61「謎の魔宝技師、その名も」
いい朝だ。
いずれ私のモノになる王都を見下ろし肺いっぱいに空気を詰め込む……。
私の名前はズアル・アルキア。アルキア王国国王の息子だ。
つまり王子だ。
王家には上に兄、下に妹がいる。
兄とは1つ違いだ。つまるところ私が王になるチャンスはいくらでもある。
私としては今のうちに貴族共を抱き込んでおき、後はでっち上げでもよいので功を上げる。
そうすれば大勢の野心ある貴族は私の方を王にと支持する大義を得るだろう。
いや、まったく。父上もよいタイミングで私を仕込んでくれたものだ。
あと2年離れていれば立ち向かおうなど考えなかった……。
現状私は秘密裏に貴族と接触している。中々に忙しい日々だ。人望ある王族とは全く参ったものだ。
国の行方に思いを馳せた私はひと段落付けて朝食の間に赴く。
そこにはすでに私以外揃っていた。
臣下に言われたことを大事にするなどおかしな話だが、父上は20年前、大戦中に英雄ルカス・デ・アイノルズから言われた『食事は家族でとるものだ』という言葉を大切にしている。
これはことある毎に言われる。
出陣した戦地で英雄に捕まえられて強制的に毎食一緒に食べたのだとか。
それが王たる責任に苛まれた自分の励みとなったと……。
何も言わず席に着くとこれ見よがしに兄が溜息をつく。
「待たせたのに何もないのか……お前は」
「失礼しました。父上お待たせしました」
軽く礼を取る。美しい礼だ。これで問題あるまい……。
「何処で育て方を間違ったのか……」
「貴方、申し訳ございません……」
「父上、アルカドラの姫との縁談があったはずですが……、これでは外に出せませんね……」
兄が何か私の知らない事を言っている。
私か兄か、どちらかが王の席に着くまではお互い国の為に必要なはずだ。
そのようなこともわからぬ愚鈍なのか。王位を争うライバルとしては……ありがたいことだがな……。
「ルカス兄に押し付けてみるのも一興か……」
「なればかわりにこちらでルース殿の次男バン君を迎えましょうか」
「バン君うちに来るの? やったーー!」
ん? おかしいな何か勝手に話を進められている気がするぞ……。
王子の俺を農家などに出されるはずがない。ジョークですな、ハハハハハ。
「父上、ご飯早く食べよ?」
6歳になる妹が幼いしぐさで父を見る。
王女なのだからもっと慎みを持つべきだと兄として思う。
妹キアノはいずれ王家の為どこぞの貴族に嫁へ行くのだ、今のままでは王家が笑いものになってしまうぞ。
「うむ、ではいただこう。大地の恵み、人の努力に感謝を」
「「「「感謝を」」」」
朝食を食べ終わり、何か私を見てため息とともに呟いている兄を置いて私は学院へ向かう。
第一王子の視点――――――――――――――
皆さん、おはようございます。
私はジリアム・ア・アルキア。このアルキア王国の第一王子です。
正直第一王子なんて早く辞めたいのが本音です。
数年前まで未だ後継をお決めになられていない父をみて、ほっとしていた節がありました。
ですが先日突き付けられました。次は私だそうです。
今では学院へ通わず父上の仕事の補佐をしています。
なぜこうなったか。
全て弟が無能だったからです。
もはや私のサブプランとしても成り立たないほど愚弟だったのです。
先日私が15歳になった日をもって父から突き付けられました。
では、私に問題があった場合はどうなるのか?と父に問うと。
「問題ない何かあればキアノが継ぐ。王家皆ダメになったのであればルカス兄に継いでもらえば良い。あの人は超越者だ。放っておいても千年は生きるだろう。百年ぐらい王をやっても問題あるまい」
それ、今からでも押し付けましょう。
「それがな、昔ルカス兄を王にしようとした人間がおってな……結果、なぜか当時10前半の儂を強制的に王にたてるほど嫌がったそうな……。王になってもらう話も『万が一』という前提付きでしぶしぶ了承してもらった」
ちっ。
「そういうわけで、あきらめて王を目指せ。お前に何かあっても何とかなるからな」
「……承りました」
「やはり儂の息子。似ておる。しかし、事前準備も説明もなく強制された儂より幸せかもしれんぞ」
そういうわけで、貴族たちのおもちゃとなり果てた弟は王たる父から見放されました。
私はやはり王位に付くことを強制された。
……ルカス様はだめでもルカス様の家系……だめだ。イーリアスが良いところいっているがあれは文官向き。王の下で采配を振るう腹心タイプだ。
……あとは……………だめだ、揃いも揃って自由人ばかりだ。
王家傍流とはいえ王家の者。皆、特徴を継いでいる。
ああ、次代の生贄は私か……と思っていると弟が朝食の場に入室してきた。
また、無駄に城下をみてご満悦だったのだろう。
国王になろうと野望を持つものが、城下だけ見てどうするのだ。
国を想うなら世界地図をみろ。
国を守る、国を維持するのにも世界を視なければやっては行けない。東の果てで起こった災厄が時を経て我が国に影響した事例もあるのだ。国とは、人とは見えないところでつながっている。だから……、大局を見る能力があるからこその王……なのだ。
弟が何事もなく平然と自席に座った。はぁ、全くこの弟は……。
指摘してやると拗ねたように父だけに謝罪した。
これには我が家一家揃ってため息をつく。
キアノも承知の上でため息をついている。賢い子だ。
あまりに無礼が続いたため、ここ数年社交場に出していなかった弊害だろうか。
これではせっかく母上が取り付けた大国アルカドラの第二王女との縁談も無駄になりそうだ……。
朝から落ち込んだ空気を何とかしようとしてかキアノが明るくふるまう。
キアノのバン君好きは素だと思うが……ヤレヤレこれで朝食の場が収まるか。
朝食後、意気揚々と学校へ向かう弟を見送りつつ呟いてしまう。
「今日から学院に賢者の弟子が来るのだったな……無礼がなければいいのだが……」
正直言おう。王家は賢者様に頭が上がらない。
影の情報によればお弟子様は賢者様に請われて弟子を名乗っている方なのだとか。
つまり何か問題を起こせば『また』あの笑顔の賢者様が訪問(お仕置き)にいらっしゃるのだ。
弟よ頼むからこの1か月大人しくしてくれ……。
私はかなわぬ願いを神に祈りつつ、父と共に仕事場へ向かう……。
☆ ☆ ☆
衛です。
何故だか学校に通うことになりました。
巨大な大学のような所に到着すると勝叔父さんが消えてしまった。
どうやら地球の魔術とやらをどこかの戦いで見つけたらしく光学迷彩魔術を再現して楽しそうである。
学生が登校する時間、ほんの数週間なのに懐かしい光景だ。
「そこの異世界人!」
「あ、はい」
勝叔父さんを待ちながらぼーっと立っていると唐突に偉そうな中学生ぐらいの子供に呼び止められる。何故だが偉い剣幕だったのでつい敬語で答えた。
振り向くと金髪のちょっとふっくらした健康的な男の子である。居丈高な物言いで高そうな服を身に纏っている。背後にお付きの執事が控えていることから高貴な家の人間である事が分かった。
そんな俺を見下していたはずの子供が、俺の額と手を見て硬直する。
使徒ってばれたかな? 俺は面白いので少し観察することにした。
さて、使徒について説明しておこう。
というか俺もこの間教えてもらってびっくりだった。
端的に言おう。偉いのだ。
どれくらい偉いかというとどの国に行っても貴族の当主並みの権力を持つ。
つまり国の100番目ぐらいの偉さを持つ。
よく異世界物の小説では貴族内での権力順位を気にするが、貴族自体ほんの一握りで最下層の貴族ですら平民と一線を画す。よく江戸末期の【貧乏侍】や【借金まみれの藩政】をさして【貧乏貴族】を想像するが、それは産業革命前の文明で行きつくところまで行きついた文化上であったからであり、本来の権力者であれば『貧すれば搾取』する。ちなみに藩政は赤字だが、大名家は資産家であったらしい。
まぁ、特権階級扱いされるという事である。
ということで、目の前の貴族子弟は固まっている。
ほとんどの国では王族の『子息<貴族当主』になるのだ。貴族当主が王子や高位貴族の子息に丁寧なのは先を見て、または親の覚えめでたくなるためにしている行為であり『利害関係に無い』学校ような場では俺の方が立場は上なのだ。
使徒様の代表格として有名なのは『神獣の御子様の護衛長』ギース様だ。『神獣の御子様の護衛長』がどれほどの役職かは、前任の方を知れば理解できる。その前任の方とは世界の大国である獣王国、その先代の王陛下だ。しかもその経緯と言うのが『先代の獣王陛下が神獣様に頼み、許可が下り得ると王位を捨てた』というのだ。それほどの地位に、現在ついているのがギース様だ。そしてそのギース様ですら、下位神である『武神の使徒』だ。俺は運命神の使徒。運命神は武神の上位神……。ご理解いただけるだろうか?
「なんでしょうか?」
「ふむ、失礼した。友人に似ていたものでな、おっと異世界人などと叫んでしまい失礼した。貴方の名前を教えてもらってもいいかな?」
「あ、はい。自分、衛っていいます」
「うむ、マモル殿。私はこの国の第二王子ズアルだ。ここで会ったは何かの縁。今後何かしら縁があればは良しなにな」
王子だったんだ……。あの態度はいただけないんじゃないかな?
王子は張り付いた笑顔で何事もなかった様に去っていった。
……あの子。
「政治の世界は向いてないな」
あ、勝叔父さん戻ってきたんですね。
え? これから学長のところ?
はいはい、行きますよ……。





