第21羽 鳥、は目の保養をする
うーむ、俺がアーリィの従魔になった以上はこれから解放者のお供として一緒に活動していくことになる。なら必然的に守護者や邪結晶の討伐は避けては通れない、というかそれが最終的な目的でもあるしな。そうなると【蒼炎】以上は絶対に必要になってくるんだが……いつ、どこまで開示すべきか。
万が一俺が【聖炎】を使えるなんてことがベルライト聖王国にでも知られれば、アーリィが狙われる可能性が高い、というか確実に狙われるだろう。
アーリィごと俺を取り込もうとするならまだマシだが、そうではない奴も出てくると想像するのは容易い。そういう奴等からすればアーリィが邪魔に映るだろうからな。
【聖炎】を使うなら、極力人目のない場所で使用するべきか……。
それ以外のスキルは…………アーリィの成長に合わせて開示していこうかね。
【従魔契約】の効果だとしてしまえばいい。
例えばアーリィが【炎熱魔法・Ⅴ】まで習熟したときに俺の【蒼炎】の偽装を解く、とかいった風にだ。そこでこれは【従魔契約】の力だなんだと言ってやれば、【従魔契約】の持ち主であるアーリィが害される確率は低くなるはず。……希望的観測だがな。
まぁ最悪、俺が全力で抵抗すれば何とかなるとは思うのだが……それは最後の手段にとっておく。
俺はアーリィの従魔だからな、俺が暴れるという事はアーリィにその責任が行くなんて事態になるかも知れないからだ。
要は俺のことをアーリィに話すのはアーリィの成長に合わせて、ということだ。
今は『0歳だけど少し強い従魔』でいい。
「あれは……アグリーラビットかな。よし、次は手加減して……『我は――」
次の獲物を見つけたらしいアーリィが手加減を意識しながら詠唱を開始した。
~~
「これで魔石が10個集まったね」
「はい。素材もある程度は回収することができましたし、今日はこの辺でカルナスへと戻りましょう」
魔石が入った《袋》を片手で掲げながら笑顔を表したご主人様。もう片方の手は指先がプルプルと震えている。
幾つか対象を爆散させてしまったが、予定していた二倍の数の魔石を集めることに成功した。先程、五体の群れに襲われたので一気に集まったな。
俺の出番はなかった。アーリィが危なくなったらエリスさんが的確にフォローしていたからな。
俺はただアーリィの背中でピヨピヨ言いつつ、時折その一纏めにされた黒髪に頬をビンタされていただけだ。
その過程で、ご主人様は髪からもあの良い香りを発しているという事が判明した。
「そうだね、初めての依頼だったし今日はここまでにして戻ろう」
「はい。それと帰りながら浄化を試されてみませんか? 光魔法の練習にもなります」
「うん、やってみるよ。どうすればいいの、エリス?」
どうやら今日はこれで終わりみたいだな。
まぁ初日から無理をしても仕方ない、急いでいる訳でもないしな。
「普通に《袋》を手に持って、光魔法を意識しながら魔力を込めるだけでよろしいですよ」
「了解です。……こんな感じかな」
「ええ、それで大丈夫です。そのままの状態を維持すれば浄化されていきますので」
《袋》を持ったアーリィがむむむ~と魔力を込めている姿を見守っているエリスさん。
浄化か。……この辺りの呪雲が薄いのは浄化が関係してるのかね?
俺の部屋があった山周辺の呪雲下は正に暗黒だったからな。黒い雪も降り積もっていたし、【真眼】がなければ何も見えなかっただろう。まるであそこだけは厳重に封印されたみたいだった。
特に俺の家周辺は厄毒龍以外の生物は虫一匹いなかったからな。終わりの地、って印象だった。
ただ、あそこでは黒い雪が降っていたようだからこの辺りの呪雲は黒い雨でも降らすのかと思ったのだが、そうでもないようだ。今朝は普通の雨が降ってたし。
呪雲が一定以上に強化されたら黒い何かを降らす様になるのかね? ……考えても分からないか。実際に呪雲を強化させて実験する訳にもいかんだろうしな。
カルナスに来てこの世界についての知識は大分と増えたが、未だに分からないことだらけだな……。
まぁ、今直ぐにと急いでいる訳ではないのでゆっくりとこの世界のことを知っていけばいいか。
「むん~……」
「その調子です」
ふと、アーリィとエリスさんを見る。
黒髪に光の輪を現しながら、口をへの字に曲げ、半分に伏せた空色の瞳で《袋》を睨み付けているアーリィ。
背負われているので横顔しか見えないが、その若干赤らめた頬も相まってとても可愛らしい印象を与えてくる我が主様。
そんなアーリィを、翡翠色の瞳を緩めながら見つめているエリスさん。
安心感と温もりを感じさせる柔らかそうなライトブラウンの髪を左右に分け、そこから覗く綺麗な肌をした額がチャームポイントである。と俺が個人的に思っている。
普段はキツイ目付きの美人さん。だがしかし、今はその優しい視線と小さく可愛いおでこの組み合わせにより、とんでもない魅力と破壊力を発している。
……二人共、相変わらず容姿が整っておられる。
美少女と美女が揃っている光景は実に目の保養となるな。
旅に出てから醜悪な魔物ばかり目にしていたから知らず精神がすり減っていたのかも知れない。二人を眺めていると心に潤いが戻ってくる気がする。
アーリィは丈夫そうなシャツとズボンを着用し、その上に関節部と急所を守るようにして革鎧を装着している。ここまでなら出会った時と同じなのだが、今はちょこちょこと装備が追加されている。
スカートの様な腰巻が増え、その上から《筒》とポーチを取り付けたベルトを通しており、背中には俺INの背嚢を背負っている。つまり、スカートと俺のおかげで更に可愛さがアップした感じだ。
正面からアーリィを見れば、その肩から覗きし愛を振り撒く鳥さんに心奪われるだろう。
《筒》というのはあの頭上に光球を浮かべる魔道具の事だ。
懐中電灯の様な円柱状の筒の中に魔石をセットする部分があり、それを電力というか燃料として効果を発揮しているようだ。起動させるとポンッと光球が飛び出る光景は中々に面白かった。
「むむむ……中々浄化できないっ」
「光属性を取得されてからまだ一日ですから。慣れてくるにつれて浄化速度も上がってきますよ」
相変わらず《袋》を睨むアーリィと、そんなご主人様を微笑を浮かべて眺めているエリスさん。
……まるで妹を見守るような表情だ。……その気持ちは分からないでもないよ。
アーリィは主兵装である二振りの短剣を腰の左右に一つずつ帯剣している。
この双剣は魔道具であり、光属性が付与されている逸品なんだと。
魔道具にもランクがあるようで、この短剣のランクはⅥらしい。高いのか低いのか分からん。
ただ、双剣を持っているがアーリィの戦闘スタイルは後衛寄りだ。基本は魔法で攻撃し、敵接近時は双剣で防御、反撃。隙を見て出が早い魔法で攻撃、といった感じだそうだ。
今回は炎熱魔法が強力で双剣の出番は殆どなかったが。
エリスさんの格好は大体アーリィと同じなのだが、急所部分には革鎧ではなく金属製の鎧を装着している。
エリスさんは前衛寄り。正確には前衛寄りのオールラウンダーってところだ。
近接攻撃、魔法攻撃、回復魔法、感知索敵、と幅広く活躍できる能力を持っている。
主兵装は左腰に佩いた片手剣、副兵装として腰の後ろにナイフを一振り所持している。
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名前:アーリィ・アカトラム
性別:♀
種族:ヒューノ
年齢:14
状態:通常
契約:従魔:ノイン
生命力: 763/763(760+3)
魔力量: 9223/15613(610+11400+3603)
<固有スキル>
【従魔契約】【魔力の泉】
<スキル>
【炎熱耐性・Ⅰ】【風耐性・Ⅳ】【光耐性・Ⅰ】
【火熱魔法・Ⅰ】【風魔法・Ⅳ】【光魔法・Ⅰ】
【全状態異常耐性・Ⅰ】
【最大魔力量増大・Ⅲ】【魔力回復速度上昇・Ⅲ】
【生命感知】【魔力感知】【魔力制御】
【身体強化・Ⅱ】【集中】【算術】
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名前:エリス
性別:♀
種族:ヒューノ
年齢:19
状態:通常
生命力: 2940/2940(2450+490)
魔力量: 1183/2316(1930+386)
<固有スキル>
【属性感知】
<スキル>
【火耐性・Ⅶ】【風耐性・Ⅱ】
【光魔法・Ⅱ】【風魔法・Ⅴ】【水魔法・Ⅰ】
【最大生命力増大・Ⅱ】【最大魔力量増大・Ⅱ】
【生命感知】【魔力制御】
【身体強化・Ⅲ】【算術】
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ここに俺が加わる。
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名前:ノイン
性別:俺『――』
種族:朱輝鳥(亜種)『不死鳥(幼)』
年齢:0
状態:健康
契約:主:アーリィ・アカトラム
生命力: 94/94(18+76)
魔力量: 2061/2061(2000+61)
『102709/102709(57000+61+45648)』
<固有スキル>
【全言語理解】
『
【■■】【■■■■】【■■】【■■■■】【■■■■】
【■■■■】【全言語理解】【超回復】【真眼】
【紅炎】【蒼炎】【聖炎】【天空】【神の悪戯】
』
<スキル>
【炎熱魔法・Ⅴ】【風魔法・Ⅰ】【生命感知】【魔力感知】
【魔喰】【炎熱耐性・Ⅴ】【魔力制御】【身体強化・Ⅰ】
『
【炎熱系統完全耐性】【神聖系統完全耐性】
【全状態異常耐性・Ⅴ】【消費魔力半減・炎熱】
【属性強化・炎熱】【魔導・炎熱】【最大魔力量増大・Ⅷ】
【業火】【生命感知】【魔力感知】【烈風】
【空間把握】【集中】【魔喰】【魔力圧縮】
【毒耐性・Ⅵ】【魔力制御】【姿勢制御】
【身体強化・Ⅰ】【風魔法・Ⅰ】
』
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解放者ランクⅠのアーリィがリーダーを務めるパーティとしては十分な戦力だと思う。
エリスさんの解放者ランクはⅣだ。
ランクⅠは駆け出し、ランクⅣは中級者ぐらいだってさ。
亡きディーナ姉様はランクⅧに近いⅦだったとアーリィが言っていた。
今のジークと同じぐらいだったらしいから、ジークもランクⅧに近いⅦの強さなのだろう。
ランクⅧは現在の人類の最高ランクらしい。そう考えるとアカトラム家はかなり優秀なのかもしれないな。
因みに、ⅨやⅩは伝説だとさ。
…………囲まれたか。数は二十三。
包囲され掛けているのは少し前から感知していたが、黙っていた。
今のアーリィの【魔力感知】なら気付くかと思っていたんだが……浄化に集中していて【魔力感知】を発動させていないようだ。
感知系のスキルは常時発動させるぐらいで丁度良いってことを学ぶ良い機会だな。
二人が気付くまでこのまま黙っておこう。
「浄化って、時間と魔力が結構必要なんだね……」
「はい、ですので自分で浄化しようとする解放者はかなり少ないです。神聖属性ならば何倍もの速度で浄化が可能らしいのですが、最上位属性を持った者などは解放者として活動しないでしょうね、周りが許さないかと。死なれては困りま――っ!?」
お、エリスさんが先に気付いたな。
突然に両目を見開き、素早く周囲へと視線を走らせた。
「アーリィ様、囲まれています! 数は二十以上!」
「ッ!? ――確かに……っ!」
アーリィも自分の感知スキルに反応があったようだな。
悔しさを滲ませた声を発しながらエリスさんと背中合わせとなり、迎撃態勢を取った。
これで感知スキルの重要性を理解しただろう。光球のおかげで明るいとは言え、それは自分の近辺のみ。遠方はそうはいかない。ただでさえ暗くて見え辛いのだから、視覚に頼らない感知スキルの重要性は高いんだ。
さてと、囲んでる奴等以外に周囲に反応は無い。
ずっと背嚢に入ってるのも飽きてきたところだし……
「俺に、任せて」
ちょっと運動しようかね。




