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女装趣味がバレてイケメン優等生のオモチャになりました  作者: 都茉莉


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メール1通で済ます彼

 翌朝。携帯を開けると秀次様からメールが届いていた。

 日を置かないのは珍しいなと寝ぼけ眼で本文を開き、眠気が吹き飛んだ。



to ユキナ 

クソ兄貴のことは誰にも言うなよ。

俺もお前の趣味は誰にも言わない。

お互いに秘密を握ったから契約は解消。

もう彼女でもオモチャでもない。別れよう。



 文字列の意味するところが飲み込めずに何度も繰り返し読んだ。やっと意味は理解できたけれど、なんでこんな事態になっているかは理解できなかった。


 何を言っているんだこの男は。

 これだけ人の精神かき乱しておいてメール1通で終わらせる気? はぁ? 正気か?

 勝手に始めたくせに。脅すみたいにして所有したくせに。有無を言わさず僕をユキナにしたくせに。彼女にしたくせに。


 ふつふつと怒りが湧き上がってくる。

 僕がどんな思いで彼女扱い受けてたと思ってるんだ。

 それを言うに事欠いて別れようだって? ふざけないでいただきたい。


 ああ認めよう。潔く認めてしまおう。そうだよ、僕はたぶん、秀次様のことが好きなんだ。


 オモチャなんて言いつつも違法スレスレなことをさせるわけでもなかったり、意外優等生は被った猫でも意外と根が真面目なのは本当だったり。僕にだけは、素を見せたり。


 弱みを握ってるから以外の理由はないんだろうけれど、思えばそれが特別な感じがしてちょっと気分が良かった。僕だけが許されているような心地にさせられた。

 それに秀次様も秀次様だ。僕が教室にいるのに気がついているくせに、平気で彼女の話をするから……。

 それも声音が楽しそうで、本当の彼女みたいに語るんだ。居た堪れない僕を見て嗤ってるんじゃないかなんて被害妄想じみたことを思いもした。


 でも昨日、震えるほど固く拳を握ったまま庇われて、彼女のことを話していた語り口は少しは本当だったのかも、だなんて……。それで僕までそんな気にさせられてしまったんだ。


 責任とってもらわなきゃ気が済まない。

 秀次様のせいでおかしくなっちゃった。せめて同じだけぐちゃぐちゃになってよ。


 湧き上がる怒りに反して僕の思考はとってもクリアだ。言い逃れできないように問い詰めてやる。

 幸い今日の7限は委員会。そんな面倒なもの入ってるわけがない僕は6限が終われば帰宅できる。

 でもファッション優等生の秀次様はクラス委員なので当然出席。よし、やれる。無理にでもやる。

 首を洗って待っておけよ優等生。絶対後悔させてやる。



 時刻は午後4時。7限終わりの生徒がちらほら帰宅し始める時間。

 僕は、いや、ユキナは、正門で出待ちしていた。


 帰宅する生徒たちの視線は感じるけれど、不審者を見るように疑ってる感じじゃないし、僕とは気付かれてない。たんに見慣れない制服がずっと立ってるせいで目立っているのだろう。


 気になるのは仕方ない。なんせユキナはいつにも増してパーフェクトな美少女だから。


 姉さんの高校時代の制服を借りて、いつもより丁寧に印象が変わるようなメイクをしてきた。

 化粧は女の戦装束だって姉さんたちも言っていた。ぱっちりメイクの今の僕の攻撃力は53万だ。


 見た目通りのふわふわした高い声は出ないけれど、秀次様に散々表を連れ回されたせいで地声よりは女の子らしく聞こえる声の出し方も覚えた。

 怒っているのだから多少低い方がそれっぽいのもあってパーフェクト。


 迎え討つ準備は完璧ってわけ。


 一Aの教室はついさっき電気が消えた。寄り道さえしなければもう直ぐ出てくるはずだ。通用門の方に逃げるにしろ、下駄箱は正門側。ここを通らずには帰れない。


 不自然に思われない程度に校舎を監視していると、何人かの男子に囲まれた秀次様が出てきた。


 開戦のコングが鳴る。

 僕はユキナがいっとう可愛く見える笑顔で道を塞いだ。


「待ってたよ、秀次さん」

「……は? ユキナ……なんで」

「なんでって、本気で言ってる? あんなメール送っておいて」


 流石の秀次様も僕がユキナで乗り込んでくるとは予想していなかったらしい。

 状況を飲み込めていない表情は本物っぽい。この人の意表を突けたことだけでも多少気分が上がる。


「だからって学校まで来るなんて思わないだろ。お前、目立つの嫌いだし」

「ご理解どうも。それくらい怒ってるってこと。ーーねえ、秀次さんを借りてもいいかしら」


 優等生モードでも素でもシャキシャキ話す秀次様にしては珍しく歯切れが悪い。

 これは埒があかないなと秀次様のツレに水を向ける。目を細めて小首を傾げると、面白いくらいこくこく頷いてくれた。

 うんうん。ユキナにお願いされたら許しちゃうよねわかる。


「ありがとう。明日返すね」


 綻ぶような純な笑顔、下の姉さんが得意な服従したくなる笑顔でお礼を言いつつ宣戦布告。

 目を白黒させたまま何か言っている秀次様の腕をとって、半ば引き摺るような気分で無理やり連れていく。


 単純な力比べでは勝てないけれど、仮にも彼女と知られているのだ。力任せに抵抗したら優等生のレッテルが剥がれてしまう。

 知り合いの目があるところに乗り込まれた時点で秀次様の完勝は望めないのだよ。僕の作戦勝ちってわけさ。


 ひとまず同じ土俵に立てただけでも御の字。もちろん第二ラウンドも僕が勝つんだけれど。



 腕を組むように身柄を確保したまま連れ込んだのは、いつものカラオケボックス。

 秀次様が猫を逃すのに選んだだけあって、同高の利用者が滅多にいないし、価格帯の割に壁が厚くて音漏れがしない。密談にはうってつけってわけ。


 バカップルのごとくひっついたまま受付をして、逃げられないように秀次様を指定された部屋の扉から遠い位置に座らせた。

 僕は出口を塞ぐように扉付近の秀次様から見て正面を陣取った。


 人の目がなくなったからか、少なくとも見た目からは動揺が見られない。

 少し、時間をかけすぎたらしい。もういつもの太々しい秀次様だ。


「で、こんなとこに連れ込んで何がしたいわけ? やっかいな取引が白紙になって万々歳だろ」

「そういう問題じゃないでしょ。何あのメール。あれじゃあ納得できないよ」

「何って……簡潔に書いたつもりだったんだけど、伝わらなかった?」

「要件しか書いてないじゃん。僕が知りたいのは経緯! 散々振り回しておいて急にあんなこと言われる理由がわからないよ。何、家であのお兄さんに遊ばれでもしたの」


 秀次様の肩が跳ねた。猫被り(取り繕い)のお上手な秀次様にしてはあからさま。

 いくらユキナの前では猫を逃すのがデフォルトになっていると言っても、こんなにわかりやすい失態は普段ならしない。


 確かに他人の僕から見たらヤバくて怖い暴力の匂いがする人だったけれど、弟から見ても恐ろしいのだろうか。仲がよろしくないのは確かみたいだけども。


 半眼で秀次様を見やる。


「ふーん、図星?」

「別にユキナには関係ないだろ」

「関係ないけど影響してるから言ってるんじゃん。今朝のメール、お兄さんのことは全く関係ないって言えるわけ」

「そ、れは、違うけど」


 視線が彷徨う。

 ああまったく煮え切らない。いつもの傲岸不遜はどうしたんだ。


 ぺらぺらのメニューしか置いていない机に手を着き、ずいと身を乗り出す。


「じゃあちゃんと説明してよ似非優等生。人のこと散々かき乱しといて、メール1通で終わらせるなんて信じらんない。僕がっ、どれだけ……っ」


 悩まされたのか。怒っているのか。

 続けようとした言葉は何だったろう。いずれにせよ、言うつもりのなかったもののはずだ。


 衝動のまま前のめり捲し立てた。目と鼻の先に秀次様がいる。距離が近い。話すと吐息がかかりそうなくらいに。

 驚いたように目を見開いた秀次様と視線がかち合った。

 自覚すると場違いにも顔が熱くなってくる。今照れてる場合じゃないのに。


 心なしか秀次様の顔がどんどん近づいてきている気がする。わ、まつ毛長。違う。違う。今すべきことは他にあるでしょ。なんでこんな色恋に頭乗っ取られたみたいなこと……。


 気のせいじゃないと気がついたときには唇にふに、と柔らかい感触が押し当てられていた。

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