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第20羽   鳥、が大体の原因だった

 

 翌日。


 ここはカルナスから少し離れた草原地帯。

 俺達――アーリィと愉快な仲間達は、アーリィが解放者としての初依頼を達成する為にここへと訪れている。


「――――たる衝撃を』[炎球]!」


 ゴオオッ――バアアアアンッ!


 アーリィの放った[炎球]が対象に命中し……爆ぜ散らかった。


「……をほ?」


 片手を前方に向け、魔法を放った体勢のまま変な声を漏らしたアーリィ。


「お見事ですアーリィ様。もう少し威力を抑えれば素材も手に入ります」


 エリスさんが今の魔法をそう評価した。

 対象は1m程のコオロギっぽい魔物だったんだが、もう魔石しか残っていない。爆発四散した魔物の肉片なんかも、もう燃えてしまっている。


「こんなに凄いんだ……炎熱魔法。魔力はそんなに込めてなかったのに……」


 自分の掌を見つめながら呆けているご主人様。


「上位属性は伊達ではありませんから。それでは次は魔石の回収です」


 エリスさんが「当然です」といった表情で言葉を発した後、《袋》と呼ばれる魔道具をアーリィに手渡した。


 この《袋》と呼ばれる魔道具は解放者として必須のアイテムだそうだ。

 見た目は名前の通り、まんま袋である。大きさは……ティッシュ箱くらいかな? 腰に括り付けられるぐらいだ。袋自体は白っぽい色合いなのだが、様々な色糸により柄や文字の刺繍を施されている為、中々にオシャレである。


「えっと、このまま摘まんでポイって《袋》に入れたらいいんだよね?」

「はい、ですがあまり長時間触れないように。サッと」


 ”魔物”というのはつまり、魔石が汚染されている魔獣のことである。

 魔物を斃すとほぼ必ず魔石を落とす。しかしその魔石は放置しておくと呪雲を強化増大させてしまう邪気を発するようになる。これを汚染魔石と呼んでいる。

 よって、この汚染魔石は可能な限り回収して浄化する必要がある。しかし汚染された魔石の近くに長時間居座ったりしていると様々な体調不良を引き起こし、挙句には意識を失ってしまうという。


「うぅ…………いざ触るとなると、なんかばっちく感じるよ……」

「確かにドス黒くて汚く感じますし、魔物の体内に存在していましたから衛生的にも清潔とは言えませんが……」

「《袋》を裏返して、こう手掴みする感じでもいいかな?」

「その方法は最初だけ、つまり手掴みできる個数分までしか通用しません。よって却下です」

「うぅ……」


 そこで開発されたのがこの《袋》なのだそう。

 この袋は僅かではあるが神聖属性の魔力が付与されているらしく、この中に汚染魔石を入れておけば体調不良に陥ることもなく、また汚染魔石が邪気を発するのを停止させられるらしい。


「……あ、何か専用の……そう、掴む道具とか無いの……?」

「ありません。……魔石の回収は解放者としての大事な役目の一つです。このくらいは慣れて貰わなければいけません」

「うっ…………そうだよね、お姉様も頑張ってたし……」


 解放者の役目の一つにこの魔石の回収がある。

 邪気を発させない為というのも理由の一つなのだが、もう一つ理由があるのだ。

 それは燃料の確保である。

 汚染された魔石はそのままでは役に立たないどころか害でしかないのだが、浄化してしまえば普通の魔石に戻るのだ。その普通の魔石が様々な道具等の燃料、動力となるらしい。


「魔物のランクが上がればもっと邪気が強くなりますので、これは優しいぐらいですよ」

「……やっぱり素手で?」

「素手で。というか手袋をされているではありませんか」

「だってこの手袋、肝心の指先が剥き出しだから……」


 ではどうやって汚染魔石を浄化するのか。

 浄化方法は大きく分けて二つあるらしい。


 ・《袋》に入れてギルドへ提出、後はギルドが浄化する。

 ・《袋》に入れた状態で、光属性もしくは神聖属性魔力を《袋》に込めて浄化する。


 《袋》は汚染魔石が邪気を発するのを停止させているだけなので、浄化するにはそこに光属性か神聖属性の魔力を込める必要があるらしい。

 込めた魔力量によって少しずつ中の汚染魔石が浄化されていくそうだ。込める魔力属性は光属性よりも神聖属性の方が効果が段違いで高いんだと。


「このランクの魔石ならば直接触れても十数秒程度であれば何の問題もありません。さあどうぞ」

「うぅ……了解です……。じゃぁ…………よ、よし、……――ポイっと!」

「お見事ですアーリィ様。顔を背けずにその汚物を扱うような仕草を改めれば、もう立派な解放者です」


 しかしながら神聖属性は最上位属性とされているらしく、当然その使い手は珍しい、というか殆どいないらしい。

 アーリィ曰く、「探せば国に一人ぐらいはいる可能性もなきにしもあらずかもね?」だとさ。ベルライト聖王国に一人居るのは確実らしいが。

 よってこの神聖属性が付与された《袋》はとても高価である、らしい。

 低ランクの解放者では購入なんてできる代物じゃないそうだ。

 なのでギルドはこの《袋》を一定料金でレンタルしてくれている。紛失したり破損させたりすれば莫大な賠償額を請求され、その支払いを拒否して逃走すれば全ギルドに指名手配の連絡が行き渡り、犯罪者として捕えられ、奴隷にされてしまうらしいが。

 因みに、アカトラムは伯爵家なので当然のように購入している。なので《袋》に刺繍やらなんやらを施せるのだ。レンタル物に手を加えると買い取りを要求されるらしいからな。


「依頼の内容は『ランクⅠ以上の汚染魔石を最低10個以上回収、もしくは浄化した魔石を5個以上提出』だから…………取りあえずあと四体の魔物を斃そう。それでいいかな、エリス?」

「はい、それで大丈夫です。それとパーティリーダーはアーリィ様ですので、私への確認は必要ありませんよ。危険だと思ったときは意見させて頂きますので」

「了解です。それでは次の魔物を探しに行こう。――よっと」


 アーリィが自分の背中の背嚢をよいしょっと背負い直し、次の獲物を求めて歩き出した。

 あんまり揺らさないでくれ、アーリィ。


 ……うん、俺は今、アーリィが背負っている背嚢に収納され、そこから頭だけ出している状態なのだ。

 ご主人様は契約によりステータスが大幅に強化されてスキルも増えたので、それの試し撃ちも兼ねて今回はアーリィが一人で戦闘を行うと決まったんだよ。

 まぁ俺は視線が通れば魔法撃ち放題なので緊急時にも対応できるからこれでいいけど。ここは森じゃなくて草原である為、広範囲魔法や爆炎魔法も撃ち放題だからな。

 気分はアーリィのバックウェポンである。肩越しに[轟炎槍]とか乱射しちゃうよ? 

 ……怒られるだろうからしないけど。


 他の人が来たら頭を素早く引っ込めて背嚢へと隠れれば良いだけだ。

 この世界で町の外を歩く人達はその殆どが頭上に光球を浮かべているので、発見は非常に容易い。

 つまり誰もが「我は此処に居るぞぉッ!」というアピールに余念がないのだ。現にアーリィとエリスさんも絶賛自己主張中である。

 まあ、暗いから仕方ないね。

 光球が無い状態だと、「キャッチボールしようぜ」との誘い文句が「ドッジボールしようぜ」という宣戦布告へと自動変換されるくらいには暗いからね。

 何が言いたいかというと、投げられたボールを正確に捕球できない程に暗いという事だ。


 さて、《袋》の話に戻ろう。

 つまり魔石は自分で浄化するかギルドで浄化するかなんだが、当然自分で浄化して提出したほうが断然報酬金額は良くなる。しかし、浄化には特定属性の魔力が必須だし、その必要魔力量も大きい。したがって【光魔法】か【神聖魔法】を所持している者は高給取りで、ギルドや優秀な解放者のパーティから引っ張りダコなんだと。実際にギルド職員には【光魔法】の所持者が多くいるらしい。

 多くいるといっても【光魔法】は上位属性なので、所持している人の総数は少ない。その少ない人達がギルドによく就職しているということだ。


「……アーリィ様、先程から手拭いで指先をゴシゴシされていますが、如何されましたか? ……まさか汚染魔石を一つ回収する度にその様な反応をなさるおつもりではありませんよね?」

「…………ま、まさか……、ちょっと痒かっただけ……だよ?」


 浄化された魔石は様々な魔道具の燃料として使われる。

 魔道具は魔力で動くから人が直接魔力を込めてもいいんだが、それだとずっとその場に人がいなければならないし、その人の魔力が枯渇すればそれまでだ。

 カルナスにあったような街灯などはそうはいかないので魔石で動かしているのだ。


「……そうですか、それではその手拭いを私にお渡し下さい。丁度、私も手が痒かったところです」

「…………」


 この世界は物理的に暗い、よって需要のある魔道具は自然と光系統の物が多くなる。

 ここでも【光魔法】を持っている者は大人気である。特定属性の魔道具を作るにはその系統の魔力が必要だから、だと。

 それに【光魔法】の保有者は[治癒]等の回復魔法を使える様になる為、更に人気があるのだと。


「さあ」

「……はい」


 と、ここまでうだうだ語った内容は昨日アーリィが俺に教えてくれたことだ。


 あ、もう一つあったな。

 上位属性ってなんじゃい? と思ったのでアーリィに「詳しく」と質問したら大まかな関係を教えてくれたのだ。

 下位属性と上位属性、そして最上位属性の三つに大別されているらしく、



 下位 上位 最上位

  地 地重

  水 氷結

  火 炎熱

  風 嵐雷

     光  神聖

     闇  闇黒



 ってなってるんだと。

 上は下を兼ねるので、神聖属性には光属性が、炎熱属性には火属性が含まれるんだってさ。他も同様らしい。

 これら以外にも幾つかの属性が存在するらしいが、珍し過ぎるので覚える必要はないとのこと。

 多分俺の【紅炎】は下位と上位。【蒼炎】は上位以上、最上位未満。【聖炎】は最上位に位置していると思う。


「……もう痒くなくなった?」

「この痒みだと今日はずっと痒いかも知れません」


 さて、ここまでの話の中で問題点が幾つか出てくる。


 ・魔石の浄化は《袋》で地道に時間を掛けて。

  →【聖炎】で一瞬。


 ・浄化された魔石は魔道具などの動力として大事。

  →闇黒地帯の魔物共の魔石(浄化済み)が足環に1000個以上存在。


 ・光属性、大人気。

  →アーリィ【光魔法・Ⅰ】、エリスさん【光魔法・Ⅱ】、俺【聖炎】。


 ・神聖属性、マジ神聖。

  →【聖炎】。


 このパーティが問題を起こさない訳があるか? いや、ないッ!!


 ……すまない、アーリィ、エリスさん。殆ど俺が原因だ。特に【聖炎】さんは自重していない。

 ただでさえ『話す鳥、しかも呪雲の下でも平気』で厄介なのに、更に最上位属性使えますとか洒落にならんわ。


 まあ、不死鳥だって事実が一番洒落にならないんだろうけどな。



「……も、もしかしたらその手拭いのせいで痒いのかも? だから返してくれても、良いよ……?」

「痒みを発生させる物をアーリィ様にお渡しする訳にはいきませんので」



 君達、さっきから痒い痒いうるさいんですけど?





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