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ダンジョン都市セグデノン  作者: レクセル


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3/3

受験者剣使いガイ

傭務ギルドにて三十日間働いた者でも、すぐに探索ギルドへ移れるわけではない。

魔物と戦うための戦闘訓練は行われているが、それも基礎の基礎にとどまる。

セグデノンの人々は皆そのことを理解しているため、しばらくは有料で、対人式ではあるが実戦訓練を受け続けるのが常だ。


寮も三十日以降は有料となるが、傭務ギルドの仕事で稼ぎ、それを寮費と指南料に充てるという、いわば自転車操業のような生活が続く。

とはいえ、傭務ギルドは元々儲けよりも人材育成を重視しているため、この仕組みは長く保たれてきた。


ある程度の実力を教官から認められた者は、ようやく傭務ギルドを辞し、探索ギルドの門を叩くことになる。

赤髪に燃えるように飛び跳ねる髪型をしたヒュマの青年、ガイもその一人だ。

この日のためにコツコツと貯めた金で皮鎧を買い、平凡なロングソードを背負った彼は、意気込むように大きく息を吸って探索ギルドへと向かっていった。


探索ギルドは人気の職でああるが、いつでもだれでも歓迎というわけではない。

十日に一度の試験が存在し、加入希望者は当日の十の刻までに探索ギルド裏にある訓練所に集合しなくてはいけない。


今日の希望者は外を含めて八人。全員が若いヒュマの男で、左腕にはまだ傭務者であることを示す白い魔石のブレスレットをつけていた。

この世界において最も人口が多いヒュマの男女比率は同じくらいだが、やはり戦いがメインになる探索者を目指す女性は比較的少ない。


試験会場の訓練所には椅子が並べられているだけ。来た順に右から座るのだが、ガイは後からきた、同じような皮鎧に、盾とショートソードをもつ、青髪なうえ流れる水のような髪型のヒュマの青年の姿に、思わず声をかけた。


「アッシュじゃねぇか!お前もお墨付きもらったのかよ。」


「ガイじゃん!久しぶり。傭務ギルドでの模擬戦以来だね。」


二人は傭務ギルドで出会った者同士である。

元々は同じ部屋で寝泊まりした仲だが、三十日期間を終えたアッシュは、より金をためるため実家から通いだったため、話す機会は少なくなっていた。

再会を軽く喜びはしたが、周りの目もあるのでそれ以上会話が弾むことはない。


アッシュは一番最後の参加者となったようで、残る椅子が片付けられ、教官役を示すギルドの制服を着た緑ロン毛のエルフの男が彼らの前に立つ。


「はい。今日は私が教官役です。ご存じの通り、試験といっても基本君たちが落ちることはありません。ただ、すぐにダンジョンへ潜らせてもいいか、はたまた、まだ知ったことが多い期間なのかを調べる試験です。」


今回の加入希望者はすべて傭務ギルドからの推薦者であり、落とされる心配はほとんどない。

なお、セグデノンの仕組みに不慣れな他都市からの希望者は、別日に試験を受けることになっていた。


一同が軽くうなずくと、教官は続ける。


「まずは簡単な問題で、あなたた達の知識を試します。私の質問が正しいと思えば立ち上がってください。間違っていると思えば座っていてください。三つ数える間に答えは決めてくださいね。」


再度、皆がうなずく。

こうした形式の試験があることは傭務ギルドで教えられているが、出題内容までは知らされていない。

そのために、自分で学んでおかねばならないのだ。


「では、まず第一問。魔物はダンジョン内だけでなく、街の外にも存在する。マルか、バツか。」


カウントを待つまでもなく、全員が即座に立ち上がる。

教官は満足げにうなずいた。


「はい。そのとおり。街の外にも魔物は存在します。では第二問。街の外の魔物を討伐する依頼が探索ギルドにも来ることがある。マルか、バツか。」


皆が少し困惑する中、一番に試験会場へ来ていた右端の青年は自信満々に座る。

つられるように皆が座る中、ガイだけは立ち上がったままでカウントを終えた。


「正解はバツです。我々探索ギルドはダンジョン内の依頼のみ扱います。ですが、傭務ギルドの要請により、魔物討伐に戦力を貸すことはあります。」


「うわ、そういうことか。間違えちった…」


「気に病むことはありませんよ。では第三問…」


ここからは基礎的な設問と、少し引っかけを含む設問が続いた。

右端の青年はほとんど迷うことなく次々と正解を当てていくため、周囲のほとんどが追随していた。


「では第九問。ダンジョン内において、先輩探索者や上位探索者の言葉は絶対で、必ず従うべきである。マルか、バツか。」


前の問題が明らかにバツとわかる内容だったこともあり、ほとんどの者が座ったまま動かない。

しかし右端の青年は、迷う様子もなく素早く立ち上がった。

その隣から五人がそれにつられて立ち上がるが、ガイとアッシュだけは眉をひそめ、座り続ける。


「正解はバツです。どんな探索者でもその言葉は絶対ではありません。ダンジョン内ではどんな事が待っているかわかりません。従うかどうかは、その時々になります。」


「な!?なんだよそれ!」


右から二番目のガサツそうな青年が声を荒げるが、教官に鋭い視線を向けられ、すぐに押し黙った。


「気持ちはわかりますが、試験中ですよ?では、最終問題です。知識の試験官は私だけである。マルか、バツか。」


その問題を聞いて、一番右の青年がわざとらしく左の加入希望者たちへ視線を送り、ゆっくりと座る。

ガサツそうな青年が唖然とする中、他の者たちも察したように次々と腰を下ろし、ガイとアッシュも黙って座った。


「はい。正解はバツです。一番右の彼は、私と同じ試験官です。彼は初めから回答を知っていましたが、彼の行動に引き寄せられてはいけませんよ。」


一番右の青年はゆっくりと立ち上がり、右腕のブレスレットを上下に引き裂くように外した。

本物が継ぎ目ひとつない魔道具なのに対し、これは二つのパーツを差し込んで着脱するだけの玩具まがいの作りだ。


一瞬、偽受験者は悪そうな顔をしたが、席に着きなおした時には、教官らしい鋭い眼光に変わっていた。

他の受験者たちは唖然とする中、アッシュはガイに少し近づいて呟いた。


「問題の回答も見てるんだろうけど、どっちかって言うとそういう試験なんだね。なかなかえげつない。」


「え?…あー、そういうことか。」


アッシュが小声でつぶやくと、ガイも小さく頷く。

この試験の核心は、どれだけ自分の判断で動けるかを見極めることだったのだ。


「では、次は模擬戦になります。相手はこの私。試験内容はどれだけ攻撃をしのげるかです。」


「は?模擬戦は聞いてたけど、しのぐだけかよ!こっちから打ち込むなってか?」


ガサツそうな青年が不満を漏らすと、教官は冷ややかな眼差しを向けた。


「いいえ?余裕があるなら打ち込んでも構いませんよ。まずはあなたからです。」


立ち上がったままだったガサツそうな青年は、わずかに震えながら前へ出た。


「では、あなたは今の装備で、好きなように防いでください。降参を宣言するか、立てなくなるまでが試験です。」


「…そっちは木剣かよ。」


ひらけた場所に移動し、教官が構えるのは、ショートソードの形をした木製の剣だった。

それを見るなり、ガサツそうな青年はわずかに肩の力を抜き、腰に差していた斧をぐっと構えてみせる。


「では、行きます。」


教官はまるで刺剣でも操るかのように、鋭い突きを連続して繰り出す。

ガサツそうな青年は素早い動きに翻弄されながらも、斧の横面でどうにか受け止めていく。

しかし、反撃の隙など一切ないようで、むしろ隙間を縫うような突きが肩や腕に突き刺さる。

そして、仕上げとばかりに脚へ打ち込まれ、ガサツそうな青年は膝をついた。


それでも教官の剣が止まることはなく、さらなる追撃を行おうと振りかぶっていた。


「ま、参った!」


降参の叫びと同時に、木剣は寸前で止まった。

へたり込むガサツそうな青年とは対照的に、教官は静かに構えを解く。


「さすが推薦者だけあります。そこそこ防げていましたね。戦闘力は問題なしです。」


「そ、それはどうも。」


「では、次の方の試験があるので、席へお戻りください。」


「…自力でかよ。」


「もちろんです。まさか、その程度の傷を負ったくらいで、ダンジョン内でも仲間におぶってもらうつもりですか?」


ガサツそうな青年はとても悔しい顔を浮かべながら、自慢の斧を杖代わりに立ち上がり、席に何とか戻ってくる。


そして手招きされて次の加入希望者が、少し緊張気味に前に出る。

ガイと同じロングソード使いだったが、ガサツそうな青年ほどは粘れず、あっという間に降参してしまった。


続く三人も教官が軽くあしらわれ、木剣相手だというのに、皆が苦痛に顔をゆがめながら席へ戻っていく。


「次の方、どうぞ。」


「はい!」


ついにガイの出番となる。

安物とはいえ、初めて自分の金で買ったロングソードをしっかりと構えた。


「では、行きます。」


教官の鋭い突きが次々と迫るが、ガイはロングソードを器用に操り、すべてを受け止めてみせた。

突きのリズムに慣れてきたのか、剣の腹で受け流し、そのまま反撃さえしてみせた。


教官はわずかに目を見開 いたが、すぐに表情を戻し、軽やかに後退してその一撃を避けた。


「すごいですね。まさか完璧に対処しきるとは。」


「さすがに、五人分の戦いを見たので。」


「なるほど。よく見ているようだね。じゃあ、これはどうかな?」


教官が少し踏み出したかと思えば、いつの間にかガイの背後に回り込んでいた。そして鋭い突きが放たれる。

ガイも何とか反応して剣を向けたが、弾かれて手から離れてしまった。

そして、喉元に木の剣を突き立てられ、ガイは両手を上げた。


「参りました 。」


「初見のあれにも反応するとは思いませんでした。なかなか見込みがありますよ。」


「あっ!ありがとうございます!」


嬉しそうにロングソードを拾い上げて席へ戻るガイを、アッシュが手を挙げて迎えた。


「やるな、ガイ!」


「いや、全然だめだった。」


「何言ってんの。あの教官、ガイと相手するまでほとんど足を動かしてなかったよ!」


「え?あぁ…そういえば、そうだったな。」


「そこ、話してないで。次は君ですよ。」


「おっと、じゃあ行ってくる!」


「おう!行ってこい!」


ショートソードと小さな盾を手に、アッシュは前へと進み出た。

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