プロローグ
小説を書くのはこれが初めてです。宜しくお願いします。
頭が痛い。
意識が遠くなったり、かと思えばハッキリしたり。
酸素が足りないのか、それとも後頭部を打ち付けたことが原因なのか?
そんなことを考えていた。
自分でも驚くほど冷静だ。
周囲からは人々の悲鳴と機械の崩壊音、そして空気が高速で通り抜けていく風切り音。
目に映るのは、座席、窓、真っ赤な炎、そして飛ばされていく人。
ここは高度約10000m。いや、今は8000mくらいだろうか。
俺の乗った飛行機が、現在進行形で墜落していた。
~~
唐突だが俺には夢がある。3歳の頃からの夢だ。
それは、空を飛ぶこと。よくある夢だと思うだろ?
実際、将来の夢で空を飛びたい、だからパイロットになる! という子供は探せば結構居るもんだ。
だが俺の夢は少し違うんだ。ただ空を飛ぶんじゃない、自分の力で飛びたいのだ。
鳥のように、自らの体で、自由自在にだ。
俺からすると旅客機やヘリのパイロットは『飛んでいる』に該当しない。
飛んでいる物に『乗っている』だけなのだ。
こう言うとパイロットの人達に怒られるかもしれないが仕方がない。そうとしか感じられないのだから。
そんな訳で5歳になった頃、俺の将来の職業候補からパイロットは外された。
中学生となり、俺は鳥になりたいと思うようになっていった。
所謂、中二病をダメな方向で拗らせたのだ。
しかしながらそこは中学生。流石に根本的に無理だということには気づいてはいたが、それでも鳥になりたいという思いは残ったままだった。
次点でなりたいと思ったのは、とある漫画のキャラクターだった。
正確にはそのキャラクターが使う舞○術を使いたかったのだ。
舞○術は俺の理想そのものだった。金髪の野菜戦士達が飛び回る絵にはひどく興奮したものだ。
当時14歳。中二真っ盛りであった。
高校3年。現実を直視しなければならない歳だ。
俺も理解していた、あんな超能力や魔法なんてものは存在しないと。
それならばせめて空に近い場所でと、スカイダイビング系列の道へと進むことにした。
これならば理想には遠いが、飛んでいることにはなるだろうと。
スカイダイビングのインストラクターとなり数年が経過し、俺は25歳になった。
そして遂先日、ある情報が入ってきた。
『ハイパーウイングスーツ』なるものの存在だ。微妙なネーミングには目を瞑る。
見た目は通常のウイングスーツと変わらずムササビの様な姿。
しかし手足には極小の噴射口が、背中にはランドセル並の流線形スラスターが装着され、それでいて従来のウイングスーツよりも軽いといった代物。
海外に住んでいる友人からのメールと共にこれの紹介動画が届いたのだ。
『これの優先購入権を手に入れたよ、結婚してくれたら譲ってあげてもいいよ?』
動画を見て心が躍った。中学生の頃以来の興奮だった。
メール後半のジョークはスルーして購入を頼んだ。
早速ハイパーウイングスーツでのスカイダイビングを決行することにした。
幸い、友人が招待状として電子チケットを添付してくれていたため、すぐに日本を発つことにした。俺のことを良く分かっている。
こうして俺は運命の飛行機へと搭乗することになったのだ。
そして状況は冒頭へと戻る。
何故墜落することになったのかは分からない。機体に大きな穴が開いたからだとは思うが、その原因は不明だ。
飛行機の墜落確立は0.0009%だとか0.000037%だと聞いたことがある。
だが0%ではない、ということなのだろう。現状がそれを物語っている。
下は一面の海。この高度からでは助からないな。
結局夢は叶わぬまま、か……。
せめてハイパーウイングスーツで飛んでみたかったな。それが心残りといえば心残りだ。
それにアイツ――チケットを送ってくれた友人。気に病まないでくれよ。……といっても無理だろうな。
ふぅ……人生の終わりってのはこういうもんなんだろうか。
俺は今座席のシートベルトに留められている。このままいけばこの機体と共にさようなら、だろう。
……。
シートベルトを外す。
と同時、物凄い勢いで機体に開いた穴に吸い込まれ、外へと投げ出された。
運良く、と言っていいかは分からないが、主翼に衝突したりエンジンに吸い込まれることもなく、大空へと飛び出すことに成功した。
「――良い……気分だ」
このまま落下すれば間違いなく死ぬ。
だというのに心はひどく落ち着いていて、自らの身体が空気を裂く感覚を楽しんでいた。
むしろ少しテンションが上がってきたくらいだ。
「来世があるなら……」
自然と、子供の頃からの思いが、夢が溢れてきた。
目に映るのは蒼天、どこまでも広がるような大空。
ふと、視界の端に鳥の群れが見えた気がした。
あぁ……あんな風に……
「自由に……飛んでみたい、な」
最後に見えた光景は、燃えながら墜落する飛行機。それはまるで、炎の鳥のようだった。
こうして俺――九重空也の人生は終わりを迎えた。