6. 流れを割る石
我が愛しき薔薇のレディへ
お健やかにお過ごしでしょうか。
ご存知の通り、私の軽率な行動に対して、アルス伯より膨大な量の仕事が課せられています。寝る間も惜しんで働いていますが、作業の終わりが何処なのか自分でもよく分かりません。
再び貴女にお会いできる日が待ち遠しくて仕方がありません。貴女の美しい声が私の名を呼ぶのを聞きたい。
ここまで書いたところでダンカンが『グエッ』と吐きそうな声を上げました。私とて、野郎に口述筆記をさせるのは気が重いのですが、背に腹は変えられません。
貴女の声を思わせるような香りの花を選びました。手紙に添えるように手配しております。お気に召すとよいのですが。
お返事をお待ちしております。
古文字は嗜まれますでしょうか? 彼の文字ならば、私でも、込められた魔力を伝って読む事ができます。
愛をこめて キアラン
************************
あの厳つい騎士、ダンカンのものとは思えないほど流麗な文字で書かれた手紙を手に、私は頭を抱えた。
キアランが贈ってきたのは、純白のバラだった。贈り物によくある、真紅のものほど香りは強くない。どちらかと言うと、野バラの香りに似ていた。
私は、この花に似ているだろうか?
確かに声には自信がある。けれど――
************************
キアラン・アルトフェイル様
お花をありがとうございます。
とてもよい香りが致します。
あれからこちらでは、兄夫婦が結婚せよと五月蝿く、やはり修道院に帰るのだったと後悔しています。
古文字につきましては、自分に魔導士になれるほどの魔力がないと知った時に、学ぶのを止めてしまいました。ですから、この手紙は普通の文字で書いています。どうぞ、ダンカン様に読み上げてもらって下さいまし。
お仕事が上手く進みますように願っております。
ロザリンド・マコーネル
************************
素っ気なさすぎだろうか?
私は、キアランの名の下の走り書きを読み直した。
――無礼を承知でお願い申し上げます。もしも貴女様に神に生涯を捧げるお心があるのなら、キアランを支える事が神からの使命と思っていただけないでしょうか。自分を始め家臣一同、身命を賭して貴女様にお仕えすると誓います。 D
私は自分の書いた手紙を丸め、青いリボンを結んだ。
これに添えて贈るのなら――そう、疲れを和らげる効果のある薬草茶がよいだろう。