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第10羽   鳥、は眼球をアピールされる

 



 脳内会議の結果、門から町へ入る事に決定した。

 というのも、町中で何かあったときに門での通行記録が無ければ、不法侵入を疑われて厄介な事になりそうだ、と考えたからだ。要するに正面突破します。


 なので、俺は一端鳥に戻り、銀シーツ……白シーツを掴んで東門側から北門側へと移動、街道付近の木の陰へと降り立ち、再び人化する。体に布を巻き付けて一般人へと変態したあとは、【魔力感知】で周囲に反応が無いのを確認してから何食わぬ顔で街道へと合流。まばらに存在する砂利共によって足裏にダメージを喰らいつつ、ボハテルカへと向けて歩き出した。


 さて、なぜこんな面倒な事をして北門から入るのかというと、門で質問されたときの為だ。

 カルナスと同じならば、門では身分証の提示を求められるだろう。だが当然、俺はそんな物を持ってないので、色々と質問されると思われる。「何処から来たのか?」とかな。

 俺が答えられるのはカルナスからここまでの情報のみ。よって、北門から入る事にした訳だ。実際に北から来訪したので、他の門で受け答えするよりは信憑性が増すと思う。


 そんなことを考えている間に到着だ。


 俺の目に映る開け放たれた門扉は、こげ茶色の木材を鉄で補強して作られており、8m近い大きさである。その左右上部の壁面は、灰色の石を積み上げたあとで魔法により何か手を加えたのか、継ぎ目を確認する事が難しいほどに滑らかだ。門の上部に複数個設置されているゴツイ証明魔道具が、門前に列を成して並んでいる数人の人々を白光によって照らし出しており、その光の下でチェインメイルっぽい物と鉄製のヘルムを装着した二人の門番さんが、身分証の提示などを求めるなどして各々の仕事を遂行している。


 俺は魔改造されたシーツからシルクがこすれ合う様な優美な衣擦れ音を響かせ、また、相変わらず砂利によって足裏を突き上げられる痛みに耐えながらも、人々の最後尾に参加させて貰った。


 すると、俺の足音か、シーツが発するキレイな音が耳に届いたのだろう。前に並んでいる男性が後ろ――俺の方へと何気なく振り返ったかと思ったら、次の瞬間にはギョッと目を剥き、俺のことをしばらくガン見。その後、若干震えている手で男性の前方に並んでいる人の肩を叩き、肩を叩かれて振り返った人は、その視線の先に居る俺を見つけ、ギョッと目を剥き、ガン見。そして…………のループが巻き起こった。


 ……無言で何やってんだよお前ら。……まぁ、変な格好だってのは自覚しているよ。荷物は無いし、それに裸足だからな。「な、何だこの変質者!? その格好で旅して来たのか?!」って思ってるんだろうな。甘いよあんた達、俺は全裸で旅してきたんだよ。


 ――という自慢にもならない俺の心の声が聞こえた訳ではないだろうが、しばらくすると全員が前を向き、一切振り返らなくなった。ちょっと震えている彼等の背中が、こんな危ないヤツに関わってはいけないっ! という内心を表している様に見えるのは、俺の気のせいであろう。

 そのまま誰が話し掛けて来るでもなく、一人、一人と列は消化されていき、ついに俺の順番がやってきた。


「…………」

「…………」


 ――のだが、二人の門番さんは俺を見て固まったまま動かない。胸元を板金で補強したチェインメイルもピクリとも揺れはせず、金属音を発する事もない。彼等は俺の順番が近付くごとにヘルムから覗くその表情を険しくさせていっていたのだが、ついには口を真一文字に結び、汗を浮かべながら動かなくなってしまったのである。


 ……どうしろと? ……まぁ、このまま睨めっこしてても仕方ないな。

 そう判断した俺は、こちらから二人へと声を掛けることにする。


「あの、どうすれば?」

「っ、……し、失礼しましたっ。身分証の提示をお願いします」


 俺の呼び掛けで片方の門番さんが正気に戻ってくれた。そして、予想通り身分証の提示を求めて来たのだが、当然そんな物は無い。

 なので、予定通り、俺は申し訳なさそうな表情を作り……


「すいません、実はここに来るまでの間に魔物の群れに襲われまして。撃退はできたのですが、その際に身分証はおろか、靴やら金銭やら荷物やら、全て奪われてしまったんです」


 奥義・[魔物のせいです]を発動させた。

 本当に魔物がやったかどうかなんて確認する術はないからな。それにビートルゴブリンみたいな魔物が存在するんだ、荷物が奪われたって不思議じゃない……と思う。少々苦しい気もするが、これで口頭での質問や確認に移るだろう。

 と想定していたのだが、俺の言葉を聞いた門番さんは眉をしかめ、何を言ってるんだこいつ? と思ってるんだろう内心を顔に表した。


「え? ………………あっ。そ、それは災難で。み、身分証も金銭も紛失となりますと、限定証書を発行する事になります。……し、しかし、限定証書は本日限りの物となりますので、ご注意ください」


 おいおい門番さん、緊張し過ぎではありませんか? と言うか、何処から来たのかとか質問しないのか? 自分で言うのもあれだけど、俺って物凄い不審人物だと思うんですけど? 日本だと職務質問待った無し、「任意? 何それ美味しいの?」状態だと思うんですけど?


 そう疑問を感じていると、緊張を浮かべたままの門番さんが、門の横――防壁の内部に続いているであろう扉を手で示し、硬い声で続けた。


「そ、それで宜しければ、こちらの詰め所でステータスを確認後、それの写しを限定証書とさせて頂くことになりますっ」


 それを聞いて納得する。この世界ではステータスが表示できるのだから、一々口頭で確認しなくてもそれを見てしまえば一発で身分証明になるのか、と。…………偽造されてなければな。

 俺は頬がニヤつきそうになるのを抑えながら首肯する。


「それでお願いします」

「は、はいっ。そ、それでは此方へ」


 キビキビ、というか、ガチガチに緊張しているのが丸分かりの動きで詰め所内部へと俺を案内してくれる門番さん。門番が居なくなってはいけないので、もう一人は残るようだ。でもあの人……物凄い汗を掻いてるんですけど、大丈夫? ヘルムに覆われていない部分の顔――額と頬以外――が照明に照らされて、星の海の様に輝いているんですけど? もはや顔面が光そのものなんですけど? ……まあいいか。


 取調室の様な詰め所の中に入り、一つの机を挟んで座った俺達。

 すると、門番さんが近くの棚から何かを取り出して机の上に置き、未だ硬い表情で口を開いた。


「で、では、こちらの両方に、ステータスを表示させて頂けますか?」


 そう言って俺の前へと机の上を滑らせたのは、手の平サイズの白っぽい二枚の《板》。

 ふむ、片方は控えで取っておくのかね?

 と思いつつ、俺は言われた通り二枚の《板》に触れて、ステータスを表示させた。


/***************************/


 名前:クウヤ

 性別:♂

 種族:ヒューノ

 年齢:20

 状態:通常


 生命力: 4980/4980

 魔力量: 6630/9480


/***************************/


 ――ふふふ、バッチリだ。

 表示されたそれを見て、心の中であくどい笑みを浮かべる俺。例の如く、【神の悪戯】で改竄・偽装した結果である。


 人間の姿なのに鳥のままのステータスではいろいろと不具合が出て来ると思ったので、ここに来るまでの間に人化した時のステータスを考えておいたのだよ。


 名前をノインのままで行くか迷ったのだが、人化しているときは別にすることにした。

 ノインというのは、アーリィが鳥の俺に付けてくれた大切な名前だ。それを人間の時に名乗るのは何か違うと思ったので、別の名前を考えたんだ。それに、ノインって名前は何か特別な意味があるらしいからな、名前で騒ぎを起こしたくはない。

 因みに、このネーミングの由来はこうだ。


 鳥はノインなのでダメ→鳥は空を飛ぶ→空っぽい名前→俺は空が好き→俺は空そのもの→空である→空也そらなり→クウヤ。


 で、クウヤに決定。とまあ適当に決めたんだが、なぜだか結構馴染むんだよなこの名前。思い出せないが、前世でもクウヤだったのかも知れない……なんてな。


 種族はヒューノでいい。

 この世界では、ケモミミではない人間=ヒューノらしいからな。多分。


 年齢なんだが、いろんな意味でサバを読むことにした。

 正直に鳥年齢――2歳――を表示する訳にもいかないので、人間時の見た目に合わせることにしたのだ。まあ当然だな。

 前世での年齢が25歳だったのは確実なのだが、なぜか5歳ほど若く見られる事が多かったので、その分だけ若く表示する事にしたのである。海外に行ったときなんかは高校生に間違われた事もあったぐらいだ。


 生命力と魔力量はジークを参考にした。

 人間状態でも戦闘する事はあるかも知れないから、その時に盛大にやらかしたとしても大丈夫な数値にしておこうと考えたのである。「あのステータスでこれはおかしい」ってなるよりは、「あのステータスなら仕方ないな」ってなるほうが面倒が少なくなると考えたのだ。ジークの実力はアガタ王国で上位三本の指に入るらしいから、俺もこのくらいにしておけば多少やらかしても大丈夫だろう。

 生命力が実際の数値の約250倍なのは仕方ないんだ。だって、虫並の生命力を誇る人間なんて明らかにおかしいからな。

 因みに、俺は5000円よりも4980円って表記がなんか好きなんだよね。


 などと偽装内容の経緯を思い返しながら、両方の《板》に同じ内容が表示されているのを確認できたので、門番さんに《板》を返す。


「はい、表示させました」

「で、では確認させて頂きます。はい、確かに二枚と……も………………」


 お、《板》に表示された内容を確認した瞬間に、ギョッと目を剥いて固まった。……ふむ、ボハテルカでは目を剥くのが流行りなのだろうか? 門に並んで以降、出会った人達のほぼ全てが眼球をアピールしてくるのですが?

 とまあ、冗談はいいとして…………あれ? そんなにヤバい箇所はなかったと思うんだが……。


 数秒後、正気に戻った門番さんが顔面に汗を量産しながら遠慮がちに尋ねてきた。


「……し、失礼しました。……あの、クウヤ……殿? もしかして、何処かの騎士団の団長か何かを……? それとも、高ランクの解放者、なのでしょうか……?」


 お、前半の推測はある意味惜しいぞ門番さん。後半は違うけどな、俺は高ランクの鳥です。とは言えないので、


「俺はそのどちらでもないですよ。単身で修行していたら、気付けばそのステータスになっていたんです」


 奥義・[ぼっちで修行]を発動させた。

 本人以外は真偽を確かめられない必殺の誤魔化し技だ。

 と言うか、旅に出る前は実際にぼっちで修行っぽい事してたしな。


「そ、そうなのでしたか……御一人でここまで……。で、ではこちらのステータスを控えさせて頂きますので、少々お待ちください」


 俺の奥義を耳にした門番さんは、一瞬だけその顔に憐憫っぽい感情を浮かべたあと、一枚の紙を取り出してせっせとステータスを書き写し始めた。

 それをじっと見つめる俺。憐れみの表情が気になったが、それ以上に門番さんが使っている茶色っぽい羽根ペンに目を引かれてしまうのである。

 羽根ペンって……何かいいよね。……あ、俺も自分の羽根を毟ればペンを作りたい放題なのでは? 

 

 俺が自分の体に秘められた文房具の可能性を見出している間に、門番さんはステータスの書き写しを終えたらしい。写し取った用紙に判子のような物を押し、その紙と片方の《板》を差し出してきた。


「……はい、お待たせ致しました。こちらの用紙と《板》が限定証書となります」


 用紙にはステータス以外に何か書いてあるな。

 少し目を通してみる。


 ……成程、今回の状況を書いていたのか。俺の容姿、なぜ身分証が無いのか、などが書き込まれている。


「それらの限定証書を持って役所、もしくはギルドへと向かわれれば、身分証を発行することができます。身分証の発行を終えられましたなら、そちらの《板》はこの詰め所までの返却を……お、お願いします」


 ほうほう、成程。役所かギルドね。


「この町の役所やギルドは何処にあるのですか?」

「町の中央広場に役所が。ギルドは南広場にあります。どちらも、ここから南へと延びている大通りを真っ直ぐに行けば到着します」


 中央広場と南広場ね。覚え易くて結構。


「ありがとうございます。それでは早速行ってこようと思います。お手数をお掛けして申し訳ありませんでした」

「い、いえいえっ、これが仕事ですのでお気になさらないでくださいっ。そ、それではお気を付けて」


 そこで一端口を閉じた門番さんだが、次の瞬間、何かに気付いた様にハッとしてから慌てて立ち上がり、詰め所内部から町中へ繋がっているだろうと思われる扉を開け、仕事を遣り切ったぞ、といった風の表情を浮かべ、言った。


「――ようこそ、ボハテルカへ」


 その歓迎の言葉を受け取った俺は自然と笑顔になり、礼を示す為に軽く会釈をしつつ、ボハテルカへと裸足を踏み入れた。





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