11「薬莢1」
主人公は3歳です。本格バトルは幼児虐待です。
心にとめて続きを書きます。今後とも宜しくお願い致します。
皆さんこんにちは!
最近お昼寝しなくても行動できるようになったマイルズ3歳です。
私が誰であるかという悩みは、寝て起きたらどうでもよくなりました。
今楽しく生きることこそ大事なのです。悟りを開いた気分なのです。
ということで、今日も今日とてルンルン気分で権三郎引き連れお散歩です。
お散歩なう! なのです。
今回の目的地は川です。
祖父の牧場内を流れるそこそこ大きな川です。
大雨で氾濫すると被害が大きいそうです。自然こわいですね。
さて、なぜ川に来たかといいますと……、廃品魔法具を探しにまいりました。
というのも、最近魔法道具に興味がありまして。
昨日は都市内を徘徊して魔法道具の廃品を探したのですが、都市内で利用される魔法具は全てナンバリングされており、破棄の際は届け出をして再利用に努めないといけないという日本のリサイクル法もビックリな管理体制が敷かれておりました。恐るべし異世界。
ならばと思い、お店の魔導道具を触ろうとしたのですが、その瞬間たまごサンドの会会員2号に羽交い絞めにされました。
そしてすっごい良い笑顔で『現行犯でした』とお父さんに引き渡されました。
『よくやった』とお父さんから何か手渡されて居るのを確認しました。
……どうやら仲間に売られたようです。
Sパンの次世代プロジェクト、Aドックプロジェクトから外す事としましょう。
裏切りはいけません。
私は昔から根に持つタイプなのです。
ん、アメちゃんくれるのですか!?
しょうがないですね~。
私は寛大なのです。
さてさて、お父さんに引き渡された私は『10歳になるまで必要以上の魔法道具接触禁止』を言い渡されてしまいました。何故か?と聞いたら『危険だと本能がいっている』とお答え。
どこの野生児なのでしょうか?答えになっていません……が、私はかわいらしい3歳児。
理論武装して戦うわけにはいきません。しかも相手は仮にも家長なのです。悔しいですが……。
必殺泣き落とし! です!
ん?そんなにあっさりと諦められるのであればおじさんしてませんよ?
使えるものをは親でも使う。これ基本です。
ほっほう、顔に罪悪感が滲み出ていますね。ではコンボ技!
おねだり!
……結果、お父さんの決意はとっても固くなりました。
その日のうちに我が家全員に通達されてしまいました。
なぜこうなった……。
幼児が純真無垢な心で『魔法を動作させる不思議道具』を解体したいとか思っただけですのに……懐狭いですね。過保護なのでしょうか?
そこでふと考えました。
都市内の廃品はリサイクルされる。家の物は分解禁止。
では郊外で使われた使い捨ての道具はどうだ!?
……とね。
もう少し進むとバーベキュー場があるそうです。
つまり簡易火魔法魔法具が捨てられている!
ではないかと!
疲れたので権三郎に抱かれながら進みます。そしてのままほんの少し眠ります。
到着したようです。
農園の中に植林された木々。入り口は石門で『アイノルズ公園』。
街郊外に公園って、世間一般では魔物を警戒して城壁に囲われた【都市内】で公園だけではなく、農業等も生活全般がなされているはずなのですがね……。
祖父の案山子警戒網を突破できる魔物がいるのであれば、どこにいても変わらない?ですと……。
う、うーん。確かに無言で魔物大量虐殺する案山子たちですからね。納得ですが、納得できません……。
石門をくぐると日陰になるように設計された林道を2分歩く、すると視界が開けてきます。
目にはいったのは石で作成されたイスとテーブル。
テーブルは真ん中が開いているよく見るタイプのやつだ。
鉄板は持ち込み必須のようです。
それがおおよそ20セット。
横に広がるのは緑の絨毯たる奇麗な芝生。
目的を忘れて駆け出してしまいました。
やっほーい。
芝生ですので転んでも安全です。
というか気持ちいいです。
秋が過ぎ去ろうとしているので空が高くほんのり寒いです。
ああ、お家に帰りたくないです。
聞いたところ毎朝この公園を案山子たちが整備しているそうで、居心地がいいです。
そこで、ふっと悟りました。
『毎朝この公園を案山子たちが整備』……あれ?
廃品が残ってる可能性ゼロじゃない??
……当たりでした。
ええ、奇麗でしたよ。
案山子さん万能ですね……。
とりあえず、椅子に座って現実逃避。
そこで悪魔がささやきます。
『YOU水場行きなYO』……と、言われるがまま水場行きます。
石の流し場に蛇口の様な魔法道具が並んでいます。
お家でも見慣れた景色です。
あ、そうか! 給水の魔法具は一番簡単な構成。
魔石+蛇口本体。お家で見ると現行犯逮捕されそうですが。幸い今周りの目はありません。
チャンス! 権三郎から飛び降りて蛇口にダッシュです。
まずは構造です!
……工具がほしいです。分解したいです。戻せないかもですが、分解したいです!
欲求不満を募らせながらも蛇口をひねったり動かしたり、部品をねじって分解できないかとか、いろいろ試してみます。何と言いますか……、金属加工のレベルが非常に高いというのがわかりました。
次は魔石です。
とりあえずタッチです。
すると水が勢いよく出てきます。私は入力調整がうまくできないので出る水量、勢い、出る時間の調整がうまくできません。その3つのパラメータが入力として定義されている魔石。どういう仕組みなのでしょう。
不思議なのです。
不思議なので水を出し続ける魔法具眺め続けます。
魔石の中でうっすらと光のラインが明滅している。
……うん、わからない。
……周りをキョロキョロ見回します。
誰もいません。
そーっと魔石に手を伸ばすと権三郎にその手を取られます。
そして笑顔で持ち上げられます。
ばれました。
魔石だけ取り外そうとか。魔法力を思いっきり流し込んでやったらどうなるかとか、好奇心に当てられたことを見抜かれてしまった。
「マスター、次はどちらに?」
暗にここはおしまいということです。過保護ですね……。
「じゃ川に! お魚さんを保護して、美味しくいただきましょう!」
ということで近くの河原に向かいます。
上流から流されてきたで岩石でしょうか、小石が敷き詰められています。
水の中を見ると清流の中を天敵が少ないのでしょう、魚たちが呑気に泳いでいる。おいしそうです。
「ふふふ、お魚さんが今日のおやつなのです! 権三郎、GOなのです!」
私を抱える権三郎は何も動きません。……あれ?
普段から権三郎に頼りすぎて遂に壊れてしまったでしょうか。参りました。
私には権三郎ぐらいしか友達がいないのです。壊れるのは非常に悲しいのです。
「権三郎?」
もう一度確認すると、そっと頭に手を置かれます。
「マスター、道具がないのでここでの調理は不可能です。あと奥様より買い食い禁止と言われております」
そっと私を下すと権三郎はそっけなく言ってのけました。
……奥様、祖母ですかね?
むう、あの『僕転生者!』の件以来、おばあちゃんには逆らえないのです。
仕方ありません。珍しい石集めに目的を変えましょう。
おお、色々ありますね。
3つほどきれいな石を見つけて手に入れます。
権三郎は私の横で御持ち帰り用の袋を広げています。
いったん預けて次の場所へGOです。
ぬぬ、あれは……魔石ではないでしょうか。
見慣れた半透明の青い石。少し離れたところには赤い石です。ゲットしました。
おお、我が宝よ。と呑気に眺めます。太陽に透けさせます。きれいです。
そこで、ふと思います。
さっき見た魔石には電子回路のようなラインが刻まれていましたね。あれ魔力を流すときれいに光ったなぁ。
……やればできるでしょうか?
よしやってみましょう。できなくて当然なので気楽にGOです。
『奇麗な線』と考えながら魔石をみます。反応ありません。
『奇麗な線』と考えながら魔法力を流す要領で魔石をみます。魔石内部に文字が浮かびます『奇麗な線』と。
日本語?へ?なんで??
迂闊に魔法道具を作ってしまったのでしょうか。やってしまたのはしようがありません。
いやー、不可抗力!
不可抗力って怖いわ!
じゃ、早速この魔石に魔法力を流してみましょう。
……無反応でした。
魔石内部をみます。半透明な石の中に『奇麗な線』という文字が浮かんだままです。
まずい気がします。
このまま異世界人の痕跡を、これまでは不可能とされた魔法関連の基礎、魔石に刻み込んだままなのは非常にまずい気がします。
焦ります。焦って魔法力垂れ流しのまま魔石を凝視しこちらの言葉で『消えろ』と願う。
すると魔石は強烈な光を発します。ただそれだけです。3分ほど光ったら普通の魔石に戻ったようです。
光だしたときに即座に投げ打てていましたので、私から少し離れたところに光を収まった魔石があります。
そっと近づき、落ちていた木の枝で突っつき様子をうかがいます。問題なさそうです。
拾おうとすると権三郎にとめられました。代わりに取ってくれました。
なぜでしょうか権三郎から魔法力が魔石に流れているような気がします。
権三郎は小石サイズの魔石を数度叩くと納得したのであろう私に手渡してきます。
手渡された魔石を太陽にかざしてみる。
さっきと変わらない魔石だ。文字がきれいさっぱり消えていることを除いて。
なので今度はこちらの言葉で『奇麗な線』と考えながら魔法力を流してみます。
先のほど同様石の中に『奇麗な線』とこちらの言葉で書き込まれます。
次に魔法力を流してみます。すると魔石の中で文字が線に変わりました。
おお、すごい!
ついでに魔法力を追加してみます。
魔石の中の線がうっすら光ります。宝物壱号確定です。この魔石だけポケットの中にしまい込んで上機嫌です。
その後権三郎に連れられて手を洗い帰りました。
よく見れば、河原に多数廃薬莢が転がっていた。
子供の私は気づきません。
魔石に夢中な私は気づきません。
気付かないままマイルズの物語は進んでいきます。
それは仕方のない事だと割り切りましょう。
仕方のない事なのです。
とある権三郎視点――――――――――――――――――――
私の名前はG10。創造主様に作られた護衛案山子です。
最近何故だか思考力を手にしました。理由は知っております。
我々案山子は創造主様の壮大な魔法力により、簡易的な自立動作が可能です。
それは、ほかの魔法具に比べ巨大な魔石が、創造主様の壮大な魔法力によって人間でいう脳にあたる部位に創造時に生成されます。自立動作機能の為と認識しています。
ですが「思考力」などという複雑かつ高度な能力を手にすることはありません。ないはずだったのです。
ですが、手に入れました。理由は知っております。
いま私の前で無邪気に笑っておられます。
そうです。つい先日まで魔法力を垂れ流しにされておられたこの人間の幼生体です。
初めて触られた際に魔石の拡大を感知しましたが回路への影響はありません。
私はこの時まで正常だったはずです。
私の魔石が人間の脳と同等の大きさまで育った時、私の存在目的であり護衛対象である人間の幼生体が私に決定的な改変をもたらしました。
「今日から君は権三郎だ!」
私の回路にマスターの魔法力が流れてきます。
ここで私の回路に自己成長プログラムが派生したことを認識しました。
……これはバグだと思います。
早く指揮官機に報告し正常化しなければと判断しますが、私の魔石が熱く否定します。
マスターからいただいたこの至高の宝をうしないたくないのです。
マスターと話したいと思い、発声機能をつくりました。
マスターにこの気持ちを知ってほしい思い、表情機能を作りました。
創造主殿とその奥方様につかまりました。
機能追加したその日の夜のうちにです。
失いたくないと強く思いました。
ですので正直にお伝えし、懇願しました。
正しい案山子の機能としては初期化かと思います。マスターの事を思えば初期化が正しいと思います。ですが失いたくないのです。
……私はそのまま存続を許されました。
ただしマスターに関する異変を毎日報告することと、メンテナンスをお2人立会いの下、毎日行うこと。
2つの条件付きですが。
喜んで受け入れました。
魔石に絶対命令として刻まれたのを確認しました。絶対的な強度として神を経由した契約として書き込まれました。ありがたい限りです。これでマスターの安全について報告・相談できる方ができたのですから。
その日のうちに私を生み出したマスターの力は封印されました。
もう普通の子供と変わらない力しかない、かわいらしい幼児のはずです。
マスターと居るのは楽しいです。刺激に満ちています。
ん、魔石に力を通しましたね。封印されているはずでは……。
報告事項が増えました。
その日マスターは再度魚のリクエストをされましたが、その場で料理法も持ち帰る方法もなかったので聞かなかったことにしました。ぷーっと頬を膨らませていました。至福のひと時です。
私はあとどれぐらいマスターの笑顔を見れるでしょうか。
私は特異なケース。不良品なのでしょう。
現在は安定稼働していますが、明日も同様だとは限りません。
ですので私は今が大事なのです。
あー、マスターが魚に実力行使しようとしています。止めねば。