第 3羽 鳥、と不思議な食糧
多分、恐らくは数日後。
うん、太陽なんて見えないから経過日数なんて分からんのよ。
俺は今日も元気な鳥です。
あの炎花なのだが、あれからも食べ続けた。
結果、特に問題ないと判断するに至った。
というのも、食べても食べても体調が悪くなるどころか良くなりまくりなのだ。
力は漲ってくるし、身体も成長してきた。最初の頃の足跡と今を比べると明らかに成長してる。恐らく栄養素が豊富なのだと思われる。
しかもこの炎花、しばらく時間が経過すると復活するのだ。
初めて炎花を食べた日の翌日(恐らく)、茎のみになっていたはずの炎花が軒並み復活していたのには驚いた。
味は言うまでもなく最高。
大量にあるにも拘わらず食べた分は復活。
その辺に生えているので食べたいときに食べ放題。当然タダ。
うまい、はやい(?)、やすい、の三拍子である。
おまけに安心設計のベッド付。
極め付きは俺が鳥であること。
もうね、天国かと。
ユートピアかと。
幻覚だなんだと焦っていたのがアホらしいです。
一度死んで臆病になりすぎていたのかもしれない。
ん? 狂喜乱舞してた? 知らんな。
相変わらず親鳥は戻ってこないが、これだけの環境なので居なくても何ら問題は無い。
飛び方を教えて貰いたいと思ったが、俺の翼はまだ翼とは呼べないシロモノだ。今は成長することを重視するべし、だ。
あの日から俺は、食事→運動→食事→運動→食事→運動→睡眠のサイクルで過ごしている。
炎花の高栄養と赤ん坊の成長力が合わさった為か、目に見えて成長していくのは嬉しい限りだ。
とはいえ、流石に飽きてきた部分もある。というか好奇心が勝ったと言うべきか。
あの一つだけ口を開けている通路が気になるのだ。恐らくあの先は出口に繋がっている。
ちょっと外を見るぐらいならいいかなーと冒険心が疼くのだ。
~~
今、俺は通路をヨチヨチ歩いている。
はい、誘惑に負けました。
男の子だから仕方ないのですよ。
通路の道幅は約2m。高さは……多分3m程だ。
道筋が緩やかにカーブを描いているのでこの位置からだと炎花部屋はもう見えなくなっている。炎花による炎光が無くなり、暗くて道の先が見えなくなるかと思ったけどそうでもない。不思議と見えるのだ。
そのまま歩き続けていると道から何かが生えていた。
鉱石……いや、水晶か?
近付いて確認してみる。
やはり水晶のようだ。それも赤い水晶。
そこであの感覚が襲ってきた。
――この水晶、食べられるよ。
炎花のときと似ている。本能が知っている感じだ。
嘴で軽くつついてみる。コンコンッと硬質な音を響かせた。
うーん、この硬さの物を食べるのは無理じゃないかなと思いつつも、取りあえず齧り付いてみる。
ジュルッ、ゴクリッ。
あれ? 柔らかい? 勢いで飲み込んでしまった。
口を離してみると、齧っていた部分が溶けたように無くなっていた。
もう一度嘴で突いてみる。
コンコンッ。
齧り付いてみる。
ジュルッ、ゴクリッ。
んー? 何だこれ?
食べられることは確かだ。味も悪くない。触感はゼリーだ。
……上下二つに分断するように真ん中に齧り付いた。
ジュルッ。コンッコン……。
分断された水晶の上半分が地面に落下し、硬質な音を響かせた。
食欲? もしくは意思に反応してるのか?
落ちた水晶を持ち運ぶことを意識して嘴でくわえてみる。
おぉ、持ち上がった。硬いままだ。
そのまま食べようと意識すると急激に柔らかくなり、ゴクリ。
どうやら俺の食意識によって硬度を変化させるらしい?
うん、訳分からん。そういうことにしておこう。
しっかし炎花といいこの水晶といい、不思議食糧の宝庫だな、この洞窟。
……その流れでいくと俺も不思議食糧の一角を占めている可能性が出てくるな……考えないことにしよう。
気を取り直して通路の続きを進む。
すると先ほどの赤い水晶が群生していた。生え散らかっている。
床から壁から天井から、生え放題だった。
ふむ……オヤツ場発見、だな。
炎花は確かに美味いが、食べ続ければ流石に飽きがくる。
これは良い発見をしたな。
オヤツは後で食べることにして、もう少し進んでみることにする。
水晶の脇を歩き続けてしばらくすると、今まで平坦だった道が上り坂へと変化する箇所へと到着した。幸い俺でも登れるほどの傾斜なのでそのまま上っていくと、カーブを描いていた曲線半径が短くなってきているように感じた。
これは螺旋状に登って行けるようになっているな。螺旋階段か。……階段じゃないな。
螺旋状になっても通路内には水晶が節操なく生えまくっている。途中、道を塞ぐように生えている水晶たちをつまみ食いしながら進んで行き、遂に終点に辿り着いた。
終点は直径50m程の円柱状の空間で、上方から銀色の光が降り注いでいた。
それはまるで銀に輝くオーロラのようで……。
あまりに神々しいその光景に、俺はしばらく茫然としながら見惚れていることしか出来なかった。
銀の光。それは遥か上方で燃え盛っている、銀の炎が発しているものだった。