表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/78

第 2羽   鳥、はまだ飛べない

 どうやら現実らしい。

 あれから結構な時間が経過したが一向に見える景色に変化はないし俺にも変化はない。声を出そうとすればチャーミングな御声を発し、腕を動かそうとすればファサッと音がする。


「ピィーーーー!」(よっしゃーーー!)


 俺、鳥になりました!!


 テンションは上げ上げ状態。内から湧き上がってくる歓喜を抑えられず、思うままに狂喜乱舞を開始!

 足元の砂も俺を祝福するかの如く舞い上がっておられます!


 ~~


 さて、落ち着いた。

 あの狂喜乱舞っぷりは他人には見せられない乱れっぷりだったと自負している。

 目は逝っちゃってただろうし、涎は360度散布されているし、首は真後ろ向いていた。その状態でドジョウ掬いとツイストをミックスさせた舞踊を披露していたのだ。鳥が。

 キモカワイイからカワイイを減算した評価を得ること間違いなしだった。


 しかしそれは仕方のないことなのだ。長年自分がなりたいと夢見ていたモノになれたのだ。この状態で歓喜しない男子がいるだろうか!? いや、いない!!


 おっと、まだ落ち着けてはいなかったようだ。

 仕方ない、もうひと踊り、いっとこうか。


 ~~


 流石に今度は落ち着いた。


 周囲を見回してみる。

 激しい動きにより抜け落ちたのであろう俺の羽毛やら羽根やらが、涎に塗れ散乱している。砂のベッドはめちゃくちゃである。所々に俺のカワイイ足跡が残ってるのがポイントだ。


 さて、俺は間違いなく鳥になっている。状況証拠も揃っている。

 声、羽毛、猛禽の足(雛っぽい)、首の可動域、羽、尾羽(真後ろ向いたら見えた)。


 どうやら猛禽類の雛へと生まれ変わったようだ。雛にしてはよく動けるが、まぁそんな細かいことはどうでもいい。俺=鳥の等式が成り立っていることに比べれば些事である。今までの人生は小説でいえばプロローグに過ぎなかったのだ。


 俺、始まった!


 と、いかんいかん。テンションが噴出してきやがる。

 落ち着いて行動を開始せねば。

 何の行動かって? 鳥になったらやることは一つしかないでしょ。


 飛ぶんだよ!


 ~~


 無理でした。

 幾ら翼を羽ばたかせてもフワリとも浮きやしない。無駄にベッドの砂が埃を立てるように舞っただけだ。


 落ち着いて考えてみれば俺は雛、新鮮ほやほや産まれたてだ。

 革新的な舞踊を披露することができてもまだ赤ん坊。飛べないのは道理であった。


 一瞬落ち込みかけたが大丈夫。今は無理でも、成長して身体が出来上がったら飛べる。そう意識することでやる気が復活した。


 俺、頑張って立派な鳥になっちゃるで!



 ~~



 あれから俺はどうやったら立派な鳥に成長できるか考えた。


 結論。

 よく食べ、よく眠り、よく運動する。

 健康優良児を目指します。健康であって悪いことなどないからね。

 しかしそこまで考えたところでハッとなった。


 鳥の食べ物って……。


 猛禽類は肉食、だったはず。兎を捕食する映像なんかを見たことがある。勿論生肉だ。他の鳥類では虫や魚をそのまま食べたりしていた。

 そして今の俺は鳥。……ぶっちゃけイヤである。精神は人間の頃のままなのだ、多分。今までは飛ぶことしか考えてなかったんだよね。まさかこんな罠が待っていたとは……。

 何か他に食べられるモノはと、何気なく辺りを見回したところで目に留まった物があった。


 ユラユラと揺れる花。


 俺の全長よりも大きな赤い花と青い花がある。不思議なことに俺はそれらに対して食欲を覚えたのだ。

 美味そうだ、と思ったと同時、俺はその花の元へと歩き出し――パクリ。


「ピヨチィーー!」(うまいーー!)


 美味い。それを認識したら、そこからはもう夢中だった。


 モッシャモッシャ、モッシャモシャ……。


「ピィ……ピヨチ」(あぁ……美味い)


 満腹となり正気に戻った時には、赤と青、合わせて二十本は食べていた。

 なんだか体中に力がみなぎってきて気分が良い。

 俺はヨチヨチと砂ベッドの上まで歩いて戻り、ポフッと座り込む。


 あー、食べた食べた。虫や生肉の心配なんてしなくてよかったわ。

 不思議な花もあったもんだな。こんな美味い花が生えてるなんて、此処は何処なんだか……。


 そこで俺は自分が今どういった場所に居るのかを真面に確認していないことに気付いた。

 このような状況に置かれたらまずは安全確認を行うのが正解だろうし、普通の人はそう行動するだろう。だけど俺は少し周囲を見回しただけで、暢気にも踊り狂っていたわけだ。


 鳥になった弊害か? ……いや、関係ないな。

 まぁ過ぎたことは仕方ない。今から行動すればいいのだ。


 早速、観察を開始する。

 この場所は洞窟の内部というのがしっくりきた。剥き出しの岩肌がそう思わせる。

 広さは半径30mほどか? 今の俺がどのくらいの大きさなのかが分からないため、なんとなくの感覚頼りだ。天井は緩やかにアーチを形成しており、この場所が半円形のホールみたいになっていることが見て取れる。そして恐らくは出口に繋がっているであろう通路への横穴が一つだけ口を開けている。

 ここまでなら普通の洞窟でよかったのだが、他の要因がその認識を否定する。


 この部屋の中心部に俺は居る。その俺の足元には敷き詰められた砂のベッド。

 このベッド、よく観察してみると砂ではなかったのだ。一番近い例えは……灰だ。だが俺の知っている灰とも違うように思える。少し重い。いや、俺が非力なのか?

 ……考えてもよく分からんので放置決定。


 一番の問題はこれだな。この花だ。

 この部屋中に大量に咲き誇っている。

 貪り食っていたときは赤と青の美味い花程度にしか認識していなかったが……今見てみるとこれ、炎だわ。

 花がユラユラ揺れていたと思っていたのは炎特有のあの揺れだったようだ。

 赤色と青色の炎。それらが白くて細い茎の先端から燃えるようにして咲いている。いや、実際に燃えているのか。

 二色の炎光が部屋内を満たしており、なんとも幻想的な光景である。


 とするとだ、俺は炎をモッシャモッシャ食べていたということになる。


 どういうことだ? 幾らなんでも荒唐無稽すぎる。炎に味があり、しかも美味いなんて。

 花と炎を見間違うなんてことはありえるのだろうか? 食欲で目が濁っていたのかもしれないが……。

 仮に炎であったとしても、食べようとしたときに口内を焼かれるはずだ。であれば、あれはやっぱり花であり、炎ではない?

 今見えている炎は幻覚か何かか? 花を食べたことによる副作用でも発症しているのか? あの花は危険なモノだったのだろうか? 炎だとしたら、こんな密室に近い空間でこれだけの炎が燃焼していることになる。酸素は大丈夫なのか?


 ――ダメだ、落ち着け。


 落ち着いて体調を確認することから始めよう。

 仮に副作用で幻覚を見ているとして、他に体調に変化はないか?


 ……特にないようだ、とうかむしろ力が漲っている。……興奮作用があるのか?


 ダメだな、考えても答えが得られそうもない。

 何かやばいモノを食べてしまったのかと危惧したが、心のどこかで大丈夫だと思っている自分がいる。

 大丈夫だという根拠は何もない。あえて言葉にするなら、本能や第六感とでも呼ぶべきか。


 ……この鳥の遺伝子が知っているのかもしれない。


 状況をよく観察してみるとあながち間違いではないかもしれない。

 俺はここで目覚めた。生まれ変わったと言っていいだろう。

 種類は分からないが、鳥の雛として産まれた。灰っぽいが寝床のような物もある。

 だとするならば、ここはこの鳥類の巣なのではないか?

 その可能性は低くはないと思う。ならばその巣の周囲に雛にとって有害なモノを放置しておくとは思えない。


 ……しばらく様子を見ることにしよう。それに親鳥もまだ見ていないしな。

 子がいるなら親もいるだろう。今は食料の調達にでも行っているのかもしれない。

 この花? 炎? を食糧としているならばそんな必要は無いのかもしれないが……。


 んー、ダメだな。分からないことだらけで、何が分からないのかも分からない。

 分かっていることだけで判断しようか。


 俺は雛だ。雛は巣から動かないのが常識。せめて飛べるようになるまではここで過ごすべきだと思う。

 花にしろ炎にしろ、幻覚を見ているのかもしれないがそれ以外は問題ない。腹は膨れるし力は漲る。

 何より、この灰? のベッドはひどく安心するんだ。


 現状維持。この方針でいこう。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ