盗賊たち、再び
宵も半ばに回り、弱い月明かりが村を照らす。
正吾とランザスが作戦を詳しく決めると、すぐに村人たちに知らせて回り協力を願った。
村人たちは、二つ返事で承諾し、皆が集まり作業を始めた。
「みなさん、急いでください!」
「やってるぞ!」
正吾が叫ばずとも、大人から子供、村の住人たち全てが一生懸命に木材や、丸太、果ては作っていた途中であろうレンガまで積み上げている。
(ここが勝負だからな、みんな生き残りたいしここを守りたいんだろう。俺自身は生き残ることを優先して魔法を使えば生き残れるだろうが・・・今後を考えるとそれでは生きていけない。ここは乗り越える場所だ)
正吾が見た未来で自室が燃える時間は1時間と少し後。
最低でも1時間後までには準備を終え、盗賊たちに備えなくてはならない。
正吾も村人たちと一緒に木材を立てて、障害物の位置を記憶する。
「よし、このくらいで十分でしょう!皆さん位置についてください!」
正吾が号令を出すと
「おう!」
村の男たちは屋根に登り、持ち場で待機した。
子供たち、女たちは手負いのランザスが守る村長の家に隠れる手筈になっており、そちらへと向かって早足で行った。
正吾は屋根の上に登り、自らの位置でぼやく。
「これが上手くいけばいいがなぁ・・・」
「何弱気になってるんだよショウゴさん!」
フィルが正吾の隣でそう言う。
「そりゃあね、自分の策が失敗して人が死んでしまったら、どうしようって思うのが当たり前だと思いますよ」
「戦いなんだから人が死ぬのは当たり前、それにこんなご時勢だ。この辺はまだ平和だけど他じゃ毎日のように人は殺されて、飢えて死んでって聞いてるさ」
(えらく達観しているな、それとも人の命が軽い世界だからだろうか。それでも生き残ろうという意思は見える)
「まぁ、やれるだけやるとしましょう。フィル君」
「その意気だぜ、ショウゴさん」
「ショウゴさん、俺も配置に着きます。後は手筈どおりにお願いします」
「はい、お願いしますキースさん」
キースは地上から屋根の上にいる正吾にそう言うと、盗賊たちが村の奥まで入ってきたときに背後を取れる、レンガの影に隠れた。
「さて、後は待つだけです。フィル君、危なくなったら君は物陰に隠れていなさい、いくら目が良いといっても剣には慣れていないでしょう」
「それはアンタもじゃないのか?」
「え?」
正吾は"目"のことが露見したと思い、平常心を失いかけていた。
「あんたの身のこなし、歩き方はどう考えたって戦ってきた人間の歩き方じゃねえ。俺は訓練を受けているわけじゃないけどよ、それでも分かるんだよ、ランザスさんみたいな達人が近くにいるとな。だけどわかんねぇのがなんでアンタが強いのかだ。何か秘密があるんじゃないのか?」
(ああ、びっくりした。"目"のことがバレてるんじゃなくて、ただ単に強くなりたいから聞いてるだけか)
「これといって、ものはありませんよ。ただ相手の動きをみて、隙を突いてるだけです」
「それだけじゃねえよな、ぜってぇ。さっき襲われたときに足手まといになると思ってさ、遠くから見てたけどよ、アンタの動きはどう考えたって相手がそう動くと知っていたっていう動きだ。そうまるで"未来を見てる"かのように」
(やっべ、バレてんじゃねぇか!えーどうしようか。しかしこの子勘が良い。下手な嘘は疑いを広げるだけだし・・・)
「アンタの動きはさっき言ったとおり、素人の動きだ。何か普通の人間とは違うモノがある、そうランザスさんみたいな才能のような・・・」
「だとしても言えるモノではありませんね、何せ知られれば意味のない秘密ですから」
思わせぶりに正吾はフィルを煙に巻く。
「いつか聞かせてもらうぜ、その秘密」
「いつかね。ともあれ君は弓がメインです、奴らに近づかれたなら逃げなさい」
「ああ、わかった」
(おや思いのほか素直だ。賢い子だなやっぱり)
(ここでくたばるわけにはいかねぇしな)
二人とも思い思いの考えを頭に浮かべていた。
しばらくすると、松明を持った集団が30人ほど村に迫ってきた。
(やっぱり他にも戦力は居たか)
その中の先頭のリーダー格の男が
「大人しく降伏すれば、命はとらん!今年の貯蓄の半分だけ頂いていく!」
と叫んだ。
(半分っていうのがミソだな。全部じゃないっていうのが村人の心を揺さぶる。だが、ここにきてそれは逆効果だろうさ)
「ふざけるな!」
「帰れ!」
「くたばれ!このチキン野郎!」
暗い村の中から村人たちは口々に罵った。
(やっぱりな、これだけ準備してたんだ。村人たちにも勝機を感じて士気が高い。そんな中で攻めに来たんだ間が悪いヤツめ)
「何だとぉ!」
盗賊の一人が叫んで突っ込むと、それにつられ他の盗賊たちも突っ込んだ。
リーダー格の男は
「待て!」
と叫ぶが、大半の盗賊は男の周りにいるものの一度統率を離れた集団全てを動かすまでには至らないようだ。
(おや、予定には無いが盗賊たちが無秩序に突っ込んできたか。重畳重畳。行ってしまった奴らを助けるためにはそいつらも突っ込ませないとな?)
「放て!」
正吾が合図を出し、隠れていた村人たちは屋根から矢を放ち盗賊を一人、また一人と斃していった。
「クソッ 突っ込め!」
盗賊のリーダー格の男は剣を抜き号令を出した。
「ふふっ」
(冷静さを失ったか?ここは帰るシーンだろうに。それとも手持ちの配下はこれで全部だから突っ込ませたか?)
「ショウゴさん・・・すっげえ悪い顔してるぜ」
「そうですか?気にしないでください」
「む・・・」
盗賊たちは曲りなりにも隊列を組みながら村という正吾が整えた要塞へ突貫してくる。
「なんだこれは!普通村にこんな壁はないだろう!」
盗賊の一人がそう叫んだ。
「気にするな!こんなものは時間稼ぎにもならん!壁を避けて突っ込めばいい話だ!」
近くに居た盗賊がそう答えた。
正吾は村の中央に入ってきた盗賊たちを見ながら、リーダー格の男を捕らえる算段を付け、動き出す。
(前の時の矢を撃ってきた奴らはあの男の周りの盗賊たちだな、多分。背中に矢筒背負ってるし)
「キースさん、今です!」
「おっしゃ!任せてください!」
キースが正吾の合図を受け、盗賊の背後を取り一瞬で数人を斃した。
「悪いね。悪党共、俺たちも大人しくやられるわけにはいかないんでな」
キースは直剣を突き出し、盗賊たちを挑発する。
「相手は一人だ!囲んでやっちまえ!」
盗賊の一人が叫ぶ。
「おっと、一人相手にそんなに大人気ないことするのかな?それでも男かい?」
「うるせえ!」
そこに激昂した盗賊をさらに煽るキース
「じゃ、俺は尻尾巻いて逃げるわ」
「は?」
「だぁかぁらぁ、俺は逃げるつってんの」
「お前ぇ!それでも男か!」
「わっはっはっは、集団で一人を襲う種無しぶどうたちに言われちまうとは」
と言いながらキースは盗賊一人を斬り殺して後退する。
「おや、思いの外弱っちかったね」
「野郎!よくも!」
「ハッハッハ、ここまでおいでー」
(煽りスキル高いなあの人・・・)
キースは盗賊たちをおちょくりながら、斃していく。
盗賊の頭はその光景を見ながらぼやく。
「どういうことだ・・・ランザスのヤツは動けないはずだ、なぜこんなにも手際よく仲間がやられる・・・」
正吾は苦笑いしつつも呆気にとられている男の背後に周り、容赦なく脹脛に剣を素早く刺してバランスを崩させ、男の首元に剣を当てた。
「ぐあっ!」
「降伏してくれないかな?大人しくしてくれたら命は取らないよ」
「なっ・・・俺の命は惜しく無い、ただ部下の命だけは助けてくれ」
「それは要交渉だね。まあこのままだと君の部下は全滅だろうし、全滅しないうちに早いところ部下に武装解除を命令しろ」
「・・・わかった。皆、武器を捨てろ、俺たちの負けだ」
頭がそう言うと、男たちは剣を落とした。
「物分かりがよろしくて大変結構!」
と青い顔で正吾は笑った。
次回更新は明日になりそうです。