Please your money!!(3)
今日の仕事は見も心もドロドロしそうな仕事だった。と言うより、実際今正しくどろどろした気持ちになっている。青年は憂鬱な気持ちをそう表現した。
その原因は、私立探偵の仕事ではお馴染みの“浮気調査”だ。今回のはまさにどろどろ…てかモヤモヤした、とにかく腑に落ちない気持ちにかられる仕事だった。奥さんが夫疑って依頼しに来た上、身辺調査から何から何までして結局五人も愛人見つかったし、途中で奥さんも浮気してた事が発覚したのだ。
「(世の中腐ってやがる。俺ァ所帯持ったら、絶対朝昼晩と三食共に飯を食おう。献身的な旦那さんになろう。)」
1人でそう決心し、お堅い格好だったスーツ姿を着崩す。夕方の風は涼しく、とても気持ちが良い。が。
「はー…。」
1つ、深いため息。秘書の逸樹は資料の処分に向かってるし、従業員の凡次良はあのまま家に帰ってしまった。青年は1人、この憂鬱な気持ちのままで事務所に帰らなければならない。
誰かこの黒いどろどろをとってくれ。まとわりつく口の中のねばねばみたいな……って、俺は別にそんなんなった事ないから。口から臭いなんてしないから、してもミントの香りだから!
なかば独り相撲みたいな葛藤を続けていても、別にストレス発散になる訳でもない。何かストレス発散するものはないのだろうかと青年は考えた。そしてふと辺りを見渡すと、聞こえたのは高校生の男子の怒声らしきもの。
「さっさと金出しゃァ良いんだよ!」
明らかにカツアゲ現場である。
丁度良い。青年は腕を鳴らして彼らに近づいていった。弱き者をいじめてはならない、ってのを身を持って教えてやろう。所謂不可抗力だ。
どんどん近付いていくと、チャラい男子の真ん中には、少女がポツンとうつむいていた。少し居たたまれなくなり、青年が声をかけようとした瞬間――やけに通った少女の低い声が響く。
「うるさいって言ってんのが聞こえないの。うるさい。大声出せばビビると思ってんの?」
沈黙。ヤンキー顔負けのド迫力。否、ヤンキーとは質が違う、本当に「怖い」迫力。少女は可愛らしい顔を鬼神のように歪めて、鋭く男子高校生達を睨んだ。だが声音は静かで威厳があり、相手に有無を言わせないような迫力をまとっていた。
……俺はその光景を見て、絶句した。そして、心の底から感じたのだ……。
――憂さ晴らししようとした天罰が下ったんだ、きっと。