望遠鏡
なにかを見ようとして
望遠鏡で夜空を見た
そこにいた巨大な木星は
静かに荘厳に佇んでいた
けれども、なにも生きてはいない
なにひとつ、いのちをもっていない
なにを見るという当てもなく
望遠鏡で夜空を見た
そこにいた燃え盛るアンタレスは
地球でサソリ座の星として知られている
けれども、アンタレスはそれを知らない
なにひとつ、自分の呼び名なんて知らない
混沌とした想いを星に託すように
望遠鏡で夜空を見た
そこにいた見慣れた月は
かつてガリレオが観測しアポロが降り立った
けれども、月はそれを知らない
なにひとつ、地動説や冷戦のことを知らない
なんだか嫌になってきて
望遠鏡から目を離した
すると蒼白い流星が夜空を裂いた
僕は星に願いをかけるなんて柄ではない
けれども、なんだか損をした気分だ
なにひとつ、あの流星に罪はないのに
僕が地球にいる限り
僕は望遠鏡で地球を見られない
それはこのいのちをもった蒼く美しく身勝手な星で
僕が生きているからだ
僕は僕を見るために
明日も望遠鏡で夜空を見る