初陣、そして盗賊たち
2017/5/5 2:06 表現を修正しました
完全に日が沈み、月明かりが村の家々を照らしているころ、正吾が二階の自室の窓から外の様子をうかがっていると、
「ウラアアアアアアアアアアアアアアアア!」
何人もの男たちの雄叫びが聞こえる。
(ここからじゃ村の中を少ししか見渡せないな)
正吾は年甲斐も無く、窓に顔をこすり付けて覗こうとするが、結局村の外は見えず、彼は諦めて今後について考えることにした。
(さて、どうしたものか。体の良い軟禁状態ということを知っているのは、指示した本人のランザスさんだけだろう。
その他は言っては悪いが、疑うことを知らない無害な羊さんたちだ。あとは残りの3人の衛兵たちか・・・
彼らとは先ほど衛兵の詰め所で顔を合わせただけだが、殊更に疑っている様子も無かったから気にする必要もない――いけないな。
ランザスさんは俺を疑ってる、というほどではないが、”もしもの”を考えられるタイプの人間だ。
部下っぽそうな3人の衛兵たちにも話してる可能性はあるな)
うーんうーん呻りながら正吾は考えていると、窓の外から剣戟の音が聞こえてきた。
(村の中で戦闘してるのか?とすると少しマズいな。
村の中での戦闘は被害が大きくなりやすい。
昔やってたシミュレーションゲームでも流れ弾やらなんやらで色々台無しになった記憶がある。
盗賊たちに魔術師がいるとは限らないが、流れ矢に当たったら村人は下手したら死ぬだろう――ここは多少恩着せがましくても助けに行くべきか?
いや、その前に"未来を見通す目"で1時間おきに今後のこの場所の未来を見ておこう)
そう考えた正吾は"未来を見通す目"を使って未来を観察しだした。
(1時間後、よし大丈夫だな。燃えてないし血溜まりがあるわけでもない。
2時間後、大丈夫だ。
3時間後・・・燃えているな・・・)
正吾は舌打ちをし、ベッドの上に寝転ぶ
(未来は変えられたが燃えるという結果が遅くなっただけじゃないか。
燃えるという結果は変わらないのか?
いやそれ以前に1時間も2時間も20数人もの盗賊たちが戦い続けるのか?
馬鹿な、人の体力には限界がある。
そんな長時間同じ人間が殺し合えるのは地球の塹壕戦ぐらいなものだ。
それでさえ何度か休息を挟む――
そうか!休息か!
欲望のまま突き進むことなく、彼らは撤退して、また再度襲撃したということか。
なんてことだ。彼らはただの盗賊じゃない、高度な統率が取れた盗賊か・・・)
統率の取れた軍隊というのは、恐ろしい。
かの有名な孫子は
『正々の旗を邀うること無く、堂々の陳を撃つこと勿れ』
敵が統率が取れており、陣がしっかりしているときは攻撃してはいけない。
という程だ。
(つまり、ただの盗賊と考えて攻めにいった結果押し込まれて、村の中で戦ってるのか?
そんな油断をあの人がするとは思えないが・・・
もしものことはあるな、ここは行くべきだ)
決断即行動で正吾は動きだし、自室を飛び出すと、ぼやくような声が
階段下ると、玄関の扉前には、ヤンケがフルプレートの鎧を着て震えていた。
「わしが、村んみんなを守るんじゃ」
「ヤンケさん・・・」
呟く正吾にヤンケは気付いていないようだった。
「ヤンケさん」
正吾はヤンケに近づき肩に手を置き話しかける。
「震えるぐらいなら、家の中で大人しくしていたほうがいい。
ランザスさんたちの足手まといになりますから」
正吾は優しい声で、ヤンケに言う。
「こ・・・こんな・・・
盗賊の奴らが村ん襲うなんぞわしがここで生まれて育って、今まで一度も無かったんじゃけ・・・」
(ふむ新情報だな、確かに統率の取れた奴らが農作物以外"何も無い村"を襲うのはおかしいと思ったんだ。
これで何か理由があるということは確信できた)
「私は、ランザスさんたちに助太刀しに行ってきます」
「駄目じゃけ!お客人に何かあろうものなら領主様に顔向けでけん!」
「大丈夫ですよ、荒事には多少慣れてますから。
それに、彼らがやられたらここまで盗賊たちは雪崩れ込んでくることでしょう。
その前に助けに行きます」
ヤンケは言葉が出せず、呻くしかなかった。
「では、行って参ります」
正吾は恭しく、イメージにある貴族のようなお辞儀をした。
*************
ランザスは焦っていた。
三人のうち二人の騎士団から出向してきた部下たちが突っ込んで村の外に出てしまい、あっという間に負傷し戦闘不可能になった。
運良く後退させることはできた。
(やはり、ただの盗賊ではないか・・・私もそう長くは戦えん・・・)
「ランザス団長ー!盗賊たち手強いっすねー!」
キースが盗賊を斬りながらそう叫ぶ。
「キース!私はもう団長ではない!喋ってないでさっさと斃せ!」
「ウィーッス!」
(盗賊一人ひとりは並の兵士程度の力量だ、しかし奴らの本当の意味で手強いところは・・・)
そう、彼も盗賊たちの統率力の高さには気付いているのだ、しかしまともに戦えるのは彼とキースだけになってしまった。
(しまったな、こんなことなら下手に彼をヤンケさんの家に閉じこめずに助力を願うべきだった。本来民間人であるフィル君に手伝ってもらっているのだから、今更だが・・・)
「ぐあっ!」
ランザスは盗賊の一人を斬り倒し、
(しかし、彼も後ろから矢で援護してくれてはいるが・・・奴らも馬鹿じゃない、民家を盾にしながらフィル君に近づいている。
このままでは村人たちに被害が・・・)
「お困りですか?」
そんな声が聞こえたとき、ランザスが戦っていた盗賊はうめき声をあげ、背中から鮮血を噴出しながら崩れていった。
ランザスの目の前にはショウゴと名乗った青年がいた――顔を真っ青にさせながら。
「そんな顔をしながら言う台詞じゃないよ、ショウゴ君」
「そうですね。人殺しに慣れてるわけではありませんので」
「それは私たちに対する皮肉かね?」
こんな状況だからか思わず、詰るような言葉を言ってしまったランザスだが
「いえいえ、私の心が弱いだけです。後で裏でゲロゲロ吐いていると思いますよ」
と正吾は言った。
(私は愚かなことをした・・・助けにきた青年に対して礼もいわず・・・)
「・・・すまん。まず礼を言うべきだった」
「それはこの状況を切り抜けてからですね。後で聞きますよ、フッ!」
そういいながら正吾は盗賊の胴を真っ二つに斬り、そのまま袈裟掛けにもう一人の盗賊を斬りつけた。
「ぐあっ!」
正吾が斬りつけた盗賊は傷が浅かったらしく、絶命までには至らなかったが、正吾にとってそれは"見えていた未来"だった。
彼はそのまま剣を素早く突き、すぐに抜くと、盗賊はそれ以上物を言うことなく斃れた。
「うぷっ・・・」
もし正吾のすぐ傍に、空気を読まないお調子者がいたらこう言うだろう「悪阻かな?」と
「やるな!あんた!」
だがそんな正吾の様子はキースの目には映らなかったようだ。
「ええまぁ、『目が良い』もので!」
「どうやってそんなに上手く避けてるんだ?秘訣があるんだろ教えてくれよ」
「いえいえ、生き残る秘訣ですので教えられませんよ!」
「キース!喋ってる暇があったらさっさと斃せ!腐っても騎士だろうが!」
下らない言葉の応酬をしながら、三人は盗賊を倒していく。
そんなとき、
――ブォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオン――
突如角笛のような大きな音が聞こえると、盗賊たちは撤退していった。
「まずい!」
正吾は、そう叫んだ。
雨のような矢がここ一帯を襲い、ランザスとキースと呼ばれた衛兵が射抜かれる。
そういう未来が見えた正吾は直ぐに近くにいたキースを物陰に突き飛ばし、自らも民家に隠れ矢から身を守った。
数瞬後、矢が降り注いだ。
ランザスは間に合わず、左太股と右腕を射抜かれた。
「ぐっ・・・」
「大丈夫ですか!」
「しくじった・・・君は見えていたのに、私には見えなかった・・・やはり年だな」
正吾はランザスに駆け寄り容態を見る。
「ランザスさん!」
キースが叫ぶ。
「やかましい、これ以上無様を晒させないでくれ・・・」
ランザスは立ち上がろうとするが、立ち上がれない。
(矢は浅く刺さっているし、出血量も少ないので致命傷ではないが、しばらくまともに動けないな・・・)
ランザスは自らの傷を見ながら情けない気持ちになった。
「肩貸します、とりあえず手当てが出来る場所まで行きましょう」
「ああ・・・詰め所に包帯と釘抜きがある、それで矢を抜いてくれ。
貫通してたら羽の部分を折って、そのまま押し出せばよかったんだがな・・・」
(この時代の矢の手当ての仕方は痛そうだ・・・)
心底正吾はそう思う。
「キースさん、でよろしかったですね?あなたも肩を貸してもらっていいですか?」
「あ、ああ」
正吾とキースはランザスに肩を貸し、詰め所へと向かった。
詰め所の方へと行くと、村人たちが集まっていた。
詰め所の入り口にはフィルも居た。
ランザスは安堵した顔を見せたが、直ぐに真っ青になった。
なぜなら彼らは鍬や鋤を持って、殺意を目に宿らせていたからだ。
「そこの旅人が盗賊たちを手引きしたんだ!じゃなきゃあんなに簡単に領主さまの騎士さんたちがやられるわけがねえ!」
「そうだそうだ!」
村人たちは正吾が盗賊たちを招いた敵だと思っているのだ。
(あ・・・そうなります?疑うことの無い無害な羊さんっていうのは撤回しよう・・・)
「ショウゴさんは盗賊の一味なんかじゃねぇっつってんだろ!何度言ったらわかんだよ!」
「子供はだまっとれ!」
フィルは叫んでいたが、村人たちは聞く耳を持たなかった。
そんなときだった。
中年の男、ヤンケが村人集団の中から割って入るように現れた。
うーむ戦闘描写難しいですね・・・
次回更新は明日できたらいいなぁ。
ちなみにキース君は当初では物陰ではなく肥溜めに突っ込まされて尻に矢が刺さりましたが、それではギャグシーンになるので流石にやめました。