第 4羽 鳥、は色々と詐称する
「ねぇ、鳥さん……やっぱり、ダメ?」
「ピィ」(うぃ)
「うぅ…………」
このやり取りは何回目だろうか。
彼女、気が弱そうに思えたんだが結構しつこい。
俺達――一人の少女と一羽の鳥は今、森の中を彼女の住む町へと向かって歩いている。
あの後、俺に契約を断られて落ち込んでいる彼女を眺めていた時だ。
【魔力感知】にゴブ共の反応を感じたのだ。こちらへと向かってきていた。
アーリィも【魔力感知】を持っていたが、発動させていないのか落ち込んだままだった。
戦力にはならんと判断した俺は、周囲に他の魔力反応が無いのを確認してから単身ゴブ共に突撃。ゴブの首を一体分引っ提げてアーリィの許へと戻った。で、何とかこの森は危険だと身振り手振りでアーリィに説明した。
俺の意を理解したアーリィは自分の現状を思い出したようで「一度私の町に帰りましょう」と提案。
色々と情報を得るためにも町へ行くのは間違いじゃないからな、当然承諾した。アーリィと一緒ならいきなり攻撃されたりはしないだろうという打算もあったからな。
あの広場を照らしていた直径10cm程の光球はアーリィが出現させていたようだ。筒形の道具を弄って光球の光量を調節していた。そしてアーリィの移動に合わせて宙を付いてくる。
彼女の頭上1m程の宙に浮いているのだが、その高低も調節できるのかは分からない。まあ、できると考えていいだろう。でなければ何か障害物を潜ろうとした時に引っ掛かってしまうしな。……すり抜ける可能性もあるがな。
んで今、彼女の住む町に向かって歩いている最中という訳だ。
熊公の魔石は【聖炎】が使えないので放置してきた。
アーリィが魔石を見て「《袋》が……」とか言ってたが何のことかは分からない。
袋があれば魔石の浄化でもできるのだろうか? 浄化してない魔石は素手では触りたくないぐらい嫌悪感を感じるんだよな。
っと【魔力感知】に反応あり。これは……ゴブじゃないな。
結構な速度でこちらへ向かって移動している。この距離から俺達のことを感知したのか。ならアーリィの傍から離れるよりはこの場で守りながら迎撃したほうが安全だな。
「ピヨ!」(ストップ!)
「きゃっ! び、びっくりした。……どうしたの、鳥さん?」
危険を知らせる為、反応がある方向を向き、両翼を広げ睨み付ける。
「そっちに……――ッ、魔物?!」
「ピィ」(正解)
さて、これでアーリィは自分で最低限の対応ができるだろう。不意打ちを喰らうことはなくなった。
対象の移動速度はなかなかに速い、この障害物だらけの森の中でこの速度ってことは高性能の感知能力持ち+高機動型だろう。正面からの攻撃は回避される可能性が高いな。
回避力が高い敵には面の攻撃がセオリーなんだが、俺の攻撃能力の殆どは炎熱属性。
森の中では延焼する可能性が高い為、広範囲魔法などの派手なのは使えない。
【蒼炎】や【聖炎】が使えるなら対象を指定できるので特に問題はないんだが、もちろん使うつもりはない。というよりも……使う必要がない。
っと、あと五秒ほどで接敵だな。
「っ! は、速い!?」
どうやらアーリィの【魔力感知】にも反応があった様だ。
彼女の感知可能距離はこのくらいなのか。
……2、1――今。
接敵の瞬間に合わせて[火矢]を二本、発動と同時に相手を斜めに挟み込むように射出。
突然の攻撃でも敵は難なくこれを回避――予想通りだ。
既に準備し終わっていたもう一本の[火矢]を敵の回避先に合わせて、今度は“最速”で射出。
――ドシュッ!
「キィィィ!」
よし、命中。
地に落ちたそいつの頭部へとトドメの[火矢]を撃ち込む。
はい、終了。最初に放った二本の[火矢]は敵が回避した直後に解除したから延焼の心配はいらない。
「……へ? ……す、すごい……っ」
モンスターは……龍の頭を持った大型の蝙蝠って感じだな。飛行型だったのは少し意外だったが、予定通り“点”の攻撃だけで斃すことができた。
最初の二本の[火矢]の角度を調整して回避方向を誘導&わざと遅く射出してこちらの攻撃速度を誤認させ、誘導した回避先へ最速の[火矢]を撃ち込むだけのお仕事だ。
慣性を無視できないならば、回避力に自信があっても避けるのは困難だろう。
難しいことはしていないし、[火矢]も下から数えた方が早いぐらいの攻撃力なんだが……。
う~む、これで“すごい”評価になるのか……。
「あれは……火魔法の[火矢]? いや、でも、あんなに速い[火矢]なんて……しかも二発同時。それに……“無詠唱”、だったような……? ……気のせいかな?」
……あー、今度はそこに引っかかるのか。
【魔導・炎熱】:
炎熱魔法を魔導の域にまで到達させた証。
炎熱系統の魔法を使用する際、無詠唱で魔法を発動可能。
基礎となる最大魔力量を5000消費することで、指定対象にスキル【炎熱魔法・Ⅰ】を取得させる。以降、5000ずつ消費量が増えていく。
これの効果だな。
【紅炎】【蒼炎】【聖炎】は全て炎熱属性を含んでいるので、もちろん無詠唱。
生まれ変わったときからそうだったっぽいから正直詠唱うんぬんかんぬんには気が回ってなかった。適当にピヨピヨ言ってればよかったな。
……なんとか誤魔化せないか?
「ね、ねぇ……鳥さんって、……『朱輝鳥』なの?」
ん? 新しいワードが出てきたな。朱輝鳥? とやらに俺は似てるのか?
自然と首を傾けてしまう。不死鳥なんです、とも言えないし、どうしたものか。
「あれ? 違う……じゃなくて、分からないの?」
「ピィ」(うむ)
取り敢えず首肯しておく。
俺の返答を聞き、顎に手を当てたアーリィ。
「そう、なんだ……確か『朱と白の羽を持ち、強力無比な炎熱魔法を使いこなす。不死鳥の眷属と云われている』って書いてあったはずだから……あ、鳥さんは朱色というよりも紅色? 白じゃなくて銀って感じだから……違う、のかな……?」
……なんか凄いこと言い出したよこの娘。
えっと、落ち着け俺、落ち着いて聞いたことを整理しろ。
えー、要するに『俺は朱輝鳥とやらに似ているが微妙に羽の色が違うっぽい、んで朱輝鳥とやらは不死鳥の眷属だとか云われている』ってことかね。
……いいことを聞いたな。
ふっふっふ……再びコイツの出番が来たようだ。
【神の悪戯】:
神聖属性によるステータス書き換えを行い、本来のステータスを隠蔽することができる。隠蔽時には魔力を込める必要がある。
このスキル保有者以外がこのスキルによって隠蔽されたステータスを看破するには、隠蔽時に消費した魔力以上の神聖属性の魔力で干渉する必要がある。
このスキルを取得したのは三つ目の邪結晶を潰した時だ。
邪結晶を潰した後に出てきた銀の宝石を飲み込んだ時に増えた固有スキルである。
効果は読んでの通り。簡単に言えばステータスを詐称できるのだ。
俺のような【真眼】と似たスキルを持った者が他に存在しないとも言い切れないため、万が一ステータスを覗かれたときの保険になると思う。
今まではモンスターとしか遭遇していなかったから特に弄っていなかったが、今からヒューノ(人間)の町へ行くんだ。知られて面倒な部分は今のうちに弄っておこう。
では、早速。ここをこうして、ああして、うんたらかんたら……はい完了。
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名前:――
性別:俺『――』
種族:朱輝鳥(亜種)『不死鳥(幼)』
年齢:0
状態:健康
生命力: 18/18
魔力量: 2000/2000
『52600/102600(57000+45600)』
<固有スキル>
――
『
【■■】【■■■■】【■■】【■■■■】【■■■■】
【■■■■】【全言語理解】【超回復】【真眼】
【紅炎】【蒼炎】【聖炎】【天空】【神の悪戯】
』
<スキル>
【炎熱魔法・Ⅴ】【風魔法・Ⅰ】【生命感知】【魔力感知】
【魔喰】【炎熱耐性・Ⅴ】【魔力制御】【身体強化・Ⅰ】
『
【炎熱系統完全耐性】【神聖系統完全耐性】
【全状態異常耐性・Ⅴ】【消費魔力半減・炎熱】
【属性強化・炎熱】【魔導・炎熱】【最大魔力量増大・Ⅷ】
【業火】【生命感知】【魔力感知】【烈風】
【空間把握】【集中】【魔喰】【魔力圧縮】
【毒耐性・Ⅵ】【魔力制御】【姿勢制御】
【身体強化・Ⅰ】【風魔法・Ⅰ】
』
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こんなもんでいいだろう。
『』の中が隠蔽された本来のステータスだ。
ん? 性別が変だって? ……そこだけは譲れないのさ。
まあ後で戻しとくか。
種族:朱輝鳥(亜種)なのは何故か?
どうやら俺と朱輝鳥は羽の色が若干ではあるが違うらしい。
しかし、亜種であれば「あぁ、亜種なら色が違ってもおかしくない」となることは確実。
これは地球でも証明されている。主にモンスターを狩る勇者達によって。
彼らは“亜種”や“希少種”って付いてれば大抵のことは気にしなくなるのである。
つまり、これで万が一俺のステータスを確認されたとしても問題ないのだ。
それと、隠蔽時に込めた魔力量によって看破され難くなるようなので、50000程の魔力を込めてみた。前回、スキルを手に入れて試しに性別を弄った……んんッ、正した時も今と同じぐらい魔力を込めたので、滅多なことでは看破されることはないと思う。
さて、後はアーリィちゃんをどうするか。




