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第13羽   鳥、はスルーする

 


 さて、依頼を受注する為に受付へと並ぼうか。


 トリーノさんの受付は登録と質問専用っぽいので他にするしかないな。っていうか今の状態でトリーノさんの所に舞い戻る勇気は無いからちょうどいいです。


 待ち時間は短い方がいいので、順番待ちの人数が一番少ない所に並ぶ。トリーノさんの二つ隣の受付だ。

 俺が並んだ瞬間にここの受付嬢さんが一瞬慌てたような気がしたが……気のせいだな、うん。

 ……あ、トリーノさんがコッチ見てる。と思ったら視線が合った瞬間に光の速度で外された。……気のせいだな、うん。


 そのまま列は進んで行き、俺の番になった。

 誰も俺の後ろに並ばなかったので、受付嬢さんと一対一タイマンの状況である。

 そう認識した瞬間、「ファイト!」という誰かの声と共にゴングの甲高い音が聞こえた気がしたが、当然の如く気のせいだったので、普通に彼女へと視線を向ける。


 ……ふむ、タイプは違うが、この女性もトリーノさんに負けず劣らずの美人さんだ。年齢も身長もトリーノさんと同じぐらいだと思う。

 菜の花の様な明るい黄色に染まったセミロングの髪には、緩くパーマが掛かっていてフワフワと柔らかそうだ。一輪の白い造花をあしらった赤色のカチューシャがまた良く似合っている。

 二重瞼はパッチリと、睫毛もパッチリと、口はV字を描き、綺麗な白い肌に浮かぶ二つのえくぼ、といった可愛らしい顔立ちの美人さんだ。そして、そんな快活な雰囲気とは一転して神秘的な印象を与えてくる紫の瞳がまた魅力的である。


 そんな彼女が目力を強め、真っ直ぐに俺を見つめながら、


「こんにちは、初めまして。私の名前は、ジネット、と申しますっ。宜しく、どうか宜しくお願いしますっ」


 と、何処か陽気に感じられる声で、名前の部分をえらく強調してきた。最後のお願いしますも強い。


 これは……名前に触れて欲しいという意思表示なのか? …………いや待てよ? あの時は周囲が静かだったから、この位置なら先程のトリーノさんとのやり取りが聞こえていた可能性があるな。ということは、「もう私の名前教えたからこの話は終了でお願いしますっ。どうか私にあんなキモイ言葉を投げないでくださいお願いしますっ」ってことか?

 ……もんの凄い眼力だ、鼻息荒く睨まれている。これはそういうことだな、スルーが正解だろう。


「こんにちは、初めまして。俺はクウヤと申します。常時依頼の受注をお願いしたいのですが」

「…………」


 あれ? 時が止まったかの様に固まってしまった。貴女もお見合いを御所望で?

 ……聞き取れなかったのか? それとも俺の対応が間違っていた? ……いや、こんな不審者に対して自分の名前に触れて欲しいと思う女性が居るはずがない。多分聞き取れなかったんだろう。


「あの、常時依頼の受注をお願いします」

「……………………はぃ……かしこまりました。……こほんっ。常時依頼と言いますと、もしかして汚染魔石の浄化でしょうか?」

「はい、それです」


 良かった、反応してくれた。

 目付きも緩んだな……というよりも、何かアンニュイな感じ? ……まあいいか。


「お、おい。あの野郎……光属性持ちらしいぞ……!」

「マジかよ……」


 お前らさっきの二人組だろ、まだ居たのか。というか何をそんなに驚いて――って、そういえば光属性は珍しいってアーリィが言ってたな。浄化依頼は光属性が必須。つまり、俺が光魔法を使えるなんて思ってもみなかったってところか。

 その考えを肯定するようにジネットさんが話し掛けてきた。


「浄化依頼の受注条件は【光魔法】を使用できることです。なので、確認の為にカードへとステータスを表示させて頂けますか?」


 あ、そっか。こういう時にもカードは必要になるんだな、嘘は付けない訳だ。……偽装されてなければね。

 俺は内心でニヤリとしながらカードにステータスを表示させ、確認する。

 ……うん、既に偽装しているので特に隠す箇所も無いな、そのまんまでOKだろう。


 ステータスが表示されたカードをジネットさんに手渡した。


「はい、では確認させて頂きます。……クウヤさん……ですね。…………覚えました」


 おいこら、最後にボソっと呟いたのが聞こえたぞ。覚えてどうする気だ。というか俺さっき自己紹介しただろ。


「……凄い、なんて魔力量。…………年上か」


 おい。だから最後の呟きが聞こえてるぞ。あと俺は2歳だからこの場で一番の年下だぞ。というか早く光魔法の有無を確認しろよ。


「スキルは、光魔ほ、う…………………………………………………………へ?」


 紫の瞳を見開いたジネットさんがマヌケ面を晒している。

 へ? が出るまでたっぷりと十秒以上はフリーズしたな。かなり驚いたようだ。できればそのショックで俺の名前を忘れてくれ。

 というか…………えらい驚きっぷりだな。……ちょっと高く設定し過ぎたか?


 俺が内心で焦り始めていると、へ? のあともしばらく沈黙していたジネットさんが唐突に目をゴシゴシと擦り、再びカードを凝視し始めた。


「光魔法……Ⅶ? それに、炎熱魔法まで…………耐性も? ……へ? 上位属性が、こんなに……それに……魔喰に………………く耐性が……」


 あちゃー、めっちゃ混乱してるな、やっぱり設定が高過ぎたみたいだ。まあ、見せてしまったものは仕方がない。取り敢えず依頼が受注できればそれでいいんだし。


「ジネットさん、依頼の受注は可能ですか?」

「へ? ……あ、はい。…………あ……あの、これって……?」


 ギルドカードのスキルが表示されている部分を指差しながら困惑の表情を浮かべている。「これって……本当なんですか? 意味不明なんですけど?」って意味だろう。


「その表示に間違いはありませんよ、実際に浄化してみれば本当だと分かると思います。ですので依頼の受注をお願いします」


 とにかく受注して実演してしまえばこっちのもんだ。報酬を貰っておさらばさ。


「そ、そうですね……カードには確かに表示されていますし……分かりました」


 頷きながらそこで口を閉じたジネットさんが、カウンターの下からギルドカードより一回り小さいクレジットカードの様な物を取り出した。


「それではこちらの通行証をお持ちください。保管庫へと入る際に必要になります」


 成程ね、受付で受注する必要があるってのはこれの為か。

 そう納得しながら受け取った通行証を眺めていると、ジネットさんが「今から向かいますか?」と確認してきた。

 早くお金が欲しいのでね、もちろんです。


「はい」

「では私が案内しますね。クウヤさん、こちらヘ」


 フワフワの髪を揺らしながら立ち上がったジネットさんが『離席』と書かれた立札をカウンターに置いたあと、奥の扉へと歩いて行く。


 そこで、俺は気付いてしまった。

 静かな表情のまま目だけを必要以上に見開いたトリーノさんが、その水色の視線でジネットさんを追っているのである。

 瞬きしないと目が乾燥しますよ? とは言わない。

 貴女のカウンターに居る人が困惑、というか怯えていますよ? とは言わない。

 そんな表情でもお綺麗ですね? とも言わない。


 俺は何も見なかったことにしよう、スルーが正解だ。


 トリーノさんの隠された(?)一面になぜか戦々恐々としながら、俺はジネットさんの背を追った。






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