21「薬莢3」
マイルズ3歳です。故あって女装しております。
そういう趣味ではありません。
幼児に対する悪ふざけ、そう思ってください。
そう思っていただけないと泣きます。……あ、マカロンですか。ほむほむ、うまし!
「ははは、子供は欲望に正直なぐらいが可愛いもんだ」
この偉い筋肉の人、見た目に反して実ははいい人のようですね……。
異世界人と聞いたときはビックリしましたが、………………って、待て待て待て。異世界人て魔法力使えないんですよね?どうやって護衛?というか魔法みたいの使ってましたよね?なんだろうこの違和感。
「ん、坊主どうした? 俺の顔になんかついてるか?」
「筋肉の人って、異世界人なのに魔法使ってましたよね?」
筋肉の人呼ばわりで苦笑い。魔法の話で軽く驚いた。
「マイルズ!」
おっと、ミリ姉から叱責。ギースさんだったか失敗。
「はは、筋肉の人か。かまわんよ。それと……魔法の事か、お前さん本当に3歳か?」
偉い筋肉の人の目に警戒の色が映った。まぁ、そうなりますよね。
「ふふ、いいよ。教えてやろう。異世界人は魔法『は』使えない。それは確かだ。こちらの『魔法力を使った魔法』はな……」
偉い筋肉はいたずら小僧がいたずらを仕掛けた場面のような顔をしている。
驚きました。口をポカーンと開けて。
理由は2つです。
まずは日本で生きて『魔法』なんて聞いたことがありません。
次に魔法力を使わない魔法。日常魔法具を使っていればいやでも魔法力を感じますし、『農業魔法』をかじっているのでわかります、彼の発言は日本でいう所の『電源なしでパソコン動かせる』ということと同様なのです。正直言いましょう。胡散臭いです。
「うさんくせーって顔してやがるな。その通りだ。でもあるんだよ。論より証拠だ。やってみるぜ」
そういうと偉い筋肉の人は、ぼそぼそと小声で何かつぶやいている。最近農業魔法の訓練で魔法力を感知できるようになったが、魔法力は動いていない。
「『水よ』」
何語になるのであろうか。日本語・英語・中国語ではない事だけは確かだ。その言葉を言うと偉い筋肉の人の目の前に水の玉が浮かぶ。
その水の玉は数秒浮かんだ後ポチャリと地面に落ちる。
唖然である。
「これが魔法力を使わない魔法だ。あとな、こんな特技があったりする」
偉い筋肉の人がこぶし大の石を拾うと軽く上に投げる。偉い筋肉の人の目線のところまで石が落ちてくると、右腕を一閃。拳が石に当たると粉々に砕け飛ぶ。
ふぁ?
何だこれ?ていうかこの人何?
「どっちも魔法力使わない。魔法みたいなもんだ」
どうだ! といわんばかりの笑顔。
私は勘違いをしていたのだろうか……。いつからこちらに来た異世界人が【一般人】と思い込んだのだろうか……。考えれば可能性としてはあったのだ……。
この世界にきて身近に魔法を感じていたのに……考慮外だった。
【元の世界にも魔法がある】可能性を……。
異世界転移などする人間は自ら望んで移動するのだろうか?
できるだろうか?
無理だろう。
ではなんだろうか? 可能性としては考えうるのは世界のバグ。不運な偶然だろう……。
だが偶然にも条件によって発生確率の差があると考える。
……そう、地球側で【異世界転移に近しい事象】に近ければ、偶然に巻き込まれる可能性も上がるだろう。……つまり元の世界で、魔法やそれに類する奇跡の文化が、技術が、あるのだとすれば……。異世界転移などという奇跡に遭遇する可能性に近くなる……。
「異世界人って皆がそんなことできるの?」
馬鹿になってみた。
「いや、一部だな。多くはない。もし、君らが異世界人と遭遇したら魔法の可能性も注意してくれ。あと、魔法関係なく赤い光を背中から発する異世界人は……」
そこで言葉を切って皆を見回す。
「迷いなく、油断なく殺せ」
私達はいまだ人を殺したことのない子供だ。しかし、今まで両親・家族を通して倫理観を学んできている。迷いなく人など殺せない。
私たちの表情に思う所があったのか偉い筋肉の人は追加で説明してくれた。
「赤い光の異世界人っていうのはな、元の世界で魔法の使えなかった一般人、それがこちらに来た時に体と心が壊れてしまっている証だ。奴らは平然と人をだます。奴らは平然と人を殺す。奴らは平然と人を喰らう。気を付けるといい」
空気が沈みまくっている。偉い筋肉の人もまずいと思って苦笑いをしながら頬をかく。
しょうがない助け舟出すか。
「筋肉の人! さっき石をバーンってやったやつ恰好よかった! あれどうやるの?」
「おう、興味をもったか。………筋肉っていいだろう!」
ポージングである。
「……おうちかえる」
「すまん!! 坊主! まってくれ!!」
その後『気』についての基本を教えてもらった。
ついでにポチタマとミリ姉も学んでいた。
……この3人に学ばせるのはまずいような気がしつつも、本日のお茶会は終了した。
領都グルンド在住とある兄妹の視点――――――――――――――――――――
僕はノア・ルルジス。11歳です。
来年幼年学校を卒業し農業学校へ進学予定。
いつかは研究所でルカス様がやったように美味しく、みんながおなかいっぱい食べられるような研究を成し遂げたい。
ルカス様は本当にすごい。
この農業都市ですら【30年前までは食べるのに困っていた】らしいのに、今では食べ物が豊富にある。お爺ちゃんやお父さんにとっては【神様みたいな人】なんだって。
僕が『どうやったの?』って聞くとお爺ちゃんとお父さんは『ルカス様の必殺農業魔法で『どーん』ってやったんだ』って答えるのさ。『どーん』って何って聞いたら『どーんはどーんだよ。我々には理解できないぐらいすごかったよ』。……もう農業の神様でいいんじゃないかな………。
でもルカス様がすごいのは魔法だけじゃないんだ。
才能のない僕達にも貢献できるよう、長い時間をかけ方法を確立する『研究』を推奨していたりしてるんだ。おいしいものをよりおいしくする改良とか、植物を病気に強くなるようにとか。捨ててたものを利用できるようにとか。
だからルカス様の農場で働いているお父さんもすごいんだよ。僕も将来ルカス様のお手伝いがしたい。皆が笑顔になるものを作りたい。そう思っている。
さて今日は学校が休みなので父の職場にお昼を届けに行きます。
普段はルカス様がふるまってくれるそうなのだけど、本日はルカス様がいらっしゃらないので、お弁当が必要な日ようです。そういえば3日前に北の森で魔王領から危険生物が流れてきたと言う張り出しが出ていた。魔物討伐に向かわれたのかも……。
「おにぃ! お父さんの職場だよ!」
4つ下の妹ルルカがはしゃいでいる。街を出るのも初めてなんだ当然か……。可愛らしい。
お父さんにご飯を届けた。
周りの人が『これ食ってけ』と野菜をくれた。さすがルカス様の農園おいしい。お父さん、いつもこれをまかないで食べてるの? ずるくない? お土産に持って帰ってくるべきだと思う。
お父さんのところで野菜を食べて帰ろうとしたときのことだった……。
「おにぃ! 西の森ちょっと入ってみたい!」
妹がわがままを言う。
「だめだよ、森は危ないよ。怖いモンスターに食べられちゃうよ~」
「ぶー、森はいったらすぐ出るもん。危なくないもん」
僕はここで間違った選択をしてしまった。
お父さんの職場に戻って緊急用の案山子連絡用の魔石をかりて、これで問題ないと思ってしまった。
夏よりも高い青空の下僕は妹と森に向かって歩く。
妹の初々しい反応が楽しかった。
途中灰色の肌をしたお父さんらしい人と一緒に僕たちより小さな子供がいた。挨拶をすると、挨拶を返してくれた。小さいのにしっかりした子だな……。妹も、もう少ししっかりしてくれればいいな。
でもそう思う反面もう暫く、僕が勉強で忙しくなるまでは僕に甘えてほしい……そう思う。しっかりするのはその後でいいかな………。
そう考えながら森に足を踏み入れた。
すぐに『パン』と乾いた音と一緒に僕の右足が熱くなった。
僕は魔石を使うのを忘れ、恐怖に足をすくませる妹に叫んだ。
「逃げろ!! たのむ逃げて!!!」





