海人のお正月
山なし、谷なし、一歳児がおばあちゃんちでまったりお正月。
「「「あけまして、おめでとうございま~す!」」」
テレビでは新年特番が流れている。
軽快なBGMに乗せて、お笑い芸人たちが一斉に挨拶をしていた。
その番組を、俺――海人はおばあちゃんの家で見ていた。
今日は一月一日、元旦。お正月をおばあちゃんの家で迎えている。
転生してから二度目のお正月のはずだけど、前回の記憶はない。
前世の記憶が戻る前だったからかもしれない。
「お雑煮食べようね」
朝からテンション爆上げのお笑い番組とお雑煮。
それでようやく、お正月なんだという実感がわいてきた。
ただ、雑煮に餅は入っていない。
その代わりに入っていたのは――おふ。
これがこの家だけのレシピなのか、それとも一般的なものなのかは、よく分からない。
「海人様、お餅は誤嚥リスクが高いため、海人様の分には使用しておりません」
横から、落ち着いた声が補足する。
戦闘支援型家事ユニット、
戦闘メイドロボットの「マリ」だ。
「安全性を優先した、お正月仕様のお雑煮となっております」
……うん、知ってた。
俺は一歳児だからな。
「海人ちゃん、あけましておめでとう。今年もよろしくね。はい、これ」
おばあちゃんが笑顔で、小さな布の包みを差し出してきた。
「おばあちゃん、ありがとう!」
俺は受け取って包みを開ける。
中から出てきたのは、小さなコインが三枚。
……なんだこれ?
お年玉?
「お母さん、ありがとう。良かったね、カイ君。あとでカードに入れておこうね」
ママンがそう言うと、
「電子マネー口座への登録を推奨します。紛失リスクが低下します」
すかさずマリが追撃してきた。
「ありがとう、マリ。あとでね」
ママンが慣れた様子で返す。
カード?
やっぱりお年玉なんだな。
「おじいちゃんも、カイト君にプレゼントだぞ。ほら」
今度はおじいちゃんから、同じような布の包み。
中に入っていたのは、小さな石が三つ。
緑色が一つ、黄色が二つ。
「……! お義父さん、これ……こんな貴重なものを、本当にいいんですか?」
ママンの横で緑茶を飲んでいたパパンが目を見開く。
「俺は使わないからな。でも持っていればお守りくらいにはなるだろ?」
……これ、なに?
「これ、なに?」
俺は思ったことがすぐに口に出る。
幼児だからな。
今年の夏から少しずつ言葉を話し始めた俺は、なんでも聞くことにしている。
まだこの世界の常識がよく分からないからだ。
俺はこの世界に転生して、もうすぐ二歳になる。
もうすぐ二歳という事はまだ一歳だ。
何も知らなくて当たり前なのだ。
「これはな、緑の石と黄色の石だ」
おじいちゃんが説明する。
うんそうだね!緑色の石と黄色の石だ。
見たまんまだよね。
(で、何に使うの?)
「もう、お父さんってば説明下手なんだから」
ママンが苦笑しながら続ける。
「カイくん、これはね。植物の成長を助けてくれる石と、怪我が治りやすくなる石だよ」
「せいちょう……たすける? けが……なおりやすくなる?」
怪我が治りやすくなるって、パワーストーン?
スピリチュアル的な?
緑いろの石は肥料?
植物の根元に一粒置いておけばゆっくり溶けて良い花が咲きます、みたいなやつ?
首をかしげる俺にマリが答える。
「補足します。該当する魔石は、植物成長促進用が一つ、自然治癒促進用が二つ。
一般市場価格は――」
「マリ、値段は言わなくていいから」
パパンが慌てて止める。
「了解しました」
……今、絶対すごい金額言おうとしてたよね?
それに魔石?……魔石だ!
(出た! ファンタジーアイテム!
一見、普通の現代社会なのに、こうしてところどころにファンタジー要素が散らばってるんだよな。この世界。)
「良かったなぁ、海人」
パパンが俺の頭をなでながら、石を見せてくれる。
「これはな」
パパンが緑の石をつまむ。
「たまに魔物から取れる魔石で、植物を数日で収穫できるくらいに成長させられるんだ」
「正確には、平均成長速度を約二十倍に加速させます」
マリが淡々と訂正する。
二十倍!?
それもう農業革命じゃん。二十日大根は種をまいて翌日収穫ってこと?
「カイ君、まだよく分からないよね。袋に入れておこうね」
ママンが石を袋に戻す。
いや、待って。
もっと見たい!魔石とかワクワクしかない!
「ぼく、もっとみる!」
「却下します」
マリが即答した。
「誤嚥リスクがあります」
……ですよね。
「みるだけ。さわらないから」
「視認距離を保てば可能です」
一瞬、希望が見えたが、
「ですが、現在その距離を維持できる年齢ではありません」
……論理的に潰された。これはごねても手に入らないパターンだ。
「もう少し大きくなってからね」
ママンが優しく言う。
分かってる。
俺は一歳児。安全第一だ。
でも――
(早く大きくなって、魔石じっくり観察したい)
そう心に誓いながら、
俺の二度目のお正月は、にぎやかに過ぎていった。




