第12羽 鳥、は尋問される
「うぅむ……何だこのステータスは……?」
「これは……僕もちょっと訳が分かりませんね」
ザジムお父様が唸り、ジークお兄様が顎に手を当て頭を傾げる。
ジークお兄様の一人称って僕だったのね。
あの後、この屋敷に常備してある《板》に俺のステータスを表示しようという話になり、再度《板》を踏み付けたのだ。
今度は性別を♂にしようかと思ったが一度門で三人に見られているのでこのままで押し通すことにした。
鳥さんは時には強引なのだよ。
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名前:ノイン
性別:俺
種族:朱輝鳥(亜種)
年齢:0
状態:健康
生命力: 18/18
魔力量: 2000/2000
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「……アーリィ、ノインと初めて出会った時からの出来事を話してくれないか?」
ザジムお父様がアーリィにそう頼んだ。
「はい、分かりました。私が森に到着して――――」
そしてアーリィがあの時から今までのことを簡単に説明した。
「――――という感じです。ノインは絶対に危険な魔物ではありません、ですからお父様……」
その言葉の後には「この鳥、飼ってもいいよね?」って続きそうだわ。
「これは今即決できる事ではないな、前例がないため安易に判断はできん。じっくりと考えて今後どう扱うかを決めるべきだろう」
「そうですね、僕も父上と同感です。色々と調べたいこともできましたし、それから判断しても遅くはないでしょう。一先ずはこのままアーリィに任せておくのが一番かと思います。話が通じるのもそうですが、アーリィに一番懐いているように見えますから」
「お兄様っ……」
アーリィ、感極まるって感じだな。でもこの兄貴の性格だと……
「それにアーリィをお仕置きしても、ノインが慰めてくれそうですし。これで遠慮なくタップリとお仕置きできます」
「……うぅ」
……ほらな。アーリィ、南無。
兄貴の言った通り慰めるぐらいなら幾らでもするから大人しく叱られるといい。
話を聴いていて思ったが、アーリィは結構危ないことをしていたんだよ。
アーリィの夢とやらに関係しているようだが、それで無茶をして死んでしまっては本末転倒だ。残された者の心臓にも悪い。二度と同じことを繰り返さないようにしっかりと叱って貰うべきだ。
「うぅむ……朱輝鳥の亜種、か」
ザジムお父様……もうザジムさんでいいかな。ザジムさんは亜種って部分が特に気になるようだ。
「赤と白の羽色、そしてグラン・ベアーを一撃で倒したという炎熱魔法。それだけならば朱輝鳥と判断する事はおかしくはない……。しかしノインの羽色は紅と銀、微妙ではあるが明らかに違う。ここが亜種たる由縁か? 性別が意味不明なのも亜種である為なのか?」
「それに生命力と魔力量のバランスが極端なのも亜種である特徴なのかもしれませんね、そして亜種であるが故、呪雲の下でも汚染されずに居られる。と考えてしまうのは僕だけではないでしょう」
ザジムさんと兄貴がそう推測を立てた。
……まさかここまで(亜種)が有能だったとは。
多少変わったところがあったとしても、「亜種なら仕方ない」の法則はこの世界でも有効なようだ。
「ダギルは実際に行動を共にしてみてどう思った?」
兄貴がダギルさんに意見を求めた。
俺と一番長く一緒にいたのはアーリィなのだが、彼女に振らないのは正解だ。
流石兄貴、良く分かっている。
「はい、まず受けた印象は”非常に賢い”、というものでした。ヒトの言葉を理解しているだけではなく感情も理解しているのではないかと。お嬢様とのやり取りで何回かそういった感覚を覚えたのです。というのも、物分かりが良過ぎるのです。門でのやり取りの際も自分の状況をよく理解しているように感じました。まるで「仕方ないな」といった様子だったのです。ステータスではまだ年齢は0。にも拘わらずこれだけの知性を有しているのも亜種である特徴なのかと考えました」
うお! めっちゃ観察されてた!?
ダギルさんやっぱり凄いな、鳥の様子を観察してここまで感じ取れるとは余程観察能力に優れているのだろう。
しかしそれでも(亜種)の罠にハマっている。
亜種だからじゃないんですよ、前世で人間だっただけなんですよ。
「成程、知力の高さか…………。ならば本人に聞いてみるのがいい、話は通じている様子だからね。ということで質問に答えてもらっても良いかな、ノイン?」
胡散臭い微笑を湛え、そう聞いてきた兄貴。
まぁ本人の事は本人に聞くのが一番手っ取り早いですね。
「ピィ」(うぃ)
「……アーリィ、今のは承諾してくれたということで良いのかな?」
「はい、その通りですお兄様」
おっと、鳴き声だけで頷くのを忘れていたよ。……アーリィは何で分かるんだよ。
「そうか、ではアーリィにはこのまま通訳をお願いしよう。さて、ノイン、幾つか質問させてもらうよ。まずは……、君は此処に来る以前は人間と暮らしていたのかい?」
うーん、どう答えるか。前世で人間と暮らしていたと言えばそうなのだが、この世界ではずっと一人(一羽)だったんだよな。だからと言って人間と暮らしていたと言ったら次は「何処で暮らしていたのか?」と質問が来るだろう。
俺はこの世界の地理に詳しくないから嘘を言えばバレる、というか怪しまれるかもしれない。だけど正直にあの山の頂に住んでたなんて言えば不死鳥だとバレる可能性がある。あそこを調べられたら聖炎が見つかるからな。
では違うと答えたらどうなるか? 「それならば何故そんなに人に慣れていて、言葉が分かるんだ?」等と返ってくるだろう。そうなったら「中身が人間なんですよ」と前世のことを説明しないと答えようがなくなる。当然、前世のことを話すつもりは一切ない。
さて、どうするか。
…………コレの偽装を解くか。
「ピヨヨ」(違うよ)
言って首を左右に振る。つまりは人と暮らしていなかったと答えたことになる。
「違う? ……え、人間と暮らしていたんじゃなかったの?」
「否定か……人以外の何者かと暮らしていたということかな?」
「ピヨヨ」(違う)
再び否定。旅に出てからはほぼ毎日モンスターを斃しまくっていたが、それは暮らしていたとは言わないだろうしな。
俺の返答を聞き、訝し気な表情のザジムさん。
「如何いうことだ? ……生まれてからずっと一人だったということか?」
「ピィ」(うぃ)
「そうなるとその髪飾りや足環は何処で手に入れたんだい?」
兄貴がそう聞いてきた。
そういえばオシャレアイテムのこと忘れてたな。
どうするか……正直に拾ったでいいかな?
「ピィー、ピヨ、ピヨチ」(飛ぶ、見つける、拾う)
翼をはばたかせて飛んでいるアピール、下を指す、足で掴む。
「えっと……飛ぶ、下? 掴む? ……飛んでいたら落ちていたので拾った、でいいのかな?」
「ピィ」(正解)
やるなアーリィ。
「ふぅん、拾った、か……」
ジーク兄貴が顎に手を当てて考え込んでしまった。
……やはりちょっと苦しかったか?
だが(邪結晶を浄化して)拾ったのは事実だ。このまま押し通せばいい。
「……ならば、ノインというその名前は誰が付けたんだい?」
あ、そうか、ずっと一人だったと言うことはノインと名付けた存在もいなかったと答えた事と同じか。
アーリィは元々の俺の名前がノインだと思っているんだが……情報が少ない今はあまり下手に嘘を付かないほうがいいな。ここは正直に答えようか。
翼でアーリィを指して。
「ピ」(彼女)
「ふぇ……? ――え、私ッ!? え、でも、あの時は自分でノインだって……!」
言ってません。
「アーリィが? ……それまで名前は無かったのかい?」
「ピィ」(うぃ)
「……もしかして『名前、ノインでいいの?』って訊いたから、それが『ノインって名前を付けてもいいの?』っていう意味になっちゃったのかな……? ……ということは、私が……ノインの名付け親?」
済まんねアーリィ、あの時は話を聴いてなかったんだよ。気付いたらノインになってたのさ。
「そんなに簡単に魔獣に名前を付けられるのか……? しかし実際に《板》に表示されている……」
「私が名付け親……私が……」
ジーク兄貴、俺もそう思ったよ。ステータスさんの謎だな。
「ふむ、生まれてからずっと一人で、飛んでいたら道具を拾った。その後アーリィにノインと名付けられた、と。ならば何故そんなに人に慣れていて、言葉が理解できるのだ?」
「私が、名付け親……。ノインの……親。………………えへへ」
有難うザジムさん、やっと予想していた通りの返しがきました。
それとアーリィ、その変換機能はバグが発生しているよ。
さて、ここでどうやって説明するか?
…………そういえば門番さんがあんなことを言ってたな。
よし、これで行こう。後はアーリィ翻訳に期待だ。
「ピヨ、ピィ、ピヨッチ」(板、下、能力)
翼で《板》を示した後、そこに表示されている生命力と魔力量の下を羽先で突っつく、んで最後に自分を指す。
つまり、「言葉が理解できるのは俺のスキルの効果だ」と伝えたい訳だ。
門番は言っていた。「スキルはどうなっているのか? 《瞳》を使ってみたくなる」と。それはつまり、スキルを確認することができる《瞳》と呼ばれる何かが存在するということだ。使ってみたくなる、という言葉から察するに魔道具の一種である可能性が高いと思う。
それを俺に使って貰い、固有スキル【全言語理解】のみ偽装を解いて見せれば納得してくれるだろうと考えたのだ。
【全言語理解】:
言語と認識された言葉を全て理解でき、一度理解した言語を習得する。
発声器官の違う言語を習得した場合、発声器官の有無に拘わらず魔力を消費して一時的にその言語を口にすることが可能となる。
もし《瞳》とやらがスキルの説明まで見ることが可能だとしたら後半部分の内容で騒動が起きるかも知れないが、それには考えがあるので大丈夫だ。
さて、後はアーリィの翻訳性能任せだ。
「……《板》と、そこ……下……スキル? そしてノイン自身……――っ、ノインの持ってるスキルの効果、ということ?」
「ピィ」(正解)
流石だ、アーリィ。君にノインマスターの称号を授けたい。
……いや、やっぱりダメです。ノインマスター=ノインのマスター=ノインの主、とも読めちまう。【従魔契約】使われたら同意と見なされ契約成立しそうで怖いです。
「言葉が理解できるスキル。……恐らくは固有スキルか」
「朱輝鳥がそのような固有スキルを所持しているという情報は聞いた事が無い。しかし現にこう主張しているし実際に言葉を理解できている。そしてそれを説明できる知能……。亜種とはここまでの存在なのか……?」
ザジムさんも兄貴も俺が所持しているスキルは固有スキルだと気付いたようだ。この反応から察するにやはり言葉を理解できるようになるスキルは珍しいのだろうな。
そして兄貴は(亜種)の罠に掛かっている。(亜種)さんは優秀です。
「ノインも固有スキル持ちだったんだね、私と同じだよっ!」
アーリィ、君は変わらないね。
ふむ、この反応からするに、どうやら固有スキルは所持していること自体が珍しいみたいだな。
やっぱり固有スキルはレアスキルって認識で良かったのかね?
というか俺、固有スキルいっぱい持ってるんですけど?
「ふむ、《瞳》の使用を打診するか。実際に確認しなければならないだろう、他のスキルも気になるところだしな」
お父様、流石です。
《瞳》はスキルを見られるってことで確定だな。
「僕も同感ですね。――ダギル」
「ハッ。ギルドへと行って参ります」
「儂の名前を出して構わない」
「僕の名前も出して構わないよ」
「承知しましたザジム様、団長」
そう言ってダギルさんが出て行った。
ふむ、どうやらジークが団長だったようだ。
今のやり取りから推測するにギルドとやらに《瞳》があるみたいだな。
というか”ギルド”ときたか。ファンタジーでよく出てくる冒険者ギルドとかってやつか? いや、商業ギルドとかもあったな。他にも色々なギルドがあったような……まぁいいか。
何にせよ順調に事が進んでいるしな、着実に情報も集まっている。これもアーリィと出会ったおかげだろうな。
そう思ってアーリィに視線を向け…………ん? なんかフラフラしているぞ。
……疲れが出ているのか。
「ピィピィ」(もしもし)
「ぬ、どうしたのだ?」
「……ノイン、どうしたの?」
皆の注目を集めて、
「ピ、ピヨヨ」(アーリィ、疲れてる)
アーリィを指した後、机にベチョっと伏せる。
「――っ、ノイン……」
「……成程。アーリィ、今日はもう休みなさい。《瞳》での確認は後日に回す。気付かなくて済まなかった……」
「ノインの衝撃が強過ぎましたね……。すまない、アーリィ」
「御免なさい、アーリィ……。今日はゆっくり休んでちょうだい」
なんか申し訳ない気分だ、俺のせいでアーリィに無理をさせてしまったようだ。
その俺がアーリィの不調に気付くとは……なんともいえないな。
「エリス、アーリィを部屋へ」
「はい、旦那様。アーリィ様、こちらへ」
「……分かりました。エリス、お願いします」
エリスさんがアーリィを部屋へと送ることになった。
アーリィも自分で疲労を感じていたのだろう、すぐに受け入れた。
今日はここまでだ、ゆっくり休んでほしい。
「……よいしょ」
……俺も行くのね。
当たり前のように抱えられ、再び外套で梱包された。
そのままアーリィの部屋へと向かった俺達。
部屋へと到着したアーリィはエリスさんに手伝ってもらって寝間着へと着替え、ベッドに横になった次の瞬間にはもう寝息を立て始めた。
余程疲労していたんだな。ゆっくり休んでくれ、アーリィ。
ん? 着替えなんて覗いていませんよ?




