Please your money!!(2)
ドン、
「いってぇ!」
肩の違和感と共に男子中学生のわざとらしい声がきこえた。振り返ったら数人の男子中学生がこちらを睨んでいる。とどのつまり、急ぎ足で歩いていた私が男子中学生と接触してしまったのだ。
「……すいませんでした。」
私は彼らに頭を下げて、足早にその場を去ろうとした。このままここに居ていては厄介なことになりそうな気がする。
だが、去ろうとした私の肩にまた違和感。今度は1人の男子中学生が私の肩をつかんでいた。
「ちょっと、ぶつかったのに謝りもせずいっちゃうわけ?」
お前の耳は節穴か、謝っただろうがバカ野郎。イラッとしながらそんな悪態をつく。口に出す勇気は無いので心の中にとどめておくが。
素直に謝っとくか――……。けど、ここでごめんなさいと言うのも癪だ。
私がそんな事をぼんやり考えてるうちに、私にぶつかってきた少年がこちらに歩み寄ってきた。わざとらしく肩をぷらぷらさせながら。
「痛かったんだけどォ。慰謝料払ってくんねェ?」
……今時ぶつかり屋なんて本当にいるんだな。古風だ。
私は夢みたいにその光景を見ていたが、もたもたしている間に男子中学生に囲まれてしまった。
「だーまってちゃー、わっかんないんですけどー。」
ガン、とゴミ箱を蹴る彼らに嫌気がさし、ちっと舌打ちした。大きい音を立てればこっちがビビるとでも思っているのか。
「聞こえるように言えばいいんですか。ごめんなさい。」
じゃあ、と彼らをすり抜けて去ろうとしたら、さすがにまずい対応だったのか、後ろから彼らが追ってきて、私の事を取り囲んで喚き始めた。
「アンだとゥォォ? ナめたクチきィィてんじゃねェエズォクソアマァァァ!」
「スァっさとキャネだしゃァいーーんだよ!」
――金?
意味のわからない言葉の羅列で脅してくる彼らに、さすがに堪忍袋の緒が切れる。そして何より、この私から金を巻き上げようとしていこと事態が愚かだ。意訳、私から金を巻き上げようなんざ1億年早い。
「……るさい、」
「あァ?!」
「うるさいって言ってんのが聞こえないの。うるさい。」
……沈黙。彼らが黙ったことで一気に静まり返った商店街には、重い空気が流れていく。
「大声出せばビビると思ってんの?」
そう言えば、男子中学生たちは驚いて黙ってしまった。
駄目だ。慣れてないな。こいつら。私は一人一人彼らを眺めた。
”なりたての不良は喚くだけ喚いて手は出してこない上に言い返されることになれていない、基本バカだから。”
――と、お母さんが言っていたことがあったような気がする。
彼らがまさにそれだった。何もできずに戸惑っている彼らを見て、私は勝利を確信した。だから気付かなかったのだ――私を助けようとしていた、青年の姿に。