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未来を夢見た覇道人生  作者: Jade
第1章
3/17

襲撃予知、そして準備時間


「ん?どうしたあんちゃん」


ヤンケはまだ部屋の近くに居たのか、正吾の間の抜けた声に反応した。


「あ、いえ・・・このベッドのやわらかさのあまりに驚いてしまったのですよ、ハハハ」

「え?あ、ああ、やっぱり分かっちまうだね。ウチはお貴族さまが泊まることもあるんじゃけ、部屋の手入れをよくしてるんじゃ」


そういうとヤンケはまた後で、という風に部屋を出て行った。


(なんとか取り繕えたか・・・確かにこの部屋は高級そうな感じだ)


正吾は、自らが置かれている状況がさっぱり分からなくなり、少しばかり現実逃避気味に別のことを考えた。

5時間後のこの部屋が血まみれになっているならまだ理解できた。

ヤンケに騙され、村人たちに袋叩きにされたということなのだから。


(燃えている、というのがさっぱり訳がわからん。

ここが何かの宗教で、余所者は騙して少し品の良い部屋に閉じ込めて焼死させましょうみたいな教義でもない限りありえない)


だが、ただの火事でもない。

正吾は家の中に入って気づいたが、家の一部の外壁と暖炉の付近以外レンガ造りではないとはいえ、ガスコンロ等の文明の利器がないこの世界で家が全焼するような火事になるのはそう簡単にはない。

もちろん気付かずに燃え広がってしまって倒壊するということはあり得るだろう。しかし、普通は誰かが気付いて消火をする。


(つまり誰かがこの家ないし、この村を襲って略奪して放火する、というのが正しいシナリオだな。

しかし、どうしたものか・・・そもそも、この目で見えた未来は変わるのか?

いや、変えられるし変わるはずだ、そうでなかったらゴブリンたちも倒せていなかった)


もっと実験しておけばよかったと後悔する正吾だが、考えることはやめない。


(困ったものだ、目の力を言ったとしても狂人扱いされるのが関の山だろう。

なんにせよ、今後何が起きるかを知っておかなきゃ生き残れないな。

いきなりハードすぎるぞ・・・)


そう、正吾には未来を見ることはできても、変える手段をそう多くは持っていないのだ。


(とりあえず、家の外に出て村を見て回ってみるか・・・っとその前に)


正吾は部屋から出て2階から、目の力を使い時間を4、5時間後に設定し、家全体を見回す。


(やはり燃えているか。となると一室だけが燃えているという線は無くなった)


正吾は村長宅を出て、辺りを見渡すと他の建物も燃えている。


(ふむ、村長宅だけでないなら、襲撃された・・・もとい襲撃されるのが正しいっぽいな)


正吾はある程度推理の基盤を立てると村を見て回ることにした。


***********


正吾が村の中を歩き回ると、村の外側にある物見やぐらが目に入った。


(あの物見やぐらに登らせてもらうか、高台から目の力で見てみるのも一手だ)


決断即実行が彼の性格だが、この時ばかりは普段よりもさらに急いで向かっていった。

正吾が物見やぐらの近くに来ると、


「おーい、そこのアンタ何してんだ?」


何者かが背後から正吾に声をかける。

正吾はにこやかに振り向き、声の主の姿を認める。声の主は正吾より一回り若い、金髪の少年だった。


「ああ、アンタが村長が言ってた余所モンだな?」

「ええ、そうです。ショウゴと申します。どうぞよろしくお願いします」

「ショウゴさんか!よろしく!俺はフィルってんだ!」


正吾はとりあえず話をあわせることにした。

フィルの話によると彼の年は15で、村で一番目が良く、よく物見やぐらから村の周りの景色を楽しんでいるそうだ。

彼は成人したら街で騎士団の弓兵隊に入るのが夢で、狩りで弓を良く使って練習しているらしい。


「アンタ、旅人って言ってたよな!いろんな街によく行くんだろ?

やっぱ街ってのはでかいんだろ?

俺は村で生まれて村で育ってるから行ったことないんだよ!教えてくれよ!」


フィルはまくし立てるように言うと


「わかりました。でも今は少し村を見て回りたいので後でゆっくり話しましょう」

「後で教えてくれよ!約束だかんな!」

「ええ、もちろん。おっとそうだ、あのやぐらに登りたいと思ってたところなんですよ。良い景色だそうですからね」


正吾は営業マンスタイルを全面に押し出し、相手を立てるように言う。


「いいぜいいぜ!あそこにある梯子から登れるからいってこいよ!」


正吾はフィルにやぐらまで案内されて、梯子を登ると一帯には東へ続く街道のある村の入り口と、

その反対側には村を囲むように南まで続く平野、その奥にある森、が見える。

北にも森はあるが、どちらかというと山岳といった山林だ。


(西の森が俺が居た森で、反対側が街へと続く街道だな)


正吾は未来を見通すフトゥルム・アイを3時間後に設定しあたりを見回すと、何やら世紀末みたいな革鎧を来た集団の影が遠くに見える。

さらに4時間後に設定すると、20人ぐらいの男たちがこちらへ向かってきている。


(どうやら、この村は盗賊たちに襲われるようだな

ん?待てよ、4時間後は日はもう落ちてるよな・・・間違いなく。

しかし見える、どういうことだ?・・・なるほど、そういうことか)


未来を見通すフトゥルム・アイの視界は明るさ関係なく色彩の度合いをモノクロに変換して見える。

夜だろうが暗室だろうが関係なく未来を見ることが出来るのだろう、と正吾は結論付けた。


(ずいぶんと都合がいい暗視装置だな)


さて、正吾は脱線した思考を元に戻す。

しかし、彼が取れる選択肢は多くない。

・村を見捨てて今からでも街へ行く。

・村人に警告をする。

・村人を上手く誘導し、盗賊たちが近づいていることを気付かせる。


(見捨てるのは論外だな。

村人たちが殺されるのは心苦しいし盗賊たちが全滅させずに村人を生き残らせた場合、下手したら俺が盗賊を手引きしたなんて疑われかねない。

精神的に見ても現実的に見てもマズい展開になりそうだ。

次に村人に警告する・・・だが、これも怪しい人になるだけだ。

最後に村人を上手く誘導する・・・これしかないな。

フィル君は目が良いらしいし、遠くと言っても一般人の俺が目視できる距離だ。

近づいてくる盗賊たちに気付くことはできるだろう)


「おいショウゴさんよー!そろそろ降りてきてくれよぉ。一応見張り台だからいつまでも余所モンをそこにおらせると大人たちにどやされちまうんだ」


正吾が考え事に耽っているとフィルが下から正吾を呼ぶ。


「おっとそれもそうですね。今行きます」


正吾は梯子を降りて、


「いやはや、良い景色でした」

「だろ?風も気持ちがいいだろ?」

「ええ、よい風当たりでした」


(しかし今のままでは、勝てる要素が足りない。盗賊たちは20人前後というのは分かっているが・・・この村の衛兵のような存在を探すか)


「ところでフィル君、この村に衛兵さんはいるのですか?」

「そりゃどんな村でも衛兵はいるさ、いなかったら盗賊に襲われてはただ略奪されるだけだからな。

このやぐらだって前に納めるはずの税を全部持ってた盗賊が近くにいるってんで監視のために領主様が街の技術者送って建ててくれたもんだからよ」

「ほう、それはそれは良い領主様ですね」

「ああ!本当に下々のこと考えてくれる領主様だよ」


(その盗賊対策には足りてないと思うよフィル君、衛兵の数次第だが・・・この村の人数は二十数人しかいないし良くて2、3人。期待するだけ無駄だろう)


「ではフィル君、衛兵さんに挨拶に行って来るので、詰め所がどのあたりにあるか教えてくれますか?」

「村長の家の裏手にあるからすぐ行けるぞ」

「わかりました、どうもありがとう」


正吾はフィルに礼を述べると、早速衛兵の詰め所へ向かった。


********************

正吾が向かった、衛兵の詰め所は小屋のような建物だった。

ノックをして入ると、中にはいかにも制服と言った服装をしている、初老のがっしりした白髪まじりの黒髪の男が居た。

その男はテーブルの前のイスに座り、書類を書いていたようで、正吾が入ると振り向く。


「ん?見ない顔だな。ということは君が村長さんの言っていた旅人さんだね?こんな寂れた詰め所に何用かな?」


男は立ち上がって正吾を中へと招く。

招かれた正吾は中へと入る。


「いえ、殊更に用があるわけではないのです。

今日は村長さんの家にお邪魔しているのですが、夕食まで少し時間がありますので村を見て回っているのですよ。

ところで他の方を見かけませんがこの村をお一人で?」

「いやもう1人のここ配属の私の部下と、騎士団から派遣されている2人の出向衛兵がいるよ」


その男はどこか喋り方が他の村人と違う。

そういう意味ではフィルも違ったが、フィルの場合は街に憧れた標準語を無理やり喋っているような感じで、男の声には方言のような訛りがかけらも無かった。


「しかし、ここは何もない村だからね、旅の人にとってはありきたりでつまらないものだろう。」


言葉こそ卑下したようなものだが口調は、村を揶揄するものでもなかった。


「いえいえ、住む人が違えばやはり物の見え方というのも違ってきますから、新鮮ですよ」

「そうかな?そう言ってもらえるとこちらも嬉しいな」

「ただ事実を述べただけですよ。あっ、申し遅れました私はショウゴと申します」

「あぁ、こちらこそすまない、私はランザスだよ」


ランザスと名乗ったその男は正吾に握手を求めた、正吾がその手を握ると、ランザスは続けて


「元々は領主様の騎士団員だったんだがね、こうして年もとって老いたから衛兵とは名ばかりで隠居しているんだ」


といって白髪まじりの髪や皺を撫でた。

ランザスの隠居という言葉の返答に正吾は困り、苦笑していた。


(隠居とか絶対嘘だぞ・・・歩き方に隙が殆どないじゃないか・・・)


目の力で未来のランザスの流れのある動きを見ると隙が殆どないことが分かる。


(コレが素人とプロの違いか・・・訓練を受けた兵士の実力を持っていたら話は別なんだろうが圧倒的に経験が足りないな。

ここで盗賊の話を嘘混ぜて言ってみるか?下手に言っても見破られそうな気がするが・・・)


「あぁそうだ、これは不確かなんですけども」

「どうしたんだい?」

「さっきフィル君に頼んで物見やぐらに登らせてもらったんですよ」

「ほう?」


話見えずという様子でランザスが先を促すと


「盗賊っぽい装備の集団が山岳がある北の森のほうで見えた気がするんですよ、すぐ見失ってしまいましたが」

「ふむ、そういうことか。情報ありがとう。一応警戒しておこう。フィル君には話したかね?」

「いいえ」

「それが正解だよ。下手に言って本当に襲われて被害が出ようものなら、たとえ善意で警告したとしても、閉鎖的な村社会だと一度感情的になった彼らはその責任を誰かに求める。

そうなると君が手引きしたと疑われるだろうからね」


(やっぱりかぁぁぁ・・・こわいなぁ、この世界・・・)


「そうですか・・・まぁ・・・お願いしますね?」

「承った」

「それでは、私もまた見て回ろうと思いますので失礼します」

「わかったよ」


正吾はランザスに暇を告げ、詰め所から出る。


「こええぇ・・・あの人絶対只者じゃねぇ・・・一人で盗賊全員斬り殺しそうな雰囲気あったし」


正吾は一人そうぼやいた。


***********************


ランザスは詰め所で一人佇んでいた。


(あの青年は・・・何かが違うな・・・)


ランザスは考え込む。


(やぐらから見えたというのは嘘だろう。

目が良いフィル君が気付かないわけがない。彼がそれ以上に目がいいかもしれんが・・・だとしてもフィル君も一緒にくるはずだ。

しかし盗賊がいるのは事実なんだろう、彼が手引きをするにしてもここで言ったところでメリットがない)


そこに詰め所に彼の部下たる、キースが帰ってきた。


「どうしたんです?団長、うーんって唸って。便秘かなにかですか?」

「違う。あと団長と呼ぶな」


ランザスは長年の職業騎士としての経験と勘が何かを伝えようとしているが、その正体はついぞわからなかった。



次回、戦闘に入れたらいいなぁ

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