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第10羽   鳥、はステータスをチラ見される

 


 立派な防壁だな……。


 ここはカルナスを囲む防壁の外。

 俺は魔動車の側面に付けられている小さな窓からカルナスの町の外観を眺めている。


 要塞都市カルナスと言うそうだ、アーリィに教えてもらった。

 名に恥じぬ外観だと思う。防壁の高さは約20mはあるだろうか? 深い堀も存在している為、あの壁を越えるのはその辺のモンスターじゃまず無理だろう。ここからじゃはっきりとは見えないが壁上には対空兵器も設置しているようだ。

 堅牢無比、という言葉が浮かんできた。


 そして……明るい。所々に照明の道具によるものだろう光が見える。動かない光もあれば動いている光もあるので、設置型の照明道具とアーリィ達が使用していた筒型の個人用との違いだろうか。

 何にせよ人が居ると思われる所には光があるな。まあ光が無いと暗くて移動するだけでも危険だろうからな。


「副団長、お疲れ様です!」

「ご苦労イェード、通っても問題はないか?」


 外から門番だと予想される人とダギルさんの声が聞こえてきた。

 副長ってのは副団長のことだったのか。何の副団長なのかは分からないが。


「規則ですので、恐縮ですが身分証の提示をお願いします」

「うむ……」

「はい、確かに。……そちらの魔動車の中を確認しても?」

「それなのだがな……此方にはアーリィ様がご搭乗なさっておられる。そして先に言っておく、危険はないので大騒ぎするような真似はしないように、いいな?」

「え……は、はい。承知しましたっ」


 あー成程、門での騒ぎってこのことか。職務に忠実な門番だから魔動車の中まで確認するのは予想できてたってことか。

 ダギルさんは副団長だと言ってたから権力で押し通っても良いんだろうけど、それをしないって事は何か理由でもあるんだろうか? ……まあどうでもいいか。


「確認の為、失礼致します」


 そう呼び掛けながら門番さんが魔動車の扉を開けて――


「――はい、確かにアーリィお嬢…………」


 アーリィを見て納得しかけた門番さんの視線が俺の視線とジャストミート。

 門番と鳥。ゲートキーパー・ミーツ・バード。

 見つめ合ったのは一瞬。次の瞬間、鳥さんだと気付いた。


「――なッ!? 魔もn――」

「騒ぐなと言っただろう……」


 しかし、叫びそうになった門番さんの口を準備万端だったダギルさんが塞いだ。

 先程の注意は意味が無いって分かっていたようですね?

 ヘダスが苦笑いしているのが見えた。


「モ、モガ、フガ――ぷはっ……副団長っ、これは一体どういうことなのですか……?」

「落ち着いたか? ……先程も言った通り危険はないから大丈夫だ」

「い、いえ……しかし……」


 ダギルさんから解放された門番さん。しかし大丈夫だと言われても納得できていないようだ。

 困った表情で俺を見ている。

 

「よく見ろ、お嬢様に抱かれて大人しくしているだろう。この個体は人と暮らしていた可能性があってな、人に危害を加えようとしないのだ。そして特にお嬢様に懐いている。でなければ私がお嬢様と共に放置する訳がないだろう」

「は、はぁ、それはそうなのですが……」

「まぁそれで納得できないのは理解できる。そこでだ、《板》を持ってこい。それならば納得できるはずだ」

「ま、魔物に《板》、ですか? ……承知しました、しばしお待ちください」


 門番さんが門扉横の詰め所っぽいところに走って行った。《板》ってのを取りに行ったんだろう。

 ……《板》ってなんぞや? って思ったらダギルさんが説明を始めてくれました。


「ノイン、《板》というのは対象の簡単なステータスを見られる魔道具のことだ。ノインの了承を得ずに《板》の使用を決めたのは悪いと思っているが、どうか納得してほしい。流石に正体不明のまま屋敷にまで連れていくことはできないのだ。ここで簡単にでもステータスを確認しておかねば話が難しくなってしまう。お嬢様もそれでよろしいですね?」


 うお、マジか!? ステータス見られる魔道具とかやっぱりあるんだな。

 いやー、【神の悪戯】持ってて良かったよ。下手すればここで不死鳥ってことがバレてたかもしれないんだな。

 確かに俺って謎の塊っぽいからな、正体不明って言われても仕方がない。

 そんな奴を連れて行って、「こいつ何?」「分かりません」じゃダメだわな。


「はい、仕方ないかと。それに、正直なところ私も気になっていましたから」


 アーリィがそう答える。

 まぁ仕方ないよな、俺もそれでいいよ。


「ピィ」(OK)

「ノインも承諾してくれたようです。ありがとう、ノイン」

「済まぬな、感謝する」


 アーリィとダギルさんがそれぞれ言葉を口にしたところで門番さんが手に《板》とやらを持って戻ってきた。

 因みに、俺は今もアーリィに抱っこされたままである。


「お待たせ致しました。では早速確認させて頂いても宜しいですか?」

「ああ、頼む」

「お願いします」

「では……。アーリィお嬢様、魔物の足をこちらへ乗せて頂けますか?」

「はい。ノイン、いきますよ?」


 アーリィがそう確認してから俺の足が《板》の上に乗るように移動させた。

 《板》とやらはスマホぐらいの大きさをしていて、白っぽい色だ。


「……はい、大丈夫です。ステータスが表示されました」

「ノイン、お疲れ様でした」


 え? これでいいの? あっという間に終わったな。もっと《板》が光ったりするとか思ってたんだが。

 というかアーリィ、俺は貴女に掴まれていただけで何もしてないから疲れる訳がないんです。


「ステータスは………………は?」


 《板》に表示された俺のステータスを読み始めた門番さんが心底困惑した顔で固まった。


「何だ? 如何したイェード?」

「ノインのステータスはどうだったのですか?」


 そう言ってダギルさんとアーリィも《板》を覗き込んだ。アーリィに抱かれている俺も必然的に表示内容が見える位置に移動したので、ちゃんと”偽装”されているか確認しておく。


/***************************/


 名前:ノイン

 性別:俺

 種族:朱輝鳥(亜種)

 年齢:0

 状態:健康


 生命力:   18/18

 魔力量: 2000/2000


/***************************/


 ――な!? しまった忘れてた! 性別の部分をふざけたままだった!

 くっ、痛恨のミスじゃねえか、他は完璧に偽装できているっていうのに……ッ!


「…………俺?」


 ほら、門番さんが反応しちゃってるよ。

 今からステータス改竄しても既に《板》に表示された後だからな、何の意味もないだろう。


「朱輝鳥……やはり。しかし(亜種)、だと……?」

「ノインはやっぱりノインだったんだねっ」

「何だ……この生命力と魔力量は……?」

「まだ0歳だと? にも拘わらずあれだけ言葉を理解して……」


 ダギルさん、アーリィ、門番さん、再びダギルさん。

 いや、気持ちは分かるよ、突っ込みどころだらけだよな。

 でもそれ、偽装してまだマシにしたほうなんだよ。


「そして……やはりか。『状態:健康』」

「健康……それは、つまり……この魔物は、……”魔獣”……ッ!?」

「やっぱりノインは”魔獣”だったんだねっ」


 ダギルさん、門番さん、アーリィ。

 あん? 何故そこに引っかかるんだ? 魔獣は健康優良児な奴ばっかりってことなのか?

 ……もしかして『状態:汚染・邪術』ってのと関係があるのか?

 これまで出会ったモンスターはほぼ全てが『状態:汚染・邪術』だった。

 汚染・邪術=魔物、なのか?


「これは……私では判断できませんね。種族もそうですが、呪雲の下で『状態:健康』の魔獣を見たことはこれが初めてです」


 門番さんが何かを諦めたような表情でそう言った。


 呪雲……この雲のことか。呪われた雲。……確かにな、しっくりくるよ。

 そして、その呪雲の下では魔獣は『状態:汚染・邪術』となり、魔物と呼ばれるようになる、ってことかね? そう外れてはいないと思うな。

 因みにエリスさんとヘダスはさっきから『状態:空気』だ。


「まさかここまで奇天烈だとはな、予想外だ……」


 おいおいダギルさん、奇天烈ってことはないだろう、せめて破天荒って言ってくれ。

 この二つの言葉って結構似てるよな。


「この分だとスキルはどうなっているのか……《瞳》を使ってみたくなりますね」

「生命力:18!? ……それじゃ最初に蹴っちゃった時って結構…………」


 門番さんが何か呟いた。

 ふむ、その言葉から推測するに《瞳》ってのはスキルを見られる道具かね? 覚えておこう。

 それとアーリィ、最初は殴った時だよ、蹴ったのはその次だ。

 というかアーリィ……さっきから可哀想な娘に思えてくるのは何でだろうか……。


「これは、此処で判断できることではないな、ザジム様と団長に直接ご報告申し上げねば」

「私も同感です。通行許可は問題ありません、どうぞお通りください」


 ダギルさんの意見に門番さんも賛同した。

 ザジム様と団長、ね。また新しい名前が出てきたな。

 うーん、俺って人の名前を覚えるの苦手なんだよなー。人間だった頃の自分の名前も思い出せないしな。門番さんの名前なんて明日には忘れてそうだ。


「ご苦労だったイェード、くれぐれもこのことは」

「心得ております、許可が出るまでは口外致しません」

「うむ、それでは通らせてもらう。お嬢様、どうぞ魔動車へ」

「でも、結構すぐに起き上がったし、あんまり効いてないようだったけど……角度が悪かったのかな? でもしっかりした蹴り応えだったし…………え? あ、はい、分かりました」

 

 アーリィと共に再び魔動車に乗り込み、頑丈そうな門を抜けた。


 門を抜けたら街並みが広がっているのかと思いきや、窓から外を覗いていた俺の目に映ったのは頭上に光球を浮かべた多数の兵士と騎士っぽい人達、そして進行方向正面に今潜り抜けたのと同じような防壁と門の姿だった。

 多重防壁構造みたいだな。

 そのまま魔動車は進んで行き、再度門を抜けると、次に見えたのは畑畑畑畑……。

 しかもその畑の上にも一定間隔で光球が浮いていた。……あれって光合成とかできる光なのかね?

 そしてまたまた正面に同じような防壁と門。

 マジかー、と思いつつ魔動車がその三つ目の門を抜けた先、そこにやっと街並みが広がっていた。







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