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第18羽   鳥、は付与る

 


「ありがとうございました」

「ましたー」


 女性と幼女からのお礼を背に受けつつ店から出た俺。その足元からはペタペタという足音はもう聞こえない。

 はい、靴を買いました。


 ムスターのオッサンから高品質な布を販売している店の場所を教えてもらった俺は、まず靴を買うことにして『服ならここだよ』の隣、『靴ならここだよ』に入店。中には一人の女性店員さんとその子供と思われる幼女が一人居た。もう店名から予想はしていたが、その二人はムスターさんの家族だったのである。

 夫婦で店を出そうとした時、この隣り合った店舗がセットだと割引になるとのことで購入したんだと。

 店名は幼女――名前はリンちゃん――が決めたらしい。天使の様な笑顔を所持する6歳だ。……オッサンでなくて良かった。


 俺が買った靴は黒茶色の革で作られたブーツである。つまり、靴が揃った事によって全身のコーディネイトが完了した俺は今、完璧な一般人へと進化を遂げた! ――と思ったのだが、なぜかまだ視線を集めている。

 ん~おかしいな? 一応さっきより視線は減ったがまだ確実に見られている。何だ? 服のセンスが悪いとでも思ってるのか?

 俺の服は、上からこげ茶色マント、茶色長袖シャツ、黒色ズボン、黒茶色ブーツ。

 左手を腰に、右手を顔面に当て、こう言うしかあるまい。


「ないわー……」


 うん、自己弁護の余地が無いほどにセンスが悪い。街道にでも寝転がれば地面と間違われて踏み付けられるだろう色合いである。

 ……まあ、この格好は仮の服装だし、依頼している服が出来上がれば大丈夫だろう。多少の視線は気にしないでいい。変態と思われているよりセンス悪いと思われている方がずっとマシだしな。


 ……いや、待てよ? 確か俺ってば、ギルドで頭うんぬん殺されるとか言われていたな。何がどうなってその思考に至るのか理解できないが、もしかしてこの頭が原因か?

 そう思ったので、試しにマントに付いているフードを被ってからその場を離れてみると…………あら不思議。誰も俺の事を注視しなくなってしまった。


 真っ先に揃えるべきは、靴や服ではなくてフードだったか……。

 どうやら俺の頭は誘蛾灯のような効果を発揮していたらしい。これから人の多い場所ではフードが必須だな。ムスターさんに『フード付き』って条件で注文しておいて良かった。

 ん~……やはりこのアホ毛が目立っていたのかね? カラフルな頭髪の人は大勢居るが、その中に頭頂部をぴょんぴょんさせている人物は居ないし……いやでも、これだけで殺されるとか言われるのは不自然な気が……まあいいか。あの刺すような視線の嵐も収まったことだし、さっさと布を買いに行こう。



 はい、という訳で、町の中央広場付近に建っている大きくて立派な店で白布を購入しました。

 高品質専門店だけあって、商品である布の肌触りはどれも良かったのだが、その分結構なお値段がしましたよ。中でも白い布は特に高価であり、100000マタもしたのである。おかげで手持ちが一瞬で半分になってしまった。まあ、明日からの浄化依頼でも稼げるだろうから気にしないでいいな。


 さて、材料は手に入ったので、次は加工だ。


 加工と言っても聖炎で炙るだけなのだが、さすがに町中でそれを行うほどのチャレンジ精神を持ち合わせてはいないので、町の外へと出るつもりだ。


 購入した白布はこのままだと持ち運びに不便なので、北門への道中にある雑貨店で大きい袋を購入してその中へとぶち込んだ。そのまま北門へと到着し、門番さんに店を紹介してくれたお礼を述べてから門をくぐり、防壁の外へと出る。砂利共による足裏への攻撃にダメージを負う事なく、街道沿いにしばらく歩いて周囲に反応が無くなってから【赫魔天血】を発動。街道から一気に離れ、付近にあった林へと侵入して身を隠した。


 よし。では加工を開始しますか。

 そこで重要となってくるのはこいつだ。



【魔道具作製・Ⅱ】:

魔道具の作製能力に補正が掛かる。

スキルレベルが高いほど、補正は強力になっていく。



 シーツにアイロンを掛けた時に手に入れてしまったスキルだ。

 ただ、このスキルを取得したから魔道具の作り方が何となく分かるようになった、という訳ではない。“補正が掛かる”との言葉通り、本人が作製に関する知識や技術に精通していなければ宝の持ち腐れであると思われる。要するに、0には何を掛けても0って事だな。

 しかし、聖炎でシーツを炙った事で実際に魔力を付与できてしまっているし、このスキルもその際に取得している。この事から、莫大な魔力でゴリ押ししても魔道具は作れるのだろうと思う。……邪道かも知れないがな。

 

 シーツを炙ったあの時は“永久的に汚れなければ良いのに”などと思いながら炙ったので、銀シーツさんが生まれてしまったのだろう。銀の布を作ろうなんて欠片も思ってなかったんだが、結果的に出来上がってしまったのだから仕方がない。

 なので、今度は銀布を作ることを明確にイメージしながら炙ってみようと思っている。聖炎は“術者のイメージに依存”するからな。

 銀の布と化したのは恐らく神聖属性を付与されてしまったせいだと考えているので、イメージは“神聖属性の永久付与”でいこうと思う。

 なぜ永久なのかというと、一時的な属性付与は【光魔法】や【炎熱魔法】、【神聖魔法】にも存在するからだ。効果時間は込めた魔力によって変わるんだが、その辺の石ころなどにも属性を纏わせる事が可能なのである。今回はそれでは困るので、永久をイメージするのだ。


 さて、そろそろ開始しようか。


 袋から白布を取り出して地面にそっと置き、“神聖属性の永久付与”を強くイメージしながら【聖炎】を発動させ、布全体を包み込ませる。


 そのまま十秒ほどが経過した時に『足りねぇぞ、もう少し炙れ』というあの時と同じ感覚が発生したのだが、そこでふと、【魔力圧縮】で魔力をより一層込めたらどうなるんだろう? などと思い付いてしまったので、早速それを実行する。


 ……おお、良い感じだ。魔力消費はかなり激しくなるが、短時間で付与が完成しそうな感じがするぞ。

 んー、でも念の為、前回と同様に一分は炙っておこうか。


 そう決めてから、凡そ一分後。


「……よし、完成だ」


 その言葉と共に聖炎を解除した俺は、ワクワクを胸に抱きつつブツの評定を開始する。――と、一瞬でワクワクがぶっ飛んだ。


 …………うん、この布、明らかに銀色ですね。明らかに銀光を放っていますね。元の白色は何処にいったのでしょうか? 白の要素を完全に排除して何がしたいのですか? それに、なぜそんなに魔力をギンギンに発していらっしゃるのでしょうか? 【魔力圧縮】のせいですか? あ、そうですか。


 調子に乗り過ぎてしまった事に気付いた俺は、頭を抱えずにはいられない。


「……またやっちまったか」


 そうだよな、魔力を圧縮したんだから、より強力な魔力を発してもおかしくないよな、っていうか当たり前だよな。


「……いや、それよりこの魔力はヤバいだろ、こんなの誤魔化せないぞ? どうするんだよおいこのバカヤロウ……」


 誰に向けたものでもない文句を漏らしていると、そこであることを思い付いた。


「いや待てよ? ……この魔力は俺が付与したんだよな? なら、制御できるか? ……試してみよう」


 銀布に触れて【魔力制御】を全力で使用する。

 おさまれおさまれ~、お前は出て来るんじゃねぇよ~、身の程を知れ~、大人しくしとけ~……あ、いけた。


「――おおっ、素晴らしい! 魔力を感じないぞ!」


 只の銀色の布と化したのだ。若干光っているが、さっきよりは遥かにマシである。

 さすがだ俺。いや~良かった良かった。これなら預けてるシーツの魔力反応も消せるな。

 さて、これで加工は終わりだ。ムスターさんの店に戻ろうか。



 という訳で『服ならここだよ』へと舞い戻り、フードを外しながら入店した。


「おお、クウヤさん。良いところに来てくれました」


 ぬ? 奥から現れたムスターさんが何だか困った顔をしているが…………取り敢えず、先にこれを渡してしまおうか。


「どうも、追加の布を持ってきましたよ」


 袋から銀の布を取り出してみせると、それを見たムスターさんがギョッと目を剥いた。


「――銀ッ!? ………………な、なんて物を……。ま、まあいいです。よくないけどまあいいです。この短時間でどうやって調達したのかは聞きません。……それよりもですね、ちょっと問題が発生していまして……」

「問題、ですか? 一体何が?」

「服のイメージが定まったので、クウヤさんから預かった布で仮縫いだけでも、と思ったんですけど…………なぜか縫い針が通らず、はさみも刃が立たなくてですね……」


 ……マジか。それってもしかして神聖属性のせいか?


「柔らく滑らかな布なのに、なぜか針が刺さらないんです。これでは裁縫どころか裁断もできません」

「えっと……その縫い針と鋏を見せて貰えますか?」

「ええ、これと同じ物です」


 ムスターさんがエプロンのポケットから取り出したそれを、俺はまじまじと観察する。

 ……やはりな、ただの針と鋏だ。なんの変哲も無い裁縫道具である。

 むぅ……こんな罠が待っていたとは……。


 神聖属性の布には、ただの針などは通らない。

 なら…………やっちまうか。


「この縫い針と鋏を一つずつ頂戴してもいいですか?」

「え、ええ、構いませんけど…………何か当てがあるのですか?」

「まあ、そんなところです。では今から少し行ってきますね」


 頂いた裁縫道具を手に退店した俺は、フードを被り直してから近くの路地へと入り、そのまま奥へと向かってしばらく歩いて行く。すると、街灯の光も届かないような暗がりへと到達したので、そこで足を止めた。


 よし、この辺だと人気はない。

 でも念の為【魔力感知】は切らさないようにしつつ、銀布を入れていた大袋へと針と鋏を握った右手を突っ込んでから袋の口を絞り、袋の内部で【聖炎】を発動させる。

 中から多少の銀光が透けてしまっているが、この場所なら大丈夫だろう。

 ……布の時もこうしておけば良かったな。そうすれば町の外まで歩く必要はなかったじゃないか。

 などと少し前の自分に呆れつつ、最初から【魔力圧縮】を全力で使用して神聖属性を付与していく。


 そして約一分後。【聖炎】を解除してから右手を引き抜き、針と鋏を確認してみる。


「……おお」


 元々銀色っぽかったが、今は何の汚れも無い銀の光沢を誇っている。そして、それらの裁縫道具からギンギンに発される魔力さん。

 仕上げに【魔力制御】で魔力反応を抑えて……よし、完成。


 俺は満足げに頷く。

 成功だ。


 俺の右手に乗せられている金属製の鋏と縫い針からは、控えめな、けれど美しい銀光が発せられている。


 うん、いいね。この針なら神聖属性の布も貫けるだろう。それにこの鋏だったらゴブリンぐらい斃せ…………ん? というか、これって神聖属性が付与されているんだから魔物に効果絶大なのでは? それに汚染魔石とか浄化できたりして? だってこれって神聖具みたいなも、の………………。


……あれ? またやっちゃった?






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