異世界、そして村へ
2017/5/4 表現を修正しました。
2018/2/19 1章改稿しました。
異世界、オリビアという世界へとやってきた藤田正吾は、自分の周りを見渡しここがどこなのかを確認する。
「森・・・森・・・見渡す限り森だな・・・いやこっちは平地か。
平地を抜けて2キロぐらい先に村っぽいものが見えるな、その前に持ち物や状況整理をしよう」
時間は昼すぎごろ、こちらに来たときに渡される知識というのは直接記憶に入れられている。
本当にここは異世界で、地球の常識は及ばないところなのだと再確認した正吾は状況整理を始める。
周囲を見渡すと緑が散りつつある時期――秋の初めごろと分かる。
今の服装はこの世界に合わせた旅人のズボンとシャツとポンチョ。
持っているのは、ただの剣とベルトについている少しばかり銀貨と銅貨が入った皮袋の財布、この世界の物であろうリュックサック、中には、水筒、干し肉が入った小袋、干飯の入った小袋が全てだ。
(しばらくはこれで凌げるな。それまでに生活基盤を村や街で作れということなのだろう)
オリビアは中世後期からルネサンス以前までの技術レベル、しかしマスケット銃が存在しない程度、しかし大砲は存在するので時間の問題ではあるが魔法や加護や魔物、いわゆるモンスターが存在する。
「トイレのこと忘れてた・・・野グソか・・・?町や村に行けば公衆便所、さすがに家の中にはあるみたいだが」
尾籠なことを考えて、現実逃避気味になった正吾は頭を振って意識を持ち直して考える。
(今後俺が、リスクケアしないといけない存在は加護と国の貴族や王だな)
そうこの世界にはインチキのような加護持ち―正吾自身は棚に上げて―や絶対的な権力を持つ王や貴族がいるのだ、彼らと事を構えるのは最終手段だ、何より生きるための地盤をまず得なくてはならない。
そして魔法だ。
・オリビアにおいて現象は正吾の知る、現実の物理に魔法が上書きする形で起こっているものとする。
・基本は現実の物理のそれと同じで、ニュートンやらケプラーが卒倒しそうな魔法という原理がある。
・この世界の住人はみな最低限魔力を持っている。
・一般人は基本的に魔法は使えない、使い方を習っていなかったり、使い方を知ってても練習をしていないから使えない。
(使えない要因は他にも色々ありそうだ)
正吾が使える魔法は、
"魔力を水に変える魔法"、
"魔力を火に変える魔法"、
"魔力の壁を作る魔法"の三つだ。
「試しに使ってみるか」
魔法は想像力が重要だと記憶にはある、この世界の住人はアニメやゲームなんてものは知らないからイメージがつきにくいため、魔法を使うときには詠唱をつけないとマトモな威力にならないと補足されている。
「水よ!」
正吾がイメージを補強するため声を出すと共に手を突き出し水を呼び出すと、滝のように水が手から溢れ、目の前にあった木が水圧に押しつぶされて倒れた。
「うおっ・・・これはやり過ぎだな・・・もう一度」
今度は水の量をイメージしながら放つと、シャワーぐらいの水量を出すことに成功した。
「一先ずこんなところだろうか。魔法は使いすぎると疲れるんだったな、温存しよう」
魔術師軍団の平均は火の玉や火の槍、氷の槍を集団でそこそこの回数で撃つため、一般人の数倍は魔力がある。
正吾の魔力はエリートな魔術師より少し高い程度で、特段英雄に並べられるほどのものではない。
英雄のレベルになると使えるかどうかは別として魔術師軍団を集めても勝てない魔力量になる。
「そろそろ見えている村までいくか」
と正吾が腰を上げたところで木の影から2匹のゴブリンが顔を出しその醜い顔を邪悪に歪ませて
「ギャァグギャ!」
ゴブリンの雄たけびらしきものを上げながら刃こぼれした剣を振り上げ、正吾に襲い掛かる。
「うおっ!あっぶね!」
正吾は目の力で見た未来からゴブリンの剣の動きを見切り、言葉とは裏腹に難なく避ける。
「ゴブリン2匹もいるのか、警戒してなかったから全然気付かなかった。さっき水を出しまくったせいか?しかし、普通あんなの見たら逃げるだろ・・・っと」
ゴブリンは剣を横薙ぎに払うも、正吾は後ろに飛び退くが、少しバランスを崩す。
「おっととと・・・危な」
正吾は姿勢を整え、剣を抜く。
「ゴブリンは2回目だ・・・1回目と同じように対処しよう」
正吾は自分に言い聞かせながら、"未来を見通す目"で先に攻撃してくるゴブリンの隙を見つけ構えて待つ。
「今だ!」
正吾は右上段からの袈裟斬りでゴブリンの肩口を両断し、返す刀でもう一匹のゴブリンを斬り倒す。
ゴブリン2匹は悲鳴を上げる間も無く絶命した。
「意外と簡単にいけるものなんだな、この目がインチキみたいなものだが・・・しかし良く斬れる、この剣の切れ味が特段凄いというわけではないようだが・・・」
そうつぶやきながら正吾は周りの木で試し斬りをするが太い幹は剣を受け止めてしまった。
「やはり剣ではない・・・この世界特有のスキルというヤツなんだろうか?思い返してみてもこの世界にファンタジーゲームによくあるレベルみたいなものは存在しないからスキルと考えるのが妥当か。
しかし、そのあたりの知識はない・・・つまり、常識的に知られていない概念なんだろう」
正吾は脳内備忘録にメモしながら剣を鞘にしまって、考えながら村へと向かう。
**********
村に着くと、一番外側に木の柵があった。
中ではそこそこ広めのいくつかの畑で十数人もの村人たちが農作業をしていた。
村の家を見ると、粘土と木材で作られた家が多く、一番大きな家はレンガで建てられた煙突付きの2階建ての家だった。
領主の家と言うには小さすぎるし、普通の農民と言うには大きすぎる家だ。
(恐らく村長の家なのだろう)
門の前で正吾が村を観察していると
「あんちゃん見かけない顔じゃのお、どっから来たんじゃ?」
門の中から、第一村人に話しかけられた。
(言語を新しく覚えなくとも通じると"知ってはいた"が本当に喋れるとなると感動するな)
と思わず正吾は呆けていたところ
「おーい、聞いてるかあんちゃん?」
第一村人、中年ぐらいの男が正吾を揺すって現実に戻す。
「これは失礼を、私は――」
(この時代(中世)で旅をしている人はいるのか?迂闊な答えはできんが・・・まぁいいか実験だな)
「世界を旅している者で、ショウゴと申します」
「そうかぁあんちゃん苦労してんだなぁ、わしぁこの村長やってるヤンケじゃ」
(何か誤解された気がするが・・・いやまて、一人で旅をする人間は滅多にいないのではないか?この世界は魔法があるとはいえ、一人旅の最中に病気に罹れば簡単に死ぬ)
「ええ・・・まぁ・・・どこかで腰を落ち着けようかと思っているのですが・・・付かぬことをお聞きしますがこの近くに街はありますか?」
正吾がヤンケに聞くと、呆れた様子で
「あんちゃん・・・普通、旅をするときはどこへ向かっているかちゃんと考えながらいくんじゃが?そうでないと行き倒れるけんの」
「あはは・・・世間知らずなもので・・・」
「まったくじゃけん・・・この村の反対側に街道があるんじゃけ。
そこを街道沿いに行けばこの辺を治める領主様がおられる街が見えるけん、そこいけばええよ」
「これはご親切にどうも・・・では」
といって正吾が街道の道へ行こうとすると
「待てな、今から行ったら暗くなるけんよ?暗いとこ盗賊やら魔物でるけん危ねぇだ。
この前の前の税を納める時なんか夜にみんなで行ったら、盗賊がいっぱい出て全部持ってかれたけん。全部渡したから怪我人には出なかったからよかったがねえ」
(盗賊に襲われて、けが人や死人がいないのは村人を死なせたら”奪うもの”を作る人間が減るからという考えからだろうか)
そう、盗賊は生産されたものを奪って生きているのだ。それが無くなるということは自身の食い扶持を失うことになる。だから村人を殺さずに逃がすのだ。
「それは危ないですねぇ・・・ここに民宿ってありませんよね?」
「ねえだなぁ、でもわしの家は昔遠くから来た開拓者たちを泊めとったけん、大したもん出せんけど今日はうちに泊まってけばいいだよ。
ほれあそこがわしの家じゃけん」
ヤンケはレンガ造りの家を指で指した。
(やっぱりあの家は、村長のヤンケさんの家か)
「ではお言葉に甘えて、お邪魔させていただきますね。
しかし、何故余所者の私にそこまで親切にしていただけるのでしょうか?」
ヤンケは少し、目に涙を浮かべると
「さっき納めるはずの税が奪われた話したじゃろ?
そんときわしらまげに領主様に謝って次の税のときに2回分出すっちゅうたんじゃけの?
領主様はお優しいけん、わしらの心配を最初にしてくれて、2回分免税してくれたんじゃけ」
「それは、民のことを考えてくれる素晴らしい領主様ですね」
(色々甘そうだが)
「んだんだ、それでわしらも余所モンであっても、親切にしようってなっちゅうんよ」
「その親切心に私は助けられていますね。遠回りですがここの領主様に感謝したいと思います」
正吾がそう言うとヤンケは相好を崩し笑った。
**********
正吾はヤンケに彼の家へと案内された。
ヤンケの家は外壁の一部と煙突周りがレンガ造りで、他の場所は木材になんらかの塗料で塗られた村に建てられているにしては少し品の良い家だった。
ヤンケに招かれ中へと入ると、中央に大きな階段があり一階と二階の壁際、両側には二部屋ずつ。
一階の階段の裏手、奥にはテーブルと竃が置かれたキッチンと食卓兼用の部屋のようだ。
ヤンケが二階へと上がり、正吾を客室らしき部屋に案内する。
「この部屋使えばええだ。
食いモンできたら呼ぶけん、それまでなんもねえけど暇つぶしに村回ってみればええだ」
その部屋は狭いどころか、むしろ広いぐらいだが、正吾が想像する貴族の部屋ほど広くもない。
ただ農民が頑張って建てたという程度の広さだが、ベッドや、調度品の質は高いように見受けられる。
「何から何までありがとうございます」
「ええんよ、困ってる人を助けるのは当たり前じゃけ」
ヤンケが部屋を去ったので、正吾はベットに飛び込んだ。
「おぉ・・・柔らかい」
正吾は想像以上のふかふかのベッドに驚きながらも状況整理を始める。
(さて・・・まず試しておくべきことが1つあるな。"未来を見通す目"で確認しておかなきゃならないことがある・・・それは)
まずヤンケに騙されていないかどうかだ。彼が正吾を騙していた場合、正吾の冒険はここで終わってしまう。
今は昼過ぎなので恐らく食事は4、5時間後と予想できるから、未来予知の目である"未来を見通す目"で5時間後のこの場所を確認する。
(4、5時間後はあまりに未来だから見れるのかわからんが・・・試してみよう・・・)
「え?」
正吾は思わず、素っ頓狂な声を上げてしまった。
何故なら5時間後のこの場所は燃えていたのだから。
次話は明日投稿します。