オアシスにて
「あんちゃん、お尻が痛い・・・」
貿易路として整備されている街道だが、馬車にサスペンションなど存在しない。
だから少しの段差でもかなりの衝撃となってお尻に痛みがやってくる。
荷馬車の重さが段差で跳ね返ると、その力の全てが座っている人の尻にダメージを与えているのだ。
そう考えればその痛みも何となく想像がつくだろう。
コレが便利さの代償というものである。
そういう俺もかなりの衝撃を受けているので、クッション性のある物を出したいところではあるが、ここで出す訳にはいかない。
「しょうがないな」
ユキがあまりにも痛そうなのでユキを膝に乗せると、当然の如くミレーヌも俺をじーっと見つめてくる。
「・・・分かったよ」
そういうとミレーヌも俺の膝の上に座らせた。
傍から見ると俺は幼女を膝に乗せ、二人の胸に顔を埋めているようにしか見えない。
見る人が見れば幼女盛りと呼びたくなる構図だ。
しかし二人を膝に乗せているということは、その分俺の尻へのダメージが増すということでもある。
さっきまでからかっていたミーシャも、今の俺をからかうつもりは無いらしい。
尻に痛みを感じてからどの位の時間が過ぎたのか・・・
ようやく休憩の為に馬車を止めた。
俺にステータスの表示が見えていたなら、ヒットポイント残り1に違いない。
「あーお尻が痛い」
ミーシャが馬車から真っ先に降りて、お尻をトントンと叩きながら背筋を伸ばして体をストレッチする。
「体がおかしくなりそうだわ」
休憩場所の近くには湖があって、行商人や旅人達の多くがここで休息や宿泊をする。
人数が多いキャラバン隊などは足が遅くなるので、ここで宿泊することが多い。
既にテントの設営をして、夕食の準備をしているキャラバン隊もいる。
ナーセルから隣町のマルケスまでの道のりは片道3日の工程だ。
俺達はあくまで盗賊の討伐が目的だから、遅くする事で襲われるリスクを上げている。
「ランス。今日はここで野営するのか?」
「レン。もう少し進む予定だ。ここじゃ襲われる可能性が低いからな」
今いるキャラバン隊のほとんどがここで野営をするようだ。
見た感じ護衛の冒険者だけでも50人はいるから、襲われることはほとんど無いといった方がいいだろう。
「先に言っておくが、歩きたいって言ってもそれは駄目だからな」
「分かった」
言いたい事を先に言われてしまった。
だがランスのいうことはもっともだ。襲われている商人は護衛の数が少ない場合のみ。
護衛が一人でも増えれば、襲われない可能性が増えてくるから現状維持がベストだろうな。
「ゴシュジンサマ、コッチにオイシイ、ミズある」
ミレーヌが俺の元にやってきて、少し森の中に入る。
すると岩の間から湧き出ている水があった。
手ですくうと、地下を通って出て来た水はキンキンに冷えていて、喉を通ると体中に爽快感が行き渡る。
「うまいな」
「デショ。ミズのセイレイ、オシエテくれた」
俺はついミレーヌの頭を撫でてしまう。見た目が子供だからだ。
でもミレーヌはれっきとした大人で、レパードよりも年上である。
「あーっ。こんな所にいた」
休憩している場所から俺達が消えて不安になったユキが、俺達の匂いを追って探しにきていた。
「ミレーヌが美味しい水があるって教えてくれたんだ。ユキも飲んでみろ」
怒ってへの字口になっていてもユキは可愛らしい。
「置いていかれたと思って心配だったんだからな・・・」
涙目になりながら怒っているユキの頭を撫でてユキの機嫌を取る。
「悪かったよ」
ミレーヌもユキを抱きしめて、背中をポンポンと叩く。
「ユキ、ゴメンね」
ミレーヌに促されてユキも水をすくって飲んでみる。
すると思った以上に冷たくて美味しかったのか、何回も水をすくってゴクゴクと飲んでいる。
「この水うめぇな」
「デショ」
そういえば次元収納に水も入れる事が出来るんだよな。ここなら他の誰かが見ているわけじゃない。
湧き出る水を次元収納に入れて行くと、指輪の数値カウンターがどんどん上がって行く。
残念なことに岩の間から出てくる水の量だから、大量に持って行く事は出来ない。
とりあえず道中の間に飲む水を確保出来ればいいだろう。
風呂がいっぱいになるくらいの水を確保して休憩所に戻る。
「あー、いたいた。どこ行ってたんだ?」
「オイラ達は美味しい水を飲んできたんだよ」
「それはいいですね。私達にも教えてもらえませんか?」
珍しく物静かなジークフリードが身を乗り出すように話しかけてきた。
「イイヨ。ワタシが、オシエテアゲル」
ユキとミレーヌはローグを残して森の中に入って行く。
「アンタは行かなくていいのか?」
「ああ。俺はそこの水飲み場で飲んだからな」
大勢のキャラバン隊がここで野営をするのは水飲み場があるからだ。
さっきの水のように冷たくはないが、この世界には工場が存在しないから汚染されている心配はない。
寄生虫なんかは怖いけど、そこまで暖かくないのと、湧き出てそれほど時間は経ってないから恐らく大丈夫だと思う。
「それよりレン。野盗の情報が入ったぞ」
「本当か?」
ローグはキャラバン隊の集まりから情報を仕入れていた。
ここから一日ほど行った所で、小規模の商人が襲われた跡があったそうだ。
木が生い茂る狭い街道で、商人と護衛の冒険者3人が殺されていた。
荷馬車は空になっていて、手口からして間違いなく野盗の仕業だそうだ。
「恐らく不意打ちされたんだろう。殺された冒険者はかなり若かったそうだ。護衛の金をケチって、新人を雇ったのかもしれないな」
冒険者ギルドの護衛任務はDランク以上でなければ請け負う事が出来ない。
商人としては護衛代ほど無駄な支出はない。しかしそのまま商人だけで移動をすれば、野盗や魔物達に襲ってくれといってるようなものだ。
しかし護衛費を少しでも安くしたいのも事実で、直接冒険者に声を掛けて護衛を雇う者もいる。
だがギルドを通さないで仕事を受けたことがバレれば、冒険者ギルドの資格をはく奪されてしまう。
割と狭いコミュニティでバレないはずもなく、大丈夫だと思って受けてしまうのは冒険者に成りたての者だけだ。
「ローグはどうするのが一番いいと思う?」
「あいつらには地の利がある。あっちは夜でも比較的動けるが、こっちはそうはいかねぇ。だからあいつらに遭遇するのは昼間にしたい」
「ちょうどそこを通るに、もう少し進んだ方がいいってことか」
「ああ。レンは話が分かり易くて助かる。ランスの場合こうは行かねぇからな」
ランスの性格を考えれば確かにそうかもしれない・・・
ローグの苦労が何となく想像出来た。
「俺から少し提案があるんだ」
俺はミレーヌが精霊魔法を使えることと、精霊に敵意がある者をサーチする能力があることをローグに教える。
もちろんローグも敵の動きに敏感なんだろうが、精霊の感知もあれば不意打ちをされる可能性はかなり低くなるハズだ。
「それが本当なら俺達も助かる。レン、ハーフエルフの嬢ちゃんに頼めるか?」
嬢ちゃんでは無いんだがと思ったがソレは口にはしない。
「ああ。俺達は馬車に乗っているだけだからな。任せてくれ」
「ローグ、お前も水を飲んで来いよ」
湧き水を飲み終えて帰ってきたランスが声を掛ける。
ランスも疲れているからか、生き生きした顔になっている。
「いや、俺はいい。それよりもすぐ出かけるぞ」
「「「「「ええーっ!!!!!!」」」」」
ローグの言葉に馬車に乗ってた組から避難の声が続出した。




