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【書籍化・コミカライズ】【Web版】おっさん(3歳)の冒険。  作者: ぐう鱈
1章:くっ、中世のくせに意外と不便じゃない・・だと
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20「ポチとタマとウッサと異世界人と僕2」

『異世界っていえば先輩!』

 いつの話だろうか……。

 ……ああ、終電を逃した金曜日の夜だった……。

 会社を出て駅に向かう道すがら泥酔した後輩2名に捕まった時の話だ……。

 翌朝新幹線で出張があるんだけどな……と、げんなりしつつも楽しそうな後輩たちに付き合う。駅前の雑居ビル4階にある安居酒屋だった。お付き合いで高い店に行く機会があるが、私はこういう店のほうが好きだ。何より接待費なんかでないしね……あのお付き合い……。

 先ほどまで『課長がこんなに良い人だとは思ってませんでした! 感激です』とぶっちゃけたもう一人の後輩は今夢の世界。酔った勢いでぶっちゃけてくれたな……。まぁ、聞かなかったことにしてやるよ。


『聞いてますか先輩!』

『はいはい。で? いつ異世界に行く予定だ? 長期休暇になるなら申請出せよ(笑)?』

 私はそういっていつもの、メニューに【熱燗】と書かれただけの酒をあおる。


『あー、先輩手酌は出世しませんよー。もう。もっと出世して俺を引き上げてくれなきゃ』

 苦笑してしまう。私と話すときの後輩は【こんな】だが、仕事はできるやつだ。

 軽薄そうに見えて人間関係も敏感だし、後輩のフォローも完璧。他部署とのコネも豊富。さらにミスが少ない。態度さえなおせば今の上司も無能じゃないし、個人的感情を仕事に持ち込まない人だし、評価してくれるのにな……。


『 先輩には夢がないっすね~、あれっすよ異世界に行けば男の夢、ハーレムが可能なんですよ』

『ハーレムって……俺は一人で一杯一杯だよ』

 その時はまだ元妻に夢を見させてもらっていた時だった。

 すでの30後半を迎え、仕事の忙しさもあり、女性1人相手するのが体力も気力的にも限界であった。


『しかも! ハーレムなのに女性陣は喧嘩をしない。10股とかしても殺されないんっすよ。 ちょーうらやまじゃないっすか!』

 そう言えばあれだ。この間2股バレて深刻な顔してたな、こいつ。


『尽きぬ精力。ご都合主義の出産ラッシュ。いや~、王様になっても後継争いで血を見そう!』

 後半! 夢を語るなら後半もオブラート!


『ハーレムねぇ……』

『そう! 男の甲斐性っすよ! でかさを見せていきましょうよ!』

 悪い、俺の息子は普通サイズだ。あはははは。

 あははは。現状、お姫様×3+かわいいお姉さま=ハーレム。なのでしょうか?

 後輩君チェンジしましょうよ。早く変わって。お願いします。


 ……すこし時間が戻ります。

 子供の会会場ではポチ、タマ、ウッサ。いえ、ホーネスト様、ネロ様、神獣の御子様がすでに着席の上談笑中でした。

 私とミリ姉は、この後の展開を想像してやたらとニタニタしているギースさんと権三郎に付き添われながら近づいて行きます。


「ふむ、今日は見慣れぬ子が来たな。かわいらしいではないか。どれお姉さんが抱っこしてやろうぞ」

 1番初めにポチが気付きます。

 ……なんでしょうかこの完璧なお姫様。

 ……こんなお姫様私の知るポチではありません。

 ……ポチはもっと自然な馬鹿さが可愛い系の癒し動物のはずなのです!

 どうにも恥ずかしさが先に立ってしまい、ミリ姉の後ろへと隠れます。

 この時ばかりはミリ姉の背中が頼もしく感じます。

 この時点で事情を知る組が笑いをこらえ始めるのが視界の端に映ります。

 ……こら、そこの護衛!

 手を抜き過ぎだ!

 ごっ、権三郎何をメモしているのですか?

 ん? 今の映像と音声を案山子ネットワークで共有中? リクエスト受付中ですと?

 受け付けません!

 そんな生放送、運営に言って中止バンさせます。

 ……ぬ、運営主は祖父ですか。無理そうですね。


「ほほう、可愛らしいのう。マイルズも可愛かったが、この子は百倍可愛いのう」

 ポチがその特性をいかんなく発揮します。

 これ、ばれた時に赤面パターンです。墓穴を自ら率先して掘っていくスタイルですね!

 知っていました。ポチ、オカエリ!


「……食べる?」

 クッキーを見せつけるタマ。ふふ、そんな単純な手に引っかかるはずが。うん、これバター使い過ぎです。料理人、料理人はどこですか!


「「「かわいいー♪」」」

 タマに撫でられ、お姫様トリオが頬を緩めます。それよりもお代わりはまだですか?


「私の分もあげるね」

 ウッサが近づいてきます。

 ……先日の人見知りはどこに行ったのでしょうか……。ほほう、チョコクッキーですな。神獣様はよいものをお持ちで!


「これギースのお手製なんですよ♪」

 何ですと!

 偉い筋肉の人そんな特技をお持ちだったのですか。ぜひ連絡先の交換をしましょう。今度のお休みいつですか? うちの店でお話しませんか? 後悔させませんよ。

 偉い筋肉の人製のストロベリークッキーもいただき、お茶を飲ませて頂いた時点でようやく気付きました。奴ら爆笑してやがる。くっ、どうする? 私の残された手は。


「あら」

 私がタマの膝から降りると残念そうな声が聞こえます。

 極力声を出さない様にほぼ無言で、クッキーのお礼を言い、挨拶する。なちゅらる!

 まさに自然な動作です。このまま、馬車まで逃げるのです。

 いえ、戦略上一時的な【後退】なのです【後方への前進】なのです。一部の隙もなく、優雅に、なちゅらr……ぐは。

 思い出したかのようにリードを拾ったミリ姉が引っ張っています。離して……はくれないのですね。なんかお母さんに似てきましたね。将来ミリ姉と一緒になる男の方、頑張ってください。


「ミリ殿。なんじゃ、その紐」

 リードをさしてポチが興味津々です。そうです、ポチ。私の人権を取り戻すきっかけを!

 さぁさぁ次の言葉です。


「この子、好奇心旺盛すぎるの」

 仕方なくやっているのです。とでも言いたげである……。異議あり!

 私の人権が侵されております。人としての権利を主張します。


「ふむ、じゃが。それはそれでかわいらしいのう」

「ですね」

「私も持ってみたいです」

 おい最後の。ウッサ。君なんてこと言うんだい。

 えっ『持ってみますか?』……だと!

 まっまて、姉上。話し合いましょう。私の人権を売り渡すのはやめましょう。まさかのバーゲン価格並みの気安さですよ! それ!

 ウッサ! すっごくいい顔ですが、その紐は奴隷の首輪と同じです。

 友人を奴隷にしても気持ちいいものではありませんよ。……三十六計逃げるに如かず。……ぐほ。


 ウッサに渡されたリードがぴんと張る。

 ……ウッサにも汚されてしまいました。

 ……ねぇ、偉い筋肉の人さっきから周囲に気を配らないで、『これ、いつネタ晴らし来るかな』という方に気を配っているけど、あなた神獣の御子様の護衛隊長だよね? ロイヤルガードだよね? むしろ神様護衛だからゴッドガード? 職責に見合う態度を要求します。


「可愛いですね」

「可愛いです。うちのマイルズはば可愛いです」

 空気が固まります。orzで沈む私。爆笑する偉い筋肉の人。無言で親指を立てる権三郎。ドヤ顔のミリ姉。情報を整理するお姫様トリオ。

 衛生兵! 衛生兵はいないか! ここに(精神に)傷を負ったものがいるぞ。救助を! というか助けて!


「……マイルズ君」

「……はい」

 微妙な空気が流れます。

 ズルズルズル。

 なんですか? なぜ引き寄せるのですか?

 なぜですか? 目が怖いです。ポチタマ!

 その慈愛のまなざしは何ですか!?

 結果、『可愛いからいいか』とウッサの膝の上にがっちりホールドされました。

 まさに借りてきた猫状態!

 ネコはタマなはずなのですがね。女性陣は皆さんお知り合いだったらしく、ミリ姉と会えなかった半年の事で盛り上がっております。とってもい辛いです。たまにウッサが撫でてくれますが、クッキーの支給はありません。

 集団の中での孤独な戦いを繰り広げていると偉い筋肉の人が笑顔で近づいてきます。護衛のお仕事はどうしたのでしょうか?

 うっ、その手に持つのはまさか、シュークリーム! 貴方何者ですか!


「お嬢様、坊主と少しよろしいでしょうか?」

「はい」

 と言ってもウッサは離してくれません。

 ここって解放されと私と偉い筋肉の人と離れたところで男だけのキャッキャウフフのお菓子パーティ! という流れではないのでしょうか?

 偉い筋肉の人がシュークリームを入れたバスケットをお茶会のテーブルに置く「お嬢様方、よろしければ」と言ってイケメンスマイルIN筋肉。そしてシュークリームを一つつまんで私に差し出す。


「坊主大変だったな(笑)これは俺の故郷でププランって名前のお菓子だ。日本人に言わせるとシュークリームとか言ってやがったがな。美味いぞ」

 おお、偉い筋肉の人はお菓子作りの名人ですね。

 お菓子名がフランスっぽいですねもしかして高名な菓子職人してたんですかね? 筋肉ですが。あ、美味しくいただきます。

 ……ん、もっと下げてくれないと受け取れませんよ? 口に近いですよ? まさかの『あーん』の体制デスヨ?

 女性陣が注目しています。いえ、私にもプライドがございます。手で受け取って食べます。ええ、そんなに近づけないで。だっだめ、もう耐えられない。


「うまーーい♪」

「こらこら、ほっぺにクリームついてるぞ♪」

 ええ拭き取られても気にせず食べます。美味いです。これは何ということでしょうか。神獣の護衛やめて家で働きませんか!?

 夢中で食べ続ける私。ほほえましい光景です。

 30後半のエリートサラリーマンだったという、尊厳さんがさみしそうにこちらを見ていますが、美味いは正義なのでもう気にしません。

 うん、おいしー! 



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― 新着の感想 ―
[一言] これは、泣いていいと思う(゜ー゜)(。_。)ウンウン ギャン泣きしたらやめざるを得ない(゜ー゜)(。_。)ウンウン あとは、顔を見る度に泣いてやれ(//▽//)
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