1、まず部活動より始めよ
入学式後の放課後、波原中人は誰もいなくなった教室で幼馴染を待っていた。と書くとラブコメの始まりっぽく聞こえるが、待っているのは、思春期に入ってお互いの距離感をもどかしく思っているような女の子ではない。
猪突猛進・頑固一徹・一刀両断、そんな四文字熟語がよく見合う海堂夕莉だ。夕暮れの教室で、中人は、あの嵐のような入学式の直後に、夕莉から送りつけられてきたメッセージに目を通す。
「中人、私、校長室に呼ばれているから、ちょっと行ってくるね。なんでも、校長先生が直々に私に話したいことがあるみたいなの。きっと、教育者として、私の演説に心打たれる部分があったんだと思う。
そうそうそんなわけだからホームルームには顔を出せそうにないわ。私の代わりに、革命の理想に共感してくれそうな同志を探しておいて頂戴。きっといっぱい見つかると思うわ。あまり多すぎても困るから、最初は10人ぐらいで始めなきゃね!
あと、今日は一緒に帰りましょ♪話しておきたいこともあるし……。もし、勝手に先に帰ったらどういう目に遭うか……あまり恐ろしいことを考えさせないでよね。それじゃ」
中人は誰もいない教室を見渡し、再度、メッセージの文章に確認するや、窓を全開した。
「ふざけるな!誰がお前の革命に共感するって言うんだよ!?もしいたとしてもそんなの頭のおかしい奴に決まってるだろ!!俺の普通の高校生活を奪わせないぞ!!」
叫んだ。グランドに向かって心の限り。ひょっとしたら誰かに聞かれたかもしれないが、そんなことはどうでもいい。とにかく叫ばないと溜まりに溜まった何かが決壊しそうだった。
中人は、なまじ夕莉のことを知っているだけに、彼女の理想を否定することはできない。夕莉には今の社会を恨むだけの理由も権利もあるし、そのための覚悟もある。夕莉の言うとおり、着実に自分たちの未来は悪い方に向かっているのは間違いない。
だからといって革命なんて夢物語だ。非現実的だ。不可能だ。ありえない。はやく夢から覚めないと、痛い目にあってしまう。たとえ強引な手段を使ってでも、真っ当な道に戻してやるのが、幼馴染の努めってものだろう。
中人がそう決意を新たにしたとき、教室のドアが開いた。入ってきたのは、夕莉だった。
「ごめん、遅くなっちゃって。……結構待った?」
まるでデートに遅れたのを軽く謝るような感じだった。小悪魔的な笑みがよく似合っている。この少女が数時間前には、魔王のような微笑みを浮かべ、政府転覆宣言をしたのだからとても信じられない。
「ああ、まったくだ。これに懲りたらもう少しなあ……」
「ええ、まったく反省してるわ。ほんとありえない」
「ええ!?」
中人は思わず自分の耳を疑った。あの夕莉が自らの非を認めるなんて……。
「あの校長、とんでもない保守主義者よ。頭が硬すぎるのよ。ほんと、老害ってやつかしら?説得しよとした私がバカだったわ」
ことはなかった。
「とにかく、校長、いえこの学校の教師全員が、私たちの敵になったわ。やはり、簡単にはいかないわね」
むしろ、敵にならないと思っていたのか。どう考えても問題児認定です。さようなら、内申点。
「……って、私たち?」
「そういえば、見当たらないわね?革命の同志はどこかしら?」
大真面目に疑問に思っている顔だった。夕莉がとんでもなく可愛い女の子じゃなかったら、顔面をグーで殴りたくなるような腹立たしい顔だと中人は思った。
「そんな奴いるわけないだろ!いたとしても……」
「そうね、確かに一回の演説だけで全校生徒が立ち上がるなんてのは、非現実的だったわ」
あれ、なんか会話が噛み合っていないような気がする……。
「そうね、部活を作りましょう!名前はシンプルに『革命部』。そうと決まったら急がなきゃ!革命を志す生徒がいっぱい入部してくれるといいんだけど。もちろん、部長は私ね。中人には庶務を任せるわ。そういうの向いてそうだし」
夕莉にとっては、すでに『革命部』なる団体が完成している未来が見えているようだ。彼女のこのようなところは一見夢想家だと思えるが、それは違う。海堂夕莉は言動はアレだが途方もなく優秀だ。真美ケ丘高校も史上最高得点で合格している。ちなみに、中人は真ん中ぐらいだ。
そんな彼女にとっては、部活動の設立なんてたわいもないことに見えているのだろう。だから、実務面で苦労するのは中人のような周囲の人間だ。中人は、本日何度目になるか分からないため息とともに、生徒手帳を開いた。
生徒手帳、それは学校の規則が所狭しと書き込まれたメモ帳のことだ。服装や風紀に関する細かい規定が羅列されていると思われがちだが、それだけではない。部活動の設立の手続きなども書かれており、学校生活のハウツー本としての側面もあるのだ。
「ええっと、第6章部活動について……新規に部活動を創設しようとする者は、生徒会顧問の承認を得なければならない」
要するに、生徒会の顧問の先生からオーケーの判子をもらえばいいというわけだ。
「なんだ、そんなに簡単なのね。拍子抜けだわ。早速、行きましょ!」
そう言うなり、夕莉は俺の手を引いて走り出した。中人はバランスを崩しそうになりながら、彼女に引かれていく。ドナドナされていく牛の気分であった。
職員室、それは多くの生徒にとってあまりいいイメージのある場所ではない。職員室に呼び出されるなんて、何か悪いことをしたときが多いのがその理由だろう。しかも、今の自分たちは新入生である。なおのこと入りづらいと思ってしまっても仕方ない。
「失礼しますー」
けれども、どうやら幼馴染はそんな躊躇いなど微塵もないようだ。堂々と入っていく。中人はその後ろをコバンザメみたいに付いていく。
中に入った途端、室内の教師という教師の目線が注がれる……中人の隣の夕莉に。6割が怪訝さをたたえ、3割が敵意を隠さず、1割が好奇心を示していた。「噂の問題児が何しに来たんだ!?」というのがこの学校の教師一同の想いだろう。
「生徒会担当の竹内先生はいらっしゃるかしら?」
夕莉はいつの間にか生徒会顧問の教師の名前を覚えていたようだ。おそらく職員室外の教師の座席図を見て瞬時に記憶したのだ。大した才能だと中人は思う。
「私が竹内だ」
40代半ばの男性教師だ。厳しくもないが柔和そうな雰囲気でもない。座ってる場所から推測するに、社会科の教師のようだ。
「そう、私は、1年D組の海堂夕莉よ。私たち、新しい部活動を作りたいと思っているのよ。承認していただけないかしら?」
夕莉の声はよく通る。それゆえ、竹内先生に向かって発せられた言葉は職員室中に聞かれたようだ。ざわめきが広がる。
当事者の竹内先生も、目が点になって、困惑の表情が浮かんでいた。
「それでどうかしら、認めていただけるかしら?」
夕莉が畳み掛ける。竹内先生は渋い顔をして、「奥の応接間に付いてくる」ようにに告げた。これ以上、職員室で騒ぎを大きくしたくないらしい。
入学初日に、来客用の応接間に連れていかれるという異常事態に、中人は心の中でやはりため息をついていた。一方で、すでに校長室を経験している夕莉は何ともなさそうだった。
応接間のソファーに、夕莉と中人は並んで座る。向かいに座った竹内先生が、一枚の紙を机の上に置く。タイトルは、「新規部活動創設申請書」とある。
「ああ、なんというか、新入生が、入学式の日にいきなり部活を作ろうなんて言い出すのは初めてだ。それも、お前らのようなのとなると……」
竹内先生は言葉を濁した。いくら言動があれでも、生徒を問題児扱いしたくないようだ。だが、そんな教育者の配慮をものともしないのが、海堂夕莉という少女だ。
「それじゃ、この紙を書けばいいのね。任せなさい!」
夕莉は半ばひったくるように申請書を取ると、すらすらと書き進めた。果たして、どんな過激派団体が生まれるのか。中人は隣で気が気ではなかった。
「できたわ!」
数分で種類を書き上げた夕莉は、それを自慢げに竹内先生へと見せつけた。中人も隣から慌てて覗き込む。
「団体名:日本革命部。団体の目的:旧態依然とした日本政府を打倒して日本社会を根本的に作り変えること!スクラップアンドビルドよ!団体の活動内容:日本政府転覆のための資金集め・情報工作・武力闘争等々。……」
このときの竹内先生の慈愛に満ちた顔を生涯忘れることはない、と中人は思った。それぐらい、竹内先生は、夕莉を気の毒な生徒だと思ったようだ。昨今の厳しい受験戦争の中で、ノイローゼを発症し過激思想に傾倒してしまったのだと。おそらくそんなことを思ったのだろう。
竹内先生は、諭すように言う。
「海堂、無茶を言っちゃいけないよ。確かにこの国は問題だらけかもしれないな。それでも、たくさんの人たちが一生懸命働いて社会を支えているんだ。君のご両親だって、君を育てるために必死に働いてらっしゃることだろう。その基盤たる国や社会を破壊しようなんて考えちゃいけないことだよ」
竹内先生は、まったくの善意から言葉を発した。けれども、先生は2つ大きな地雷を踏んでしまった。一つは、親の話をしたこと、そして、もう一つは、月並みな言葉で夕莉を説得できると思ってしまっていることだ。
「私の両親が必死に働いている?ああ、そうだな。あの男は自分の地位と名誉と金のためならば、いつだって必死だろうさ。私は、今すぐ全身の血管という血管からあの男と同じ血をすべて抜き去ってしまいたい!」
夕莉が怒りさえ見せて叫ぶ。竹内先生の表情からは恐れさえも見てとれた。自身の半分の年ほどの少女に明らかに先生は気後れしていた。夕莉の見せる天性のカリスマ地味たものは、明らかに彼女が忌み嫌う父親譲りのものだと中人は思う。本人が聞いたら烈火の如く怒るから絶対に伝えないが。
このあたりが潮時だな、と中人は思う。どのみちこれ以上、2人で話していても埓が空かない。
「先生、ますは確認したいのですが、海堂の書いた申請書ですが、通りますか?」
夕莉よりは中人の方が話が通じそうと思ったのか、竹内教諭はほっとした顔をする。
「まず無理だ。あの内容で受理できるわけがない」
「そうですが……では、団体名と活動内容をオブラートにしましょう?例えば、団体名を革命研究会とし、世界史上の革命や革命家について勉強して次世代のイノベーションにつなげるとか、でしたら?」
竹内先生は黙って考え込み始めた。その合間を縫って、夕莉が中人の耳元で囁く「ねえ、中人、どういうつもり?」中人は返す「いいからここは俺に任せろ。こういう交渉ごとは俺の方が向いている」
「本来であれば、可能だろう。しかし、今回は事情が事情だ。海堂は悪目立ちし過ぎている。あんなことをしでかしたわけだから、部活の設立なんて認めたらどうなるか分かったものじゃない。それが学校としての見解だ。仮に作る部活が料理研究会でも裏で何をされるかわかったものじゃない」
「随分な言い様ね!」
「夕莉は黙っていて……なるほど、学校としてそのような見解に至るのは仕方のないことだと思います。では、こちらを見てください」
中人は、スマートフォーンを取り出してとある動画を再生する。「私は戦う!この欺瞞まみれの社会と!……」
「い、いつの間に取っていたんだ?」
そう、これは先ほどの入学式での夕莉の演説を撮した動画データだ。そして、竹内先生は、これが持ち出された意味を瞬時に察したようだ。
「学校を脅迫するつもりなのか??」
現代のインターネット社会の最大の特徴として、誰もが情報を全世界に向けて発信できるという点がある。これは20世紀の社会において、大衆がテレビや新聞というメディアから一方的に情報を受け取るのみで、情報発信能力が乏しかったこととは対照的だ。
中東では、ソーシャルネットワークサービスがいくつかの独裁政権を崩壊させたような事例がある。反対に悪い事例だと、炎上が挙げられる。有名人のちょっとした失言は瞬く間に電子の海に広がって批判の的となる。それが学校みたいな公的機関の失態となれば言うまでもない。
「いえいえ、ただ、今日の入学式がうまく撮れていたから、先生にも見ていただこうと思いまして」
中人はにっこりと笑みを浮かべる。夕莉の笑顔が魔王のそれなら、中人のは詐欺師のものだった。
「校内での携帯電話の使用は校則違反だ!没収させてもらう!」
息を切らしかけている竹内先生とは対照に、中人は落ち着いた様子で答える。
「別に構いませんよ。それに僕が自分で撮影したものではありませんから」
「なんだと!?誰から貰った?言え!早く!」
竹内先生は気が気ではないのだろう。今、この瞬間にも、あの動画がインターネットに流失し、大騒ぎになってしまうことを思うと。入学式で新入生が政府転覆演説をする高校に、誰が自分の子息を入れたがるだろうか。
「ええっと、誰でしたっけねえ。何分、まだクラスメイトの名前と顔が全然一致しないものでして……。それに、今別のことで頭がいっぱいなので、それが解決しないことには思い出せないです」
隣から夕莉のジト目を感じるが、中人は気にしない。こういう性格の悪さが必要な交渉事は夕莉には見合わない。
「脅迫しているつもりなのか、え!?退学処分にされたいのか?」
竹内先生は机を思いっきり叩く。打音が響き渡る。交渉事において、相手を威圧することは決して悪手ではない。気の小さい相手からならば、妥協させることができる。けれども、幼い頃より、夕莉のせいで学校の先生はおろか警察の厄介にまでなっている中人には、蚊に刺された程度にしか感じられなかった。
「先生、逆にお聞きしますが、どういう理由で退学処分にされるおつもりですか?」
教育機関における退学処分とは、著しい非行行為があった生徒に対して下される最終手段である。必ず、校則違反や出席日数不足といった明確な罪に対する罰である。夕莉が入学式で演説したことを、タバコや飲酒といった明確な非行行為と同列に解釈するのは難しい。一方、学校内でのスマートフォンの使用は明確な校則違反だ。
けれども、それに対する罰としての退学処分は非現実的だ。
「先生、どうか落ち着いてください。いいですか、僕たち2人は、部活動の新設を認めてください、と先生にお願いしにきただけです。そのついでに、入学式での動画が出回ってることを先生にご報告しただけです。これのどこが脅迫に当たるんですか?」
「黙れ!これは部活を認めなければ動画をインターネットに流失させるって脅しだ!」
「僕たちはこれから3年間をこの学校で過ごすんですよ。それなのに、どうして自分の学校の評判を下げるようなことをするのですか?……ただ、僕にこの動画をくれた人は……ああ、思い出しそうです、結構考え無しそうだからな」
「思いだしたんだな!?早く言え、誰が撮ったんだ?」
竹内先生は完全に興奮しきっていた。こうなると転がすのはたわいもない。
「部活動さえ認めてくだされば、すぐに思い出せそうな気がするんですけど……。どうして認めていただけないのでしょうか?」
「だからお前らの部活なんて承認できんと言ってるだろう!だいたい、部活動となったら、教員が必ず顧問になるし、生徒会から部費の割り当てが行われる。それだと、お前たちの反社会運動を学校が支援しているみたいに……」
「つまり、顧問の先生が就くわけでもなく、部費が学校から支給されることもない、そんな活動団体でしたら認めてくださるわけですよね?」
「ああ、まあ、そういうことになるが……。お前たちまさか」
「同好会でしたらその条件に合致していると思いますが?」
真美ケ丘高校生徒手帳第7章に同好会に関する記述をまとめると以下のようになる。同好会は正式な部活動の前段階とされている。そのため、顧問や生徒会からの予算は付かない。真美ケ丘全体で十数ある同好会を管理する名前ばかりの顧問がいるだけだ。運営費用に関しても、同好会メンバーからの会費で賄うのが一般的だ。
一応、学校公認の団体にはなるが、その内実はかなりいい加減だ。例えば、将棋部から分離した生徒が作った将棋同好会は麻雀部に成り下がっていることで有名だ。少し前に、真美ケ丘高校の将棋同好会員が麻雀の全国大会でかなりの成績を残してネットニュースに載っていた等々。
「ああ、だが、しかし……お前たちが妙なことをしないと言い切れるのか?」
「なによ妙なことって?私はね、自分の信念に……って何するのよ?」
すかさず口を挟む夕莉を、中人は黙らせる。
「夕莉は黙っていて……。先生、考えてもみてください。もし、部活動も同好会も認められなかったら、海堂が何をしでかすと思いますか?」
このとき、竹内先生の脳裏にはいったいどんな恐ろしい光景が広がったのだろうか。駅前での街頭演説、政府施設への侵入、不穏分子との交流等々だろうか。先生はたちまち青ざめた。
「同好会という檻の中で大人しくさせておいて方がよっぽど平和ではないでしょうか?」
中人は畳み掛ける。
「活動内容も差し障りのないものなら問題ないでしょう?一切将棋をしていない将棋同好会だってあるわけですし……。掲げる活動内容と実際の活動に齟齬があるのは、そういった団体と一緒だと思っていただければ」
先例があるから大丈夫という悪魔の囁き。竹内先生の陥落は時間の問題に思えた。だが、そこで初めて竹内先生が年長者の貫禄を見せつけることとなった。
「同好会の設立を許可することはできなくはない。だが、同好会の設立には最低でも生徒5名の参加が必要だ。その当てはあるのか?」
「え……」
夕莉は絶句し、反論する。
「その理屈はめちゃくちゃよ!いい、志があって団体ができ共感者が参加するのであって、人数が揃ったから団体を作ってそこに志が生まれるわけじゃないのよ!?」
要するに、仲間を集めるために団体を作りたいのに、仲間がいないと団体を作れないのはおかしいと夕莉は言いたいのだ。
竹内先生は再度たしなめるように言う。
「海堂、こればかりは規則なんだ。5人以上いないとたとえ同好会でも設立を認めることはできない。もし、集まらないなら諦めなさい」
「そんなあ……」
夕莉は落ち込み、中人もそれに合わせてやはりうなだれる……振りをした。そう中人の目的は最初から、夕莉を諦めさせることに尽きていた。だが、真っ向から反対しても夕莉は絶対に諦めない。むしろ、反対された分だけ突き進みかねない暴走機関車娘だ。
中人は初めから、部活動にしても同好会にしても新規創設に5人以上必要なことを知っていた。そんなことは生徒手帳にはっきりと書いてある。そして、また、同好会であれば学校側に認めさせることはそれほど難しくないことも予想がついた。
人を諦めさせるには、最初から理屈を説くことでは不十分だ。できるのではないかと希望を持たせておいてあと一歩というところで、「やはりだめでした」と告げるのが一番効果的だ。希望を知った後の絶望は一段と深いものとなる。
夕莉も竹内先生も完全に中人も思惑どおりに踊っていた。
「夕莉、流石に校則を捻じ曲げるのは無理があるよ。ここは先生のいうとおり、諦めたほうが……」
だが、中人は失念していた。夕莉が他人の思惑どおりに躍るような聞き分けのいい女の子ではないということを。
「分かったわ。あと3人見つけてくればいいんでしょ?楽勝よ♪」
このときの夕莉の笑顔はどうしようもなく輝いて見えた。中人はため息をつくしかなかった。