表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/78

第 4羽   鳥、が光を乱射する

 



 あれから少しだけシスコンジークと言葉を交わし、カルナスを出発した。

 今はカルナスの南門からそのまま南へと延びる街道に沿って上空を飛んでいる。この道を辿って行けば直にザーファロン王国へと到着できるだろう。


 ふむ……朝日が綺麗だ。実に気分が良い。

 二人が生きていると知れたことも関係しているだろう、いつも以上に陽光が輝いて見える。

 それに、全身にほど良く掛かる心地の良い空圧と、両翼が発する鋭い風切り音とが脳を刺激して、脈動を加速させてくれる。

 うむ、素晴らしい高揚感だ。思わず錐揉み回転飛行からの急速上昇、失速、超速スピン降下からの三回転宙返り、ナイフエッジサークルからのバレルロール、などのアクロバット飛行を披露してしまうほどである。体の疼きを抑えられん。嗚呼、叫びたい。魔法で花火を打ち上げたい。


 しかし、今の時間帯だと明るくなってきているので、この地上50mほどの高度ではしゃいでいると人に見つかる可能性が極めて高い。と言っても、別に見つかっても問題は無い。俺が正体を隠していたせいでアーリィとエリスさんを死の危険に晒してしまったからな、もう自重する気は一切ないのである。それに、二人にはもう俺が不死鳥だとバレているようだしな。……ジークもだな。

 ただ、だからと言って自分から目立ちたい訳でもない。せめて二人と合流するまでは穏便に行こうかと思っています。

 よって、一応雲付近まで高度を上げる。


 ……ふぅ、少し落ち着いた。

 さて、このまま飛びつつ、ジークから聞いた話を少し整理しようか。情報が一気に入ってきたので頭が少々混乱気味だからな。



 アーリィとエリスさんは俺の持っていた髪飾りの効果で助かったらしい。

 なんでも身に付けるだけで、生命力や魔力、怪我やなんやと治ってしまうんだと。

 ただ、その効果は二人にしか発揮されないらしく、ジークやザジムさんが髪飾りを手にしても何の効果もなかったようだ。

 なぜそうなのかは分からない。

 効果だけで考えるならば、まるで【超回復】の様だと思ったのだが……それだと少しおかしいのである。

 髪飾りは[治癒]やポーションすら効果が無かった傷を治癒させた、これはほぼ間違いないようだ。しかし、それならなぜ俺が髪飾りを付けていた時にその効果が発揮されなかったのか? 俺が闇槍を受けて魔石が損壊するほどの怪我を負ったのは間違いない。しかし、その傷が回復することは無かったのである。

 髪飾りが魔石の損壊を回復してくれていれば俺は死なずに…………ん?


「……魔石を、損壊? ……もしかして……そうなのか?」


 【超回復】は核が損壊しない限り効果を発揮する。

 髪飾りが【超回復】の効果を持つのなら、発動条件は同じ? だから魔石を損壊された俺に効果がなかった、ということなのか? それならば一応の説明は付く気がするんだが……。

 そう言えば、ヒューノに魔石はあるのだろうか? あるとすれば何処に?

 ……いや、それはないか。魔石を保有しているのなら呪雲によって汚染されるはずだからな。

 だとするならば、なぜ二人には髪飾りの効果が発揮されたんだ?

 うーん……こればかりは二人に話を聞くしかないか。あの時は死に掛けていたせいで二人の様子をあまり見れていなかったからな。何か特別な事でもあったのかも知れない。


 さて、次だ。

 邪結晶の浄化には予想通りあの神聖具を使ったようだ。

 しかし、浄化し切るまで十日もの日数が掛かったらしい。聖炎なら数分なんだが……内緒でいいな。

 そして、呪雲が晴れたことでカルナスは毎日がお祭り騒ぎだったようなのだが、今は本当にお祭りの最中なんだと。昨日の『不死鳥の日』から十日間に渡って『晴天記念祭』なるものが開かれていると言っていた。つまり、一年前の守護者が斃されてから邪結晶が浄化されるまでの十日間を記念とした祭りのようだ。

 

 俺が目覚めたのは昨日。つまり、今回も俺は『不死鳥の日』に目を覚ましたということになる。

 やはり、【転生】での復活は『不死鳥の日』に行われるようだな。

 …………いや、転生にはちょうど一年掛かるという可能性がまだ残っているか。

 ただ、それを試す訳にはいかない。アーリィとエリスさんをさらに一年も待たせる訳にはいかないからな。

 因みに、『不死鳥の日』の十日ほど前から、我慢という言葉を忘却した民衆によって前夜祭が強行されているらしい。「それ前夜じゃねえよ」という俺の突っ込みは、「ははは、そうだね」との腹立たしい微笑で躱された。殴りたい、あの笑顔。



 邪結晶を浄化したのは討伐隊の皆である。よって、メンバー全員が英雄として扱われるようになったんだと。その中でも指揮官クラスだった六人は石像まで建てられることになったようだ。ジークもその六人に含まれているらしい。

 邪結晶が鎮座していた場所には記念公園を造るらしく、そこに石碑やら石像やらを設置する予定なんだとさ。人々が集まって色々と作業していたのはこれの為だったようだ。荒れに荒れた地面の整地に一年近く掛かったので、これからやっと本格的な建設が開始されるんだと。荒らしまくってすいません。

 二人と合流したら完成した公園の像を見物にでも訪れて、三人でジークシスコンを揶揄うのも一興だろう。


 それで案の定、邪結晶を浄化したらアイテムが出てきたらしい。ジーク達は初めてのことなので訳が分からなかったそうだが、そのアイテムは穢れが酷かったらしく、取り敢えず《袋》に入れて王都まで運び、聖炎で浄化を試しているんだと。

 因みに、出てきたのは指輪のような物だったそうだ。


 王都の聖炎。非常に気にはなるが、鳥の俺が王都へと物理的に突っ込める訳もなく。それに、聖炎を警備していないとは思えないからな。これもアーリィとエリスさんと合流した後に皆で見学にでも赴けばいいだろう。保護者が居れば俺でも大丈夫だと思う。[光学迷彩]を長時間使えるほどの魔力があれば、単独で王都に忍び込むこともできただろうけどな。


 ……あ、そう言えば光魔法で鏡っぽいものを出せば俺の姿を確認できるのでは? 何か成長したっぽいからな、自分の姿を見てみたいと思っていたんだよ。光魔法なら鏡を出す魔法ぐらいあるだろう。

 そう思い、脳内を検索してみる。

 ………………ありました。何となく使い方が分かるんだよな、スキルって不思議だ。

 試してみたいので、停止して滞空状態に移行する。


 ではでは早速、[鏡]発動――


 ……おお、丸い形をした鏡が目の前に出現した。直径は……お、自分で調節可能みたいだ。なら俺の全身を映せるぐらいに拡大してっと……よし。


 鏡に映った俺の姿をじっと観察する。


「…………おいおい、これはダメだろう。……鳥さん雑誌で特集が組まれるほどのイケメンじゃないか。表紙は確実」


 鏡の俺を見ながら鷹揚に頷く俺。頷く姿もイケている。


 外見を簡単に説明すれば、鷹の色違いだ。

 その羽色はご存知の通り、銀と紅。瞳は蒼色だ。以前よりも目付きはしっかりして、可愛いよりも格好いいって感じになっている。まあ、見る者の愛着心を誘うつぶらな瞳は健在だがな。魅了の魔眼である。

 そして毛並みだが、極上の艶やかさとモフモフ感を兼ね備えており、自分で自分が怖くなるくらいの魅力を発している。思わず自分の胸毛に顔を埋めたいという衝動に駆られてしまうほどだ。尾羽も長く立派になっており、全体のバランスも素晴らしい。つまり、また一歩至高の鳥さんに近付いたという訳である。

 そしてここからが1歳の時とは大きく違うところ。

 額というか眉間というか、何かその辺からトサカっぽい、というか銀の長い毛がオールバックみたいに後方へと弓なりに伸びているのだ。ぴょんぴょんしている。長さは……後頭部と首の境目までってところかね。トサカは光の加減では蒼銀っぽい色に見えなくもない。このオールバックトサカが良いアクセントになっていて、ただひたすらに可愛かっただけの俺に凛とした格好良さを与えてくれている。つまり、最強である。

 ただ、少し注意が必要だ。このトサカ、見る角度によっては所謂アホ毛ってやつに見えなくもないのだ。

 ……こら、あまりぴょんぴょんするんじゃない。アンテナの様にも見えてくるじゃないか。ん? 羽ばたいているからぴょんぴょんするのは仕方ないって? それは済まない。

 

 うん、これはジークが一瞬戸惑ったのも無理はない。一年前の俺は愛くるしさ満点の容姿だったからな。

 愛を振り撒いていた鳩さんが、粋な雰囲気を撒き散らすオールバックの鷹さんに変化していたんだ。可愛いショタが極道にクラスチェンジした衝撃と同じだろう。……少々分かり辛い表現だったが、まあいい。


 さて、鏡はもういいかな。


 そう思い、魔法を解除してそろそろ出発しようとしたところで魔力感知に反応があった。

 反応は下方。そちらへと目を向ける。


「……合計で十二人か。旅人とその護衛かね?」


 街道上で二台の魔動車が縦列でゆっくりと動いており、それぞれの御者席に二人ずつの姿が、車内に四人ずつの反応が確認できる。御者席に座っている四人は銀色と赤色を組み合わせた鎧を着込んで武装しているようだが、魔動車内部の八つの反応の中にもそこそこの魔力反応を発している者が居るので、あの四人だけが戦闘要員って訳でもないんだろう。

 どうやら俺と同じく南へと向かっているようだな。晴れた空を見に来た帰りか、それともカルナスから出て行くのか。……まあどっちでもいいか。

 

 問題はアレだ。地上50mほどの高度を集団でワサワサ飛んでいる昆虫共。数は二十二。

 魔物。……いや、魔獣か?

 ここは呪雲が晴れているので、あのアンポンタン共と同じく汚染から解放されているとは思うが……。

 一応確認しておくか。

 どれどれ……


/***************************/


 名前:――

 性別:♂

 種族:ディリティモス

 年齢:3歳

 状態:通常


/***************************/


 ふむ、やはり汚染状態じゃなくてってるな。3歳ってことは呪雲が晴れる前から生存していた計算になるから、呪雲が無くなれば汚染は解除されるという考えは正しいようだ。


 しかしあれだ、魔獣って言葉には抵抗があるな。

 だってさ……あいつら、獣じゃなくて虫だと思うんですけど? 体長が1mくらいあるけど、蛾だろ? モスって名前だし。毒々しい赤紫の翅だし。

 なら魔獣と言うよりも魔虫? ……いや、それだとマムシになってしまって爬虫類に…………心底どうでもいいな。


 そしてやはり、あのアンポンタン共の時と同じく魔獣だから安全、という訳ではなさそうだ。

 あの蛾共、空から旅人達を集団で襲う気満々だわ。というか今襲い始めた。

 うーん、どうするかね。

 このまま無視するか? 虫だk……ゴホンッ。


 そうだな……試したい魔法があったところだし、新しい力の試し撃ちの的になってもらうか。

 この高度だから旅人達に姿を見られる心配はないだろう。それに、魔法を撃った後は傍にあるこの雲にササっと隠れてしまえばいいしな。この雲は普通の雲だから、一々全身を蒼炎で包む必要もない。


 さて、使ってみたい魔法とは、光魔法のレーザーである。名前は光線とかでいいだろ。

 光ならレーザーでしょ、という発想で確かめてみたら本当に存在したのである。カルナスに来る途中では空に向かって一発撃っただけなので、実践投入は今回が初めてだ。

 光線の特徴はその着弾速度。光速というほどではなかったが、偏差射撃を意識しないで済むくらいには速かった。至近距離であれば、発動と着弾のタイムラグは無いだろうと思われる。

 そして、そこはかとなく貫通能力も高そうだったので、弾道の延長線上に旅人さん達を巻き込まないように注意する。


 蛾共へと慎重に狙いを定め、光魔法の[光線]を発動。

 俺の胸元が光ったと同時、胸毛から一筋の光が目標へと直進し、一瞬で魔物の胴体に穴を開けた。胸毛から発射したことに意味はない。目からでもOKである。よって、残りの個体には身体中から[光線]を21連射して殲滅する。翼に並んだ羽の先端から一斉射すると何かカッコいい。


 ……おお、凄いな。一瞬で全滅だ。

 ピュンッて光ったと同時に蛾共の胴体に5cmほどの穴が開いて、虫けらの様に落下してゆく光景が×22。


 おっと、雲に隠れなければ。


 さっと雲の中へと突っ込み、体を隠した。

 ……多分、姿は見られてないはず。


 そう思いながらステータスを開き、今の[光線]について考える。

 いやー、凄まじい性能だな。……と言いたいが、この魔法、恐ろしく燃費が悪い。22本も発動したせいでもあるとは思うんだが、聖炎を軽く超える消費魔力だ。こんなもの撃つぐらいなら聖炎を使った方がマシだと思うほどにである。

 [光学迷彩]もそうだが、光魔法は魔力の消費が凄まじいな。……なぜだろうか? これでは神聖魔法なんて使ったら魔力の消費がどえらいことに…………。

 そう考えたところで気付いた、聖炎も神聖属性だということを。しかし、魔力消費量は光魔法の方が多い。

 雲の中で頭を捻る俺。

 ん~? どういうことだ? 消費魔力に関するスキルが何か…………あったな、忘れてたわ。


 スキル【消費魔力半減・炎熱】。


 聖炎は炎熱属性も含んでいる。だからこのスキルの消費魔力半減の効果を受けているんだろう。だが【光魔法】と【神聖魔法】は炎熱属性を含んでいない。つまり、素の状態での消費量だということだ。

 せっかく【神鳥】の効果であらゆる神聖魔法を使用可能になったんだが…………使い辛いな。それに【聖炎】は対象の炎熱耐性と神聖耐性を無効化し、さらに【属性強化・炎熱】の効果も乗るんだ。

 うむ、よほど特殊な状況でない限り光と神聖は使わないのが吉だな。無駄に魔力を消費してられないし。

 それに、神聖魔法は詠唱も必要になるみたいだからな。

 【神鳥】で取得したスキル、【魔導・光】だと、光魔法しか無詠唱で発動できないのだ。

 【魔導・○○】系のスキルは上位属性までしか存在しないのかね?

 まあ、神聖属性は最上位属性らしいからな。そんなものを無詠唱でポンポン撃ってたら頭おかしいか。

 …………聖炎は大丈夫だ、俺のアイデンティティーでもあるしな、うん。


 そしてだ、何やらスキルに【狙撃術】なるものが追加されている。今の遠距離射撃によるものだろう。どうやら本当に【神鳥】の効果でスキルを取得しやすくなっているようだ。



 さて、旅人さん達がこっちを指差して騒いでるのが雲の隙間から見えた気がするが、出発することにしよう。


 ……雲の上に出るか。


 上昇して雲の中から飛び出す。


 ……ん~、実に雄大で良い景色だ。陽光が、白雲が、大空が輝いてるねっ。

 うむ、良い蒼である。やはり、空はこうでなくては。


 では、ザーファロンへむけて――出発!






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ