第1話
せつ‐り【節理】
物事の道理・すじみち。
──「人は一生を終えると植物になる」
四季があるおかげで帰路は退屈しない。
表情を変えていく桜、明るい夜、眩しい夕日、澄んだ星空。
この時間でしか得られない静けさと穏やかさ。
そんな帰路の途中、思考の海に意識を沈めながら歩いていると、
生垣を越えようとしている少女と目が合った。
「あの」少女はおず、と声をかけてきた。
外は既に暗く少女の姿をよく見ることは出来ない。
「なに」
「手を貸してくれませんか」
顔を上げないと見ることが出来ない位置にいる少女に
一体どう手を貸せというのだろうか。
「俺にどうしろと」
「確かに」少女は短く呟いた。
呆れた。自分でそこまで登っておいて、
一人で降りられないとは。
アンタ、馬鹿なんじゃないのか?口を開こうとした瞬間、
少女はとん、と綺麗に着地した。
「一人で降りられるじゃないか」と言うと、
彼女は無言でスカートをはたいた。
生垣から降りたため、彼女の姿がよく見える。
私立校の制服を着ているが防寒具類はなし。
おまけに靴も履いていない。大きめのかばん。
さしずめ、家出といったところだろう。
「寒くないの」と声をかけると、
「少し。」と返ってきた。
それもそうだと思い、無言でマフラーを巻いてやると不思議そうな顔をされた。
「なに」
「そういうことする人だとは思わなかった」
「ふうん」どういう意味だ。
「わたし、家出してきたの」空を見上げながら言う。
「へえ」
「驚かないのね?」少し笑いながら彼女は言った。
「そうだな。で、行くところがないと」
「ご名答。」やれやれ、というような素振り。
「泊めてやろうか」
「え」
自分でも驚いた。
一人の平穏な暮らしを自ら壊そうだなんて。
しかも見ず知らずの少女を。
同時に彼女ならいいのではないか、とも思った。
「少し汚いけど」