都市の循環
ダンジョン。そこは魔獣や魔物が蔓延る危険地帯。
魔物たちはダンジョンに侵入した者を見つけると、それがどんな相手であっても無差別に襲い掛かる。
稀に対話可能な変異体も現れるが、そういった存在が確認されるのは巨大ダンジョンの深層のみである。
地表にも当然魔物は存在しているが、そちらは脅威を察知すれば逃げるような個体ばかりだ。
各地に点在するダンジョン内には、地表と同一種の魔物も多いが、その性質はまるで異なることが多い。
大抵のダンジョンは小さな洞窟程度のもので、深くても地下五階層ほど。
一層ごとの広さもさほどではなく、ダンジョン熟練者なら半日もあれば攻略できてしまう。
出来たばかりのダンジョンならば、最奥でダンジョンコアと呼ばれる巨大な魔石塊が見つかることもある。
ダンジョンコアを持ち出せば、ダンジョンはたちまち崩壊する。
危険地帯であるダンジョンなど即座に破壊すべきだという意見も一定数あるうえ、魔力をたっぷり蓄えた魔石塊であるにもかかわらず、コアが持ち出されることは意外と少ない。
ダンジョンで生まれた魔物は、死すればダンジョンへと還るように消えていく。
その際、魔物はドロップと呼ばれる肉や皮、牙や爪といった素材を残していく。
それこそが、人々の間で便利だと称されるゆえんである。
地表の魔物であれば、倒した肉体がそのまま残り、まず解体の手間が発生する。
素材を余すことなく活用できそうに見えても、剣で切れば皮は裂け、槍で突けば肉には穴が開く。
爪や牙も戦闘によって損傷し、使い物にならないことも多い。
だが、ダンジョン産のドロップには戦いの痕が一切残らず、常に傷一つないまま得られる。
品質の良い素材はそれだけで価値があり、さらにダンジョンでは宝箱が配置されることさえある。
小規模のダンジョンでさえ、最奥へ進むと攻略報酬と言わんばかりに宝箱が置かれ、そこからは数日は遊んで暮らせる金銀財宝や宝石、時には稀少なマジックアイテムが見つかることもある。
それこそが、ダンジョンが長く生き残ってしまう理由であった。
ここはダンジョン都市セグデノン。
人間に似た【ヒュマ】をはじめ、【エルフ】【ドワーフ】【ビースト】など、多様な種族たちが肩を並べて暮らす大都市である。
ダンジョン都市と呼ばれる所以の通り、街は巨大なダンジョンの周囲に築かれ、その存在を中心に生計が成り立っている。
セグデノンのダンジョンは他の小規模なものとはまったく異なる。
一層ごとがほぼ一日を要するほど広大で、階層もはるか地下まで続いており、今なお最下層は発見されていない。
そんなダンジョンに挑む者たちを【探索者】と呼び、彼らをまとめる機関が【探索ギルド】である。
探索者は基本的にダンジョン攻略専門の職業だ。
ダンジョンには魔物がつきものなので、地表の魔物とも渡り合えるが、そちらの対処は【傭務ギルド】が担う。
傭務ギルドに所属する者は【傭務者】と呼ばれ、地表で暴れる魔物の鎮圧や大量発生の対応といった事件解決だけでなく、落とし物を探してほしい。迷子を見つけてほしい。などの雑務まで請け負う、いわばなんでも屋である。
街には治安を守る【警備隊】も存在するが、彼らの仕事は主に街中での窃盗や暴行騒ぎの鎮圧といった人同士のいざこざの対応。
大都市のすみずみまで日々パトロールする彼らには、小さな雑事まで手が回らない。
もちろん、傭務ギルドへの依頼から窃盗犯が割り出されることもあり、その際は傭務者が犯人を捕らえ、警備隊に突き出すことも少なくない。
そもそもセグデノンの街は広く、警備隊の人数は常に不足気味なため、パトロールの依頼が傭務ギルドへ回ってくることすらある。
あらゆる雑務をこなす傭務者たちの中には、探索者の依頼で共にダンジョンへ潜る者もいる。
ここセグデノンでは、ダンジョン都市と呼ばれるだけあって、そうした例は特に多い。
街の賑わいに欠かせないのが店である。
セグデノンではダンジョン前に出張露店が立ち並び、ダンジョンでドロップされた肉を使う料理店も多い。
そんなあらゆる商売を統括するのが【商業ギルド】だ。
所属する者は【商業者】と呼ばれるが、小さな露店であれば申請のみでも営業可能であり、商売を行うのに必ずしも所属が義務付けられているわけではない。
ただし、申請なしに商売を行えば、警備隊に突き出され、重い罰が下される。
商業者と一口に言っても、調理や裁縫といった生産に特化した者から、戦闘をこなしながら商いをする者まで様々だ。
力で奪おうとしても、相手が腕の立つ商人なら返り討ち。か弱い相手であっても、商業ギルドと警備隊が動き、街中の店に手配書が貼られ、生活すらままならなくなる。
だからこそ、商業ギルドに逆らう者はほとんどいない。
主に探索者たちによってダンジョンの魔物素材が集められ、独自に露店を出す者もいるが、基本的には探索ギルドが買い取りを行う。
そして商業ギルドへと回され、時には加工され、時には調理され、街へ流通していく。
それこそが、セグデノンという街を支える大きな循環であった。
完全新規長編始めました
こちらは現在、終点を定めていない作品になっています
別作品の終点にたどり着いてから始める予定だったのですが…
ちょっと思うところがあったので始めちゃいました
しばらくは別作品に注力するので
こちらの更新はすでに書き終わっている分以外
期間が開く可能性があります




