15「何事も基礎が大事、うんうん」
同志諸君。視線が痛いです……。
ちゃっ、ちゃうねん!
私の責任は母だけなのです。他の方々は知らないのです。声高に冤罪を主張します!
現在、我が家の食卓では秋のSパン祭り開催中なのです。
当初はお父さんにネゴを取り、この12人掛けの食卓と自宅の窯をつかった会員だけのパーティ予定だったのですが……。
なぜだかわかりません。
我らたまごサンドの会5名と母、祖母、ミリ姉、祖父、父が座っています。
全員当然の権利のように出されるサンドイッチを心待ちにしている様子で……。
メンバー倍増です。
朝の仕入れの時になぜだか上機嫌の祖父が、予定の倍の量、を渡してきたのはそういう意味なのでしょう。
まぁ、この際です。食べる方が多いだけいただけるご意見も多いと納得しましょう。
ですが解せない方が2名います。
母は私の不徳がいたすところ、祖母と祖父は自由人なのでお手上げです。
ミリ姉、あなた今日学校は?
さも当然と朝から庭で剣を振ってらっしゃいましたが、そもそも学校はいかがされましたか?
え? 母と祖母公認? 文句が来たら押しつぶす? ……物騒ですね……。
しかも、本当にやりかねない……。……モンスターがいます。
……え? 何も申しておりませんよ、お嬢様方。
会員達は夜担当だから大丈夫なのですが……オーナー様。おさぼりでございましょうか?
愚息としては心配でなりません。……ほう、代わりにザン兄をおいてきたと?
ミリ姉と同じ問題がありますし、ザン兄では代わりになりません。
むしろ致命的なミスと言えます。
早めに現場に戻られたほうが良いかと思います。
飯マズは現場で起こっている! と末弟は愚考いたします。
さて、現在量は倍増しましたが仕込みは問題なく完了し、皆さんにお茶をふるまっております。
権三郎は間食用の砂糖をたくさん使用した贅沢パンの耳ラスクを焼いてもらっています。
その横では私がコンソメスープもどきの味を最終確認です。
問題なかったので皆さんに配ってもらいます。おおむね好評です。というか、ラスクの消える速度が半端ありません……。
さて、サンドイッチもそろそろ寝かせ終わりましたかね。
かぶせていた濡れ布巾を外してもらい、1口サイズと『私には』見慣れた三角の半分切りに切り分け、大皿で皆さんのところに置きます。
たまご、ポテト、キュウリ、アボガド、トマト等々の具が挟まれた色とりどりのパンたちが並びます。
私もミリ姉の隣に座り権三郎が取り分けてくれるのを待ちます。
……いえ、待てません。
取りに行きましょうと手を伸ばそうとしたら体がそれ以上行きませんでした。
……ミリ姉を見るとお茶を優雅に飲んでいるようですが手元にひもが引かれている。そのことが目に映ります。
そんな様子を祖父は笑いをこらえているように眺めています。
ええ、そうです。先日魔法具騒ぎで家族会議から突き付けられた罰がこれなのです。
そう、幼児用のリードです……。
サンドイッチさんの魔力にこの試食会に参加した者たちはみな魅了されています。
「どうですか、これがたまごサンドの真価です」
「会長のたまごサンドは、どれだけ化け物なんだ」
楽しいトーク盛り上がっていると権三郎がお皿を持って現れた。
「あちらのお客様からです」
お皿にはたまごサンドが山盛りでした。そうあちらの皆さんに配った分ほぼすべてです。
そして権三郎はさも当然かのように卵以外のサンドを我々の大皿から奪って行く。
止めようとするとリードが張ります……。今着ている皮のベスト…‥。これの背中の中心から伸びているひもが私の行動を遮ります。
ミリ姉は終始ご機嫌でサンドイッチをぱくついている。
……だが、ひもは離してくれないらしい。
それぞれ見ていくと、祖父は自分が仕入れたアボガドの食感にご満悦だ。
祖母と母はケチャで味付けしたお肉を挟んだサンドがお気に入りらしい。
ミリ姉はオールラウンダーのようだ。マヨ以外は。やはりマヨに人権がない。
父は何やら至高、究極のメニューをとかを不良社会人となってしまった息子がリストラされない為、時に対立をあおり時に共に盛り上げている苦労性の和服男性然として、しっかりと味を堪能していた。
美味しい食事会は過ぎてゆく。私の人権と共に終わりを迎える。
ミリ姉。貴方の弟への評価をお聞きしたいところです。
ザン兄については『下僕』。バン兄については『癒し動物』。とか思ってませんか?
その中で私はどうなんでしょうか?
聞きたいけど聞きたくないです。どうしましょう。……とりあえずリードから手を放していただけないでしょうか。人権を取り戻したいです。
こうしてSパンプロジェクトは日の目を見た。やはりサンドイッチはSパン。
お父さんにもほめられ、会員からの敬意も感じます。ただ、このリードが私から人権をうばっています。自由が自由がほしいのです。
『強制リードの刑、1週間』意外と重い罰のようです。
とある研究所所長の視点――――――――――――――――――――
最近またまーちゃんが暴走気味です。
色々画策しているのが密偵経由でバレバレです。
ですが、油断しました。
河原で極小の魔石を拾ってきたのは知っていましたが、あんな小さなものに回路を定着させるなんて。
すごいとほめてあげたいが、魔法具にかかわらないという約束忘れてますね。これ。
実験する際に私を呼んだのは評価してあげましょう。
でもね。なんて兵器作ってるの?まーちゃん?
その夜、必死に『ただの光を使った差し棒』を作りたかったといっていましたが、結果は兵器です。
情状酌量の余地がないです。もう、いつでも誰かの監視が必要ですね。
ということでこれから1週間これを着てください。
似合ってますね。かわいらしいです。
なぜでしょう。こう紐を持っていると何か違う感覚がめぐってきます。
あなた紐で縛られてみませんか?
興味がない?
私は興味があります。ええ。拒否権?
結婚した時に捨てたはずですよね?
私は持っていますが。うふふ。
とある王国賢者の視点――――――――――――――――――――
義理の娘からマイルズが作った魔法具を渡された。
娘はこれをもって平然としていた。
やはり同じ研究者とは言え、畑違い、では理解できないらしい。
これの恐るべきことは娘が言うように本来魔法回路が定着しないような極小魔石に回路を定着させたこともそうなのだが、それよりもこちらの棒のほうです。
驚きです。
魔法力伝導効率が極めて悪い木に回路が組み込まれています。
史上数例しか確認されていない物が私の手元にあるのです。
さて、どうしたものか…‥・。
魔石は魔石で貴重だったので、研究室の研究員たちに放り投げた。
3日後覗いてみたが眼の下に隈を作りながら、横揺れとかしながら、議論を重ねていた。
……良い傾向だ。
さて杖のほうだが、再現するのかを実験してみた。
あの魔法具を取り上げた翌日、私がリードを持つ番の時にやってもらった。
とりあえず両手に1本づつステッキを持たせ、木の枝と同じくできるかやってもらった。
結果、簡単にやってのけた。
唖然とした。
なぜだかマイルズは、完成させたステッキではなく……、さりとて私でもなく…‥、先ほどからずっと息子に作らせたクッキーを見ている。
……成功させたご褒美に1枚与えてみた。
非常に喜んでいた。そしてステッキを新しい物に持ち替えて同じ作業をする。
マイルズは完成させると同様にクッキーに視線が釘付けだった。
……クッキーを与えてみた。
面白いので繰り返してみた。クッキーが残り少ない。
そういえば王都で評判の店のクッキーをもらったなと思い出して机をあさる。
クッキーと昔師匠から受け継いだ賢者の杖を見つける。
もう完全に機能を失った賢者の杖。
カビの生えた権威だけの木の棒をなぜ持っていたのか……。……そうかこのためか。
私がもどるとマイルズは目に見えて落ち込んでいる。
なぜか?と不思議に思ったが、どうやら持ってきたステッキ全ての処理が終わり、もうクッキーが食べられないことに落ち込んでいたようだ。
……あれ?12本もあったのに……。
そこで廃棄物(予定)の賢者の杖を見せて『この杖直してくれたら、このクッキー全部あげるよ~』といってみた。マイルズは今まで見たことのない真剣なまなざしで杖に向かう。
神聖な魔法力をたたえる賢者の杖を愕然と眺める私。
マイルズはクッキーに夢中である。もはや賢者の杖については『汚い木の棒』扱いだ。
今までとは別な方向でマイルズの将来が不安になってきた。
早めにどこかの娘と婚約させたほうがいいかもしれない……。