一姫と吹奏楽部3
一姫は戸惑っていた。
『交換ノートをするんだって』
――交換ノート?何のために?
『なんかトランペットが上手くなるようにお互い気がついた所を書いて直す為なんだって』
――それ、口で言えばいいんじゃない?わざわざ文字にしたらケンカになるよ。
『よくわからない』
――その交換ノートは部活内でやる事なの?パート内でやる事なの?
『よくわからない。トランペットの1年の3人でやるみたいだよ?』
――やめた方がいいんじゃない?絶対ケンカになるよ。
『よくわからないよ。何か書けって書くまで五月蠅いから“○○ちゃんが演奏しながら足でリズムをとっているけど、だんだん早くなっちゃうから、演奏自体が早くなっちゃうから、足でリズムをとるのは止めて、メトロノームを使った方がいいんじゃないか”って、私は書いたんだけど、それを読んだ二人は“そんな事ない”“早くなってない”って言い張るんだよ。私のいう事は全然聞かないのに、私には“あそこがおかしい”“ここを直せ”って書いてくるんだよ。交換ノートなんて意味全然わかんない』
――交換ノートはやめた方がいいんじゃない?後でもめるよ?
『書かないと書くまで五月蠅いんだもん』
* * *
後日、交換ノートに苛立っている一姫に私は言った。
――人の事よりまず自分の事なんじゃない?他の人の事をとやかく言う前にまず自分の事をしっかりやるべきだよ~一年生はまたトランペットなんかロクに吹けてないんだから。その交換ノートは不愉快になるだけで、良い事ないと思うよ。
『私もそう思うんだよ。でも言い出したら聞かないんだもん。二人とも』
――先輩達は何してるの?止めてくれないの?
『先輩達は先輩達で練習しているの。コンクール前だから。だから一年生は一年生で練習しておいてって放っとかれるの』
――その交換ノート、誰が持っているの?
『今日、私が書いて次の人に回したの』
――なんて書いたの?
『“私は文章を書くのが苦手なので、クイズ形式にします!さて、この音譜はなんでしょうか?”って、音譜を何種類か書いておいた』
―― 一姫♪すごい♪ナイス切り替えし♪
『でしょ♪これならケンカにならないし♪勉強にもなるじゃない♪』
――うん、ケンカにならない♪いいと思う♪でも、次に回ってきたら、ママにちょっと見せてくれる?内容をみて、これはまずいなと思ったら、私が預かって顧問に相談にいくから。
『わかった』
がしかし、それっきり交換ノートは回ってこない。
ps:向上心から始めた交換ノートなのか、一姫に対する嫌がらせなのかは謎である。




