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水底の星  作者: 中原 誓


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24/25

24. 道標の星

 静かな夜だった。


 たぶん月も星も、天空から光を投げかけているのだろうが、キアランにとってはどうでもいい事だった。

 通い慣れた墓地の片隅で、墓標の前に跪ずき、冷たい表面をなぞる。

「エマ、やっと終わったよ」

 キアランは優しく呼びかけた。


 ヘイル領からの帰り際、これでいいのかと王は顔をしかめたが、かの人が完全に幽閉されてしまえばそれでよかった。

 復讐など何になる?

 エマも母も帰ってはこない。キアランの目もまた。

「前にも言ったでしょう? 私はロージーさえ手に入ればいいと。約束通り貴方に忠実に仕えますよ」

 黒髪で黒い瞳の、ロージーという貴族の娘を探してくれれば何でもする――キアランは王にそう誓っていた。

「上手く行ってるのか?」

 王の声は面白がっているようだった。

「仲はいいと思いますよ。たぶん」

「何だ、その曖昧な言い方は?」

「まだちょっと、姉弟みたいなんですよ」

「共寝をしておらんのか?」

「してますよ。彼女の方が義務だと思っているだけで」

 王が爆笑した。

「まあ、頑張れ。ヘタレ」


 珍しく楽しげだった王の声を思いだしながら、キアランは小さく肩をすくめた。

 ロザリンドはキアランにとって、道しるべの星だった。

 幼いあの日、全ての色が彼の目から消え去った時、必死に看病してくれたエマの話が唯一の楽しみだった。


「ロージー様と言うのよ。とっても可愛らしいの。黒い羽の雛鳥みたいに」


 生まれてすぐに母を亡くした小さな姫君と、生まれて間もない子を亡くしたエマ。

 エマはとある貴族の家に乳母として雇われたが、姫君が乳離れした時に解雇された。身分の低い乳母では外聞が悪いというのがその理由だった。

「ひどいよ」

 キアランが怒り、エマは笑った。

「いいのよ。でもね、いつか遠くからでもお姿を見たいわ。きっと綺麗なドレスを着て、王子様と踊ったりするのよね」

「じゃあ、僕が大きくなったらセルツに招待するよ」

 『ステキ!』とはしゃぐエマの声が嬉しかった。

「じゃあ、早く元気になってダンスの練習をしないとね」

「僕は見えないもの。踊れないよ」

「そんな事はないわ。キアラン様には大きな魔力があるもの。訓練すれば、何でもできるようになるのよ」

「何でも?」

「何でも」





 部屋の扉を開けると、暖かい空気がふわりとキアランを包んだ。

「キアラン?」

 美しい声が彼の名を呼ぶ。

 淡い青の魔力を秘めた人影が近付いて来て、彼の手を取った。

「手が冷たいわ。どこに行ってらしたの?」

「墓地に」

「墓地ですって? こんな夜中に行かなくてもよいでしょうに」

 ロザリンドは不満げに言いながらも、優しい手つきでキアランのマントを外した。

「ねえ、ロージー」

「何ですか?」

「明日、墓地に一緒に来てくれませんか? ある人に花を手向けて欲しいのです」

「明日ね。よろしくってよ」

「ありがとう」

 キアランはロザリンドの手を取り、手のひらに口づけを落とした。

「愛しています。ロージー」

「ええ……あの……わたくしも、よ」

 うろたえたロザリンドの声が可愛らしい。

 キアランは微笑み、ロザリンドの手を引っ張ってダンスのステップを踏んだ。

 クルクルと彼女を回転させた後、しっかりと抱きとめてそのまま寝台へと倒れこむ。

 悲鳴を上げて怒るロザリンドと、笑い転げるキアラン――


 二人の声はやがて重なり合い、吐息の中に溶けていった。






  ― fin ―


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