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第14羽   鳥、は早くお金が欲しい

 


 ジネットさんの後を追ってロビーの奥にある扉を潜り、魔物の解体場っぽい広間を通り過ぎてしばらく歩いて行くと、魔力を感じるゴツイ金属製の扉の前に到着した。ここが保管庫なんだろう。


「ここに先程の通行証を当ててください」


 ジネットさんが扉の中央部分に描かれた魔法陣っぽい模様を指している。

 言われた通りに俺がそうすると、扉からカチッって音がした。どうやら鍵が開いたみたいだな。

 扉を手前へと引き開けて保管庫へと入っていったジネットさんを追い、俺も裸足を踏み入れた。


 保管庫の内部はこの真っ白な一部屋のみ。部屋の大きさは学校の教室と同じぐらいなので、縦横8m、高さ3m、といった感じだな。扉、壁、床、天井の全てから、ほんの僅かではあるが魔力を感じる。汚染魔石を保管しているのだから、この魔力は神聖属性なのだろう。《袋》の部屋バージョンてところか。

 この部屋内にはギルドの職員さんっぽい人達が四人ほど居るのだが、そのうちの一人――40歳台と思われるオッサンだけは、なぜか制服を着ていない。


 保管庫の手前半分には作業机のような物が数個ほど設置されており、職員さん達がそこで何やら作業を行っている。部屋の奥側半分には天井まで届きそうな鉄製の棚が幾つも設置されており、見た感じ、高さが50cm×6に分割され、その殆どが汚染魔石を満載した白い木箱に占領されているようだ。というか、この部屋中の至る所に魔石を入れた箱が一杯に置かれている。棚に収まり切らないのだろう。


 ……想像していた以上に汚染魔石だらけだな、この部屋。

 俺がそんな感想を抱いていると、例のオッサンが作業の手を止めてこちらへと向き直り、警戒心を滲ませた低い声を発した。


「……おいジネット、そい……そちらの方は?」


 今俺のことそいつって言おうとしただろ。俺と目が合った瞬間に言い直したよこのオッサン。


「浄化依頼を受けた解放者の方ですよ、ギルマス」


 げっ、このオッサンがギルドマスターかよ。

 にしてはラフな格好だ。他の職員さん達はちゃんとギルドの物だと思われる制服を着ているのだが、このオッサンは上下ともに黒色のタンクトップとミリタリーズボンっぽい服を着用し、ゴツイ黒のブーツを履いている。


 ……黒が好きなんですね。それは、その頭に関係しているのでしょうか?

 俺が生暖かい視線をオッサンの頭部に突き刺していると、そのオッサンがジネットさんを睨み付け――


「おいこら、そこで区切んなっていつも言ってんだろうが。俺は『ギル・マスナック』だ」


 ――などと、こめかみをピクつかせながら衝撃の自己紹介を執り行った。


 何だよ違うのかよ。ややこしい名前しやがってこのオッサン。

 という俺の心を代弁するかの如く、制服に包まれた両肩を軽く竦めたジネットさんが呆れた声を放った。


「相変わらずややこしい名前をしやがってますね、ギルドマスターのギルマスさん」


 ……は? やっぱりギルドマスターなのか? ギルドマスターのギル・マスナック? ……やっぱりややこしい名前しやがってこのオッサン。ギルマスになる為に生まれてきたような名前じゃねーか。


「……今月の給料、三割減にされたいか……?」

「こちらの方はクウヤさんと言います、ギルドマスター」


 そう宣ったジネットさんの表情は清々しいほどの作り笑顔である。給料三割減はお断り願いたいようだな。

 オッサンはそんな彼女の態度に呆れの溜息を吐いてから、俺へと視線を向けた。


「ったく。……さて、初めましてクウヤ殿。俺は解放者ギルド・ボハテルカ支部のギルドマスターを務めている、ギル・マスナックだ」


 改めて自己紹介をしてきたギルマスのギルマスさん。

 ……ややこしいな。『ギルドマスターのギル・マスナックって名前のオッサン』を略してギッサンでいいか。素直にギルさんと呼ばない事に理由など無い。


 ギッサンはツルテカのマッチョマンである。――そう、彼の頭には黒が無いのだ。だから体には黒を纏っているのだろうと思われる。黒髪だったのか知らんけど。

 白い肌が剥き出しになっている肩と腕には幾つもの傷痕が確認できるので、相応の戦闘経験を持っている事が分かる。

 っと、観察はここまでにしようか、さっさと自己紹介を済ませよう。


「初めまして、クウヤと申します。今回は汚染魔石の浄化依頼を受けてここに来ました」

「それはちょうど良かった。全然人手が足りなくてな。浄化担当の職員は魔力枯渇気味でフラフラしてて、そろそろ危ないところだったんだ。ジネット、一応確認だが、ここに連れて来たってことは光属性持ちでいいんだな?」


 言われて見れば、ここに居る職員さん達は皆少しフラフラしているな。それに、保管庫へと侵入した変質者おれにもそれほどの反応を示していないので、精神的に余裕が無いのだろうと察せられる。

 人手が足りないという事は、普段はここまでの状態ではないという事かね? 汚染魔石が保管庫から溢れそうなくらい溜まってるし…………浄化作業が追い付いてないのだろうか?


 などと考察していると、ふふんっと笑ったジネットさんが楽しそうな声でギッサンに返答した。


「もちろんです。――ささっ、クウヤさん、光魔法のスキルレベルを教えてあげてください。……………………聴いて驚愕するといいです、このハゲ」


 おいこら、だから最後の呟きが丸聞こえなんですよ。というか表現がストレートに過ぎますよ。というか職員がギルマスにそんな態度取っていいのかよ。給料がどうなっても知らないぞ……。


「てめぇ…………まあいい。クウヤ殿、教えて貰っても構わないか? 光魔法のレベルによって浄化の振り分けをしたいからな」


 オッサンはその紫の瞳で一瞬だけジネットさんを睨み付けたが、すぐに俺へと向き直った。

 この反応から察するに、ジネットさんのこの態度はいつもの事なのか? っと、そんな事は心底どうでもいいな、放っておこう。


 さて、浄化の振り分けか。

 別に振り分けてもらわなくても問題は無いんだが、取り敢えず言われた通りに教えておこうか。


「【光魔法・Ⅶ】です」

「…………すまんな、もう一度頼む」


 耳をトントンと叩いていますが、それは耳に水が入った時の仕草ではなかったですか?

 大丈夫だ、貴方の聴覚は正常であると証明してみせましょう。


「俺の光魔法のレベルはⅦです」

「…………すまんな、カードを確認させてもらってもいいか?」

「はい、どうぞ」


 俺は既にステータスを表示させていたカードをギッサンに手渡す。そうくると思って準備していたのですよ。


 ふと横を見ると……ジネットさんがニヤニヤしていた。楽しそうですね。

 まあ、カードを見るなり固まったギッサンのマヌケ面は面白いと言えなくもないですし。でもですよ、先刻の貴女も同じ様な顔を晒していた事をお忘れなく。


「………………………………………………は? ……っ、ランクは!? ……は? 仮、登録……だとっ……?!」


 しばらく俺のステータスを凝視していたギッサンが、カードの裏面を確認して驚愕している。

 俺を高ランクの解放者だと思ったんだろうな。しかし解放者ランクを確認したらまさかの仮登録。意味不明だろう。


 ふと横を見ると……ジネットさんが腰に手を当ててドヤ顔をしていた。気持ち良さそうですね。貴女のステータスではないんですけどね。


「……クウヤ殿、あんたは、まさか…………いや、詮索は止めておこうか。この力で浄化を手伝ってくれるなら大歓迎だ」


 お、もっと色々と質問されるかと思っていたんだけど、あっさりしたもんだ。


「このステータスにその姿。いろいろと事情があるのだろうが……詳しくは訊かないでおく」


 おいオッサン、めっちゃ気になってるじゃねーか。

 でも、詮索しないって言うならその言葉に乗らせて貰いますよ。つつかれないに越した事はないんでね。

 それに……


「そうですか。それで、そろそろ浄化作業を始めても?」


 早くお金が欲しいんですよ。


「あ、ああ。……それではこちらの箱を頼む。クウヤ殿なら大丈夫だろう」


 ギッサンが自分の傍に置いてあった箱を示した。その中に満載されている汚染魔石のサイズは、平均して親指大ってところだな。

 確か、浄化した魔石のランクと数で報酬が決まるって書いてあったはずだ。


「そこにはどのくらいの数が入っているんですか?」

「ランクⅡの魔石が合計で500個以上だ」


 ぬ? スキルレベルで振り分けると言っていたので【光魔法・Ⅶ】ならば高ランクの魔石の浄化に回されると思っていたんだが……なぜに低ランク?

 俺は頭を傾けながら、その疑問を口にする。


「もっと高ランクの魔石の浄化をしなくても?」

「現在、この保管庫内にある魔石の八割以上がランクⅠとⅡだ。だから高ランクの魔石を浄化するよりも、数を減らす事を優先させているんだよ。先程言った振り分けってのは、ランクⅠかⅡのどちらにするかって意味だ」


 それを聞いて俺は頷く。

 成程、大量の魔力で高ランクを数個浄化するよりも、低ランクを数百個浄化させて保管庫内のスペースを確保したいのか。このままじゃ溢れ出しそうだもんな。 

 しかし、なぜここまで魔石が溜まっているんだ?


 う~ん、あまり首を突っ込むのもどうかと思うんだが…………訊いてみるか。






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