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第 5羽   鳥、が興味を示す

  



 空の旅を再開した俺です。 


 蛾共に気を取られたせいで、どこまで話を整理したか忘れてしまったな。

 えーと確か、邪結晶から出てきたアイテムは指輪っぽいやつで、王都の聖炎は後で見に行こう、ってところまでだったか。


 じゃあ次は、俺の遺品についてだな。

 俺が身に付けていたアクセサリーは全てアーリィが引き取っているようだ。

 【超回復】っぽい効果を持った髪飾りは、アーリィとエリスさんが必要に応じて身に着けているらしい。つまり、魔法撃ち放題の怪我しても治りたい放題だということである。

 エリスさんの手紙にはアーリィがやりたい放題していると書かれていたみたいだが、もしかしてこれが関係してるんじゃないよな? ……まあ、それは本人に会って確かめようか。


 んで次、俺の足環だ。

 あれは自動調節機能が付いていて実際は腕輪なのだが、俺が勝手に足環って呼んでいるだけだ。

 あれには俺が集めた浄化魔石がゴロゴロ入っている。少なくとも1000個はある。それ以上は数えていないので知らん。そして、その収納されている魔石の殆どが闇黒地帯で活動している魔物達の物なので…………うん。あいつらはビシャスオーガ程度なら瞬殺するような奴等ばっかりだからな。ゴブリンですらビシャスオーガとタイマンを張れるだろう、というレベルだ。それに、デカい図体を誇る魔物も多く、そいつらから得られる魔石はその体躯に比例するように大きいので、あの足環に入っている魔石は実に豊富なサイズが揃っている。小さい物で親指の爪サイズ、大きい物でヒトの頭サイズ、といったところだ。中にはバランスボールサイズの物もあったな。

 ただ、体が大きい魔物ほど所持する魔石も大きくなるようなのだが、大きいからランクが高い、と言う訳でもないらしい。でなければ不死鳥(俺)の魔石は低ランクという事になるからな。

 と、話がズレた。

 でだ、あの足環から魔石を取り出す時にはちょっとしたコツがいるんだが、当然アーリィ達はそのことを知らない。おかげで、その腕輪の機能に気付いた時には、アーリィの部屋が高ランクの魔石フィーバー状態となり、アーリィとエリスさんの二人が埋もれてしまったらしい。多分、全開放モードにしてしまったんだろう。騒ぎの音を聞いたジークが駆け付けた時には、魔石の山から頭と片足だけを突き出した体勢のエリスさんが、何処か遠い目をしつつ、静かに、無機質な声で「忘れませんよ」と呟いていたそうだ。忘れずにどうするつもりなのでしょうか。できれば忘れて欲しいところです、ごめんなさい。

 因みに、アーリィは完全に埋もれてたそうです。

 突如として部屋の一角を占拠した魔石さん達は、そのどれもがあまりにも希少性の高い物ばかりだったようで、ザジムさんが胃を痛めたとかなんとか。ごめんなさい。

 結局、魔石は全部腕輪に収納し直して、その後はアーリィが身に着けているとのこと。


 最後は俺の羽根だ。

 なぜかは分からないが、一本だけ俺の羽根が残ったらしい。

 それただの抜け毛なのでは? って思ったが、それ以外の俺の身体は全て灰の様な粒子と化したそうだから、何か意味があると考えるべきだろうか。まあ、その光景を最後まで見ていたのはエリスさんだけらしいので、その時の詳細を彼女に尋ねてみれば何か分かるかも知れないな。

 聖炎は不死鳥のみが使用することを許された伝説の炎である、という風に伝わっているらしく、よって、その銀炎を発動させて守護者を滅した俺は、本当は不死鳥だったのかも知れない、と推測したことで「じゃあこの羽根は不死鳥の羽根ってことですか!?」という感じで騒ぎが起こったらしいのだが、ベルライトで不死鳥の情報を調べる時に役立つかもということでアーリィが持って行ったらしい。元々、誰にも渡す気はなかったそうだが。


 つまり、俺の遺品は全部アーリィ様が所持していらっしゃるということだ。

 要するにアーリィは、【超回復】の髪飾り、高ランクの浄化魔石を大量に収納した腕輪、そして不死鳥の羽根を所持していることになる。


 ……心の底から心配である。

 生死的な意味ではなく、トラブル的な意味で心配である。

 エリスさん、頑張ってくれ……。


 でもまあ、その髪飾りがあれば命についてはまず大丈夫だろうからな、それだけは安心できる。


 しかし、邪結晶から出てくるアイテムは凄い効果を持ったものばかりだな。

 そう考えると、王都に運ばれた指輪とやらも何か凄い効果があるのかも知れないが、それを確かめる為に盗み出す、なんて訳にもいかない。そもそも浄化したのは討伐隊なのだから、俺の物でもないしな。指輪のことは諦めよう。


 さて、整理はこの辺でいいだろう。

 考え事も終わったし、少し速度を上げるか。



 ~~



 あれからすぐに呪雲の影響下となり、さらにそれから数時間ほどは飛んだだろう。気分に任せて飛んでいるので速度は分からないが、結構な距離を進んだはずである。

 道中、反応があった魔物達は、周囲に人の姿が無いのを確認してから滅殺しておいた。魔石も浄化済みで放置している。足環が無いので仕方ない。


 しかし今更だが、あれだな、空を飛ぶってのは反則だな。魔物を殲滅していて改めてそう思った。

 遠距離攻撃の手段を持たない相手なら一方的にボコれるし、相手は視線を上げる必要があるので、足元の凹凸から意識が逸れ易く、移動に影響を受ける。しかもその体勢だとすぐに疲労するしな。上を向き続けるってのは、案外疲れるもんなんだよ。


 そして、空を飛ぶ者同士での戦闘では俺の【天空】に勝るスキルはないだろう。

 簡単に上空を取れる。そのまま魔法を雨の様に撃ち降ろすだけでOKだ。今の俺は[火矢]程度の魔法ならば、秒間百発単位で発動できるので、まさに炎雨である。……まあ、そのおかげで一部地上が焼け野原になってしまったんだが、鳥さんはそんな細かい事は気にしない。


 といった風に、意気揚々と蹂躙行為を繰り返しながらの旅路を満喫している。少しテンションが高いとは思うが、それは仕方ない。アーリィとエリスさんが生きていたと聞いてから、嬉しくってしょうがないのだ。小躍りしたい気分なのだ。体の奥底からこう……ん~~~~~っ! って感じなのだ。修学旅行を前日に控えた学生の如くなのだ。カルナスへ向かっていた時とは大違いの高揚感、もう何も怖くないって感じなのだ。


 と、そんな事を考えていたら、何かが見えてきた。


 進行方向、右斜め前方に……山? ……にしてはクソデカい気がするけど……。

 よし、街道から外れることになるが、なぜだか異様に気を引かれるので、少し近付いてみよう。





 あれから数分後。

 俺は滞空しつつ、あの山っぽいものを見上げている。


「……デカいな」


 山頂が呪雲まで到達しているのだ。ひょっとすれば、突き抜けているかも知れない。

 この世界で呪雲以上の標高を有するものは、俺の家の山ぐらいしか見た事がない。あそこ以外では呪雲の上へと出ても、空と雲しか見えなかったのだ。

 ……これは興味をそそられるな。

 この山は高いだけではなく、幅(?)も広い。幾つもの山が繋がった様に壁を形成しているのである。山脈と称して良いのか怪しいぐらいであり、まるで一個の巨大な岩の様にも見えてくるほどだ。

 山肌には植物に類する物を一切見受けられず、その全てを土と岩の色で染めている。それに、傾斜が凄まじく、大部分がまるで崖のように垂直となっており、また、飛行型の魔物が飛んでいる姿を幾つも確認できる為、これはどう考えても登山には向いてない。


 まあ、俺は飛べるので何の問題もないけれど。


「……山頂がどうなっているのか、確かめてみようか」


 好奇心に導かれるまま、いつもと同じ様に蒼炎で身体を覆い、上昇。そのまま呪雲へと突貫する。


 ――よし、抜けた。もう慣れたものだ。

 見下ろすにはある程度の高さが必要。よって、そのまま少しだけ上昇してから滞空状態へと移行した。

 さて、山はどうなっているのか。

 珍しい物見たさからか、焦らす様にゆっくりと視線を下げた俺の目に映ったものは……円と雲。


 山頂は呪雲を50mほど突き抜けており、それらが連なって巨大な輪を形成していた。それも半端な大きさじゃない。円の直径は……何kmあるんだ? 少し予想が付かない。かなり先まで円弧を描く山嶺が続いている。


 もう少し高度を上げるか。

 そう決めて、円の全容が見渡せるように上空へと昇って行き、【天空】が無ければここまで来られないんだろうな、という高度まで到達した。多分、成層圏には入っているだろう、という印象を受けるぐらいである。


 そうして、美しい蒼に浸りながら、改めて下方を確認した俺の口からはしかし、吐き捨てる様な声が漏れた。


「……酷い光景だ」


 どこまでも呪雲に覆われている。この高度まで飛んで来られたというのに、感動もクソもない。……胸糞の悪い景色だ。反吐が出るとはこの事だろう。

 なので、北方に見える雲の無い空が、まるでオアシスの様に思えてくる。邪結晶を浄化した事で、カルナスと王都アガタナを外周とした円の内側が晴れたとジークが言っていたので、あの空の下の何処かに王都が存在するのだろう。

 などとジークの言葉を思い出して、現実逃避したくなるほどには酷い景色だ。


 そんな呪雲だらけの中で、先の山頂により描かれた輪の全容が確認できた。

 呪雲のキャンパスに描かれた岩の円。その円の内側と外側には、もちろんたっぷりと呪雲が満たされている。

 ……大きいな、下手したら直径10km近くあるんじゃないか?

 山脈で輪を描き、まるでその内側と外側とを隔てている様に感じられる。あれでは、輪の内側に敷き詰められている呪雲の下に何かあると言っているようなものだ。

 明らかに怪しい。……恐らく居るだろう、邪結晶とその守護者が。


 ……調べてみるか。


 好奇から警戒へと意識を切り替え、あの円の中心部分へと向かい滑空しながら降下。目標点へと到達した後は、呪雲ギリギリまで高度を下げ、【魔力感知】を最大展開する。


 ……ここからじゃ遠過ぎるか。感知範囲の端ギリギリに、微かにそれらしい反応があるが、これではよく分からない。


 なら、突入するしかないよな。

 新たなスキルも得たし、魔力もほぼ全快。しかも、一年前の倍近い魔力量だ。

 だがそれでも油断はしない。相手があの闇槍と同じ魔法、恐らくは【闇黒魔法】を使用することを前提に対応する。

 聖炎を突き抜けるほどの威力、もしくは性質だ。全力の聖炎でも防ぎ切れるかどうかは分からないが、ならば、当たらなければいいだけのこと。回避が可能であることは実証されている。


 【天空】【赫魔天血】【身体強化・Ⅲ】へと全力で魔力を注ぎ、他のスキルも発動できるものは常時発動させる。


 全身を蒼炎で覆い……


 ――いざ、突貫!






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