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第 1羽   鳥、が殴られる

 

「ゲギャガギャギャ!」

「ピヨピヨッチ」(うるさいって)


 そいつは地面から噴き出した紅蓮の柱によって消し炭となった。


「ゲギャギャッッガァ!」

「グゲゲゲギャッ」

「ギャヒャハー!」

「グ、ゲギャギャッ」

「ドブルベルベァー!」

「ゲブルヒャー!」


 残りは六体。

 あぁ……マジで煩い。

 俺はそいつらと同数の紅い炎刃を宙に発生させると同時に射出。高速で飛翔する赤き刃は奴等の首に吸い込まれるようにして接近し、頭と胴体を離別させた。

 

 ふう、やっと静かになったな。

 さて、あまり気が進まないが一応回収しておくか。


 俺はそいつらだったモノに近づいていき、一つずつ魔石を回収して回る。


 うぅ、臭っさい。焼かなきゃよかった。


 肉の焼けた臭いに嗅覚を刺激されながら、回収した魔石を纏めて【聖炎】で浄化する。浄化作業が終わったら今度は足環バードリングに魔力を流し、魔石を収納させていく。




 俺の記憶が正しければ、旅立ちの日から今日でちょうど八十日となる。

 あの日から色々あった。実に密度の濃い日々だった。

 邪結晶はあれから更に二つほど潰した。案の定、邪結晶はあの一つじゃなかったという訳だ。



 順を追ってこれまでの旅路を軽く振り返ってみる。


 食糧問題が解決した翌日、俺は西方へ向かって旅立った。

 なぜ西なのか? 二次元のとある御人が言ってたんだ、「右と左なら左を選ぶ確率が高い」やらなんちゃら。

 で、左といえば西、というわけだ。うん、特に意味なんてない。


 旅立ちから一日後、やっと生物に遭遇した俺は物理的に襲われた。友好的って言葉は砕け散った。


 種族:ゴブリン

 状態:汚染・邪術


 コイツ達に集団で襲われたのだ。

 身長1m程で、灰色の上にすすを塗りたくったような肌の色をしており、醜悪な顔面を所持している二足歩行の人型モンスターだ。服なんてものは身に着けておらず、すっぽんぽんである。……俺もだがな。


 いやね、遠くから【真眼】でステータス見た瞬間「あ、ダメだわこいつ等、汚染されちゃってる」って思ったんだ。

 だけど話が通じる可能性はゼロじゃないだろ? と思って話しかけることにしたんだ「ピヨピヨ」って。まぁダメでしたわ。そもそもピヨピヨで何か伝わる訳もなく。

 因みに、さっきの煩い奴らもこのゴブリンである。


 この世界、ゴブリンが結構生息してるんだよ。最初に遭遇してからほぼ毎日ゴブリンの反応を感知している。

 一体居れば二十体は居る、まるでGのようだった。“ゴ”ブリンだからGで正解だな。

 で、なんやかんやで邪結晶発見。もちろん守護者も居た。

 流石に守護者、ゴブリンよりか数千倍は強かったがあの龍ほどではなかった。

 守護者登場→俺が全力攻撃→守護者撃破→残留魔力出る→追いかける→邪結晶発見→あぼーん の黄金コンボが炸裂した。


 でだ、邪結晶を潰したらまた何かアイテムがその場に出現したんだ。

 それはパッと見、腕輪のようだった。しかし俺に腕は無い、ってことで念の為[消毒]してから足を通してみたら、足首にキュッと締まってピッタリフィット。その瞬間は馬鹿みたいに焦ったが、外そうとすると元の大きさに戻ったので直ぐに落ち着いた。今では俺の一押しオシャレアイテムである。

 因みに、装着しているのは左の足首だ。


 あの花の髪飾りっぽいのは背中に着けている。

 【聖炎】で手の形を作り、質量モードをONにすれば人間並に器用なことができるんだよね。燃費は度外視で。しかも肘の関節とか無いから痒い所に手が届き放題。なので背中に着けることにしたんだよ。何で背中かって? この髪飾りは明らかに人間用である為、鳩並の俺に装着できる箇所といえば胸か背中だけでな。んで胸だと俺のキューティでモフモフな胸毛、というか羽毛が引っ張られて痛いんだよ。ならどこにする? 背中でしょっ。

 おっと、話しがズレたな。


 で、この足環なんだが、魔力、というか魔石を収納する機能があると気付いたんだ。

 モンスターの多くは胸部付近に魔石を所持しており、斃すとその魔石を落とすんだ。

 で、その魔石の使い道を考えていた時に俺の魔力を魔石に流し込んだらどうなるのかと思ったので、早速実行。脚に魔力を流して魔石を掴んでみたら、シュンッと足環に吸い込まれてね。そこで足環に魔力を流すと魔石を収納できるということに気付いた訳だ。

 この足環のおかげで今まで放置するしかなかった魔石を持ち運びできるようになった。


 魔石を収納できるようになった俺は積極的にモンスター狩りを開始。そして魔石を収納しようとしたのだが、なぜか収納できる魔石とそうでない魔石があったんだ。

 よく観察してみると、収納できない状態の魔石からは目に見えない程度の魔力が沸き上がり、一定方向に流れていっていた。

 つまり、守護者が死亡後に起こった現象とそっくりだった。

 そのまま魔石を放置しておくと、魔力が流れ切った魔石は消えてしまった。しかし、魔力が流れ切る=邪結晶が魔力吸収=雲増えるということだろうから、このままでは良くないと危惧した俺は何か方法はないかと思案した。


 結果、【聖炎】で嫌な感じのする魔力だけ浄化できることを発見した。髪飾りを[消毒]したのと同じ要領だ。【蒼炎】では無理だったことから神聖属性が必要なのだろう。

 収納できた魔石を持っていたモンスター共はみんな【聖炎】で斃した個体だったのだ。


 そしてモンスター狩と共に魔石を浄化しながら旅を続けていくと、とある地点で魔石からの嫌な魔力の流れの勢いが強くなったので、後をつけると守護者登場。再び黄金コンボが火を噴いた。


 三個目の邪結晶からは1cm程度の大きさをした、くすんだ灰色の宝石が出現した。

 汚いままは嫌なので、【聖炎】による[消毒]を実行。なんと銀に輝く宝石へと変化した。しかも美味しそうな魔力を感じたんだ。


 そう、銀色だ。つまり恐らくは神聖属性。

 その時の俺は邪結晶を潰した後で精神的に疲労し、腹も減っていた。


 ――パクリ、ゴクンッ…………。


 気が付いたときにはもう飲み込んだ後だった。

 あまりにも美味しそうだったんだ、仕方なかった、うん。

 吐き出せないか試してみたが、口から出てくるのは炎ばかり。

 仕方ないと諦めた俺がおもむろにステータスを確認すると……スキルが増えてやがった。しかも固有の方。しかし、スキルが増えた以外は体に異常は見られなかったので開き直って旅を再開した。

 因みに、増えたスキルはなかなか面白い能力だった。



 そして今現在、俺は何処とも知れない森の中に居る。

 さっきのゴブ共に襲われたのもこの森の中でだ。


 ――そう、森である。まともな森が、生きている森が存在していたのだ。

 と言っても鬱蒼とした、って感じじゃない。痩せていると言っていい。


 なぜ森が存在するのか。それは雲の厚さに違いが出て来たからだと思う。

 俺の家周辺はあの一件で晴れたのだが、しばらく進むと案の定また闇黒世界となった。しかし、そこから西へと進む毎に、徐々にではあるが暗さが薄れていったのだ。

 つまり、俺の家から離れる程にあの嫌な雲は薄くなっているのである。

 まぁ邪結晶を潰した箇所だけは今は晴天となり、陽光が眩しいくらいなんだけどね。


 二つ目の邪結晶が存在した場所は荒野だったのだが、所々に奇妙な植物っぽいのが生えていた。

 三つ目の邪結晶が鎮座していたのはサバンナと草原の中間っぽいところ。微かに緑が見え始めたのはこの辺りから。ここの傍には底も端も見えないデカイ地割れがあって、そこを境に緑が増えた印象だった。

 そしてこの森である。俺の家がある山の周辺が頭抜けて酷い環境だっただけで、世界はまだ死んでいなかったみたいだ。


 空が雲海にミッチリと覆われているのは変わらないが、ここでは辛うじて緑が育つぐらいには光が届いている。だから森が生存していたのだろう。


 それともう一つ。

 どれだけ雲に覆われて暗くても、気温に大きな変化が無い事も一因のようだ。

 ずっと陽光を遮られていたならば凍土と化してもおかしくないんじゃ? と思ったんだが、不思議な事にそういった変化がなかったんだ。だから植物が凍ってしまったりせずにいられたのだろう。北方や南方はどうなっているか分からないが、少なくとも俺の家からここまでは凍った大地などは見ていない。

 邪結晶を潰して雲が晴れた土地はちゃんと陽光により暖かく感じられたので、ひょっとしたらこの雲は気温を保つ性質、もしくは変化を許さない性質でもあるのかも知れないが……まあ邪結晶を潰してしまえば関係ないだろう。


 この森周辺は“かなりとても暗い曇り”という感じ。

 森の中に入ると明かり無しでは辛いだろうけど、俺には【真眼】があるので問題ない。


 因みに、暗ければ暗いほど強いモンスターが多く存在した。……その全てが殺意を向けてきたがな。

 ゴブ共も暗いほどに強かったので、この辺りのゴブは気合が足りないと感じてしまう。



 さて、魔石の回収も終わったし、そろそろ邪結晶でも探しに出発しましょうかね。

 次はどんなアイテムを落とすのだろうか。邪結晶がトレジャーボックスに思えてくる俺が居る。


 ではいざ――と思ったところで【魔力感知】に今までと違う反応があった。


 この反応は……争っている、のか?


 今まで多くのモンスターに襲われてきたが、モンスター同士が争っている場面には遭遇したことがない。

 仮にモンスター同士は争うことがないとするならば、現在反応のある場所にはモンスターが襲う存在、もしくはモンスターを襲う存在が居る可能性が高いということ。


 俺は反応がある場所に向けて飛び出した。



 ~~



「――! ――――――!!」


 攻撃を回避しながら口早に言葉を発した瞬間、手元から風の刃のような物が飛び出し、振り下ろされた対象の腕にカウンター気味に命中する。――が、ソレの腕には何の傷も付きはしなかった。


「っ!? ――……――っ」


 その現実を認識した事によって、元々浮かべていた焦りの表情をより深めていく。

 そして、そんな狼狽した様子を隙と見なしたのか、ソレがゴツい腕を振り被りながら一息に間合いを詰める。


「ガアアアァッ!!」


 ブウンと薙ぎ払われた剛腕。それを両手に持っていた武器を交差させて咄嗟に受け止めようとするが、しかし、一瞬の抵抗も許さずに弾き飛ばされてしまう。


「――……っ!!」


 丸腰になってしまった事により、焦りを通り越し、絶望がその顔に覗き始めてしまっている。



 そして、近くの木の枝の上から幹に隠れるようにしてそれを見ている俺。

 宙に浮く一つの不思議な光球が闇を照らしているその場で、一人の少女と一体のモンスターが戦闘を行っている。


 そう、“一人”だ。


 人間。


 この世界で初めてヒトを見た。言語がこの世界の物だからか何を言ってるかは理解できない。が、明らかに人間である。


 人間がいた、それは正直嬉しいのだが……しかし暢気に喜んでいる訳にもいかないようだ。

 少女が使用していた魔法らしきものは相手の一撃で消滅させられた。両手に持っていた二振りの短剣も今は地面の上。先程のモンスターの攻撃を短剣で受けたのだが、その衝撃に耐えきれず弾き飛ばされてしまっている。

 少女は明らかに劣勢。全身に傷を負い、その華奢な体躯も相まって今にも殺されてしまいそうだ。

 対するは黒土色の毛皮を纏った熊型のモンスター。大人と赤ん坊程の体格差だ、このままでは少女に勝ち目はないだろうと思う。


 さて、どうするか……なんてな。

 考えるまでもない。

 ようやく会えた人間なんだ、助けるに決まってるだろ。



 俺は熊型のモンスターを見据えたまま【紅炎】を発動。

 紅の爆槍、[轟炎槍]を形成し、即座に射出する。


 ゴオオォッ! と音を立てたのは一瞬。


 紅蓮の炎槍が熊の頭部を消し飛ばしそのまま直進、地面に突き刺さると同時に爆発を巻き起こし、不思議な光球の光以上に闇を紅蓮に染め上げる――


 ――って、あれっ? 熊に突き刺さった時点で爆発するはずだったのに突き抜けてしまった。


 あー、力加減ミスったか……。ちょっと気合を入れ過ぎてしまったようだ。

 それにここがちょっとした広場になっていて助かった。森で爆炎使うなよ俺。

 ……爆発の影響で砂煙が酷いな。

 なので、【烈風】でちょいと扇いで吹き飛ばす。


 よし、これで大丈夫だ。

 少女とのコミュニケーションの時間である。


 突然の爆発に驚いたのだろう、腰が抜けたのか座り込んでいた少女の前まで飛んで行く。


「ッ!? ――、――……?」


 なんかビクッとされたけど、急に目の前に鳥が飛んで来たらそうなるか。


 そんなことよりここからが大事だぞ俺。

 第一印象ってのはとても重要なんだ、好感度を稼ぐ為にもここは元気に第一声を、だ。


「ピヨピ! ピィピッヨピヨ!」(こんにちは! 良い天気ですね!)

「ひッ! いやあああーーッ!!」


 ドゴォッ!


「ピギィッ!」(ごふぅっ!)


 ッズサアァァァァ…………。


 ……がふっ……な、なにが起こった……?

 なぜ俺は地面に寝ている?



 生命力: 4/18



 重傷やないか……俺。


 少女を見ると、拳を握った右腕を振り抜いた状態で目を瞑ってプルプル震えていた。




 生命力: 18/18



 あ、回復した。







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