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閑話 ギル・マスナック 2

 


 クウヤ殿がベルライトの王族だと仮定して、話を進める。


「クウヤ殿の【毒耐性】のレベルを見ただろう?」


 そう確認すると、ジネットはまるで自分が痛みを感じているかのように顔をしかめた。

 

「……Ⅵ、でした……」


 そう……Ⅵだ。あの若さでⅥなのだ。

 【毒耐性】スキルのレベルを上げる方法はただ一つ。ひたすらに、その身を毒に侵される事だ。

 当然、レベルが上がれば上がるほどに、より強力な毒を受ける必要が出てくる。軽い毒だけではレベルが頭打ちしてしまうからな。そしてⅥともなれば……ヒューノでは即死に値する毒を食らう必要がある。それも一度や二度ではなく、幾度となく、だ。


「これはただの予想だが……」


 そう前置きして、続ける。


「捨てられる際に、毒で何度も殺害を試みられたのか……。それとも、円環の内部で強力な毒持ちに襲われたのか……。どちらにせよ、地獄のような苦しみを味わった事は確かだろう。生き残ったのが不思議なくらいだ」


 ……嫌な想像をしてしまったな。自分で口に出していて気分が悪くなってくる。


「……予想とはいえ……聞きたくありませんでした」


 目元を歪めたジネットが、まるで涙を耐えるようにして唇を噛み締めている。

 ……久し振りだよ、お前のそんな表情を見たのは。……ということは、今の俺の表情もそうなのだろうな。

 俺も予想とはいえ、考えたくはない。

 しかし全てがそうではなくとも、この考えだと……辻褄が合う事が多いんだよ。


 この大陸の中心部を覆う漆黒の魔界――『常闇の楽園』。それを円形に取り囲み、俺達が住む“普通”の大地とを隔てる位置に存在する地割れのことを『大罪の円環』と呼ぶ。底が見えないほどに深く、また、幅が100m以上もあるせいで向こう岸へと渡る事もできない。だが、例え渡れたとしても、その先はランクⅦ以上の魔物が跋扈ばっこしている『常闇の楽園』。昔、国中から精鋭を集めて橋を掛けようとしたが、対岸にふらっと現れた三体の魔物によって即座に壊滅させられた、なんて記録が残っているほどだ。ヒトが踏み入って良い地ではない。

 そんな『常闇の楽園』こそが、この大陸で一番の危険地帯――魔境だ。当然、そこに隣接している『大罪の円環』には、恐ろしく強靭な魔物共が生息している。円環の底はどうなっているか判らないが、地割れの壁面や空中には、本能が危機を訴えてくる魔物を目にする事ができる。


「そんな境遇をしかし、クウヤ殿は数年以上も生き残り、脱出する事に成功した。そして、その過程として必然的に、あの尋常ではないステータスが身に着いた」


 あの若さでレベルⅦ以上の上位属性スキルが四つなんて、そんなものはどう考えても異常過ぎる。生半可な環境で過ごしていては、絶対にあの域まで到達できない。それこそ、『大罪の円環』や『常闇の楽園』といった大陸屈指の絶望の地にでも放り込まれない限りは……。

 門番には『単独で修行していたらこうなった』などと説明したそうだが……それは望んだ修行ではないんだろう。 


「…………」

「…………」


 同情、憐れみ。

 そんな感情が湧いてしまうのは、仕方がない。

 ぬるい環境に居る俺達では、彼を理解する事などできはしない。そんな俺達がクウヤ殿を憐れむのは失礼だと解っている。そもそも、これらはただの憶測だ。

 だが、今のクウヤ殿を見ていると、駄目だ。

 彼と接していると……どうしようもない。


「……あくまで予想。憶測です」


 ジネットが俺を恨めしそうに睨んでくる。

 嫌な想像させやがって、って感じだな。


「ああ、そう言ってる。それに、真相は本人に尋ねてみなければ判らないが、予想が当たっていてもいなくても俺達の対応は変わらないだろう? 俺達は解放者ギルド。そこに登録した彼をサポートするのが仕事だ」


 とは言ったものの、現状では俺達が一方的に助けられている訳だが……。


「クウヤさんは……不思議ですね」

「……ああ、本当にな」


 俺達が予想した通りの状況で育ったのなら、世を恨んでいてもおかしくはないんだ。

 しかし……


「私達に『ありがとう』とか言いますし、『すいません』って頭を下げたりしますし、私なんかと冗談を言い合ったりします……」


 そう、町のゴロツキなんかより余程穏やかな性格をしている。それに、聖王家の教育を受けていたのなら一般人に感謝を示したりはしない。ましてや、頭を下げるなんて事は絶対に有り得ない。

 考えられる理由としては、


「元々の性格もあると思うが……恐らく、楽しいのだろう……」

「……っ」


 ギュッと唇を結び、また泣きそうになっている。

 そういう反応をするなら話を振るなよ……。俺が虐めているみたいじぇねえか。

 というかだな、


「お前もいろいろと探りを入れて分かっていただろ。クウヤ殿は真面目な話じゃないときは、結構な割合でふざけるんだ。まるで、久し振りに冗談を言える事が楽しくて仕方がないと言った風にな」

「それは……そうですけど……」


 聖王家が子供の誕生を公表するのは10歳になった時。そして、10年前のベルライトでクウヤという名前の王子が誕生したとは発表されていない。つまり、現在20歳であるクウヤ殿が捨てられたのは、今から10年前になるはず。

 この予想が正しければ、10年近くも一人で地獄に居た事になる。だからだろう、今はヒトとの会話が楽しい刺激として感じられているようだ。

 ただ、10年もの間、みっちりと地獄に居た訳ではないと思われる。1年前に蒼き神鳥様が降臨した事については知っていたからな。

 円環を脱してからこの町を訪れるまでに、何処かに寄って情報を仕入れたのだろう。それも、ボハテルカの周辺ではない何処かでだ。調査を始めたばかりとはいえ、目撃情報が一つも無いからな。


「……クウヤさんからは、恨みとか憎しみとかは全然感じられません。それどころか、優しいんですよ」


 ……孤児院の件か。

 孤児院の事を尋ねた直後にお金を引き出したので、一応職員の一人に後をつけさせてみると、クウヤ殿がシーツと靴をプレゼントしていた、という話だったな。


「それに、朝はあんなに疲れていたのに『役に立っているという実感が嬉しい』とか言っちゃって、二回目の浄化依頼を受けちゃいますし。…………おまけにその時に……その……何でもないです」


 それは俺もビックリした。

 昨日の様子から『二箱とはいかずとも、一箱以上は大丈夫だろう』との判断だったんだが、まさか二箱を一度に浄化してしまい、さらにもう一度依頼を受けるとは微塵たりとも想定していなかった。

 まぁ、そのおかげで一日に回収される汚染魔石の数を初めて浄化数が上回ったんだがな……。

 というかこいつは何を急に恥ずかしそうにしているんだ。


「その時にどうしたんだ。言ってみろ」


 こいつの仕事は問題のある人物を観察して俺へと報告する事だ。

 だからクウヤ殿の言動はジネットから逐一報告を受けている。

 ――保管庫でのやり取りでこの町に害意を持っていないと判断したので、報酬を渡す際にわざと周囲に『この人物は浄化能力に優れている。今のボハテルカに必要な人材だ』と知らせ、クウヤ殿が絡まれないようにすると同時に、失礼な応対をされたクウヤ殿がどういった反応をするかを試したところ、ちょっと眉間に皺を寄せたが、その後すぐに『まあいいか』といった様子を見せただけだった。王族としての矜持などといった厄介な感情は持っていないようです。――といった感じでな。


「……え、えっとですね…………そう、鈍感なんです」


 ピンと指を立てて言われても、意味が分からん。


「何がだ」

「クウヤさんです。本日二回目の浄化をするって事で、昨日と同じ様にそれとなく周囲の人達に『この人は一日で二回目の浄化依頼を受けますよ。みんな感謝しましょう』って知らせたんです。すると、皆がクウヤさんに頭を下げて感謝の意を示したんですが、クウヤさんは『ん?』って感じで頭をかしげて『まぁ、取り敢えず俺も挨拶しとこかな』って感じで会釈を返し始めたんですよ。自分が感謝されているとは思ってもいないようでした、はい」


 それはお前がクウヤ殿に分からないようにそれとなく周囲に知らせたからだろうが。それに急に早口になりやがって。何を焦っているんだこいつは。

 というかだ、


「昨日ならまだ良かったが、今はベルライトから面倒な奴等が来てるんだから今後はそういうのは止めろ。奴等の耳に入れば厄介事では済まんぞ」


 奴等はベルライトのお気に入り。つまりは王族の息が掛かっている可能性が高い。そんな奴等がクウヤ殿の事を知って何も起きない訳がないからな。下手をすればザーファロンとベルライトが衝突する事にもなりかねん。

 ……こう考えると本当にクウヤ殿は“超懸念事項”だな。

 あの領主め、俺に全部押し付けやがって……。

 まぁ、国に所属している領主が関与していない。つまり、クウヤ殿を匿ったり手助けしたりした訳ではないと言い張る為。そうして最悪の事態――国同士の衝突を避けるという意味合いもあるのだろうが……。

 クウヤ殿をベルライトに差し出せば丸く収まるのだが、それをやると浄化が追い付かずにボハテルカは終わるからな。現状では見て見ぬ振りが最善といったところか。


「承知しました、今後は止めます。しかしクウヤさんが来てくれてホント助かりましたね。ある意味ナイスタイミングです」


 ん? 急に話を変えてきたな。……怪し過ぎるぞ。

 こういうときのジネットは何かを誤魔化そうとしているはずなんだが……。

 ……まぁ、そうだな。

 俺が応援要請した三人組のパーティならば、浄化も鉱山の調査もこなせたはずだ。しかし、彼等よりも数段劣る連中が来てしまった。奴等では鉱山はどうにかなるとしても、浄化に関してはてんで当てにならない。

 だが、最上級だと言っても良い浄化能力を持った人物――クウヤ殿が町を訪れたおかげで浄化に関しては問題無くなった。しかし、彼が町に着いた翌日にベルライトの王族と繋がりがあるかも知れない連中が到着した。

 ……確かに、“ある意味”ナイスタイミングだ。

 

「彼等だったらクウヤさんと顔合わせしても大丈夫だったんでしょうけど……」

「……仕方ない。ただのアガタ出身者ならまだしも、一人は張本人、二人は関係者だからな。……まぁ、握り潰されるとは思ってもいなかったが……」


 話を伝えるぐらいはするだろうと思っていた俺が馬鹿だったんだろうよ。


「彼等の場合は……タイミングが良いと言っていいのか、悪いと言っていいのか……微妙ですね」


 苦笑しながらのジネットの言葉に、俺も同じ様な表情で同意する。


「町を出て行った直後だったからな」


 半年ほど前にこの町を訪れた三人は数日ほど滞在していた。その間に俺達と知り合った訳だが、彼等がこの町を出立した直後に鉱山で魔物が大量発生したからな。彼等からしてみれば厄介事を避けたという意味でナイスタイミングなのかも知れないが、俺達からすれば実に悪いタイミングだった。


「あ、そうです。もう一つ報告があったのを忘れていました」

「……何だ」


 このタイミングでのそれは、良い予感がしないんだが。


「呪雲が濃くなった影響か、周辺の魔物が狂暴化、どんどんと強くなっていっています。中には丸ごと上位種へと進化を遂げた魔物の群れなども確認されています」


 ……ちっ、案の定か。

 鉱山で手一杯の時に厄介な……。


「今はクウヤさんが居ますし、トリーノを戻しますか?」


 ふむ……そうだな、浄化はクウヤ殿が居れば問題無い。それに、彼がこれからも浄化を引き受けてくれたおかげで、この半年ほどは『自分達がしっかりしないと……っ』という悲壮な感じだった浄化職員にも余裕が戻ってきたしな。


「ああ、そうしよう。それに、これからはベルライトの連中がちょくちょくロビーに顔を出す訳だから、それを避ける意味でもちょうど良い」


 なぜかクウヤ殿には素直・・に名前を教えたようだが、奴等に対してはそうはならないだろうからな。


「分かりました。それではトリーノには“処理係”に戻るよう伝えておきます」

「ああ、頼んだ」


 一人でどうこうできる問題ではないと思うが、何もしないよりはマシだろう。

 早く鉱山の異変を解決しなくてはならんな……。

 しかし、奴等だと少々不安だ。


「……鉱山もクウヤ殿に手伝って貰えれば良いんだが……」


 クウヤ殿も鉱山の魔物共に対して最適な能力を持っているからな。

 しかし、そうすると浄化に回す魔力が無くなるだろうし、何より奴等と鉢合わせする可能性が高過ぎる。それだけは駄目だ。

 などと考えていると、俺の呟きを聞いたジネットが苦笑しながら言った。


「正直な話、クウヤさんが『俺も鉱山の調査をします』って言い出す予感がしてしょうがないです。それも平然とした顔で」

「……お前にそう言われると、そんな気がしてくるんだが」


 こいつら考えが……というか、俺を罵倒する時の言動が結構似ているからな。

 ギッサン発言についてもそうだ。

 保管庫で俺の事をギッサンとか呼びやがったのは聞こえているんだっての。さっきだって何回ギッサンって言い掛けたことか。

 ……昔のジネットと同じ呼び方しやがって。


「まぁ、そんな横暴は私が許しませんけどね」


 ……横暴ときたか。

 まあ確かに、あれだけの浄化を行いながら鉱山まで、ってのは無茶な事に分類されるか。

 しかし、こいつが許しませんとまで言うとは。……それほどまでにクウヤ殿の事を心配しているんだな。


「……お前ら、本当に結婚したらどうだ?」


 冗談だったが……本気で上手くいくかもな。


「へ? 結婚? …………誰と誰が?」

「クウヤ殿と――ん」


 マヌケ面を晒しているジネットを指差す。

 すると、ジネットは俺の指をなぞるようにしてゆっくりと自分を指差した。と思ったら両目を限界まで見開いて、


「はああああああああああああああっ!? ちょ、まっ! な、ななな何いってんの急に!? というかちょっと待って! “本当に”ってどういう意味!? どういう意味ッ!?」


 などと喚きながら執務机をバンバンと叩いてくる。


「……ほう」


 この反応。こいつ、満更でもないのか。

 本当に嫌なら『え、有り得ないです』って感じの冷めた反応をするはずだからな。


「ニ、ニヤついてないで答えてよ父さんっ! “本当に”ってどういう意味!?」

「こら、今は職務中だぞ、娘よ」


 まぁ、俺から職務に関係無い話を振った訳だが、この反応を見た今となってはどうでもいい。


「いやな、先程クウヤ殿と話している時に出た話題なんだが、似た者夫婦という事でどうだ?」

「似た者ふう――?! 待って待って意味が分からないんだけど?!」


 ……ほうほう、顔面が真っ赤じゃないか。

 これは実に…………面白い。


「クウヤ殿に同じ質問をしたんだが……今のお前同様、満更でもないようだったぞ」

「なあッ!? ……ク、クウヤさんに何て事言ってるのこのハゲッ!! 脳みそまでハゲちゃったんじゃないのっ!」


 指をビシッ! ビシッ! っと突き付けてくる。

 お決まりの照れ隠しだ。


「声がデカいぞ。あと、その驚き方と言葉のチョイスもクウヤ殿と同じだ」

「う、うるさいっ! ニヤニヤしないでよ!」


 ぐぬぬぅ……って感じで睨み付けてくるが、まだ止めはせぬ。

 こいつを揶揄える機会なんて滅多に無いからな。


「そうか、クウヤ殿に“お義父さん”と呼ばれるのか…………悪くない」

「悪くない。――じゃない! 何キリっとした顔で格好つけてるの!? そもそも何で急に私とクウヤさんが――……その、……け……けっこ…………って事になるの!?」


 そんなのは決まっている。


「性格が一致するかどうかは結構重要だからな。それと、昔のお前が言ってたんだぞ。『父さんよりも強い人と結婚する』ってな。クウヤ殿は俺よりも強いからちょうど良い」

「わ、私そんなこと言って――………………たかも」


 否定しようとしたが、急激に勢いを失って項垂れた。

 どうやら忘れていたようだな。


「何だ、違ったのか。てっきり俺よりも強い男と出会えないからその年でも結婚相手が見つからないんだと思っていたんだが」


 浮いた話を全然聞かなかったからな。


「そ、その年って言うな! 私はまだ17歳ですよこのハゲッ!! それに相手が見つからないのはそんな理由じゃないし! 私の好みに一致する人が居ないだけだし!」

「机を叩くな。それで、好みとは?」

「それはもちろん、スラッとしてて、けど結構しっかりした体で、男って感じの顔じゃなくて、ハゲよりも強くて、ハゲじゃなくて、礼儀正しくて、でも時々ふざけちゃったりして、私と性格が合って、子供に優しくて――…………」


 そこまで口にしたところで急に黙り込んだジネット。

 ふむ、自覚してしまったようだが……これはあえて言うべきか。


「それってまんまクウ――」

「言うなあああああ!」


 

~~



「落ち着いたようだな、娘よ」

「……ふん」


 不満顔をしながらせっせと手櫛で髪を梳いている。

 危うく机が破壊されそうになったが、なんとか治まったな。


「……ところで、クウヤさんが父さんよりも強いって言ってたけど……ホントなの?」


 目を合わさずに、何処か恥ずかしそうにしながら訊いてきた。

 俺達の予想ではクウヤ殿は『大罪の円環』を生き残ったとしているが、実際に戦闘を見た訳ではないし、

こいつは戦闘能力がある訳じゃなからそこまでの判断はできんか。


「ああ、強いぞ」

「……この町で一番強い父さんよりも、強いの?」

「真正面切っての決闘方式ならまだ分からんが、何でも有りなら俺は確実に殺されるな」


 嘘ではない。確実にだ。


「そんなに……?」

「ああ。感知スキルを持ってないお前には理解できないだろうが、クウヤ殿は異常だぞ。……クウヤ殿の生命力を覚えているか?」

「確か……5000ぐらいだったはず」 

「そうだ。そして5000といえば一流クラス。にも関わらず、【生命感知】に殆ど引っ掛からないんだよ。集中すれば何とか感じられるが、それこそ虫並でしかない」

「……?」


 眉を寄せて頭を傾げている。


「……良く解っていないようなので、詳しく説明してやろう」

 

 【生命感知】は生命力を感じ取れるスキルだ。だが、生命なんてのはそこら中に沢山存在する。そんなの全部に反応していては多すぎて感知の意味がない。だから通常は一定以上の生命力にのみ反応するようにしてるんだが、クウヤ殿はその“一定”よりも低いのだ。どうやっているのか判らないが、クウヤ殿は生命反応を抑えているのだろう。つまり、クウヤ殿に【生命感知】は意味を成さない。これだけでも恐ろしい事なのだが、クウヤ殿が本当に凄いのはそこではない。

 それは、【魔力感知】に一切反応しない事だ。

 クウヤ殿の魔力量は凡そ9500。宮廷魔法士の部隊長クラスだ。そしてクウヤ殿はそれほどの魔力量を一切感じさせないほどに完全に魔力を抑えている。……驚異的などという言葉では生温い。正に神懸っている。

 つまり、クウヤ殿に対して感知スキルは全く意味を成さないのだ。それは、奇襲・強襲を許してしまうという事と同じ。

 ステータスから考えて、クウヤ殿は魔法士タイプ。それも、遠距離からの一撃必殺を可能とするほどのスキルレベルを誇り、狩人として、暗殺者としては肩を並べる者が居ないと思えるほどの能力を持っている。

 恐らくは、『大罪の円環』を生き抜く上で自然と培われたのだろう。

 俺は肉弾戦タイプ。クウヤ殿とは相性が悪過ぎる。

 勝機があるとしたら、対面した状態で戦闘を開始した場合だ。クウヤ殿は詠唱が必要なので、その間に決めれば良い。いくら強力な魔法とはいえ、発動させなければ脅威ではないからな。

 ……とはいえ、『大罪の円環』から生還したクウヤ殿が肉弾戦はからっきし、という事もないだろう。

 つまりは、遠距離ではまず無理。だからといって、接近戦でも危ないかも知れない。


「――といった感じなんだよ」

「……そんなに凄いんですね」


 真面目な話になったからか、ジネットの口調が仕事モードに戻っている。


「クウヤ殿が屋上で寝ていた事は話しただろう。あれが正にそうだ」

「……?」


 また良く解っていないようだな。


「俺はずっとこの建物ギルドに居る。そして、俺は朝になるまで屋上に誰かが居るとは感じられなかったんだよ。ギルドマスターの俺がな」

「っ……」


 そう、俺に気付かれずにギルドの屋上へと移動しただけではなく、眠ってもいた。

 それはつまり、寝ていても気配を悟らせないほどに生命力と魔力の制御能力が優れているという事を意味している。


「絶望的な環境で生き残るには、必須の能力だったんだろうよ」

「……」


 おっと、いかんな。また雰囲気が湿ってしまいそうだ。

 この空気を改善するには……そうだな、ここはクウヤ殿に倣おうか。


「とまぁ、クウヤ殿は凄い訳だ。そして一致しているだろう?」

「……何がですか?」


 首を傾げているジネット。

 よし、真面目な話の続きだと思っているな。


「先程説明してくれたお前の好みにだよ」


 そこでこのように意表を突くと、


「なッ!? ま、また――」


 こうなる訳だ。

 そして、仰け反り気味になっているジネットに畳み掛ける。


「だから結婚するなら早く――」

「トリーノへの伝言がありますので失礼しますっ」


 タタタタッ、ガチャ――バタン。


「…………逃げたか」






申し訳ありません。保存したはずのデータが消えていたので遅くなってしまいました。

……接続障害のせいでしょうかね。と、言い訳しておきます。

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