エイプリルフール
読んでいただきありがとうございます。
エイプリルフールということで『嘘』を使った短編小説を久方ぶりに書いてみました。
二話完結ですので、是非お付き合いください。
今日は年に一度やってくる嘘をついていい日。
俺が今日つく嘘は決まっている。もちろん誰も傷つかない嘘だ。
「おはよ、夏樹、冬馬。そういや今日テスト無いらしいぜ」
「なに言ってんのアキ」
「テストのために四月になってすぐに学校来たっていうのに。じゃあ今日何するんだよ⁉」
朝の挨拶のあと、真剣な表情をして俺は言った。
せっかくの嘘だ。エイプリルフールとはいえすぐバレるのは面白くない。少しくらい騙してみたい。
「あー、そういや今日エイプリルフールか。そんな見え見えな嘘誰も信じないって」
「いやいやマジだって」
「はーい皆おはよう。席に着けー」
俺が嘘を塗り重ねようとした瞬間、教室の扉が開いた。あくびをして出席簿で肩を叩きながら担任が入ってくる。
そして、言った。
「突然ですまないが、今日のテストは無くなった」
担任の一言で教室が一瞬静まる。
遅れてどっと声が上がった。
「え、まじで⁉」「ラッキー!」「勉強してなかったんだよあぶねー!」
教室が喜びの声で溢れている中、前の席の冬馬が俺のことを見てくる。
「アキの言うことマジじゃん」
「え、お前知ってたん?」
「あ、あぁもちろん。そんで皆喜んでるけど、実は一週間後に延期になったんだよね」
俺がそういった途端。
「喜んでるところ悪いが、中止じゃなくて延期だからなー。解答用紙のマークシートがまだ届いてないから延期になった」
「えー、そりゃないよ先生!」「上げて落とすなんてサイテー」
今度は夏樹が俺のほうを見てくる。
ニヤニヤして、マジックの種を明かしたみたいに。
「さてはアキ、職員室で聞いたんだろ」
「あー、だから知ってたのか! 逆エイプリルフールってやつね」
「いや、なんだよ逆エイプリルフールって、聞いたことないわ」
本当だ。俺はテストがなくなることなんて知らない。ジャブ程度に適当に放った嘘だ。
――本当になった?
いや只の偶然だろう。
「てか今日これから雨降るらしいけど、お前ら傘持ってきたか?」
「いや嘘下手すぎだろ、こんな雲一つない快晴で」
「冬馬、アキは必至に嘘をついているんだから茶化すのは――」
「いや、悲しくなるから! そうだよ天気に関してはう――」
嘘だよ! と言った瞬間、いやちょっとだけ早かったか。ゴロロロロロと低く唸るような音が響く。そしてビカッと光が走った。
いつの間にか雲が空を覆っている。
――なんだこれ。
「え、今度もほんと?」
「アキ今日預言者じゃん」
「え、いや、……え?」
俺の嘘が本当になっている? 偶然か? 今日雨雲レーダー見てなかったし、偶然が二度続いた可能性もある。
このままいけばもしかしたらちょっと大きな嘘も信じ込ませれるんじゃないか?
そう思った俺はポーカーフェイスを作る。急な天気の変化に驚いている二人にさも当然のように言った。
「まぁ天気のことは置いといて。実は今年度転校生くるらしいぜ」
「「なわけ」」
「いやマジマジ。春っていうめちゃんこ可愛い女の子。たぶん今日先生から告知されるぜ」
今度の嘘はさすがに現実で起きないだろ。ちょっとスケール大きくなったしな。
即看破されたのは悔しいが。
教室が若干静かになったとき先生が口を開いた。
「そんで実は今年度からうちのクラスに転校生がきます。じゃ、入ってー」
絶句した。いやいやこれもたまたま――
教室の扉が開き、一人の女の子が入ってきた。見慣れない制服だ。これだけで転校生だとわかる。
美しい黒髪の娘だった。立ち姿や身のこなし方が静かで綺麗で、視線を奪われるような。
俺が呆気に取られているとその娘は黒板に綺麗な字を書き、そしてぺこりとお辞儀する。
「寺本春です。仲良くしてください。よろしくお願いします!」
「転校生⁉」「マジか! しかもめっちゃ可愛い!」「春ちゃん! よろしくね!」
またも教室が騒がしくなる。
驚いたのか春は目を丸くして、そして笑った。ニコッと笑うとえくぼができて、素直にかわいいと思った。
いや、まて。そうじゃない。
冬馬も夏樹も俺を信じられないものを見るような目で見てくる。
「お前、マジでなにかやったか……?」
「……こんなことある?」
俺が聞きたい。
教卓のほうを向くと、春と目が合った。愛想笑いのような、でも美しい笑みを返される。
実在してるよな……? え、どういうこと?
「ちょっと気になるからもう一つくらい嘘ついてみてよ」
「おい夏樹、それはまずいって。ほんとになったらどうするんだよ」
「いや、ここまでアキが言ったことは現実に成り得るものだった。転校生の春さんが来ることも含めてね」
一呼吸おいて夏樹は続ける。
「じゃあ現実に起こらないことを言えばいい」
「そうはいってもな。例えばどうするんだよ」
「そうだな……」
夏樹はしばらく考え込み、手を叩いた。
「僕が飛び降りる、とか?」
「いや危ないって! 何言ってるんだよ夏樹」
「僕は死ぬ気なんて微塵もないし、窓もしっかり施錠されている。もし僕が飛び降りようと窓に近づいたらアキと冬馬が身体を張って止めれば大丈夫」
「いや、そうはいってもだな」
これは嘘だ。ただ偶々《たまたま》当たっただけ。
検証の意味を兼ねて言うのも冗談で済まされるはず。
「本当に言う?」
「うん。身をもって検証するのが僕の性にあうし」
「オカルト研究会の会長はぶっとんでるな……」
冬馬は肩をすくめる。
俺は絶対真実になるなと願いながら言った。
「夏樹が今窓から飛び降りる」
言った瞬間窓の鍵がカチッと音を立て解除されひとりでにスッと開いた。
外の雨が暴風とともに教室になだれ込んでくる。
一瞬だった。
「夏樹!!!」
冬馬が叫ぶ、だが間に合わない。
普段の夏樹では信じられないような狂気的な笑みを浮かべながら夏樹は全速力で窓際まで走り、そのままダイブ。
一瞬遅れてドンっと音がした。
「キャァァァァァァ!!!!!」
教室がパニックになる。雨は降り続け、俺の顔を濡らす。
冬馬が俺の肩をゆさぶって叫んだ。
「今の嘘って、嘘を嘘で取り消すことはできないのか⁉」
そうだ、嘘を嘘で塗り替えれば。
嘘は塗り替えられる。当たり前だ。
「今の嘘! 夏樹は飛び降りてない!」
だが何も状況は変わらない。窓から入ってくる雨が容赦なく俺に降りかかってくる。
そういえば、天気が悪くなると嘘をついたとき、どうなった?
天気は変わってなかったよな。
「ついた嘘が起こったあと、嘘って言っても巻き戻せない……?」
「うそ、だろ……ッ」
冬馬が教室を飛び出す。夏樹を救いに行ったのだろう。
先生は救急車を呼んでいて、クラスメイトは開いている窓から身を乗り出してみてる。
どうしたらいい?
考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ!!!
そうだ、全部俺が言った嘘が本当になるなら。
これ以上のスケールの嘘をつけば上書きされるんじゃ⁉
できるのかわからない。
これでいいのかわからない。
でもやらないと。
嘘を嘘と言うのではなく。
嘘をそれ以上の嘘で上書きする!
俺は息を吸い、力を込めて叫んだ。
「今日は3月31日だ!!!」
言ってすぐ目を閉じる。
どうなったのだろうか。成功したのか?
急に静かになった。
俺は恐る恐る目を開ける。
そこには誰もいない教室が広がっていた。
雨も降っていないし、もちろん教室も水浸しじゃない。
スマホで日付を確認してみる。3/31と表示されていた。
「助かったのか……」
俺は安堵のため息をつき、床にへたり込む。
その時先生が入ってきた。
先生は不思議な顔をして俺に言う。
「秋人、登校日は明日だぞ? そんなに学校待ちきれなかったのか?」
「あ、いえ、いや、まぁそうなんですかね。すいません、今帰ります」
まだ心臓がバクバク言っている。
これは夢なのか? いや、こんなリアルな夢あってたまるか。
学校から出て冬馬と夏樹に電話した。二人ともすぐ出てくれ、突然安否を確認する俺を不思議がりながら笑う。
「よかった……」
□■□■
「おはよ、アキ」
「おはよう、どうした? 寝不足か?」
「ああ、おはよー。ちょっと怖いことあって眠れなくて」
昇降口で出会った二人に挨拶し、靴を履き替え三人で階段を登る。
今日は二度目の4月1日。
今日は俺は絶対に嘘をつかない。
またほんとうになったら怖いしな。
「二人には黙ってたんだけどさ」
「どうしたの冬馬。改まって」
「実は俺、彼女できた」
「「はい嘘」」
「えええ⁉ 即??」
そんな会話をしつつ教室に入る。席に着いたとき先生が入ってきた。
「はーい皆おはよう。席に着けー」
昨日と同じセリフ。
背筋が伸びる。
だがそのあとに続いた言葉は昨日とは違かった。
「今日はテストを午前中に行うから、机の上綺麗にしとけよー」
「えー」「俺勉強してねぇやべぇ!」「エイプリルフールネタだと思ってたのに」
クラスの反応も昨日と違う。
俺は心底ほっとしてため息をついた。
「あーあと、このクラスに今年度から転校生が来る。じゃ、入ってー」
あぁこれは本当の出来事だったのか。
テストの件が俺の嘘だったことを確認できたから、素直にそう思える。
入ってきたのも昨日と同じ女の子。
綺麗な顔立ちも長くて美しい黒髪もそのまんまだ。
「寺本春です。仲良くしてください。よろしくお願いします!」
そういってお辞儀する春。一瞬目があったのは気のせいだろう。
「じゃあ春さんの席は、そうだな。……秋人の後ろで」
「えっ?」
ずるいーと他のクラスメイトの声の中、彼女は俺のほうへ来る。
そして席の横に鞄をかけ、座った。
とりあえずなにか言ったほうがいいよな。
「初めまして、秋人って言います。よろしく」
「寺本春です。一年間だけだけど、よろしくね。秋人くん」
ニコッと微笑み、えくぼが見える。かわいい。
「転校してそうそうテストなんて大変だね」
「ううん、編入した時もテスト受けたし、勉強はちゃんとできてる、と思う? から」
「ははっ、なにそれ。ちょっと不安じゃん」
「それよりも秋人くん」
春は俺のほうに身を乗り出し、耳元でささやく。
「今日は嘘、つかないんだね」
「――――えっ」
ふふっと彼女は笑う。
俺は対照的に顔が引きつっていた。
「もしかして昨日のこと」
「今日のこと、でしょ?」
――エイプリルフールだし。
読んでいただきありがとうございました!
楽しんでいただけたら幸いです。
おもしろい!と思ってくれた方評価してくれると嬉しいです!
ありがとうございました。




