第17羽 鳥、は人類じゃないのでセーフだった
どうも、あれから「ピギィピギィ」言ってたらやっと解放された俺です。
「えへへー、『契約:従魔:ノイン』。えへへ~、『従魔:ノイン』。……でへへ~♪」
「私のステータスには契約という項目はありませんね、恐らくは特殊な契約関係にある者にだけ表示される項目なのでしょう」
ふむ、どうやら自分自身のステータスだけはスキルや魔道具を使わなくても確認することができるみたいだ。さっきからだらしない笑顔をしたアーリィと、涙の跡を残しているエリスさんが自分のステータスの話をしてるからな、そう思った。まぁ考えてることは二人で全然違うけどな。
俺は初めて自分のステータスを見た時から【真眼】があったから勘違いしていたようだ。
じゃあ何の為に《板》とかがあるのかと言えば、他人に見せるときの為なんだろう。
「アーリィ様、旦那様方への報告へ向かわれますか?」
「あ、そうだね。……うん、これできっとお父様達も、私が解放者になることを認めてくれると思う」
グッと両の拳を握り込んで気合を入れた様だ。が、その表情からは不安が見て取れる。絶対に大丈夫とは思っていないんだろうな。
あー、アーリィさんや、多分それ勘違いしてるよ。
恐らくあの両親と兄貴は……いや、俺が伝えることじゃないか。それにこのままでも大丈夫だろうしな
「今の時間だと、お父様は執務室かな?」
「恐らくは。もうじき昼食のお時間となりますので」
「よし、それじゃ行こう。――よいしょっと」
あ、また俺のこと抱えるのね。
んで執務室に到着。中に入ったら、ザジムさん、ジーク、ダギルさんが一緒にいた。
何か話し合っていたみたいだな。結構ピリピリした雰囲気だった。
まぁ、今はアーリィの報告が優先だと思ったのだろう、部屋の空気を切り替えるようにして話を聴く体勢を整えた。
ザジムさんは執務机につき、その両脇を固める様に団長と副団長が立っている。
俺とアーリィを見るジーク兄貴の表情がえらく穏やかなのが、非常に気に喰わない。
「さて、アーリィの報告とやらを聴こうか」
「はい、お父様。――私はノインのご主人様になりました。ノインが従魔契約を結んでくれたのですっ」
抱きかかえていた俺を両手でドドンと掲げ、ザジムさんに従魔契約の成立を告げたアーリィ。
この持ち方は止めて下さい。
「それは……まことか?」
俺とアーリィを見ながら驚いたようにそう問い掛けたザジムさん。
「はい、勿論です」
「……そうか……そうかっ……。おめでとうアーリィ。今まで、よく頑張ったな」
あ、ザジムさんちょっと泣きそうになってるのを我慢しているな。口がへの字になって少し震えている。
……まぁ、九年以上成功しなかった契約が成立したんだからそりゃ嬉しいか。娘の頑張りを近くで見てきたのだろうから尚更嬉しいはずだ。
「アーリィ、おめでとう」
「お嬢様、おめでとうございます」
ジーク団長とダギルケイム副団長も祝いの言葉を贈ってくれた。
……おいジーク、俺を生暖かい目で見るんじゃない。
「はい、有難うございますっ。それで、ここに《板》はありますか? 是非とも見てもらいたいことがあるのですっ」
ワクワクを抑えられないといった様子ですね、ご主人様。
あのステータスを見せた時の皆の反応でも想像しているのだろう。
「《板》ならここにあるぞ、ほれ」
ザジムさんから《板》を受け取り、自分のステータスを表示させたアーリィ。
「はい、見てください。これが【従魔契約】の成果ですっ」
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名前:アーリィ・アカトラム
性別:♀
種族:ヒューノ
年齢:14
状態:通常
契約:従魔:ノイン
生命力: 763/763(760+3)
魔力量: 15613/15613(610+11400+3603)
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「…………なん、だと……?!」
「…………これは」
「…………」
アーリィのステータスを見た三人は、目を見開いたまま固まってしまった。
数秒後、驚きから覚めた三人はアーリィへの質問を開始した。
「スキルの方はどうなっているのだ?」
「えっと、増えたり強化されたりしたスキルは、【炎熱耐性・Ⅰ】【光耐性・Ⅰ】【炎熱魔法・Ⅰ】【光魔法・Ⅰ】【全状態異常耐性・Ⅰ】【生命感知】です」
再び両目を剥いたまま三人は固まった。
目、乾燥しますよ?
凡そ一分後。ドライアイに陥った三人がやっと再起動し始めた。
「なんという……非常識な……」
「炎熱属性と光属性……。上位属性が同時に二つも? しかも耐性まで……」
「……」
ザジムさんが頭を抱え、ジーク兄貴は顎に手を当てブツブツと呟き、ダギルさんはまだ固まっている。
皆、目が充血しているのでちょっとしたホラー映像である。
ふむ、炎熱と光は上位属性なのか。……うん、よく分からん。あとでアーリィに訊いてみよう。
「魔力の増え方がイカれてるではないか……」
娘に向かってイカれてるって……。アーリィはちょっと思考回路が変なだけですよ。
「確か……記録に残っている人類最高峰の魔力量は18000程度だったと聞いたことがあります」
目を伏せたジークがこめかみに中指を当て、記憶を探る様にしてそう言った。
ご主人様の魔力量、もう少しで人類最高値だったのか。
……あれ? そう考えると俺の魔力量やばいんですけど?
……ま、まぁ俺は不死鳥だし? 今は人類じゃないからセーフセーフ、うん。
「この増え方はアーリィの【魔力の泉】が影響しているのか? それともただ【従魔契約】が強力だったという事なのか? ……ノインのステータスはどうなっておるのだ?」
ザジムさん、そこで俺にきますか。
その言葉を聞いたアーリィが俺を机の上に置いたので自分で《板》に足を乗っけた。
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名前:ノイン
性別:俺
種族:朱輝鳥(亜種)
年齢:0
状態:健康
契約:主:アーリィ・アカトラム
生命力: 94/94(18+76)
魔力量: 2061/2061(2000+61)
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そこから皆で検証し始めた。
結果、どうやら主から従魔へ一割が、従魔から主へ二割が影響し合っているらしいこと。アーリィの魔力の伸びはそこにアーリィの【魔力の泉】が影響しているのだろう。ということになった。
【従魔契約】が成立した前例がなく、記録が残っていないから詳しくは分からないのだと。
俺の本来の魔力量はバレずに済んだな。
「旦那様、そろそろ昼食のお時間ですが如何致しますか?」
一息付いたところでエリスさんがそう伺った。
どうやらちょうど昼の時間となったようだ。
「む、もうそんな時間か。アーリィ、後は昼を済ませてからにしようか」
「はい、お父様」
続きは昼食後に、ということに決まり食堂へと移動した俺達。
食堂へ到着すると既にアーリィの母親――ネフリーさんが待っていた。
そのまま昼食を終えてザジムさんが先程のことをネフリーさんに伝えたら、「おめでとう、アーリィ」と祝ってくれた。
その流れでアーリィが話を切り出した。
「お父様、お母様、……お話があります」
「ふむ、言ってみなさい」
「はい。――私の夢を叶える為、私が解放者となることの許可を下さい。お願いしますっ」
静かに、しかし力強く頭を下げて、そう願ったアーリィ。
「許可しよう」
「許可するわ、アーリィ」
「ノインのおかげとはいえ、魔力量だけなら――――え?」
両親からの許可があっさりと降りた。
やっぱりな。




