Please your money!!(5)
バタン、バタバタバタ……
kalanchoe私立探偵事務所。青年――河村逸樹がソファに寝転がって夢心地になっていたとき、騒々しい音が聞こえてきた。
夢からいきなり起こされた逸樹は若干不機嫌になりつつ起き上がろうとしたが、その前にいきなり電気がついた。何事かと慣れない明りに顔をしかめながら周りを見渡す。ドアの前には荒い呼吸を整えようと必死な京佑の姿。
「……何事?」
逸樹はぼさぼさの頭をかきむしりながら京佑に尋ねる。しかし、当の京佑はそんな逸樹の質問も耳に入っていないようだ。肩で息をする京佑を一瞥し、もう一度逸樹はため息をついた。
「何、その、ため息……。」
「良い大人が激しい運動するとそうなるんだなあって。」
「あれ、ひょっとして、呆れてます?」
「感心してます。」
逸樹は大きな欠伸をしてからいつものように冷静に言い放つ。ふざけているのかからかっているのか、真面目なのか。そういうところに掴みどころのない奴――それが河村逸樹と言うやつだと京佑は長年の付き合いから理解しているが、こういう時に冗談を言われると結構くるものである。俺だって昔は、と言い訳をしようかと思ったが、その前に逸樹の言葉に区切られてしまった。
「……で?」
「でって?」
「何でそんなに焦ってるんだ? 幽霊にでも襲われた?」
あー、と言葉を濁す。どう説明したらいいのか分からない。通りすがりの女子高生を助けようとしたのに逆に逃げ出したと言う究極的な黒歴史をよりによって逸樹に教えたらどんな反応をされるだろう。て言うか、彼が女子高生という単語を聞いたら変な事になりかねない。とりあえずどうしたらいいのかわからなくなった京佑は、一応思いついた婉曲的表現を用いてみた。
「鬼のような強さを誇るLv.250の女子高生に一喝された。」
「は?」
案の定、逸樹は訝しげな表情になるばかりである。京佑はその視線から逃れるように、ソファに腰掛けた。思い返してみるとあまりにも中二病的な発想の発言だ。京佑は途端に恥ずかしくなり、次から何を問われても素直にいおうと思った。しかし、尋ねられた質問は意外なもの――否、半分予想はついていたものだった。
「それはどんな女子高生?」
目が異常にキラキラしている。輝いている。やはり女子高生に反応してきたか、と、京佑はなかば呆れかえった。しかし一応黒歴史について触れられなかったので、そこで話を膨らませておこうと思いついて返事を返してみた。
「明るい茶髪のショートカットの女子高生だよ。真面目そうだったんだけどさ、口開くとめちゃくちゃこえーの。声低いし。怖いし。」
「……京佑。」
「Lv.-250の勇者きょうすけには叶わない相手だったんだよ。魔王ヤンキーJKは。」
「京佑。後ろ、後ろ。」
逸樹が苦笑交じりに後ろを指差す。京佑は何だよ、と渋々後ろを見た。
瞬間、京佑は凍りつく。
「ただいま帰りました。」
「……魔王降臨しましたけど、何か?」
そこには従業員の涛川凡治良と先ほどの女子高生が居たのである。