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第 3羽   鳥、はこみゅにけーしょんを図る

 

 さて、目の前で項垂れている少女――アーリィちゃんなんだが、彼女の言動から察するに、どうやら俺と従魔契約とやらを結びたがっていたようだ。

 契約を結ぶのになぜ殴る蹴るの暴行が必要なのかは分からないがな。



【従魔契約】:

魔石を所有する生体と主従契約を交わすことができる。

契約には対象の同意が必要となる。

契約が成立した際、互いのステータスが強化される。


【魔力の泉】:

魔力量の増大に補正が掛かり、成長し易くなる。

このスキル保有者は、スキル【魔力感知】【最大魔力量増大・Ⅱ】【魔力回復速度上昇・Ⅱ】を取得する。



 彼女の固有スキルだ。

 覗きみたいでアレだが、見ておいた方がいいと判断したのでな。


 ふむ、不思議だ。どこにも暴行を加えなさいとの記述はないというのに……。

 少女の中では暴行による同意の引き出しが常識なのだろうか? それはもはや同意ではないですよ?

 一発目の右拳は俺が驚かせてしまったことが原因だと思うが、二発目の蹴撃はその直前の彼女の呟きからも俺を弱らせようとしたことが窺える。

 弱らせてからの従魔契約。それってどこのポ○○ン?


「うぅ……どうしよう……」


 俺もどうしよう、少女は何だか今にも泣き出しそうで困る。暴行を加えた側に泣かれたら、被害者……被害鳥はどうすれば良いのでしょうか? これはあれですか? 泣き落とし作戦により俺を精神的にも弱らせようという魂胆ですか?


 ……さて、冗談はこの辺にしておいてと。

 どうやら彼女にはもう戦闘する気がないようで、その場に座り込んで何か呟き始めてしまった。……俺のこと忘れてない?


 もう一度彼女のステータスを確認してみる。


/***************************/


 名前:アーリィ・アカトラム

 性別:♀

 種族:ヒューノ

 年齢:14歳

 状態:通常


 生命力: 237/760

 魔力量:  13/793(610+183)


<固有スキル>

【従魔契約】【魔力の泉】


<スキル>

【火耐性・Ⅲ】【風耐性・Ⅳ】

【火魔法・Ⅳ】【風魔法・Ⅳ】

【最大魔力量増大・Ⅲ】【魔力回復速度上昇・Ⅲ】

【魔力感知】【魔力制御】【身体強化・Ⅱ】

【集中】【算術】


/***************************/


 生命力も魔力も低下している。

 見た目もボロボロだ、熊にやられたであろう傷が痛々しい。


 【従魔契約】は使用時に魔力を幾らか消費するようだ。今の魔力ではもう発動できないのだろう。熊との戦闘でも魔法っぽいの使ってたし、身体強化も魔力消費型のスキルだからな。


 さて、傷を治療してやりたいんだが……。

 治癒モードの【聖炎】ならば直ぐにでも全回復させられるんだが、【聖炎】が使えることはできれば隠しておきたい。

 この旅の間、人間が居たとするならば俺はどう振る舞うべきかを考えていた。

 俺のような鳥が地球で発見されたら解剖&モルモット化待ったなしだろう。下手したら俺を巡っての世界大戦でも起きかねない。そしてそれはこの世界でも同様かも知れないんだ。この世界では大丈夫、なんて保障は無いんだからな。


 【紅炎】はバレても大丈夫だ。魔法スキルを持つモンスターは今まで何匹も斃してきたから、俺が炎熱魔法を使っても不自然じゃないはずだ。っていうかさっき熊公に使ったしな。


 話が逸れたな。


 さて、彼女の治療なのだが、どうしたものか……。


「落ち込んでる訳にはいかない……。とりあえずポーションを――痛ぅっ」


 おや? 腰に付けたポーチっぽい物から何かを取り出して傷口に掛け出したぞ。

 ……おぉ、ゆっくりとだが傷が治っていく。

 自前で回復手段を持ってたのか、【聖炎】を使わずにいれたことを良しとしよう。

 んー、でも魔力は回復してないな、生命力専用かね。

 まあ取り敢えず……


「ピィピィ」(もしもし)

「ひぅっ! ――あ、鳥さん……」


 両腕を体の前で折り畳むように……見ようによっては素早くファイティングポーズを取ったかのようにビクッとしたアーリィちゃん。

 その反応、やっぱり俺のこと忘れてたね。


「ピヨッチ?」(大丈夫かい?)


 話しかけると同時にコテッっと首を傾ける俺。


「――か、かわいい……」


 そうだろうそうだろう。良い調子だぞ、俺。


「ピヨピヨ」(ぴよぴよ)


 ピヨピヨ言いながらゆっくりと慎重にヨチヨチと彼女の許へと近付いていく。

 あざといって? んなこたぁいいんだよ。


「ふぁ……かわいい……」


 口を開け、俺の愛らしさに見惚れている彼女の許へとたどり着いた。

 そのまま片羽を広げて彼女が怪我を負っていた部分をそっと撫でてみる。

 セクハラ? んなこたぁいいんだよ。


「ピヨピ?」(ぴよぴ?)

「うぅ――もうダメッ」

「ピギュッ」(うぐっ)


 ガバッ! と俺を抱き締めた少女、アーリィ。……俺の勝利だ。

 ってか君ちょっとチョロすぎやしないかい? ダメで元々だったんだが……。


「ふぁ……ふわふわだぁ」


 うんうん、毛並みには自信があるのだよ。


「ふわふわぁ、ふわふわしてるよぉ……」


 ムギュ~、ムギュ~。


 そ、そろそろ離してもいいんだよ?


「あぁ~……最高だよ~……えへへぇ」


 ムッギュー。


 や、やめっ、ちょ、ちょいタンマ! 口から中身出そう!


「えへへへへ~~」


 ムギューーーーーー!


 ぎゃーーーーーーー!



 ~~



「ご、ごめんね? 鳥さん……」


 申し訳なさそうな表情で謝罪の言葉を掛けてくれた少女。その視線の先には、ベアハッグの圧力に屈し、地面でグダっている鳥さんが一羽。


 俺は起き上がりながら返事をする。


「ピ、ピヨッチチチィ」(い、いいってことよ)


 さっきは俺が調子に乗ってやり過ぎただけだ。バチがあたったのだろう。

 冷静になって思い返すと気持ち悪過ぎるだろ、さっきの俺。


「えっと……許してくれる、の?」

「ピィ」(うぃ)


 首肯する。


「あ、ありがとう鳥さん。……あ、あの、もしかして言葉……分かるの?」


 あ……勢いで肯いてしまった。……まぁこのくらいなら構わんだろう。


「ピィ」(うぃ)


 再び首肯する。


「じゃ、じゃぁ……右手、挙げてみて?」

「ピィ」(うぃ)


 バサっと右の翼を広げる。

 手じゃなくてもいいよね。手……無いんだ。


「うわ、す、凄い……ほんとに分かってるんだ」


 目を丸くし、両手で口元を覆ったアーリィちゃん。

 やっぱり言葉が分かるのはこの世界でも珍しいようだ。これで言葉まで話せると分かったらどうなるか……。


「あの、それじゃあのとき……グラン・ベアーのときも、私を助けてくれたんだよね?」


 グラン・ベアー……あの熊公のことか、これもYESでいいな。首肯しておく。


「ピィ」(うぃ)

「や、やっぱり…………ゴメンなさい!」


 うおっ! びっくりした~。

 彼女が急にガバッと頭を下げて謝罪してきた。

 一瞬何の謝罪だと思ったが、すぐに見当がついた、あの不死鳥暴行事件のことだろう。

 あれは俺にも非があったんだ。気にしないで良いという意味を込めて、羽で彼女の頭を撫でておく。


「ピィヨピィヨ」(いいよいいよ)

「え? あ、鳥さん……許してくれるの? 私、助けてくれた鳥さんを渾身の力で蹴っちゃったのに……」

「ピィ」(うぃ)

「うぅ……ありがとう、鳥さん」


 蹴ったことは気にしているが、殴ったことに言及しないあたり、内心であれは俺が悪いと思っているんだろうか?

 まぁいい、俺が悪いのは事実だしな。それにせっかく友好的な雰囲気になってきたところだ、鳥さんは細かいことは気にしないんだよ。


 さて、あらためて彼女、アーリィのことをよく見てみる。


 ……うん、美少女ってヤツだな。

 身長、体型は共に14歳相応だろう。この世界の一年が地球と同じ日数ならだが。

 ツヤツヤした綺麗な黒髪を首の後ろで一纏めに縛っている。長さは背中の半分辺りまで。

 二重瞼によりパッチリとした空色の瞳を今はウルウルさせていて、非常に可愛らしい印象を受ける。

 種族:ヒューノ とあるが、この世界での人間のことなのか彼女の種族が偶々そうなのかは分からない。


 彼女は丈夫そうな長袖のシャツとズボンの上に革鎧のような物を装備している。軽さを重視したのか革鎧は要所を守るように装着しているようだ。

 熊公に弾き飛ばされてしまっていたが、二振りの短剣も持って来ている。

 戦闘が起きること前提の装備なのだろう。


 そんな彼女が何故こんな森の中に居るのか? しかも一人で。


 まぁ予想は付く。【従魔契約】関連だろう。

 契約相手となる対象を求めて森に入り、熊公と遭遇。熊公が目的だったのかそうでなかったのかは分からないが、戦闘開始。ピンチに鳥登場、右ストレートって流れだろう。


 何故一人で森にやって来たのかは分からないが、自殺志願でもないなら何か理由があると思われる。こればかりは聞いてみなければ分からんな。


 

 ふむ、気になる疑問は三つ。


 ・なぜ一人で森へ来たのか?

 ・なぜ俺と【従魔契約】したいのか? 

 ・【従魔契約】の成立条件、知ってる?


 さて、どうやって探りを入れていくか……。


 と、そこで眉を寄せ、頭を傾げ、顎に手を添えた彼女。


「……あれ? これって契約成立してるのかな……?」


 ん? 急にどうした?


 ……あぁ、俺が言葉を理解してる&自分に危害を加えてこないから、従魔になったんじゃないかと考えたのか。言葉分かるアピールは失敗だったかな?


 まあいいか。首を左右に振って否定の意を示す。


「ピィーピィー」(違うよ違うよ)

「え、それは……違うって、こと? 鳥さん」

「ピィ」(うぃ)

「うぅ……やっぱりダメだったんだ………………――っ! ……あ、あの……」


 落ち込んだと思ったら、ハっと何かに気付いたように俺を見て、そのまま何か言いたそうにしている。

 うん、何言いたがってるか予想は付くよ。というか確信してる。


「あの、鳥さんっ、私と……従魔契約してください! お、お願いしますっ!」


 そして予想通り、頭を下げてその言葉を口にしたアーリィちゃん。

 うん、そうくるよね。こんな愛くるしい鳥さんを前に言葉が通じると分かったら俺でもそうするだろう。

 もちろん俺の答えは決まっている。


「ピ、ピヨ」(申し訳ありませんが、お断りさせていただきます)


 首を左右に振りながら右手(翼)も『ないわー』とばかりに振っておく。


「えぇ!? そ、そんな……、うぅ……何でなの」


 四つん這いになり、綺麗な黒髪を揺らしながら項垂れた少女。


 うーん、美少女が落ち込む姿を見ると胸が締め付けられるが、仕方ない。

 現状、分からないことだらけだ、迂闊に契約なんてする訳にはいかない。“従魔”契約なんだ、彼女の命令に逆らえなくなる、という可能性もある。そもそも契約を解除できるのかも分かっていないからな。今、行動の自由を縛られるのは得策ではない。

 アーリィちゃんのことを不満に思っている、という訳ではないんだ。むしろ好ましく感じている。

 暴行直後はアレだったが、その後のやり取りでなんというか、保護欲? ってのを刺激された。守ってやりたくなる可愛さ、というやつだな。





 今誰か俺のことをロリコンって言った? 成程、[消毒]してあげよう。








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― 新着の感想 ―
[一言] 時代を感じます。 最近ではあざといはいい意味で使われているらしいです。 ま、どうでもいいけど 意味が変わってしまうのはいいことなのか、
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