第19羽 鳥、はある意味剥き出しだった
「ノイン~~ただいまッ!」
「ピヨギュッ!」(おかえぐぅっ!)
む、顔が上気していて少し汗を掻いている……走って帰って来たな?
その状態で抱き着かれたら汗の匂いが…………しないどころか何か甘くて良い感じの匂いがする。何だこれ?
…………あ、これがアーリィの汗臭なのか。流石は俺のご主人様、何という不思議体質。
そして安定の拘束力だな、抜け出せる気が一切しない。
「お帰りなさい、アーリィ。登録は無事に済みましたか?」
「はい、お母様。これが私の……ギルドカードですっ」
ホールドを両手から片手へと変更したアーリィが《板》のような物をポケットから取り出し、ネフリーさんに見せ付ける様に翳した。効果音を付けるなら『ババーンッ!』だろう。嬉しそうでなによりだよ。
それよりもホールドが片手になったなら抜け出せ……ないですねはい。大人しくしておきます。
「良く見せて貰えるかしら?」
「はい、どうぞ」
テーブルの上にギルドカードを置いたアーリィ。
その一瞬、カードの裏に解放者ランクⅠって表示されているのが見えた。
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名前:アーリィ・アカトラム
性別:♀
種族:ヒューノ
年齢:14
状態:通常
契約:従魔:ノイン
生命力: 763/763(760+3)
魔力量: 15613/15613(610+11400+3603)
<固有スキル>
【従魔契約】【魔力の泉】
<スキル>
【炎熱耐性・Ⅰ】【風耐性・Ⅳ】【光耐性・Ⅰ】
【火熱魔法・Ⅰ】【風魔法・Ⅳ】【光魔法・Ⅰ】
【全状態異常耐性・Ⅰ】
【最大魔力量増大・Ⅲ】【魔力回復速度上昇・Ⅲ】
【生命感知】【魔力感知】【魔力制御】
【身体強化・Ⅱ】【集中】【算術】
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ふむ、【真眼】で見たときと殆ど変わらないな。
ギルドカードは《板》の上位互換なのか、それとも《真なる瞳》の劣化版なのかも知れんね。まぁどっちでも変わらないか。
「これは…………聞いていた通り、凄いことになっているわね……」
額に手を当てて呆れているところに悪いんですけど……それ、もうちょっとで魔力量が人類最高峰らしいですよ?
というか……これって俺の魔力量が増えると、アーリィも当然増えるよな?
俺はまだ少しずつ魔力量が成長している、成長期なのだろう。それはつまりアーリィも俺の成長期補正で成長するってことで……。
ま、まぁ生命力のことを考えればバランス取れているからいいよね? うん、問題なし。
「アーリィ、無事に解放者となれたようで良かったな……おめでとう。もう少し話がしたいところだが、そろそろ執務に戻らねばならんのだ。また時間ができたときに話を聞かせておくれ。――ジーク、行くぞ」
「はい、父上。ではな、アーリィ。解放者登録おめでとう」
「有難うございます! お父様、お兄様」
そう言って二人は食堂から出て行った。その後、ダギルさんもアーリィに祝いの言葉をかけてから「職務が」と言って出て行った。
そういえばここって食堂だったんだな、すっかり忘れてたよ。……そう言えば俺、まだ昼飯食べてないな。
忘れてたと言えば、アーリィのお仕置きってどうなったんだ? 本人に尋ねるのは……止めておこうか。せっかくの喜びに水を差したくはないしな。
まあ機会があればジークに訊いてみるか、お仕置きの執行者は奴だろうからな。
「ノイン見て見てっ、私の解放者ギルドカードだよ!」
俺の眼前にギルドカードとやらを押し付ける様にして示してくる。
こんなにはしゃいでいるご主人様に「近過ぎて良く見えないんですけど?」とは言えないな。
「ピヨピィ」(良かったな)
「うんっ!」
もう完全に言葉を理解してるよね? 【全言語理解】持ってるんじゃないの?
……もしかして【従魔契約】の効果じゃないよな?
「エリス、貴女の手続きは済んだのかしら?」
ネフリーさんがそう問いかけた。
手続きって何だ? 登録以外にもギルドで何かやってきたのか?
「はい、奥様。解放者として復帰手続きして参りました」
ふむ、復帰ってことは、エリスさんは解放者だったってことか。んで辞めたか一時的に活動を停止していたか、ってところだろう。
このタイミングで復帰するってことは、アーリィと行動を共にする為かな?
「必ずやアーリィ様をお守り致します。――……」
ん? 最後に何か呟いたようだが、よく聞き取れなかった。
何か決意したような表情だったが……。
「私とエリスでパーティ登録もしてきましたっ」
口角を上げ、フフンッといった表情のアーリィ。
パーティ登録ってのはそのままの意味だろうな。
エリスさんの復帰はやっぱりアーリィと共に行動する為か。
「分かりました。それではエリス、少し忙しくなると思いますけれどこれからもアーリィのことを宜しくお願いしますね」
「はい、心得ております」
エリスさんは侍女というより護衛に近いのだろうな。
何にせよ俺のことを知っている人間が一緒に行動してくれるなら多少はやり易くなる。
アーリィと俺。一人と一羽。伯爵家令嬢と不死鳥。……この組み合わせだけじゃ不安でしょうがないからな。
我が主は無駄な行動力の保有者らしいから何かトラブルに巻き込まれる可能性は高いと思われる。そしてそうなった時に俺だけだと「ピヨピヨ」と囀るか、武力解決かの二択しか存在しない。
なので、エリスさんが一緒なのは大歓迎である。それに美人さんだしな。
「それではお母様、早速依頼を受注しに行ってきますっ!」
ラグビーボールかの如く俺を脇に抱え、もう待ちきれないといった様子で片手を上げてそう言った。
この持ち方も止めて下さい、脇汗の匂いが…………やっぱりしないな。寧ろ桃の様な甘い香りがする。
この匂い、このままもう少し嗅いでいたい……――っていやいや落ち着け落ち着け、俺は変態じゃない、紳士だ。真摯に鳥さんだ。
「お待ちなさいアーリィ、今からでは少し遅いですしノインのことも考える必要があります。剥き出しのままノインを連れ歩く訳にもいかないでしょう?」
剥き出しって……。
俺は常に全裸なのである意味剥き出しですよ? って言ったら殴られるかな。
じゃあ例の如く外套で包めば……あ、ダメか。あの状態じゃ咄嗟に何もできないからな、それだと従魔になった意味がない。従魔どころか邪魔になるだけだ。
「ノインは正式にアーリィの従魔となりました。よってこのことは近い内に伯爵家として公表することになるでしょう。内容や時期は何時になるかまだ分かりませんが、その時まではノインを余り人目に触れないよう行動なさい」
あ、公表するんだ。まぁそうだよな、そうじゃないと従魔として行動できないしな。
公表内容は「アーリィが連れている愛くるしい鳥さんは従魔です、魔物じゃないから攻撃するなよ?」とかだろうな。「話ができる朱輝鳥(亜種)です」とは言わないだろう。まぁ朱輝鳥ってのは見た目で予測されるだろうから公表するかもしれんが。
そうなるとベルライト聖王国とやらが何か言ってきそうだが……一国の動向などそこは成るようにしか成らないだろう。余りにも頭にきたら上空から【聖炎】ぶっ放して逃げればいいしな。
「……はい、分かりましたお母様。……もう少し我慢してね、ノイン」
「ピィ」(うぃ)
そうしてアーリィの部屋へと戻ってきた二人+一羽。
結局この日は部屋の中でこれからの事についての話し合いをして終わった。