短編版 特殊部隊PCT ~表の世界の君へ、裏の世界の僕らから~
いざ、裏の世界へ………
時は1868年、坂本龍馬ら土佐藩の策略により幕府が大政奉還。
徳川200年の歴史に終わりを告げる。
そして、新政府が作られ大日本帝国憲法が作られる。
そこからの日本はまるで飛ぶ鳥を落とす勢いだった。
1894年 日清戦争 1904年 日露戦争と勝利を続け、
第一次世界大戦でも日本は勝った陣営についていた。
いつしか日本は不敗の国となっていた。
だれもが自国をたたえ、誇りに思った。
しかし、我々は道を踏み間違えてしまう。
1937年 満州国建国により始まった日中戦争。
1941年 真珠湾攻撃からの太平洋戦争。
この二つの戦争に日本は追い込まれ.......
1945年8月5日 2つの原爆を落とされ日本は降伏する。
多大な被害を出した第二次世界大戦。
再発防止のため日本にはマッカーサー率いるGHQが派遣される。
行われていく政策.....その中に日本国憲法があった。
日本国憲法の三大原理の一つ平和主義。
これにより日本は他国との戦争を禁止されてしまう。
そんな中起こった朝鮮戦争。
いつ巻き込まれるかわからない中、GHQは警察予備隊の設置を認める。
というのがざっとしたもので、みんなが知っていることだろう。
しかし、考えると警察予備隊だけでは防衛量が足りない。
焦った日本はここで各国に秘密裏に特殊部隊を結成した。
その名をPCT[平和調査組織]通称名、パケット。
国の中から選んだ天才を集めた組織で、この時期は警察予備隊の下に配属していた。
しかし、朝鮮戦争の休戦により本格的に始動し始める。
国内や各国の問題を秘密裏につぶし、日本に安全をもたらす。
それがこの組織の目的であり、使命なのである。
そして、日本国憲法施行から80年がたつ。
◇◇◇◇◇
キーンコーンカーンコーン‼
風通しの良い素晴らしい天気のなか、校庭にチャイムの音が鳴り響く。
「おっし!ちょっくら一本行ってくるわっ!」
そんなことを言い50メートルトラックをゆびさす男。
名は服部賢雄という。
中学3年生である彼は今、体力テストを受けている。
とても活発で頭もまぁまぁな、いたって普通の.........ではない。
ピッ!笛の音と共に賢雄は走り出す。
彼の走りはまるで風を切るように速かった。
隣を走っていた友人は6メートルぐらい後ろにいる。
別に友人が遅いわけではない、賢雄が速すぎるのだ。
「賢雄、5.8な。」
賢雄がゴールすると、ゴールライン横の先生が賢雄にタイムを言った。
言ってる先生も先生だが、これが当たり前なのかしれっと言っている。
大体5.8秒は全国の短距離走でもぶっちぎりレベル。
そんなバカに足が速い賢雄。
彼の快進撃はまだとまらない。
その後の立ち幅跳びも256センチ、長座体前屈は78センチ。
もうお分かりだろう。
彼はこの宮下中学校で神童と呼ばれている男。
中1はもちろん、中2でも体力テスト全国一位を誇る。
「これで一通り終わった?」
一緒に種目を回った友人に賢雄は問う。
「あぁ、全部終わったぞ.....っていうか、相変わらずすげぇな。」
友人はそう言い賢雄が手に持っている記録用紙に目を落とした。
全部の項目がAの評価であり、このままいけば三連続全国一位もあるだろう。
「いや~今回どうかな.......なんか心配になってきたわ。」
「ふざけんなよ......俺がお前の記録だったらみんなに自慢しに行くわ。」
友人は鼻息を荒くしているが、そこに体育教師から声がかかる。
「賢雄!お前もう最後のあいさつしなくていいから校長室行け!」
「えっ、俺なんか問題でも起こしました?」
そう先生に言われて焦る賢雄だが、心当たりは何一つない。
「いいから、行け!」
先生はそう言うばかり。
「あちゃ~、なんかしたか賢雄?」
「え~?俺何も心当たりがないんだけど......」
「まぁまぁ、胸に手を置きながら校長室でしかられて来い。」
そう言い友人は賢雄の背中を押し、カラーコーンを片付けに行ってしまった。
「行かなきゃ..............ダメなのか.......?」
賢雄は怒られると落胆している。
顔色は先ほどと違い、蒼白になっている。
顔色的にいかにも校長室より先に向かうところがあると思うが………
彼は昇降口で靴を履き替える。
その間も友人からのアドバイスを忘れずに、ずっと胸に手を当て自問自答。
しかし、ぶつぶつ言っている間にもう校長室の前まで来てしまった。
「なにも..............やってないよな?」
賢雄は自分に再度問いかける。
「まぁ、最近やったことは寄り道ぐらいだし怒られないだろ。」
そんな気持ちで賢雄はドアを3回ノックする。
「どうぞ。」
間髪入れずに返ってきたその声に怖気づくもゆっくりとドアを開ける。
「し、失礼します。」
顔をドアから少し出し中を覗くと
向かい合って校長先生と黒い服を着た眼帯をつけた
暗い青髪の細身の男が座っていた。
眼帯の男の後ろにはサングラスをかけた屈強な男が二人、仁王立ちしている。
「さぁ、服部君こちらに座って。」
校長先生に誘導され、隣の椅子に座る。
なんだか指導とは違う感じにびくびくしつつも賢雄は聞く。
「あの~..............僕はどんな用件で呼ばれたのでしょうか?」
「あっ、別に怒ってるわけじゃないよ、服部君。
少し用があってね.......では後はよろしくお願いします。」
気遣ってくれたのか校長先生がしっかり目を見ながら話してくれた。
そして目の前にいる眼帯男に後を託す。
「....ん”っ、ん.......まずはごめんね急に呼び出して。」
咳払いをして話し始めた眼帯男はそう言って頭を下げる。
すると後ろの二人も同時の頭を下げる。
それに賢雄が驚いていると、眼帯男は話を進める。
「まず、自己紹介からだね......僕の名前は七里怕維人っていうんだよろしくね。」
明るく爽やかな声であいさつしてきた怕維人は賢雄へ手を伸ばす。
「あっ、よろしくお願いします。」
ワンテンポ遅れた賢雄が怕維人の手をつかむ。
「........うん。間違いないね。」
「?」
「あぁ、ごめんね。少し手の骨格を確かめたんだ。
運動できる人の手の骨格は似ているからね。」
「..........はぁ。」
意味も分からないまま納得していると、怕維人は真剣な顔つきになり
積極的に話をしようと前のめりになる。
「では、少々話がずれてしまったけど本題と行こうか........
突然だけど賢雄君、君の過去のデータを見たけど
君は体力テストで二年連続で全国一位を取っているね?」
唐突にそんなことを聞かれ、頭が真っ白になる賢雄。
「?......はい。そうですけど........」
「君...........その力を人の役に立たせたいと思う?」
突然すぎて頭の思考が止まる。
「まぁ、役に立てるなら。」
そう賢雄があっさり答えると、場の雰囲気が変わる。
「うん。じゃあ質問を変えよう..........
君が将来その力を役立たせたとして、死んでも後悔はない?」
「えっ?」
室内の空気が凍る。
目の前の男は今『死』というワードを出した。
冗談?賢雄はそう思った。
「えっ、ちょっ、やだな~そんな冗談。
僕あなたのこと知らないですけど、そんな冗談とか好きなんですか?」
賢雄がおかしくなってしまった場を濁そうとする.......が、
「うん。...........マジだよ。
もう一回聞くよ?..............人の役に立つために死ねる?」
空気がさらに重くなる。
怕維人から浴びせられる目線に賢雄は恐怖を感じる。
まるで応答次第では息の根を止められてしまうほどに。
「.........そ、そんなのできるはずない。だって僕には家族がいるし、友達もいる。
僕だったら家族や友達が死んだらとても悲しいですし、
僕は第一優先に身近な人の幸せを大事にしたい。
人を助けて、誰かが悲しむならそれはもう人助けじゃない。」
賢雄が真っすぐ、勇気を振り絞り叫んだ。
すると、怕維人の真剣な表情が崩れ、笑みがこぼれる。
「..............そうか。そんな選択肢もあるね……うん。いいよ、合格だよ。」
「..............?」
怕維人から言われた突拍子もない合格という言葉。
その言葉に賢雄の頭は混乱に陥る。
「ごめんね。ずっと君のこと試してたんだ~。」
「えっ?どういう.........」
急ににこやかな顔になった怕維人に賢雄が言う。
「これは入学テストみたいなやつでね、それに今、君は合格したの。
まぁ、君の場合は推薦入学だから関係ないけど...........
改めて僕の名前は七里怕維人。国立パケット専攻養育高等学校で先生をしてるよ。」
「...............ぱ、ぱけっと?」
今まで聞いたことのない単語に賢雄は困惑する。
「あぁ~、説明してなかったね。
PCT、平和調査組織.......通称名、パケット。
この世界で起こりうる日本に関係する問題を未然に防ぎ解決する組織さ。
その組織のメンバーとなるための教育をする学校だよ。」
怕維人はペラペラしゃべりだしているが、賢雄は全く状況が読めていない。
「あの~、えっと、つまり、ぼくにその学校に入れと?」
「そうそう!吞み込みが早くて助かるね。」
怕維人はにこにこしているが賢雄はまた質問をぶつける。
「.......先ほど言った、問題を事前に防ぐって具体的には.......?」
「う~んとね。わかりやすいのはね..........
あっ、2001年に起こった同時多発テロって分かる?」
「あ~、あの飛行機がビルに突っ込むやつですか?」
「そうそう。そのテロなんだけどほんとは4件じゃなくて
23件起こるはずだったんだ。」
「23件⁉」
賢雄は眼を見開き怕維人を見る。
おかしい。そんなことは教科書に書かれていない。
「で、まぁ被害は出ちゃったけど4件に抑えたっていうやつかな。」
「それって日本関係なくないですか?」
「いや、バリバリ関係あるよ。」
「そうなんですか?」
そう賢雄が疑問に思っていると、怕維人が続ける。
「うん。アメリカがそれで没落すると経済が回らなくなって恐慌が起きるからね。
あと最悪の場合ロシアが攻めてきて、第三次世界大戦もあったね。」
「そ、そうなん.......ですか?」
スケールがだんだんとでかくなり、脳が回らなくなってくる。
しかし、わかったことが一つある。
怕維人この男が言っていることは本当だ。
そして、もう一つ.......
「.......その任務を参加した人の中に、生きて戻れない人もいますよね.......」
その言葉を出すと怕維人の顔が曇る。
「.......うん。大勢いるよ。」
「そう....ですか。」
「でもっ!」
そう言って怕維人は立ち上がる。
「俺らがお前たちを絶対守り抜く、そして見届ける!
卒業し、お前らがパケットで働き始めるその日までな!」
そういうと親指を立ててグットポーズを作る。
しかし、はっとした怕維人は話を続ける。
「........まぁ、とりあえず大丈夫だよ。俺の視界内だったら絶対死なねぇよ。」
怕維人は恥ずかしそうにゆっくりと座り、一つ咳払いをした後に賢雄に問う。
「賢雄君、君の才能は申し分ない.......ぜひ入学を考えてくれないか?」
「..............い、いやです。」
賢雄は下を向き、暗い表情で答える。
「僕には......!」
「あぁ、いい!全部言わないでっ!」
賢雄の話を遮り、怕維人が耳をふさぐ。
「まぁ、なんだ?......
家庭の事情とかもあるし、まだ5月だからいきなりっていうのもね。
君には僕と違って時間はたっぷりある。
君の人生だ。君が自分の道を決めたほうがいい。
それでもっ!もしっ!興味がわいたら......」
そういうと怕維人は紙を取り出し、何かを書いた。
「はいっ!これ俺のTEL番!電話してね。」
電話番号を賢雄に渡すと怕維人は立ち上がり......
「それでは失礼します。」
挨拶をして校長室から去っていった。
「........先生、失礼します。」
用がなくなり、居心地が悪くなった賢雄は退室しようとドアを開ける。
「待って、服部君!」
その背中を校長先生が呼び止める。
「..........君の事情も分かっている。
それでもっ!ぜひ考えてみてくれ!」
「..............検討しておきます。」
そう言い、賢雄はドアをゆっくり閉じた。
ドアからは寂しそうなきしむ音がしていた。
◇◇◇◇◇
あっという間に7か月が過ぎた。
赤や黄色が目立っていた校庭の木々の葉も全て落ち、
外は厳しい寒さをまとった風が通るようになった。
「ただいま。」
全身を防寒着に包まれている賢雄が家に帰宅する。
「おかえり、お兄ちゃん。」
玄関の扉を閉めると廊下横の扉からこえがする。
「おい、すず!ちゃんと休んでたか?」
「うんっ!しっかり、羊を数えてたよ。」
「そりゃそうか、ならよかった。」
洗面所で手を洗いながら、会話をする。
彼女の名前は服部鈴はっとりすず。
現在小学4年生である。
茶髪の髪を後ろにまとめていてとてもかわいらしい少女だ。
しかし、顔にはやけどの跡があり、それが目立ってしまっている。
「おなか減ったろ?.....ちょっと待ってて。
お父さんとお母さんに挨拶してくるから。」
「はぁ~い。」
手を洗い終えると、まっすぐ両親の部屋へと行く。
ゆっくりとふすまを開け、部屋の中に入る。
そして部屋の隅にある座布団に座り、手を合わせる。
「ただいま、父さん、母さん。」
チーンという音が消失感をあおる。
賢雄達の両親は賢雄が小学5年生の時に亡くなった。
父と母は同じ会社に勤めており、よく共に仕事をしていた。
そう、本当なら2人とも今でも共に仕事をしているはずだった…………
◆◆◆◆◆
ある日のことだった。
まだ、このアパートじゃなく普通の一軒家で過ごしていた時。
父と母が有休をとり、お出かけでもしようと言った。
「さぁ、どこがいい?どこでもいいぞっ!」
父にそう言われた賢雄は答える。
「よこはまっ!横浜行きたい!」
「あら~、横浜?少し遠くない?」
「すずも、よこはまぁ~!」
「よ~しっ!分かった。横浜に行こう!」
父は自由な人だった。
その日することをその日に決めるぐらいなのだから。
「じゃあ、準備するわね。」
母はそんな父の自由を理解し、尊重する人だった。
それは子供から見ても分かるほど二人は仲良しだった。
そんな2人が.........
準備を終え、しばらくすると父が駐車場から車をとってきていた。
「おっしゃ、いくぞ!乗れ~!」
母はトランクに荷物を詰め込み、助手席に乗った。
一泊するので、着替えが入ったバックはかさばっていた。
そんなバックを見て、賢雄は思い出す。
「あっ.........父さん、母さん、俺忘れ物したわ。」
「何忘れたんだ?」
「ゲームだよ。すぐ取ってくる。」
賢雄は自室に向かって走り出した。
階段を駆け上がり、自室に入る。
「あった!」
自身の勉強机の上にあるゲーム機に目が入る。
それを手につかむと走りだす。
しかし、焦りすぎたのか階段を踏み外し転げ落ちる。
ドンッッ!!!!
「イってぇ~......」
幸い足や手はけがを負っていなかった。
だが、立った瞬間に足首に痛みが走る。
(なんだ?ひねったのかな?)
そんな風に考え、びっこを引きながら玄関のドアを開ける。
「母さん、ごめんっ!......足ひねちゃ............た?」
言葉が詰まる、いや、出てこない。
出てくるはずがない。
皮膚から脳に伝わる、熱いという異常。
今は12月、熱いわけがない。
皮膚とともに目からも伝わる情報。
賢雄はそれを排除しようとする。
しかし、ショックで思うようにできない。
当たり前だ、なぜなら................
さっきまで自分以外の家族が乗っていた車が燃えているのだから。
車から激しく上がる火。
「父さん?.......母さん?.......すず?」
全員呼んだが返事が返ってこない。
いつ?爆発音もなしに?
(まさか.......あのとき?)
そう、不幸にも車が爆発する音と
賢雄が階段から転げ落ちて尻もちをつく音が同時だったのだ。
そのせいで気づくのに遅れてしまった。
家族が........
目の前の熱が思考力を奪う。
(............救急隊)
遅れて出てきたその言葉に賢雄は焦る。
彼はリビングにある固定電話のところへ走ろうとする。
が、痛みがそれを邪魔する。
「がぁ....はぁ、はぁっ!、はぁっ!」
素早くまた一歩また一歩と動かす。
リビングにたどり着き固定電話を探す。
「ない、いつものとこにっ!」
固定電話のスタンドに電話がない。
火事場の馬鹿力とやらは脳にまで働くのか、急に思い出す。
「..............ホテル。」
そう、母がホテルの予約をするために電話を使っていたのだ。
賢雄は覚えのあるキッチンへ向かう。
「あった!」
冷蔵庫の隣の棚に、それはあった。
賢雄は乱暴につかむと......
「あれっ⁉110?119?」
賢雄は混乱するが学校の授業を思い出す。
「レスキューのキューだから119かっ⁉」
震える手でボタンを押していく。
プルルルル!
不幸中の幸いなのか消防とつながることができた。
「はい、火事ですか?救急ですか?」
「火事です!お願いしますっ!両親と妹を助けてくださいっ!」
◆◆◆◆◆
結局両親は助からなかった。
車爆発の原因はエンジンにあったと調査で言っていた。
一日に二人も失ってしまった。
しかし、そんななかでも不幸中の幸いがあった。
それが鈴だ。
エンジンから一番離れて座っていた彼女は奇跡的に助かった。
しかし、一番は両親が運転席と助手席にいたことだと考える。
あの二人がいなければ爆破の勢いが鈴を襲っていただろう。
生き残った鈴だが、体にはやけどが残った。
また、やけどを負った体で抵抗力が落ち、病弱な体になってしまった。
今、鈴は家から一歩も外に出られない状態である。
しかし、一人になっていはlない。
賢雄は鈴を両親が残してくれた遺産だと思い、大切にしている。
そんなことを手を合わせながら考えていると、鈴が入ってくる。
「お兄ちゃん、ごはんまだ?」
「分かったよ。ったく、焦らすんじゃねえよ。」
キッチンへ行き、エプロンを付けた賢雄の視界にある紙が入る。
それは五か月前の怕維人の電話番号が書かれた紙。
それは冷蔵庫にずっと張り付けられている。
(誰かを守るために命を懸ける..........)
この紙を見るたび彼は考えていた。
あの時守れなかったものを、別のことで償いたい。
あの時何もできなかった自分を変えたい。
あの時、あの時あの時あの時あの時....................................
「お兄ちゃん?」
「はえ⁉」
妹に急に声をかけられ、驚いて振り向く。
「どうしたの?.........そんな苦い顔して?...........」
「................ううん。何でもない。献立を考えていただけさ。」
「そう?........それならすずオムライスが食べたいっ!」
「え~?昨日食べたろ?」
「また食べたいの!」
「しょうがないなぁ...............待っとけ。」
「うわーい!やった~!」
そうすると鈴はスキップしながら賢雄の視界から消えた。
「ふぅ~、やるか............」
賢雄は最後にちらっと紙を見ると、冷蔵庫から卵を取り出しボウルに割った。
一個ずつ丁寧に。
妹はそんな兄の姿を壁から心配そうに覗いていた。
◇◇◇◇◇
またもや時は過ぎ、1月になる。
お金がかからない公立の高校を志望とした賢雄。
そんな中でもアルバイトである新聞配達は怠らず、試験勉強に取り組んでいた。
[..........まだ、Bか.......]
賢雄はそう思い、模試の結果に目を向ける。
Bというのはこのまま現状維持で合格できるランクだったが、
賢雄はほぼ確実に受かるAでないことにショックを受ける。
仕送りをしてくれている叔父や、無理なアルバイトの応募を認めてくれたおばさんの
期待を裏切るわけにはいかない。
そもそもこの状況で高校に進学させてくれるというものがありがたいものだ。
賢雄はそもそも就職を考えていたが、叔父がそれにストップをかけた。
そのため、高校を目指しているのだが.........
「この高校やめようかな.........」
そう考えていたところに...........
「どうした?........高校選びで困っているのかい?」
雲を切り裂く風のような、すっきりとした声が部屋に響いた。
それは、8か月前に聞いたあの男の声。
「なんで、なんでいるんですか⁉...........七里さん⁉」
「やぁ!賢雄君おひさ!」
七里怕維人のものだった。
怕維人は賢雄の部屋のドアに身を預けながら、話を続ける。
「いや~、受験勉強に家事にアルバイトって大変だね~。
トリプルコンボじゃん!なにそれ俺だったら過労死すんな。」
「............どうして、ここが?」
学校から賢雄の個人情報でも聞いたのだろうか?
いや、それだったらチャイムを鳴らすはずだ。
家には鍵が閉めてあったはず.......
つまり、誰かが鍵を開けたということ。
賢雄自身が明けていないから、開けたのは...........
「ごめんなさい、お兄ちゃん。」
鈴が怕維人の後ろから顔を出す。
「すず........お前か?」
鈴は申し訳なさそうに首を縦に振る。
「お兄ちゃんがずっと見てた紙の番号に電話したの、そしたら.........」
沈黙が流れる。
数秒がたった後、沈黙を破る声が聞こえる。
「まぁ、とりあえずリビングで話をしようか。」
「あなたの家じゃないんですよ.......?」
◇◇◇◇◇
「っていうわけで、鈴ちゃんが状況を教えてくれたってわけ。」
「なるほど..........あ、粗茶ですがどうぞ。」
そう言い、お茶を出す賢雄。
「あ、ありがとう。」
怕維人はお茶を受け取ると容赦なくぐびぐびと飲む。
「おいしーね、これ。」
怕維人がそう賢雄に投げかけると賢雄は答える。
「お気に召してくれたようでよかったです。
叔父が京都でお茶の専門店をやっているのでよく送ってもらうんですよ。」
「へ~、そうなんだ。」
賢雄はそう話すと、いきなり切り込む。
「話の要件は分かりました。妹が迷惑をおかけしたのもわかっています。
ですが、入学は考えておりません。」
「........そう。」
賢雄がはっきり言うと、怕維人は黙り込む。
だが、何かを思いついたようにまた話し始める。
「ちょうど、5年前か..........」
「?」
「二人に言おうと思ったんだけど.......
たぶん、君達のご両親は事故で亡くなったんじゃない.......
そんなことを言い出した。そして、
....................殺されたんだよ。」
「「!!」」
「まぁ、確証はないけど。」
「それは.........ほ、本当ですか?」
「9割9分ね。」
怕維人が断言する。
「けど、エンジン故障だって.........」
「いや~、いろいろと調べたのよ。まじで褒めてほしい。」
そういうと、机の上に厚いファイルを置く。
そのファイルをある1ページを開き、指をさす。
「エンジンの故障による爆破とかって、
ここに書いてある通り車前方から煙が立ったり、匂いがきついのよ。
で、鈴ちゃんに聞いた話だと、突然爆破した。そうだよね?」
そう言って、鈴に確認をとる怕維人。
すると、鈴はこくんと首を縦に振る。
「そう、で、5年前のその時期ハヤブサっていう探査機が
彗星を調査したんだけど、地球に帰ってきたときカプセルが回収されてね。
発表はされなかったんだけど、その時の回収データが盗まれて
俺らが取り戻すために追跡してたんだ。
で、相手が逃走の目くらましとして車を爆破したってわけ。
鈴ちゃんが爆破する寸前に横に車が通ったって言ってるからね。」
殺された。しかも、目くらましのために..........
腹の底から湧いてくる怒り。
それを抑えようと賢雄は深呼吸する。
「.......その盗まれたデータというのは?」
「彗星の形状や内部にある物質だよ。」
賢雄はさらに問う。
「それはなんで盗まれたんですか?」
そう賢雄が言うと、怕維人の言葉が詰まる。
「...............新しい大陸間弾道ミサイルの開発さ。」
「..........は?」
「盗んだのは、まだ分かっていないが日本国内でないのは確かだ。
彗星の速さは毎秒60キロ.....そんなものが兵器として再現出来たらどうなると思う?」
「..................どう、なるんですか?」
「..............人類全滅だよ。」
「そんな.......」
「まぁ、恐竜が絶滅したのも彗星のせいだって言われてるからね。」
スケールが大きすぎる。
「けどね、賢雄君。
最近その逃走車グループの一人が尋問でグループ名を吐いたんだ。」
「................そのグループってなんですか?」
怕維人は、バックからタブレットを取り出し賢雄に見せる。
「............国際犯罪組織、World Initialization Thought Army。
日本語で世界初期化思考軍。縮めてWITAだね。」
....................世界を初期化。
想像ができない。とんでもない考えだ。
賢雄の脳に大量の情報が流れ込み、背筋には冷や汗が流れる。
「では、本当の本題に入ろう。賢雄君。」
そう怕維人は言うと、タブレットをしまい賢雄の目を見る。
「あの時は事情知らなくて済まない。
俺がこの場所を知ったのも、
鈴ちゃんが賢雄君に好きに生きてほしいから電話したくれたからだ。」
そう言われて、賢雄は鈴の顔を見る。
その顔はまっすぐこちらへと向いていた。
「俺たちの高校は全寮制で、妹さんとも一緒に暮らせる。
そして、俺から理事長に頼んで金銭面の支援を出す。........だからっ!」
ドンッ!と机をたたき、怕維人は立ち上がる。
「来いッ!賢雄!俺らと一緒に日本を守ろう!!」
賢雄は今までこんな人を見たことがない。
最初は、危ないから断った。
妹や、叔父、おばさんのこともあって。
だが....................
「............分かりました。俺が二人の仇を必ず取る。」
こうもなれば、彼は決意を決める。
賢雄の目が怕維人に向けられる。
「.............いい目になったじゃん。」
その目は、はるか遠くを見つめていた。
◇◇◇◇◇
3月16日になった。
賢雄は今まで住んでいたアパートに目を向ける。
苦しい日々を共に過ごした場所。
決してつらいことばかりではなかった。
そんな感慨に更けていると、後ろから声がかかる。
「賢雄!妹さんも送ったから行くよ!」
そう言い、車のボンネットをコンコンする怕維人。
「おやめください。怕維人様..........」
運転席の窓から顔を出しているのは森さん。
「だってさ、賢雄。森さん怒ってるぞ。」
「..........はぁ、あなたに怒ってるんですよ。」
そんな会話をしているのが見て取れる。
ちなみに鈴は体が弱いため、特別な車?というものに乗せられていった。
つまり、賢雄のみ。
「ちょっと待っててください。」
そう怕維人と森さんに言うと........
「.......今まで..........ありがとうございました。」
深々とアパートに頭を下げる。気が済み、頭を上げると……
「おい、早くしないと置いてくぞ!」
「分かりましたよ。」
アパートを背に車に向かって歩き出した。
◇◇◇◇◇
車に揺られること1時間。
賢雄たちは国会議事堂前にいた。
「えっ、学校って国会議事堂なんですか?」
「う~ん。半分正解かな。」
話しながら国会議事堂の中に入っていく。
「.............けど受けてくれてありがとね賢雄。」
「?」
「いや、入学の件だよ。」
いきなり言われたことに驚きつつも賢雄は答える。
「怕維人さんこそこんな僕を誘ってくれてありがとうございます。
けど、たぶんなんですけど....................
僕を推薦した理由って運動神経がいいからってわけじゃないですよね?」
「...........なんでそう思ったの?」
「何となくです。」
「.................君と僕は似てるんだよ。それだけさ。」
そう怕維人と話していると、目的の場所についたらしい。
「ここですか?」
「うんここ。」
その場所とは議事堂の中央広場。
かの有名な板垣退助、大隈重信、伊藤博文の像があるところだ。
すると、怕維人は4つ目の台座だけがあるところに行く。
そこにしゃがみ込むと話しをまた始める。
「この台座には『政治に完成はない、未完の象徴』という意味がある。
将来この場所に誰かが入れるようにね。
俺らパケットはそんな人たちを支える仕事。
『縁の下の力持ち』ってやつ。つまり.............」
いきなりカチッという音が鳴り、台座が動く。
「え、⁉........まさか⁉」
台座が動きを止める。
台座が元あった場所には穴が............
「正解は地下だよ。」
そう言うと、突然怕維人が賢雄の手をつかむ。
「え、ちょ!!」
「ついてこい賢雄!!」
そう言って穴に押し込まれ、飛び込んでしまう。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「ひゃほう!」
穴の中は垂直ではなく、滑り台のようになっていた。
ものすごいスピードで滑っていくと、奥に光が見える。
「ぐえっ!」
怕維人は、慣れているからうまく着地できたが、
賢雄はそうはいかない。
「あれ~、賢雄本当に運動神経いいの?」
「........あんなに早い滑り台は、初めてなんですっ!!!」
そう怒りながら周りを見渡すと....................
「えっ?」
地下なはずなのに太陽のようなまぶしさがあり、
地下なのに桜が生い茂っている。
そして、真っ黒い鳥居。
あれが校門だろうか?
立ち上がろうとする賢雄に怕維人は手を差し伸べる。
「ようこそ!国立パケット専攻養育高等学校へ!!」
良かったら評価よろしく。
+長編版見に来て
※この短編は1話目とリンクしてます。




