第 5羽 鳥、が命名される
「うーん、見た目は記述にあった朱輝鳥に似ているから、多分そうだと思うんだけど……」
俺がステータス弄ってる間も思案していたようだ。
なんか最初よりも口調がスムーズになってきたな。緊張が解けてきたのか?
「あれ? でも、朱輝鳥の生息地は確か南の山岳地帯だって書いてあったような気が……?」
ここから見ると俺は東から来たことになる。当然、南の山岳地帯なんて知らない。
これ以上考え込んで変な答えを出されても困るな。
「ピィピィ」(もしもし)
「あ……どうしたの、鳥さん?」
「ピ」(これ)
俺は翼で蝙蝠モドキモンスターの死体を指す。
「ピ」(あっち)
次いでこれまでの進行方向、彼女の町があるであろう方向を指す。
「――あ。……うん、そうだね。ここは危険だし早く町へ帰ろう」
「ピィ」(うぃ)
察しが良くて助かる。
じゃぁ出発再開しますか、と一歩踏み出した瞬間――
――チャリッ。
あ、髪飾りが外れちまった。
「あっ、鳥さん何か落ちたよ? ……これは……髪飾り、かな?」
あー、外れちゃったか。まぁ仕方ない。
殴り飛ばされ蹴り飛ばされ、その後ベアハッグで圧力まで掛けられたんだ。むしろ今まで外れなかったことのが不思議なくらいだ。
「綺麗……」
髪飾りを拾って観察したアーリィの感想だ。
ふむ、この世界の感覚でも綺麗と感じるんだな、美的感覚は地球と大差ないのかね。
「……この髪飾りって、鳥さんの物なの? ――あれ? 文字、が彫られてる?」
彼女がなんとなくといった仕草で髪飾りを裏返して、そこに何か見つけたようだ。
裏側に文字? ……そういえばそこまで確認してなかったな、花の彫刻にばかり意識がいっていた。
「……ノ、ノイ……ン? ――ノイン、かな」
――っ!? 何だ? ノイン? ……なにか……懐かしい、のか?
……何だ、この感覚は? 記憶が、揺さぶられる……?
「ノインって、あのノイン? ……あ、もしかして鳥さんの名前、“ノイン”でいいの?」
――そうだ、名前だ。ノインは名前だ。……? 名前? 誰の? 何の?
……俺は何を言っているんだ? ……混乱しているな、少し落ち着こう。
深呼吸して……すぅ……はぁ……。
……よし、落ち着いたな。
俺は『うん』と自分に言い聞かすように頷く。
「あ、やっぱりそうなんだ」
へ? 何が? ……しまった、聞いてなかった。
アーリィが何か嬉しそうにこちらの反応を窺っている。
ど、どうする俺?
「ノイン。……いい名前だねっ」
……うん?
「ノイン。……ふふっ、呼んでみただけだよ?」
「ピ、ピィ……?」(は、はぁ……?)
ダメだ、分からん。どうして急に機嫌が良くなってるんだ?
どう対処すれば正解なんだ? ど、どうすれば……?
俺のその不安な感情が表情? に出ていたんだろう。
「――あ、ごめんね。大丈夫だよ取ったりしないから。髪飾り着け直してあげるね、ノイン」
アーリィは俺の背後に回り込むと、せっせと髪飾りを着け始めた。
違うんだ、髪飾り取られて不安になっていた訳じゃないんだよ……ノイン?
「よし、完成だよ。――うん、似合ってるよ、ノイン」
……もしかして、俺のことノインって呼んでる?
え、マジで? どうして? なんでだ?!
「あ、そういえば、この髪飾りってノインの髪飾りなのかな? そうしたら裏に彫ってたノインは髪飾りの名前だってことなのかな? でも鳥さんは自分の名前がノインだよって言ってるし……だとしたらノインって名前だからノインの髪飾りを着けてるのかな?」
すみません、もう勘弁してください。俺にはもう貴女が何を言ってるのか全く理解できません。ノインフィーバーでノインのキャパシティが髪飾りです。
もうダメだ、何故【超回復】はこの混乱を回復させてくれないのか?
「まぁ細かいことはいいかな、ノインはノインだもん。ね、ノイン?」
あ、はい、そうですね。ノインはノインだと俺もそう思います。
俺はぶんぶん首を上下に振る。
なのでそろそろお許し頂けないでしょうか。話を聞いてなかった俺が悪かったです。
「ふふっ、かわいい。名前で呼んでもらって嬉しいのかな? ……鳥さんって呼ばれるよりは嬉しいよね。これからはちゃんと名前で呼ぶからね、ノイン」
「……ピィ」(……はい)
この瞬間、俺はノインの名から逃れられないことを悟った。
名前:ノイン
性別:俺『――』
種族:朱輝鳥(亜種)『不死鳥(幼)』
年齢:0
状態:健康
ステータスさんもそう感じたのかも知れない……。
「もうお前ノインでいいじゃん?」って感じで名前欄が更新された。
こうして俺の名前はノインに決定した。
命名者:アーリィ。




