Please your money!!(4)
少女はすごんだ後、揺れるように男子高校生たちに近づいた。彼らは少女の気迫に押されたじろぐ。しかし少女はお構いなしに男子高校生たちに詰め寄った。
「慰謝料って何だか知ってる? 生命、身体、自由、名誉、貞操とかの不法行為を侵害した時に出す損害賠償金だよ? 私、あなたたちの息の根とめました? ぶつかって骨折でもさせました? 監禁しました? 公衆の面前で恥ずかしい過去を言いました? 犯しましたか? 人道外れたことしました?」
よくそんなに口が回るなあと感嘆するくらいの饒舌さに、俺も男子高校生たちも口をぽかんとあけてあっけにとられていた。その間に少女はまだ続ける。
「慰謝料がどういうものか知らないくせに、でかい口叩いて金巻き上げようとしてさ。しかも、私に。……ばっかじゃないの。」
「んなっ!?」
今のセリフは聞き捨てならないようで、男子中学生も開いた口をようやくふさいで反撃に入った。
「んだとこらァ! お前……お前それがメイヨキソンだァァァァァ! 慰謝料払えェェ!」
「そうだそうだ!」
反撃なのだろうか。男子中学生たちが涙目なのはひとまず置いておいて、これは反撃と言えるのだろうか。
男子中学生たちが窮地に追い込まれているにもかかわらず、少女は彼らをもっと追い込むように言い返してきた。
「おめーらが払えよ。」
「え?」
「だから、あんたらが、慰謝料払って。私に。」
……絶句である。青年も、男子中学生も。
まさかそこからそう言う反撃が来るとは思わなかった。て言うか、彼らとやってること変わらないことに誰も気付かないところが怖い。
「私はさっきの脅しで心も傷ついたし、あれは人道外れたことでしょう? お金が無いと立ち直れないから、お金頂戴?」
男子中学生たちは涙目だ。反論しようとしても彼女の口には勝てない。絶対に。それがわかっているからこそ、彼らは何もできず、その場を去っていった。
「……チッ。」
少女は男子中学生たちの後ろ姿を見送るなり、お金をもらえなかったことに対してか彼らの貧弱さに失望したのか(前者が90%だと思うが)、呆れたように舌打ちをかました。しかも結構不機嫌な様子で。
その姿を一通り見ていた青年は目の前の事実を否定するように首を振る。
「(いやいやいや……。)」
一見か弱そうに見えた普通の女子高生。そんな彼女が守銭奴でヤンキーだったら、誰でも驚くに決まっている。かくいう青年もそのひとりであり、その顔に苦笑を浮かべながら彼女をじっと見つめていた。
と、いきなり少女が振り返った。帰路につこうと思ったのだろう。しかし何気なく振り返ったそこには青年の姿があったのだ。青年がヤバいと思った時には時既に遅し。視線を外そうと思った矢先、彼女と目があってしまった。
「……何か?」
不機嫌な少女の声が商店街に響く。青年はその声に驚きまごつき、冷や汗がこめかみに流れるのを感じた。少しの沈黙の後、青年はやっと声を絞り出す。
「いや、何でも。あははは……すいませんでした。」
大の大人が、何もしていないのに女子高生に謝る。何とも情けない光景である。青年は誰も道を通っていない事に内心感謝しながら、足早にその場を去っていった。
少女は何故か足早に去っていった青年を不穏に思いながら、今度こそ帰路につこうとした。なんか疲れた、そうため息をついた少女の視界の端に紙切れがうつる。よく見ると、名刺であることが発覚。少女はなんとなくそれを拾ったのだが、そこに書いてあった文字は意外なものだった。
「”kalanchoe私立探偵事務所”……皆同京佑?」
住所と探偵事務所という文字が見えた瞬間、少女の脳裏に一つの考えがよぎったのだった。