ぬいぐるみと迷子
現在
「あれ?巫女様?」
ぬいぐるみが売ってある店の前で、振り向いた状態で固まってしまう、ハルク。
『あれ?さっきまで居たよな?声聞こえてたし』
そう思って見回しても事実いないのだから意味はない。
完全に逸れてしまったと、ハルクが考え、行動に移したのは一瞬だった。
元来た道を引き返し宿へ一度顔を出す。そして、宿屋のおっちゃんに連れが戻ったらそのまま部屋に居させるようにと、クギを刺す。
そして、先程のぬいぐるみの店まで戻って来て、次の行動を考えた。
『どうする、道は残り三本。王城に向かう中央通り、商業地区へ向かう東門通り、居住地区へ向かう西門通り。ああ、くそ!巫女様はどこに行く?やはり王城か?』
そう考え、王城へ向かう中央通りを走って行った。
その背中をぬいぐるみの店から見ている視線には気付かずに。
ハルクは巫女を見逃さないように速度を落とし視線を右に左に忙しなく動かしていた。
何年も見てきた巫女服は特徴的だから目の端に映ってもすぐ分かると考えていた。途中、巫女が入りそうな店の中を覗き込んで居ないのを確認してからまた走り始める。それを何度か繰り返していると王城の前まで来てしまう。そこで、門衛と言い合いをしている人物が目に入る。
「王様に呼ばれたんですのよ?だから来たのにどういう事ですの!」
「今日は誰も通してはならぬと命がありました。お引き取りを。」
「そんな筈ありませんわ!急いで来たのに門前払いなんて酷すぎですわ!もう!グラスが迷子になるからこうなるんですわ!ほんとにもう!」
と、地団駄を踏みながら門衛に文句を言う妹と同い年位の少女を見て、気持ちは分かるぜなどと思いながら、巫女探しを再開する。
またぬいぐるみの店まで戻り、次は商業地区へ向かう。
同じように何軒かの店を見て回り、東門まで来る。また空振りかと、溜息を漏らすと気合を入れ直し、最後の居住区へ向かった。
流石に店は無くあっという間に西門に着き、どこにいるんだ?と考えを巡らせると、見知った人物を視界に収める。白虎領の巫女の守り手だった。
「セイル!」
ハルクは旧友に声を掛ける。細っそりとした体型、片目の眼鏡を掛け、知性的な印象を受ける男性だ。左耳には緑の小さな宝石を嵌めたピアスをしており、全体的に白で統一されている。
守り手の証である腕輪も嵌めており、ハルクの腕輪が紅色に対し、セイルのは白色である。
「おや?ハルクではありませんか!お久し振りですね!」
「おう!もう、四年も前か?久し振りだな!やっぱお前が来ると思ってたよ!随分早く着いたんだな!」
二人はそう挨拶を交わし握手をする。
「この者は?」
そこに声を掛ける人物が居た。勿論白虎領の巫女である。こちらも白で統一された服を着ており、地球で言うところのチャイナ服だった。
お、おう。とどもりながらその服装を見て、セイルに耳打ちする
「なんだよこの服は!どう見ても巫女が着る服じゃねぇだろ!」
「仕方なかったんです。王都に行くなら巫女服は嫌だと駄々をこねられたんです。私だってこんな服持ってた事すら知りませんでしたよ!」
「どうした?早く紹介せぬかセイル。」
「朱雀領の巫女の守り手、リー・Vb・ハルクです。私の友人です。」
内緒話をやめ、言われた通りに紹介をするセイル。
ハルクもお見知り置きをと一言付け加え、そして、巫女を見なかったかを一応聞いてみた。
「やっぱ見てないよな。全くどこ行っちまったんだろうな。」
「そうですね。一度宿に戻って帰っているか確認してきた方がいいんじゃないですか?」
「そうだな、なら一度戻ってみるよ。セイル、またな!」
「えぇ、また。」
セイルと別れ、宿に戻るためまたも、ぬいぐるみの店の前まで戻ってきた。
そこで、今のうちにぬいぐるみ買っとくかと、ぬいぐるみの店に入る。ふむ、とぬいぐるみを見て回りながらどれにするか悩む。
『ユイナならこれか?いや、こっちも好きそうだ。けどなぁ、巫女になってから変わったからな、カワイイ系は嫌がるか?』
と考えながら見て回り、なんとか二つに絞った。その二つを並べ、どっちにするかとまた悩む。
よし!と左のぬいぐるみを手に取ろうとして
「私はこちらが好みです。」
と声が掛かる。うおぅ!と驚くとそこにはユイナが居た。
「おまっ、巫女様、どちらに行ってたんですか?」
「そう言うあなたもどちらに行ってたんですか?忙しなく走り回っていたみたいですけど?」
「いえ、自分は巫女様を探して・・・見てたんですか?」
探して?と呟き
「私はずっとこの店に居ましたよ。そして、この子達を眺めてました。」
と、ぬいぐるみを指差して言う。
「さいですか。では、そのぬいぐるみを買って行きましょうか。無くしてしまった人形のように安心はさせられませんけど。」
「本当ですか?よろしいのですか?」
少し嬉しそうに聞いてくる巫女にはい。と答え、ぬいぐるみを買う為に支払い場へ向かう。
「8500ベルになります。」
ポケットから10000ベル紙幣を取り出し渡すハルク。
『金がねぇ』と口には出さなかったが、痛い出費となったのは言うまでもない。