第 6羽 鳥、は抱っこされる
「ノインー、ノインー、ノイン~♪」
「ピ、ピィ~♪……」(う、うぅ~♪……)
「ふふっ、ノインはかわいいね~」
「ピ、ピヨ」(ど、ども)
「ふわふわで、もふもふで、かわいくて――あぁ、もうギュッてしたくなるっ」
「ピ、ピヨピヨピヨ……?」(も、もうしてるんですけど……?)
「この声もかわいい~♪」
ダメだ、末期と判断していいだろう。
なぜこうまでテンションに差が出るのか、出会った頃のアーリィとは別人のようだ。
俺達は今、アーリィの住む町へと向かって森の中を歩いている。
正確には、俺のことを抱えたアーリィだけが歩いている。
そう、あれから俺はずっとアーリィに抱っこされてここまで来た。その間アーリィのテンションはずっとこんな感じ。いや、上がり続けている。
何が彼女をこうまでさせるのか。
……まぁ、ここまで好意を示されて悪い気はしないがな。
「~~♪」
しかしながらちょいと無警戒過ぎやしませんか?
まぁ俺が【魔力感知】展開してるから大丈夫といえばそうなんだが。
そう考えるとアーリィもさっきの一件で俺の感知能力は自分以上だって分かってるからここまで無警戒なのかも知れないな。……そうであってくれ。
「えへへー楽しいね、ノイン?」
「ピ、ピィ……ピヨヨ?」(お、おう……何が?)
「か、かわいい~♪ ……ギュッてしていいよねっ?」
「……ピィ」(……うぃ)
「ギューッと…………ぷはぁっ、生き返る~」
「…………」(…………)
「じゃぁ次はー、従魔契約していいよねっ?」
「……ピ――ピヨピヨッ!」(……う――いやいやッ!)
首を左右にブンブンと振りまくる。
危ねぇ! 「うぃ」って言いかけたよ!? 何なのこの娘、さらっと言質取ろうとしてきたよっ?! じゃあって何だよ、じゃあって!
「ふふっ、いやいやってしてるノインもかわいい~♪」
……ダメだこいつ、早く何とかしないと。
言質を取ろうとしたのって計算じゃないよな? 天然だよな?
後者であってくれ……。それはそれで嫌だけど。
――ん、まずいな。
このまま進んでいくとこの先にある反応と真正面からぶつかることになる。
まだ距離があるから相手が進路を変える可能性もあるんだが……この反応対象、今までと違うな。
反応は三つ。それぞれが一定間隔で距離を保ったまま森の中を進んでいる。
つまり統率がとれている。しかも真ん中の反応は中々強い、こいつがリーダーだろう。
俺だけならともかく今は魔力切れ寸前のアーリィが一緒だ。危険は避ける方が賢明だな。
「ピィピィ」(もしもし)
「ん、どうしたのノイン? やっぱり契約するっ?」
「ピヨチピヨチ、ピィピィ」(しないしない、そっちそっち)
さらっと契約しようとするなや。
否定してから、反応を迂回するルートを翼で示す。
「あっちに何か――魔物っ?!」
「ピヨチピヨチ」(違う違う)
「――あれ、違うの? ……あっちに行きたいの?」
「ピィ」(正解)
「……うーん、遠回りになるけど……ノインが言うなら何かあるんだよね? ……うん、行ってみよう」
俺に対する信頼度が高いね、アーリィさん。
何にせよこれで大丈夫だろう、あとは反応がある奴らが進路を変更しなければ問題ない。
そのまま俺達は迂回ルートをしばらく歩いて行った。
「もうちょっとで森を出られるよ。あと十分も掛からないはず」
「ピィ」(了解)
ふぅ、このまま行けば何とか接触せずに済みそ――ちッ。
奴らがこちら方面へと進路を変更したな。が、少しずれている。
……俺達を感知したって訳じゃないのか? それとも感知性能がそれ程でもないのか? ……どちらにせよ少々危険だな。
アーリィに抱かれたままでは咄嗟に行動できないだろう、抜け出して……抜けない。
ちょ、アーリィさん? もしかして【身体強化・Ⅱ】使ってません?
「ん? どうしたのノイン? ……歩きたくなったのかな?」
「ピィ」(うぃ)
「うーん…………………………………………仕方ないか。……はい、どうぞ」
本当は放したくなかったんだよ? 感が凄まじいですね。
……ふぅ、やっと解放された。これで襲われても対処できる。
アーリィを守る様にして前を飛ぶ。っと――
「――――」
ん? 何か……聞こえる?
【身体強化・Ⅰ】を使用して聴覚を鋭くしてみる。
「――っ――――っ」
これは……。
「――っ! ――まっ! ――さま!」
「あれ? この声って……」
「――様! ――ですか?! ――ーリィ様!」
「あ……やっぱり」
何がやっぱりなんですかねアーリィさん?
って聞こえてるんですね、やっぱり【身体強化・Ⅱ】使ってますよね?
……“様”って聞こえるね。声の聞こえてくる方向は魔力反応のある方向と一致。
あー……イヤな予感がする。
「アーリィ様! ご無事ですか?! お返事下さい!」
「おいっ、少し落ち着け! 魔物が寄ってきたらどうする」
「しかしッ! アーリィ様の魔道具の反応がこの付近で!」
「分かっている、だからこそだ。落ち着け、お前がお嬢様を危険に晒してどうする?」
「――くっ、も、申し訳ありません。取り乱しました……」
あー、これやばいんじゃないかなー?
できればスルーしたいところなんだが――
「――エリス!」
ほらね、アーリィが呼んじゃったよ。
「ッ! アーリィ様?! アーリィ様、ご無事ですかッ!?」
「エリスッ、こっちです!」
向こうから複数の駆ける足音と共に、あの光球が放っているだろう不思議な光が見えてきて――
「――アーリィ様! あぁ、良かったご無事で――魔物ッ!?」
「何だと!? ヘダス、援護しろッ!」
「ハッ!」
あー、やっぱりこうなるか……。




