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初めての長編ですので、矛盾する点があるかもしれません。
気づいた点があれば教えてもらえると幸いです。
「はぁ・・・、どうしたものか」
ため息を漏らしながら私こと高山啓太は深刻な顔つきで悩んでいた。
自分の事ではない。
我が親友についてだった。
今から数週間前前に遡る。
我が学園である私立西京学園でいつも通り、親友の前沢悠斗と昼休みに自分の教室である二年三組で駄弁っていた時の事だ。
「なぁ、今日の放課後駅前の商店街行かね?」
「遠慮しとくよ。金欠なんだ」
「いーじゃんかよ。一緒に行こうぜ!」
「嫌だよ。見てるだけなんてつまんねーし」
「そんなことねーよ。最近、駅前は基本的にレベル高いし」
「…何の話してるんだ?」
「何って…女の子の話だろ?まさか悠斗が金があれば誘うような大胆さを持っていたとは思わなかったけどな」
「目的そっちかよ!」
いつも通りの何気ない会話だった。
しかし、その日は割り込んで来た声によって会話は終了した。
「ねぇ、ちょっといい?」
腰まである黒髪と少しつり上がった目が特徴の幼馴染、水谷楓が話しかけてきた。
「悪いが、食い物は残って無いぜ」
「いらんわっ!」
ドゴッという音と共に吹き飛ばされる。
楓のツッコミが蹴りというかたちで炸裂したのである。
「前沢に話があるんだけど」
「俺に?」
悶絶している俺をスルーし、楓が悠斗に話を切り出した。
「きょ・・・今日の放課後少しつきあってくれない?」
「えっと、何に?」
「しょ・・・商店街に。いっぱい買おうと思っているから荷物持ちしてほしいの。」
「別にいいけど・・・」
「ひどーい。私とは行ってくれないのにー」
「・・・気持ち悪いから、その言い方やめろ」
冷ややかな目でこちらを見ながら、悠斗がツッコむ。
「ならお前も来いよ」
「遠慮しとく。そこまで鈍感じゃないし」
そういって、楓を横目で見た。
顔を真っ赤にしながら、驚いた表情でこちらを見ていた。
ったく、幼馴染なんだからそれくらい分かるってーの
そう思いながら、事態を把握していないまま、ぽかんと口を開けている親友に手を振り中庭あたりで時間を潰すため教室を出た。
放課後、楓が悠斗を迎えに来た。
「さあ、行くわよー」
「そんなに意気込まなくても。ただの買い物だし」
「ただの買い物じゃないの!」
「そ・・・そうか?」
「だって前沢と二人っきりなんて滅多にないチャンスなんだもの・・・」
「何か言ったか?」
「何でもない!!」
そんなやりとりをしながら、二人は教室を出て行った。
「行かなくていいの?」
今日はすることがないので、とっとと家に帰ろうと思っていたところで落ち着いた声に話しかけられた。
「なんだ、西条か」
振り返ると、我がクラスの委員長、西条晴美がこちらを向いていた。
肩までの艶のある黒髪と凛とした容姿は落ち着いた性格にとても似合っていた。
「一緒に行かないの?」
「行かないほうがいいんだよ。お前も知ってるだろ?楓の気持ち」
こいつはクラス委員長と同時に楓の親友でもあった。しかも学校中の情報も知り尽くしているので楓の気持ち・・・つまり悠斗のことが好きだという事を知っているのに違いなかった。
「もちろん、知ってる」
「だったら・・・」
「けれども、高山の気持ちも知ってる」
「・・・は?」
「楓のこと、好きだよね?」
「なっ!?」
心臓が出るかと思うくらい驚いた。
なぜ?今まで誰にも言ってないし、そんな噂をされたことなんて一度も無いのに・・・
「私の情報網」
困惑していると、我がクラス委員長様はそんなことを言って真面目な顔でピースしてきやがった。
・・・で
「何してんだろうなぁ・・・」
結局気になってしまい、二人をつけていた。
まだ諦められないのかと自嘲気味に笑みをこぼしてしまう。
「気になるのは仕方ない。誰にでもある」
そんな思いに気づいたのか西条がフォローしてきた。
「てかなんでお前もついてくるんだよ?」
「気になるのは仕方ない」
悠斗たちに気づかれないように小声でツッコむと、我がクラス委員長様は相変わらずの落ち着いた態度(しかも同じ言葉)で理由を言った。
「まあいいけどさ。それよりもやっぱりここの商店街はレベルが高いな!あんなにかわいい娘がいるなんて・・・」
じとーという音が聞こえてきそうなほど西条がこちらを見ていた。
「なんだよ?」
「別に。ただ、クラス一の要注意人物というクラスに広めるネタがたった今できただけだから」
「西条様、ぜひ私に貴女様のジュースを奢らせて下さい!!」
「うん。お願いするわ」
とてつもなく恐ろしい脅迫をされ、土下座しそうな勢いで叫んでしまった。
西条はクラス委員であるがためか、クラスに対する影響力がとてつもなかった。
責任感が強く、何事にも妥協しない仕事っぷりは教師人をはじめ、他クラスからも支持を得ている。
それだけではなく、新聞部以上のネタを持っているのである。
敵に回したくない相手だと思った。
「今失礼な事を思わなかった?」
おまけに勘も鋭いし・・・
二人分の缶ジュースを手に持ち、西条の元に向かう。
「買ってきましたよー」
「静かに。今いいところ」
悠斗たちを熱心に見ているので次いで見てみる。
どうやら二人は会話をしているようだった。
「・・・ちょっと買いすぎじゃね?これ以上持てねぇよ」
「男の子なんだからしゃきっとしなさい!まだまだ、これからが本番よ!」
「マジっすか・・・」
悠斗はとても疲れているが、嫌ではなさそうだ。
ただ・・・
「あの量は辛そうだな・・・」
「楓はいつもあのぐらい買う。男手があるから今の倍近く増えると思う」
「頑張れ!我が親友!」
とてつもない量の荷物を持っている親友に、同情しながら見守り続ける。
「ところでさ・・・前沢って・・・」
「ん?なんだよ」
「だ・・・誰かと付き合ってたりしてるの?」
「へ?いいや。そんなわけねーよ」
「そう」
悠斗の返事とともに楓が笑みを零しながら悠斗を見据える。
それに面食らって悠斗は顔を赤く染め、顔をそらしていた。
それを見て胸が痛み、悲愴な面持ちになる。
その表情を隣で見ている人がいるとは気づかずに・・・
*****
初めての出会いは啓太を通してだった。
それからたまにする会話までいつも三人でばかりだった。
たまに話すくらいなのにその短時間がとても意味のあるものになって、いつの間にかこの人を意識しだした。
この人と一緒に過ごす時間が待ち遠しくなった。
けれども同時にこのままではだめだとも思い始めた。
だから今日は思い切って買い物に誘ってみた。
このまま親友の幼馴染としてではなく一人の女の子、水谷楓として見てもらうために・・・
「水谷?」
「へ?」
突然の呼びかけに素っ頓狂な声を出してしまった。
「大丈夫か?気分とか悪くない?」
「ななな何でもないの。大丈夫だから気にしないで」
「そうか?もし気分が悪くなったら遠慮なく言ってくれよ」
「う・・・うん。ありがと・・・」
ああぁぁぁ、私のバカ!どうして前沢に心配させてんのよ!
自分のドジっぷりに嫌気が差した。
けれども、また前沢の優しさに気づいてしまった。
この気持ちはより一層深まってしまった・・・
・・・うん。決めた。
彼に水谷楓として見てもらえるようになろう。
そしてこの気持ちをありのまま伝えよう・・・
*****
特にトラブルもなくいい雰囲気で買い物が終了し二人が別れたのを確認してから、隠れていた壁にもたれ、息をついた。
「はぁー。尾行って大変だな」
「今日のは人通りの多いところだったから楽だったと思う。いつもの尾行はもっと大変」
・・・今、目を光らせながら聞いてはいけないようなことを聞いたような気がした。
まあ、今日はもう体力が残っていないので深くは追求しないけど・・・
「今日はもう帰るか。家どこ?送っていくよ」
「別にいい。高山の方が疲れているようだから」
多分、最後に主に精神面でと入ってくるであろう言葉。
そんな風な素振りを見せないのは優しさだろうか?
「そうか・・・悪いな気遣わせてしまって」
「気にしないで。それじゃあまた明日、学校で」
気が利くクラス委員長に感謝をしながら、彼女の背中を見送った。
今日はもう帰って寝よう、そう思いながら帰路についた。