱雀領の巫女より身長も低い、儚げな印象を受ける少女だった。
「これで王都には最低三人の巫女が集まった事になったな。朱雀、玄武、白虎。後は青龍か。」
「白虎はもう来てるの?守り手は誰?」
ニヤリ、と笑うともうすぐで会うだろ?とシンクに向かって言う。とそこへ、門衛が戻ってくる。
「朱雀領の巫女様、こちらへどうぞ」
帰って来てすぐにそう伝えてくる門衛に朱雀領の巫女は従う。がハルクは玄武の二人を指差し、二人は?と問う。
「はい。書状を確認出来ればすぐに通すように王から命が下っています。書状はお持ちですか?」
「これよね。はい。」
と胸の谷間から取り出すシンク。それに対し門衛は面食らったのか少し固まった後、ハッとしてから書状を恭しく受け取るのだった。
「間違いありません。ではどうぞ。」
そして、王城へ続く門が開かれた。
流石王城という言葉が無意識に出てくる。煌びやかな装飾品と尊厳を失わない様所々に見られる意匠の技。それに負けない使用人達の一糸乱れぬ動き。
「ようこそおいで下さいました。慣れない旅だったと思います。では王が巫女様方をお待ちしております。案内は私、ロイ・Kh・スタルが致します。」
使用人達の長なのだろう。動作一つ取っても無駄がなく、巫女達への配慮も忘れない。順当に歳を重ねた五十代と思われる、執事服に身を包んだ人物だ。
「では、こちらへ。」
流麗な動作で向かう先へ促す。右も左もわからない者すらも安心させる事が出来るだろうその声に自然と促された方向へ迷いもなく進む四人。
暫く歩いていると、スタルが止まりそれにつられて四人も止まった。
「巫女様方が揃うまでこちらで待たせる様仰せつかっております。ご不満も御座いましょうが今は王に従って頂きたく存じます。」
「構いませんよ!私達も今日来たばかりで少し休ませてもらえると思えば!ね、シルフィ?」
「そうですね。私も疲れてしまったのでありがたいです。」
「左様でございますか。では、ごゆっくり休んで下さいませ。」
一礼するとスタルは元来た道を戻っていく。四人はなんとなしにその部屋へと入る。そこは十数名は座れるだろう長机と椅子が置かれていて如何にも会議室という様相を呈している。いや、会議室なのだろうと四人は瞬時に理解する。他に座るものもないので、四人は椅子へと座る。
入口から見て右側上座に朱雀領、左側上座に玄武領だ。
王が座るであろう貴賓席である上座には三つの席が用意されている。王以外にもこの会議に参加するものが居るのだと思われた。
四人は特にすることもなく思い思いに話をしていた。特にシンクとハルクは旧知の中である為、近況報告がてら話し込んでいた。そこへ、バン!と入口が開けられる音で四人の視線はそちらへ向く。